記録──2034年新潟県燕市。酒呑童子神社。
「本殿? アハハ、そんな場所に“特級呪物”を置くなんて中々罰当たりだね」
『それはその特級呪物。“酒呑童子の酒壺”が神様として祀られてるからっぽいよ』
階段を上ると鳥居があり、その奥に祠と言えるほど小さな本殿が見えた。
さっさと中身を確認するために本殿の扉を開けるが──
「ない」
『──え?』
「本殿の中。特級呪物処か普通の酒壺すらないよ?」
『え゛マジ!? ソレ無いとまずいっぽいから絶対に見つけ──』
うるさかったので最後まで聞かずに通話を切った。
正直、呪物探しなんて面倒だしごめんだが。実際問題まずいのはわかっているので。
「──探すしかないかー」
▲▼
「先生、俺もう帰るからよろしく」
新潟県立吉田高等学校。一年
「何!? 優利! これが今日最後の授業なんだ、最後まで受けていけ!!」
だが自称、令和最後の熱血教師。乾に早退を止められる。
優利は乾の静止など聞こえないと言わんばかりに教室から出ようとするが。
「まさか、今の問題がわからないから帰るんじゃないですよね~? “神童“さん」
それを邪魔するように生徒の一人が優利を煽った。
普段ならこの程度の煽りは無視して帰るが、今回は違った。
「テメェ……。誰が“神童“だ。このクソ眼鏡ッ」
優利は眼鏡をかけた生徒に近づき一発。
拳を叩きこまれた眼鏡の生徒は椅子から転げ落ちる。
「イタ……こ、これだから暴力しか脳がない低能は……」
「……先生。さっきの問題の斜漸近線はy=x+1だよな?」
先生が正解だ。と言ったことで驚き悔しがる眼鏡の生徒。
悔しがる眼鏡を横目に優利は満足げに教室を飛び出した──。
「“神童“なんて言われたの、マジでいつぶりだろうな……」
学校からの帰り道、思い出すのは“神童“という言葉。
秦氏優利は生まれながらに天才だった。生まれて直ぐに歩くことができ、
4歳の頃には中学生並みの知能と高校生と同等の身体能力を有していた。
そんな優利を父も周りの人々も天才だ。神童だ。と喜び褒め称えた。
優利も満更では無く天狗になり過ごしていたが突然、転機が訪れた。
中学に入って直ぐ、母の体調が急変したのだ。それから優利は母の看病に明け暮れた。
母の看病に時間を取られ学校に行く頻度は落ち成績も瞬く間に落ちた。
神童と謳われる才があろうとも勉強はやらなければ覚えられないのだから当然の結果だった。
母の病状と優利の成績低下に父は機嫌が悪くなったのか、ある時優利に言った。
『母さんの体調が悪くなったのはオマエを生んだせいだ。
オマエが母さんから力を奪ったんだ。オマエなんか生まれるんじゃなかった』
父親からのこの言葉に優利は動揺し、自分自身、思ってしまった。
俺がこんな才能を持って生まれたから、俺が母さんから力を奪ったから。
俺が神童なんかで生まれたから。悪いんだ、と。
それからは無駄に残った自信から喧嘩に明け暮れ──
「ッチ、嫌なことを思い出しちまった」
考えごとをしながら歩いていたせいか夕焼けが見える程の時刻になっており、
それを見た優利は急ごうと、地面を踏みしめ駆けだした。
「あれ、鍵が開いてる……」
家に着くと鍵が開いており訝しむも、
大して気にせず“とある物”を鞄に入れると再び外出をする。
「あー優利くん、さっき君んちに白髪の女の子が入っていたけど、友達かい?」
家を出ると近くに住むおじいさんにそう聞かれた。
「はあ? 俺に友達なんか、っていうかそんな奴知らないけど」
白髪の女が自分の家に不法侵入ってどんな状況だ……?
