ふとシュブニグラスの子ヤギと大怪獣バトルさせてーなーと思った

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なんやかんやあって目の前で黒い子ヤギが召喚された!


第1話

「マジか……」

 

 思わず言葉がこぼれる。眼前には見るだけで正気度が削られるが如き巨大な黒い怪物、それが五体。万を超える数の王国の兵士を生贄に招来された邪神たちがこの世界に産声をあげる。誰に聞いても絶望としか言い表せない目の前の光景に、腹の底から衝動がこみあげてきて抑えきれなかった。

 

「おいおいおいおい、マジかよ!!」

 

 堪えきれずに叫んだ声には自分でもはっきりと自覚できるくらい喜色にあふれていた。己の頬が吊り上がっていくのがわかる。

 自分でもどうかと思うが、それでもガキの頃から妄想してきたシチュエーションにガッチリ当てはまる今この瞬間がたまらなく嬉しかった。

 

 怪獣(ゴジラ)戦隊(巨大ロボ)光の戦士(ウルトラマン)。なんだっていい。ビルすら超える巨大な体をもつ敵と、それと戦う同じく巨大な存在。

 幼い時分に脳裏に刻み込まれた眩き憧憬。

 

 ―――デカいとデカいはかっこいい、これが浪漫!

 

 ユグドラシルにおいて、同好の士が集まってできた我らがギルド【ギガントトライデント】。十年を超える彼らとの協力があってなお、資金と時間と実戦での強さ、投入のタイミング、そしてサーバー強度と回線の問題でわずか数度しか実現できなかった我らが悲願。

 建物すら踏みつぶす巨大な敵と、己も巨大化して思う存分戦いたい。

 

 

 それが、今、目の前にある。

 

 

「なら、やるしかねぇよなぁ!!!」

 

 他のプレイヤーだとか、アインズ・ウール・ゴウンがどうだとか、それまでに考えていたことなんてどこかへ吹き飛んだ。もはや頭にあるのは己を燃やす浪漫という情熱だけだ。

 

 足を踏み出す。

 このユグドラシルならざる異世界において異形種と化したこの身は、普段人の形に擬態しているに過ぎない。その証拠に、ほら。擬態をやめればすぐに変異が始まる。ボコボコ(・・・・)と体の内側から破裂するかのように、本来の体が姿を現す。

 甲殻類、爬虫類、哺乳類、その他数多の生き物たち。それらが交じり合って(・・・・・・)一つの生き物を形作る。

 

 数十メートルを超える巨大な肉体。鋭い牙、紅蓮の瞳。頭部にそびえる二本の巨大な角は王冠のごとき威厳を放つ。太い両腕には鋭利な刃のような爪をそなえ、強靭な両脚は巨体を支え跳びまわれると確信できるゴツさを誇る。背中にはごつごつとした突起が生え、尾は太く長く、鞭のようによくしなる(・・・)

 

 数多の生き物で作られた悍ましき継ぎ接ぎの大魔獣(パッチワーク・ベヒーモス)。これこそが我がギルドが誇る三大巨大生物が一つ、そしてこの俺のユグドラシル人生の集大成だ!

 

「GRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 叫ぶ、いや吠える(・・・)。胸を焦がすこの情熱を吐き出すように、力の限り咆哮する。巨大化し見下ろすほどにまで高くなった視点が邪神を睥睨する。

 五体の邪神たちは一瞬怯むかのように一歩後退したが、すぐさま怒ったように形容しがたい叫びをあげながらこちらへ駆け出した。迎え撃つためこっちも前へ出る。踏み出した一歩が人に擬態していた時とは比べものにならない距離を食いつぶし、瞬く間に彼我の距離は零へと落ちる。

 

 先頭を走る邪神の噛みつきを掬い上げるようなアッパーの軌道を描く右爪が両断する。ただの通常攻撃が、巨体による質量によって破城槌すら凌ぐ威力へと変貌していた。さすがに一撃では沈まないが、攻撃は中断されたたら(・・・)を踏むようにのけぞった。後ろに続く二体の邪神が攻撃の後隙をつくように左右から襲ってくる。

 

