「寒暖差が激しいから、昼間は冷たい物、夜は温かい物を出せば客は釣れるだろうよ。人が来ればの話だがよ」
「学園近くのまともな店っていやあ柴関んトコくらいだが、あそこがなんで店続けられてるのか俺には分かんねえ」
「あと最近、変な大人が増えたみてえだ。スーツ着たまま屋台に飯食いに来る奴なんて、いくら俺でも忘れねえよ」
夜が訪れたキヴォトスのとある砂漠地帯で、銃と盾を装備した一人の少女が歩いている。日課になっている市内の見回りを終わらせ、肌を突き刺す寒さに耐えながら帰路につくと、赤提灯の光が目に入った。それなりに歩き回って空腹を主張しだした腹の虫を治める為に、昔ながらの屋台で営業している店へと向かい、うへ~、と気の抜ける声を漏らして暖簾をくぐった。
「らっしゃい」
たった一人の店員であり店主であるロボットのおじさんは、客である少女に目もくれずに座って新聞を広げたまま声をかけた。愛想のあの字もない対応であるが、これが通常運転なのか少女も気を悪くするでもなく席に着く。
「おお~、夜までお店開いてるなんて働き者だねぇ。儲かってる~?」
「儲けたいならアビドスなんかに来るわきゃねーだろ」
「うへ~」
店主の辛辣なコメントが少女に刺さる!!
何を隠そうこの少女、借金で潰れかけているアビドス高等学校の生徒の一人、小鳥遊ホシノであるのだから。
「うへ~、こんな人のいない場所にまで来るなんて、オジサンは相変わらず変人だよね~」
「こっちはやりてえ事やってるだけなんだよ。冷やかしなら帰りやがれ」
「ちゃんと食べるってば~。今日は何があるのかな~……?」
そう言ってホシノは屋台に貼られたメニューを見る。一種類しかなかった。
「ハンバーグ丼300円……相変わらず安いけど、ここって本当にメニュー少ないねぇ~」
「手の込んだ料理なんか作ってられるか、めんどくせえ」
「それ売る側としてどうなの……?とりあえず、ハンバーグ丼ちょうだい」
「あいよ」
店主は立ち上がって新聞を椅子に置き、手を洗ってから厨房に立つ。大きめの丼に炊飯器から白ご飯をよそい、冷蔵庫からパック詰めされたハンバーグを取り出した。パックの封を切って中のソースと一緒にハンバーグをご飯の上にぶっかけ、再び冷蔵庫から茹でたブロッコリーとカットされたゆで卵を丼にのせる。
「ほらよ、ハンバーグ丼一丁」
「うへ~、早い。いや早いのは良いんだけどさ……」
お察しの通り、このハンバーグ丼の主役と言えるハンバーグは市販の物をそのまま乗せただけである。料理の為に手間暇かけるというのを、この店主はやらない。スーパーで買ってきた食材を適当に切ったり焼いたり乗せたりして料理にしているのだ。
「(うん……うん……家で作っても同じ味になるよね、きっと)」
空腹というスパイスをふりかけて食しているホシノも、微妙な表情である。不味くない、普通に美味しい味ではあるが、そこらの一般人であっても作れるような味でしかない。
「ごちそうさま~。前から気になってたんだけどさ、オジサンってお金儲けに興味ないよね」
「なんだいきなり」
「ご飯は適当だけど安いし、たまにアビドスまで来てるしさ。それでちゃんと商売になってるのかな~って」
「いらねえ世話だ。それに俺は屋台であちこち回るのが夢だったんだよ」
「へえ~、じゃあオジサンは夢を叶えたんだね。いいな~。おじさん、感動で泣いちゃいそうだよ~」
「小芝居してねえで、食い終わったら金払ってさっさと帰れ」
「うへ~、反応が冷たいよ~。女の子とお話したくないの~?」
「いいから帰れチビ助。ガキはもう寝る時間だろうが。夜更かしばっかしてっからチビのままなんだろうがよ」
「チ、チビ助……」
女の子扱いどころかただのガキ扱いにショックを受けたホシノは、小銭をおいてよろよろと屋台から立ち去った。
客がいなくなった屋台の遥か上には、満天の星空が輝いている。店主はそれに目を向けることもなく、ただ椅子に座って新聞を読み続けていた。
・店主
見た目はブルアカモブロボットの頭が四角くてふくよかな方を、ねじり鉢巻きを頭に付けて胴体が痩せた姿を想像してください。