ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国ワカスーカルト司令部ー
ワカスーカルト司令官であるエル・ガンエンは驚愕していた。何故なら、用意していた敵艦隊攻撃手段の魔導砲が大した成果も挙げられぬまま、無力化されてしまったからだ。
ワカスーカルトの山岳に隠してた海上への魔導砲は第一波こそパールネウス王国の戦列艦に2発命中したが、第二波は命中することはなく、日本国の戦列艦の桁違いの魔導砲によって瞬く間に鎮圧されてしまった。だが、まだこの時には余裕があった。
何故なら竜騎士団、飛空艦隊による攻撃、古代兵器キル・ラヴァーナルがある。最初のプランが潰えただけであり、まだ余裕はあった。
「報告!重要な報告が2点御座います!」
部下が息を切らしながら入室する。彼はエル・ガンエンの機嫌を損ねないかビクビクしながら言う。
「なんだ!?」
「1つ目に、聖都から派遣された聖都防衛竜騎士団は団長であるセイルート様を除いて全滅いたしました!」
「なんだと!?聖都防衛竜騎士団と敵方の総数は?」
「120騎に対して敵は10騎になります」
「戦果はどうなのだ!?」
「率直に申し上げますと一騎も撃墜は確認されておりません」
圧倒的な数的優位でありながらの敗北。飛空艦隊よりは戦力は劣るとは言え、練度が高い聖都防衛竜騎士団が敗北したことに驚愕してしまい、思考が停止してしまった。
「2つ目に軍王様直通の通信が届きました。読み上げます。『ワカスーカルト防衛隊はあらゆる手段を持って敵艦隊を殲滅せよ。聖王子様の命により、キル・ラヴァーナルを起動せよ。なお、聖王直轄飛空艦隊全隊が援軍に向かう』以上であります!」
その言葉に、今度こそエル・ガンエンは言葉を失った。何故なら、限られた者しか知らないことだが聖王直轄飛空艦隊はクルセイリース大聖王国軍の飛空艦隊を余裕で殲滅させる程の力を持っている。
それこそが、"聖帝ガウザー"またの名を古の魔法帝国の遺産。空中戦艦パル・キマイラである。聖王室はこの圧倒的な武力を持っているからこそ、その血を絶やしていないのだ。
この聖帝ガウザーだが、クルセイリース大聖王国本国ではなく、征服した属国から発掘したものだ。その際にクルセイリース大聖王国発展に貢献した聖帝の名を与えられ、緊急時以外は使用を許可されていない。それが飛空艦隊を連れてやって来るのだ。彼と言えども驚くのも無理はなかった。
目の前の部下は通信内容の意味が分からず困惑しているが、国家機密を簡単に話す訳にも行かない。
「軍王様の命令により、キル・ラヴァーナルを起動する。ワカスーカルト防衛飛空艦隊は聖王直轄飛空艦隊の到着を待って同時攻撃をしろ。指揮は任せる」
エル・ガンエンはキル・ラヴァーナルを起動する為に軍司令部を後にした。
◆
ーワカスーカルト北東約400km上空ー
空中を途轍もない大きさの飛行物体が飛行する。それは三菱のロゴの様な形状をしており、その異様さを物語る。
だが、自衛隊にとってそれは見慣れた…とまでは言わないが既知の存在であった。神聖ミリシアル帝国が数隻を保有する古の魔法帝国の兵器、空中戦艦パル・キマイラである。
クルセイリース大聖王国はこれを聖帝ガウザーと呼称して運用していた。高度300m、時速200kmで飛空艦を引き連れてワカスーカルトに向かっていた。
彼らは聖王直轄飛空艦隊であり、国家機密の塊である聖帝ガウザーに乗艦している。故に、情報流出を防ぐために乗組員は白い異型の面を装着し、幹部以外は番号で呼び合っている。