「GRRR」

 

 唸り声をあげながら足を踏み込み腰を回転、前へと走ってきた慣性を尻尾に乗せて薙ぎ払う。たやすく音速を超える速度へと到達したその威力は邪神たち二体を弾き飛ばし、周囲に衝撃波をまき散らした。その結果を見届ける時間すら惜しいと勢いを殺さず跳び上がる。最後尾にいた二体の邪神によるタックルが足元を掠めた。背後へ抜けた二体を音と気配だけで感じ取りつつ、硬直から抜け出しつつある最初の一体へと追撃のプレスを決行した。

 響く地響き、砕ける地面。邪神を踏みつぶし、マウントポジションでもって両の腕を振り下ろす。

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 叫びとともに連続で振り下ろされる両腕によって邪神がズタボロに引き裂かれていく。無論、邪神も無抵抗ではなく迎撃するかのように体中から生えた触手を伸ばしてくるが、それらは多少の抵抗とともにぶち抜かれてどんどん体が削り取られていった。

 

 抵抗も弱くなってきた頃になってようやく吹き飛ばした二体と背後に抜けた二体が駆けつける。前後から挟まれてこのまま殴るのは流石に無謀なので、踏みつけていた邪神を両腕で掴んで思い切り前へ放り投げる。

 放物線を描き飛んで行った死に体の邪神は前から迫ってきていた邪神の片方に直撃した。その隙に背後の二体が嚙みついてきたが、尻尾と背中の突起でガードした。噛みつかれたところが裂け血が噴き出るが、致命には至らない。背後をそのままに前方からくる一体を対処する。

 

「GRRRRRRッ!!」

 

 邪神のタックルを両腕と頭部の角で受け止める。体中を鈍い衝撃が通り地面が陥没したが、背後に二体の邪神とういうウェイトを背負っているおかげで押し切られることなく受けきれた。これで今度はこっちの番だ。

 

「GRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 渾身の咆哮を放つ。音の衝撃がノックバックを生み、周囲の三体の邪神を引きはがす。それらが態勢を立て直すよりも早く、前の一体の脇を抜けるように走り抜ける。その先にいるのは死に体の個体と、まだ元気な邪神だ。死に体の個体はまだ動けるほど回復していないのが見て取れた。ならば脅威は低く、狙うべきは未だ元気な方の個体!

 足元の地面を踏み砕き、標的とした個体へと跳びかかる。迎撃として伸ばされた触手の群れを両の爪で引き裂きながら、その根元、首元あたりへと噛み付く。そのまま相手を地面へ押し付けながら、右の爪をその脇、胴体部分へと全力で捩じりこむッ!

 邪神が悲鳴を上げたのを感じながら、嚙みついた牙を上方向へ、ねじ込んだ爪を下方向へと全力で力を込める。ミチミチと音を立てながら千切れていく首元、引き裂かれていく胴。思い切り引っ張った糸が断裂するように、邪神が首元と胴体とで音をたてて半裂けとなった。これでまず一体目。

 

 返り血のようにあふれる黒い液体を浴びながら、まだ無事な三体のほうへ振り向く。三体はうろたえるかのように右往左往し、しかし(バケモノ)の背後にまだ生きている死に体の個体のほうを見て覚悟を決めたように金切声とともに吶喊した。

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 迎え撃つように咆哮し、先頭にいる一体へと腕を振るう。これまではたやすく防御をぶち抜けた一撃はしかし、受けることを覚悟していたのか吹き飛ばせずに逆に触手で腕を拘束されてしまった。相手の胴を爪が抉り深々と突き刺さってはいるが、致命には少し足りず、そして片腕を封じられた。その状態で左右から邪神が迫る。

 左から来た邪神には咄嗟に左腕を噛ませてガードしたが、右側はどうにもできずに脇腹に噛みつかれた。周囲の体組織が破壊され、赤い血が噴き出る。

 

