個人経営で貿易商をしている男、井之頭五郎。彼が一仕事終えてお腹を空かせ、店を探していると見たことのないレストランを発見。はたして彼は何を体験し、何を食べるのか。

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孤独のグルメ×メイクアガール

 開発途中であろう黒い人型ロボット達が並んでいる日の当たらない部屋。ここで俺は目の前にいる女性、海中 絵里さんと商談を進めていた。

 

「海外製の強化スーツですか。それでしたら、こちらのカタログにあるものでご用意できますが、いかがでしょうか」

 

「そうねぇ、でしたらこの黒装束タイプを3着取り寄せて頂けますか? オプションのヘルメットパーツはパープルタイプがいいわね」

 

「承知致しました。こちらのものを3着、オプションのヘルメットはパープルタイプでご用意致します。このセットであれば1週間程度でお届けできると思いますので、納品日時が確定次第お電話致します」

 

「いつも仕事が早くて助かるわ。それではご連絡お待ちしています、井之頭五郎さん」

 

 俺は別れの挨拶返して海中さんのラボを後にした。

 

 

  俺の名前は、井之頭 五郎。個人経営の輸入雑貨商を生業にしている。

 

 普段は雑貨を中心に売買しているが、人々の生活を支えるロボットの「ソルト」が流行して以来、触発された研究者から開発目的で海外製のパーツを依頼されたりと雑貨以外にも間口を広げていくことになってしまった。

 今日はとうとう強化スーツの依頼まで受けてしまった。普段馴染みの無い商品の仕事はなんだか疲れる。

 

 商談の帰り道、ふと時間が気になったので腕時計で時刻を確認すると、針は午後2時半を少し過ぎた辺り示していた。

 

 それを見たとたん思い出す。今日は朝から働き詰めで昼飯を食べていない。自ずと足が止まり、ついつい口をあんぐり開けてこう呟いた。

 

「腹が、減った……。」

 

 よし、店を探そう。

 

 俺は街を見回しながら歩を進めた。しかし、なんとも中途半端な時間。ランチタイムには少々遅い。かといってディナーには早すぎる。そうなると飲み屋系は当てにならない。

 

 ところで俺の腹は今何を求めているんだ。

 

 回転寿司の看板が見える。海鮮系も悪くはないが、お昼のゴールデンタイムを逃した俺のすきっ腹を満足させるには、やはり肉料理だろう。しかし個人経営の定食屋なんかは、そろそろラストオーダーに差し掛かっていそうだ。さて、どうしたものか。

 

 思考を巡らせながら歩き進めると見慣れた看板が見えた。あれは、ファミレスのジョナサン。いや、待てよ。よく見るとフォントが限りなく似ているだけでジョナサンじゃない。ジョン・スミスって書いてある。聞いたことない名前だ。だがファミレスなら何かしら肉料理にありつけそうだ。

 

「よし、行ってみるか」

 

 そう決心して、ドアを開けて入店した。

 

 

  「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」

 

 そう言って赤い髪の少女が4人掛けのテーブル席へ案内してくれた。

 

「ご注文の際は、そちらのボタンでお呼び下さい」

 

 丁寧な所作で赤い髪の少女がその場を後にした。

 

 時刻は3時になっており店内は落ち着いていて、テーブルを1つ挟んで向かいの席にはゴーグルを付けてブラウンのつなぎに身を包んだ少年がノートPCで作業をしていた。

 

 俺はメニューを開き何を食べるか思案し始める。

 

 今の空腹状態ならガッツリとしたものがいい。さて、どんなメニューがあるんだ。ステーキも悪くないが、チキンソテーも捨てがたいな。どうしたもんか。

 

 メニューを見ながら迷っていると、ゴーグルの少年が店員さんと会話をしているのが聞こえてきた。

 

「それじゃあ0号、コーヒーを持ってきてくれないか」

 

「明さん。コーヒーもいいですけど、偶にはフードメニューも注文してくれませんか? 私、邦人さんに教わってたくさん練習したから自信あるんです!」

 

「そうか、それじゃあこのハンバーグプレートにしてみようかな。今日は昼食も忘れて研究に打ち込んでいたからお腹も空いているし。以前のものと味が変化しているかどうかも記録しておきたい」

 

「ありがとうございます!まずはコーヒーを持ってきますね」

 

 成程、ハンバーグという手があったか。ならばこの組み合わせでいこうと腹を決めて呼び出しボタンに触れる。すると数10秒で入店時に案内してくれた赤い髪の少女がやってきたので、注文を伝える。

 

「すみません。ハンバーグプレートとサーロインステーキとライス大盛り、あとウーロン茶下さい」

 

「かしこまりました。ただ申し訳ございません。お飲み物はドリンクバーにありますので、セルフにてお願いします」

 

 あれ~? さっきゴーグルの少年はコーヒーを直接注文していたよな。さては身内びいきか。人の会話を盗み聞く俺も悪いが、何だか謎に恥をかいてしまった気分だ。

 

 気を取り直してドリンクバーへ行きウーロン茶を取って自席に戻る。ゴーグルの少年はすでにハンバーグにありついていた。

 

 それから10分程度経った頃、先ほど「0号」と呼ばれていたスタッフが料理を運んで来た。

 

「お待ちどうさまでした」

 

 目の前にハンバーグプレートとサーロインステーキ、ライスが置かれた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 そう声を掛けられ、早速ナイフとフォークに手を伸ばす。

 

 まずはハンバーグを一口。ゆっくりと噛みしめる。これは……驚く程普通のハンバーグだ!普通というのは決して悪い意味ではない。世の中のありとあらゆるハンバーグ全ての基礎基本となるような、スタンダードなハンバーグだ。焼き加減からソースの甘味、付け合わせの野菜に至るまで。

 この感覚はなかなか味わえるものじゃないぞ。まるで料理図鑑からそのまま取り出したかのようだ。

 

 次はステーキに手を付ける。こちらもまた普通のステーキだった。まるで世界中のステーキのデータベースにアクセスして、全データの平均値を狙って出したかのような味だ。なんだか恐ろしいものを食べている気がしてくる。だが不思議と食べる手は止まらない。

 

 目の前の肉たちを1/3程度食べ終えた辺りで、なにやら視線を感じた。これはいったい何だろう。周りを見渡すと、キッチンの入口から顔を覗かせる二人のスタッフらしき人物。髪の短い男子と赤い髪の少女が心配そうにこちらを見ていた。そこに「0号」と呼ばれていた少女が戻っていく。

 何か話しながらキッチン内へ入っていくのが見えた。

 

「お疲れさま、0号ちゃん。品数が多いから心配だったけどミスなく接客できたわね!」

 

「しかもあのオジサン、結構がっついて食べてるぜ。0号ちゃんの料理の腕前もメキメキ上がっている証拠だな!」

 

「はい、お二人に沢山教わった成果が出てきました! 本当にありがとうございます!」

 

  結局肉料理たちをおかずに大盛りのライスを平らげてしまった。何だかんだ俺の腹は満たされたというわけだ。

 

 会計を済ませて店を後にする。

 

 偶にはファミレスも悪くない。今日はもう仕事は入っていないし、帰って仕入れの作業でもするか。

 

 帰り道を歩く途中で、携帯に電話がかかってきた。

 

「はい、井之頭ですが」

 

「すみません、井之頭さん。ちょっと欲しいものがあって相談したかったのでお電話しました。エイリアン・ロムルスの海外版グッズ関係で……」

 

 ホラー好きの常連からだった。

 

 たらふく食べたばかりなので力はみなぎっている。よし、もう一仕事するか。

 

 

 

 




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