奇しくも神聖ミリシアル帝国の空中戦艦パル・キマイラと似たような恰好であり、これは古の魔法帝国も似たような恰好をしているのかも知れない。
そんな聖帝ガウザーの艦橋では聖王直轄飛空艦隊司令長官アエロリットと艦長ガンドライトが眼前に映る立体映像を眺めていた。
「まさか聖王子様が出撃許可を出されるとは。聖母様の意見具申によるものだろうが、敵が可哀想になるね」
「はい。しかし部下達は出撃を命じられた聖王子様の意図が分からない様です」
「聖王家の決断は絶対だ。軍人である我々はそれに従うだけだ。だが、聖母様と軍王の入れ知恵があるらしい。聖母様はともかくとして軍王の台頭は目に余る。彼の行動には注視する必要があるだろう。アレを使用し給え」
「誘導魔光弾ですね?お任せください。異国の艦隊など蹴散らしてくれましょう」
彼らは意気揚々と向かうのだった。
◆
キル・ラヴァーナルを起動するために軍司令部を後にしたエル・ガンエンは黒月族の遺跡に向かい、解析の為に保存されていたキル・ラヴァーナル内部に入る。
キル・ラヴァーナルの内部は体育館の様に広く、壁には黒月族の文字が刻まれている。また、中央部には四角い物体がゆっくりと時計回りに回っており、集積回路のようにびっしりと模様が刻まれている。
この四角い物体を見渡せる位置に操縦席が存在する。エル・ガンエンはそこに座る。すると、彼の眼の前には外の映像が映る。未知の技術にエル・ガンエンは純粋に黒月族の遺産を褒め称えた。
その時だった。彼の頭の中を膨大な知識が駆け巡った。それはキル・ラヴァーナルの操縦方法であったが、あまりの膨大な量にエル・ガンエンは頭を抑え、息を切らし、椅子から転げ落ちる勢いだった。だが、彼は息を整えて改めて椅子に座る。
「素晴らしい!この兵器さえあればわが国は無敵だ!我が国に歯向かう連中にはクルセイリースの守護神たる私が
神の怒りを、神の力を思い知らせてやる!」
そう言って彼はキル・ラヴァーナルを起動した。すると、四角い物体が点滅する。それに合わせて地鳴りのような音が鳴り響いた。
やがてキル・ラヴァーナルは立ち上がり、埋まっていた採石場の岩を纏った状態で立ち上がった。それは、二足歩行の岩で出来たゴーレムのようであった。
それはゆうに200から300mはある。ゴーレムの足音が絶えず響く。ゆっくりと歩いてはいるが、歩幅は大きく素早い。彼はパールネウス王国の軍艦を滅するべく移動を開始する。
◆
ワカスーカルトから撤退しつつあったパールネウス王国の蒸気戦艦を護衛していたワイバーンオーバーロードはある物を見て驚愕し、すぐに連絡を取る。
『報告!ワカスーカルトより巨大なゴーレムが接近中繰り返す!巨大なゴーレムが接近中!』
「見ればわかる!魔導砲発射準備!目標敵ゴーレム!」
パールネウス王国にとってこの巨大なゴーレムは絶好の的だった。敵の魔力反応こそ強大だが、遠距離攻撃がないゴーレム相手ならば一方的に攻撃できる。パールネウス王国の存在を知らしめるための絶好の獲物だった。
「日本国に連絡!貴国らの救援は不要!と伝えろ!」
「了解!」
「左舷魔導砲発射準備…撃て!」
蒸気戦艦の乗組員は高い練度によってすぐに動き出し、敵に左舷を見せる。そして、魔導砲を発射した。魔導砲の砲門の先に六芒星の小さな魔法陣が生まれ、砲弾が発射される。
巨大なゴーレムであるキル・ラヴァーナルは爆炎に包まれる。蒸気戦艦左舷の砲門から無数の砲弾が撃ち込まれる。左舷の弾薬は尽き、右舷の魔導砲を撃つべく方向転換を試みる。
だが、その試みは中断される。突如として敵の魔力反応が増大し、ゴーレムの上半身から発射炎が数え切れない程に見えた。