と困惑したが、やはりそこまで深くは考えず目的地へと向かった。
着いた場所は新潟県立吉田病院。
「……こんな時間にお見舞いするのは流石に初めてだな」
母のお見舞いの為にほぼ毎日来ている病院だが、
夜の8時過ぎに来るのは初めてだった。謎の悪寒を感じながら優利は病院に入る。
「お見舞いってまだ出来ますかね?」
「ご家族のお見舞いですよね? それなら後30分は大丈夫ですよ」
面会受付を済ませた優利は少し安心して、
母の病室がある3階へと足を進めた。
「あれ、3階だけ電気が切れてる」
優利がそう思って直ぐに電気が着く。
少しおかしいと感じたが左側にある母の病室へと足を進めていると。
優利は突然、何か大きなものに投げ飛ばされた。
「ッ!? 何だいきなり!!?」
左右と直ぐに何に投げられたのか確認するが何も見えない。
そして、ゾワッと悪寒が走ると今度は大きな手のようなもので殴られた。
「ッ────」
声にもならない声をだして優利は
何とか起き上がり、目を開けると右の視界が真っ赤に染まっていた。
頭を触ると生暖かく赤いものが手に付着する。流石の優利もこれには死の予感を感じる。すると。
「見えた……」
青い、大きな手を持つお化けのようなものが見えた。
『おぉおぉぉおおおぉおぉお』
お化け。いや、呪霊は声を出しながら再び近づいてくるが。
「見えさえすれば、どうにでもっ!」
どうにでもなる。とカウンターの拳をお見舞いするが。
まるで効果が無く、逆に優利が大きな手に殴り飛ばされた。
「ガハっ……。ハァ、ハァ……」
息をするのもやっとな優利に、
呪霊はその大きな口を開けて迫る。
今度こそ死を覚悟した次の瞬間、眩い極光が呪霊を穿った。
「っな……」
驚いて後ろを振り向くと、
白髪の髪と空のように透き通った瞳を持った可愛らしい少女がいた。
「ありがとう。あんたが助けてくれたの──」
助けてくれたのか。と続けようとした、
優利の言葉は彼女の一言で消し飛んだ。
「──邪魔」
今度は優利の頬を横切って放たれる純白の極光。
どうやらまだいたらしい呪霊も瞬く間に払われた。
「……」
あまりの衝撃に思わず黙り込む優利。
それを見て若干申し訳なさそうな表情をした後立ち去ろうとする少女。
数秒してから、白髪の少女が向かっている先が
自分の母親の病室だと気づいた優利は、「待て!!」と言いながら追いかける。
「? ボクになにか用?」
「助けてくれてありがとうとか、さっきのは危ねえだろとか、おまえは何者だ。とか、
言いたいことは沢山あるが。まずはソコ、俺の母さんの病室何だけど?」
「……ん~そっか。なら一緒に入ろうか」
ほらほらとマイペースに優利を引っ張り病室に入る少女。
優利の母親は今にも死にそうなほど、苦しそうに眠っていた。
「母さん!! 大丈夫か!?」
「あ、今は無理に起こさない方がいいよ」
「何でおまえにそんなことがわかんだよ?」
そう聞くと少女は人差し指を前に出し、
「さっき君が聞いてきた、ボクが何者か。教えてあげる
ボクの名前は
「呪術師……? どうして呪術師に母さんの容態が──まさかっ」
「気づいたみたいだね。
君のお母さんの症状はただの病気じゃない。呪いによるものだ」
あまりに衝撃的な事実だったが、
優利の脳は何とかそれを受け入れ前へと進む。
「あんた、呪術師なんだよな?
頼む、母さんの呪いを解いてくれ……」
優利は神に縋る思いでそう頼むが。
「ごめん。ハッキリ言って今のままだと
ボクでも君のお母さんの呪いは払えない」
「っな!? なら一体どうしたらいいんだよっ」
頼みの綱が切れたことで下を向く優利。
そんな優利の頭を菫はつんつんと指でつつく。
「アハハ、今のままだと。って言ったでしょ?
あるにはあるんだ。君のお母さんを治す方法」
「! 俺に出来ることなら何でもする……それを教えてくれ!!」
「わかった。いいよ
まずは君と君のお母さんの状況から説明しようか」
「ああ、頼む」
「まずね。君のお母さんの中には何故か、ボクが調査しに来た “特級呪物”。
“酒呑童子の酒壺”がある。そして壺を含めた大半は、ボクも今さっき気付いたんだけど」
一度言葉を区切り、優利を見ながら言った。
「──君の中にあるんだよね!」
「はあ!? 何で俺の中にもその“特級呪物”ってのがあるんだよ!」
「さあ? いくらボクの眼が良いといってもそこまではわかんないよ」
ボク以外ならそもそもあることもわかんないんだからね?
と言ってから菫は続ける。
「まあだからさ、君の中の“酒吞童子”を目覚めさせて、
君のお母さんの呪物を取り込ませればいいんだよ」
「……それ、大丈夫なのか?」
物凄く心配そうな表情で聞く優利。
「うーん。まず間違いなく、君は死刑になるね。
でも、君に出来る事は何でもするんでしょ?」
「……ああ。 でも、1つだけ勘違いすんなよ。
さっきの心配は酒吞童子が目覚めてあんたや母さんが大丈夫なのかって心配だ」
「……アハハハ。大丈夫だよ、ボク最強だし」
菫は少し軽めのノリでそういうと。
ほら、呪力練って変わるイメージして! という。
呪力。それが何なのか秦氏優利はまだ、まるで理解していない。
だが、先ほどの呪霊との戦闘で既に呪力には目覚めてしまっている。
ならば本人にその気さえあれば、変わるのは必然といえた──。
『クヒッ クヒヒヒヒ!! ヤハリ、空気は生で吸うに限るなァ!!!!!』
家入菫はどうせ呪力に目覚めた以上、
放置しても酒吞童子になるだろうし、今目覚めさせたろ! ってノリで目覚めさせたよ。