「GRRッ、GRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 悲鳴を上げそうになるのを噛み殺しながら、全身に力を込める。足を踏み込み、尻尾を地面へ叩きつけ、その運動エネルギーを腰から腕へ伝え、両腕を離さない邪神ごと振り上げ、そして全力で振り下ろした。噛みついたままだった左の個体は顎を地面で強打して思わずといった風に腕から離れた。抱え込むようにして腕を拘束していた右の個体は触手を離さなかったが、振り下ろした衝撃で胴体が千切れた。黒い液体が零れ落ちる。フリーになった左の爪で右の触手を引き裂く。これで二体目。

 

 すぐさま脇腹に噛み付いた個体を引きはがそうとしたが、そうするとさらに力を入れて噛み付いてきた。意地でも離さない気か。

 ならばと爪を立てて相手の胴を握りしめる。そしてそのまま全力で走りだす!

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 地面を削りながら突き進み、そしてその背後にあった岩壁へと叩きつけた。砕け崩壊する岩がお互いの体に降り注ぐ。大質量の衝突によって思わず口を開いた邪神を両腕を振りぬいて引き倒した。地響きと轟音を伴って倒れこむ黒い体へ、追撃に両の腕を振るう。振り下ろされた衝撃が大地と挟まれた邪神の体内を蹂躙する。さらなるノックバックに邪神がついに致命的な隙をさらした。好機だ。

 

「GRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!」

 

 渾身の咆哮とともに爪を突き立てる。その一撃は邪神を貫通し、地面にまで大穴を穿った。轟音と地響きが鳴り響く。これで三体目。

 

 腕を引き抜き振り返る。まだ無事な一体が死に体の個体をかばうようにしながらこちらに歯を向きながら威嚇していた。仲間を想うような知性もあるのか。見た目より賢いな。

 ふとよぎった雑念を振り払い、威嚇するように両腕を広げ大地に爪を突き立て、角を相手にむける。足は大地を抉りながら力を溜め込んでおり、だれが見ても突進しますよと言うような姿勢だ。それを見た無事な方の個体が後ずさる。死に体の方はもはや動く元気すらないようで、息絶え絶えといった風に地面に伏している。となれば脅威はもはや残り一体。

 

「GRRRR」

 

 牙を剥き出しに笑う。笑顔とは本来攻撃的な目的で行われるという話をどこかで聞いたことがあったが、こういう状況で使うんだなと一つ理解した。証拠に、こちらが笑い声をあげた途端明らかに委縮している。

 緊張が高まる。死に体の個体は動けない。無事な方も、もはやここに至っては下手に動けばこちらの突進を避けられないのでやはり動けない。

 

 数舜の静寂、互いの視線が交錯する。

 

 ガラ、と横で崩れた岩が音を立てた。緊張が弾ける。悲鳴のような金切り声をあげながら、邪神が突進してくる。もはや後先を考えていないのか、これまでのどの個体の突進よりも速い。

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」

 

 叫びとともに、足の力を開放する。爆発したように地面が後ろに弾け飛び、巨体が急加速して突進していく。四肢で地面を抉り、巨体を加速させ続ける。

 邪神の本体より先に、触手が迫る。角に、頭に、肩に触手が当たるが、そこはどれも硬い部位でできている。ロクなダメージにはならず弾かれ、そして互いの肉体がついにゼロ距離になる!

 大質量同士の衝突によって大気は歪み、そして衝突の振動は周囲一帯を吹き飛ばした。

 その中心には二本の角が邪神の歯を砕いて貫き、そのまま背後にいた死に体の個体ごと貫かれている邪神たちの姿があった。これで5体。

 

 勝利だ。

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAHAHAはハハハハハハハハハハッ! 見さらせ異世界ッ! 大怪獣バトルは俺の勝ちだ!!」

 

 角から邪神を投げ捨て、空へ向かって咆哮する。そのまま擬態を発動させた。ぐちゃぐちゃ(・・・・・・)と肉がつぶれるような音をさせながら体が縮み、様々な生物的特徴は消えて人の肌へと変わっていき、そうしてアバター姿へと擬態が完了する。

 

 テンションそのままに吠え散らかし、戦場に笑い声を響かせた。それを見ているどこぞの骸骨や、鎧がいるとも知らずに……。




なんとなく極ベヒーモスな見た目のイメージです、戦い方は全然違うだろうけど

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