発射された砲弾は蒸気戦艦の周囲に落下し、大量の水柱ができる。水柱は崩れ、大量の海水が蒸気戦艦に降りかかった。
蒸気戦艦を覆っていた海水と、ゴーレムを覆っていた煙が晴れる。それを見たパールネウス王国の者達は驚愕する。自分達が岩で出来たゴーレムと思っていた相手は、二足歩行の城であった。
蒸気戦艦にはキル・ラヴァーナルから放たれた砲弾によって20もの穴が空いていた。だが、幸いなことにギリギリ装甲の貫通を免れていた。
「こちら司令官バイアだ!直掩の竜騎士団に告げる!敵の城の砲台を潰せ!」
蒸気戦艦の乗組員にも死傷者が出ている。多少人手不足だが、彼は指示を出す。彼自身、導力火炎弾が効かない事は承知している。しかし、砲台があると言うことは砲撃手がいる筈だ。砲撃手を攻撃するための指示だった。
着眼点は良い。だが、キル・ラヴァーナルは一人で全ての動作が可能であり砲撃手は存在しない。だが、そんな事を知らないワイバーンオーバーロード10騎は敵に向かう。
キル・ラヴァーナルはワイバーンオーバーロードを前に巨大な六芒星が出現する。
その六芒星にパールネウス王国、日本国共に見覚えがあった。それは、アガルタ法国がグラ・バルカス帝国の航空機に使用した艦隊級極大閃光魔法に似ていた。
しかし、それと比べると展開速度も込められた魔力も桁違いだ。あっという間に完成した艦隊級極大閃光魔法ークルセイリース大聖王国ではクルスカリバーーはワイバーンオーバーロードに命中する。
ワイバーンオーバーロード全てにあっという間に命中し、撃墜されてしまった。
実はキル・ラヴァーナルは使用者の知識にある魔法を行使できるのだ。必要魔力と知識があることが前提だが、キル・ラヴァーナルに搭載された魔力量と記憶容量があればそれは問題ではない。そして、エル・ガンエンは地方司令官としてクルスカリバーの原理についても知っている。故に、彼は一人でクルスカリバーを放てたのだ。
そして、彼は調子に乗ってパールネウス王国の蒸気戦艦に近づいて拳を振り下ろした。
振り下ろされた拳は運動エネルギーによる暴力によって蒸気戦艦の装甲は意味をなさず、真っ二つになって撃沈する。
パールネウス王国の蒸気戦艦はキル・ラヴァーナルによって沈没した。
◆
ーワカスーカルト東側約120kmー
クルセイリース大聖王国の聖王直轄飛空艦隊、その旗艦である聖帝ガウザーがワカスーカルトに向かっていた。
その聖帝ガウザーの中央司令室では艦長と司令官が会話をしていた。その横にはキル・ラヴァーナルがワイバーンを撃墜し、戦列艦を粉砕する様子が立体映像で映し出されていた。
そして、別の立体映像ではワカスーカルトから離れていく艦艇ー日本国駆逐艦夕立ーの姿があった。
「ガンドライト艦長、あれが黒月族の兵器たるキル・ラヴァーナルらしい。何と野蛮だろう」
「まったくですな。優雅さの欠片もなく、機能美もない。ですが、あの兵器でも港にいた敵は簡単に滅ぼせそうですね」
「だね。しかし、ワカスーカルトから離れている船をキル・ラヴァーナルは取り逃す可能性がある。聖王子様は敵の殲滅がお望みだ。我々が手を貸そう」
「確かに、船として速いですね」
司令官たるアエロリットは駆逐艦夕立の姿を見て艦長ガンドランドに言う。
「艦長。すでにアレの射程に入っているのだろう?」
「この船に対して"神の炎"の使用を許可する」
「たった1隻に"神の炎"を使用しても良いのですか?」
神の炎。それは爆裂魔法封入型コアを使用した対艦誘導魔光弾の通称だ。この誘導魔光弾の在庫は沢山あるものの、神聖ミリシアル帝国のように開発、生産には至っていない。つまり、在庫がなくなれば使用不可能になると言う事だった。
彼からすれば貴重な兵器より主砲による対艦攻撃を行えば良いのでは無いかと考えていた。
「艦長、聞こえなかったのか?これは政治なのだ。軍王がこれ以上聖王室に干渉するのを牽制する意味合いがあるのだ。少しでも我々が倒したという"実績"がいるのだ」
「しょ…承知しました!」
艦長ガンドランドは指示を飛ばす。
「"神の炎"発射準備!一発で十分だ!目標はワカスーカルト沖合約8km航行中の敵艦艇だ!」
「発射準備に入ります」
無機質な女性オペレーターによる復唱と共に、発射シーケンスが進む。
「コアに対して魔力注入開始。エネルギー充填率…100%注入完了。封入安定化…安定化完了。形状認識完了。魔力ロック完了。"神の炎"発射準備完了しました」
オペレーターの言葉に艦長ガンドランドは司令官アエロリットの方を向く。
「司令、開戦の指示を」
「フム。我が聖なる王国へ盾突いた愚か者め。これより聖王様にかわり神罰を代行する!攻撃を開始せよ!」
「"神の炎"を発射せよ!」
「"神の炎"発射!」
ボタンを押した結果、前部に取り付けられた発射管から垂直に打ち出され加速を開始する。青い尾を描きながら誘導魔光弾は飛翔する。
クルセイリース大聖王国聖帝ガウザーは日本国海上自衛隊駆逐艦夕立に攻撃を開始する。
◆
ーワカスーカルト沖合約8kmー
少し時間を遡る。
日本国海上自衛隊駆逐艦夕立の戦闘指揮所では事前調査で判明していた陸上の砲台を潰した。そして、やって来た敵航空戦力に対処しようとしたが、パールネウス王国のワイバーンのせいで対空誘導弾やレーザーが使用不可能になってしまった。
だが、懸念とは裏腹に敵航空戦力はパールネウス王国が1騎を除いて全滅させた。最後の1騎も撤退していたので問題はないと考えていた。しかし、突如として現れた巨大なコンバットフレームの様な物が此方に向かってくるのが確認できた。
パールネウス王国は『手出し不要』と伝えてきたので、遠距離攻撃があることを考慮して撤退を開始した。だが、敵コンバットフレームは沢山の砲台を展開してパールネウス王国の蒸気戦艦を攻撃し、果ては拳で蒸気戦艦を真っ二つにした。
いかに日本国の駆逐艦と言えど圧倒的な質量から繰り出される運動エネルギーを前にしては唯では済まない。だが、さらなる脅威がレーダーに映し出されていた。
それは、途轍もない大きさの反応を示す物であった。偵察ドローンや事前情報を下に神聖ミリシアル帝国が持っている空中戦艦パル・キマイラだと断定された。
グラ・バルカス帝国を幾度となく苦しめたソレ。今までは味方だったが、今回は敵だ。皆は緊張していた。対策として空中への敵に当てるための対艦ミサイルの開発も進んでいたが、実戦は初めてだ。
3次元レーダーを見ていた南野は、突如として現れた光点を見る。その物体の上昇をレーダーはしっかりと捉えていた。
この反応に彼は見覚えがあった。いや、地球世界で訓練で何度も見た。しかし、この世界では見た覚えがない近代兵器の反応であった。
「敵空中戦艦ミサイル発射!放物線を描いて接近中!」
夕立の戦闘指揮所に緊張が走ったのだった。
〜コラム〜
"神の炎"
クルセイリース大聖王国の誘導魔光弾。
放物線を描いており、音速に届いていない。レーダーの反射面も大きい。日本国の誘導弾よりも劣化している。
お気に入り登録、高評価宜しくお願いします!
グラ・バルカス帝国の存亡について
-
徹底抗戦からの無条件降伏
-
講話する