ー駆逐艦夕立、戦闘指揮所ー
南野の言葉に稲荷神含めて一同は驚愕した。しかし、それも束の間。射撃管制を担当している牟田口は自分の目を疑った。
新世界にて初めてとなるミサイル攻撃に一同は驚愕したが、敵の誘導弾と思しき物体は放物線を描いて飛翔する。しかし、レーダーを避ける為に海面スレスレに飛翔するのではなく放物線を描いており、レーダーにはっきりと捉えられている。しかも、音速を越えていない。
地球の誘導弾を知っている彼らからすれば、何とも拍子抜けするものであった。
「一体どういう事だ?撃墜してくれと言っているようなものだぞ?」
「デコイなのではないか?上昇後に急加速するのか、低空飛行の音速誘導弾やステルス性の誘導弾を複数発射している可能性が高いぞ」
空中に大規模な質量を浮かしている敵が、誘導弾を単発だけ撃ってくる筈がない。それとも、神聖ミリシアル帝国のように戦艦を1発で沈めるほどの威力を有しているからなのか。
「1発以外探知できない!」
「単に不可能なのか!?」
戦闘指揮所は混乱に陥るが、稲荷神は戦闘指揮所から出て、その圧倒的な身体能力で艦橋に降り立つ。艦橋からミサイルが飛翔する方向を見るが、その圧倒的な視力を以てしても発見できたのは1発だけであった。
「今、外に出て確認しました。ミサイルは1発だけです」
稲荷神の言葉に混乱は収束し、各々が迅速に行動を開始する。
「敵誘導弾座標入力!」
「AI補正完了!対空誘導弾発射!」
夕立の前部に設置された垂直発射装置の蓋が開き、誘導弾が発射される。発射炎と轟音を鳴らしながら急激に加速する。科学の産物たる対空誘導弾は空に消えた。
◆
ークルセイリース大聖王国聖王直轄旗艦聖帝ガウザー中央司令室ー
『"神の炎"は順調に飛翔中』
無機質な女性オペレーターによる報告とともに、艦橋に映し出された立体映像には、青い尾をひきながら飛翔する"神の炎"ー対空誘導魔光弾ーが映し出されていた。
「フフフ、敵が哀れになってきたよ」
対空誘導魔光弾は敵の軍艦を1発で沈めるほどの威力を誇る。それはとても力強かった。彼は兵器に絶対の自信を置いてグラスの中に入った水を飲む。
「全くその通りですな。彼らは何も知ることなく"神の炎"によって滅びるのです。彼らも魔帝の兵器に包まれて寧ろ本望かも知れませんな」
司令官アエロリットと艦長ガンドランドは勝利を確信する。しかし、それに水を差す者がいた。
『警告!警告!魔導電磁レーダーに反応あり。敵が対空誘導魔光弾と思しき飛翔体を2発発射。速度…音速の2倍。このままの進路だと"神の炎"と接触します。なお、魔力探知レーダーに反応しないため映像化は不可能です』
オペレーターの警告に皆は慌てる。まだ70kmほど敵艦まで距離があるため、対空砲を撃つには遠すぎる。しかも、2発で"神の炎"に命中する筈もない。考えられる結論は1つに絞られる。
「まさか、敵は"神の炎"を探知して迎撃のために誘導弾を使ったというのか?!」
「そんな!飛空艦のような大きい的ならともかく、対空誘導魔光弾のような小さなコアを迎撃出来るはずがありません!」
日本国が誘導弾を所有しており、他にも不可視の攻撃や青い炎による魔法攻撃によってシルカーク王国最寄りの基地が攻撃されたと聞く。だが、対艦誘導魔光弾を攻撃する誘導弾など想定していない。
地球からすれば、なんてことない周知の事実だが、各種技術の低いこの世界での常識で想定するのは酷な話であった。
だが、それを裏付けるように魔導電磁レーダーには敵の誘導弾の反応が高速で動いていた。
『"神の炎"への接触まで後10秒…5秒…0』
カウントダウンの終わりと共に光点と神の炎は重なり、映像に写っていた"神の炎"は大爆発する。
彼らが絶対の自信と誇りを持っていた魔帝産兵器は爆散し、炎の雨となってしまう。彼らはこの現実を受け入れられず、震えていた。だが、そんな彼らを日本国は待ってくれない。
『もう一発の誘導弾が本艦に急速接近中、接触時間計算…後40秒で接触します』
オペレーターの言葉にアエロリットは驚く。報告書にある時速3000kmの攻撃。その性能に敵ながら舌を巻いた。聖帝ガウザーには長距離対空兵装も用意されているが、敵の速さに対応が間に合っていない。
「ピンポイント装甲強化!」
「速すぎて命中箇所予測判別不能!」
ガンドランド艦長の指示に、部下は意見する。
「では魔導電磁レーダーとアトラタテス砲をリンクし攻撃しろ!距離0.5kmで砲撃をやめ装甲を強化しろ!」
砲撃手は途轍もない指さばきで砲撃準備をする。
「アトラタテス砲魔導回路接続完了!」
「撃てぇっ!」
クルセイリース大聖王国が所有する対空砲の中で最強たるアトラタテス砲のうち、聖帝ガウザー上部に取り付けられた3門が火を吹いた。分速3000発を誇る。合計分速9000発の光弾が発射される。
魔導電磁レーダーとリンクしたアトラタテス砲で敵の位置と速度を確認して照準して発射される。しかし、魔帝が作ったアトラタテス砲ですら音速で飛行する誘導弾は想定されていない。
空中への大質量戦に関してはアトラタテス砲ではなく、閃光魔法が主軸とされていたからだ。
『アトラタテス砲沈黙、装甲強化に魔素を回します』
空中戦艦前面に光の膜が展開される。乗組員は敵誘導弾魔光弾の爆発に耐えるため各々が何かにつかまる。
空中戦艦は爆発に耐えてくれると言う根拠のない自信が彼らを奮い立たせるが、やはり予想外の事態に少しの恐怖を感じていた。
科学の結晶たる誘導弾が爆発し、聖帝ガウザーは激しく揺れる。兵士達は死への恐怖を感じるが、艦長ガンドランドは被害報告をするように言う。
「魔素装甲出力70%低下!その他システム異常なし!」
70%低下してしまっては備蓄魔力の殆どを失い、各種システムの効率低下を招く。次の攻撃を防ぐ手立てはなく、このままでは爆沈は確実だった。
「魔素回復までの所要時間は?!」
「魔帝製魔導エンジンを使用しても約10分かかりま
す!」
次弾を防御することが約10分間は出来ない。爆沈が現実味を大きく帯びてきた。
「攻撃される前に全火力をもって敵艦を攻撃しろ!"神の炎"の攻撃準備!目標ワカスーカルト沖合敵艦艇!全弾発射!」
「"神の炎"全弾発射!」
『"神の炎"発射準備…順次発射します』
復唱と共にオペレーターが発射準備を整えて発射する。生産不可能な兵器の大量使用に蚊帳の外だった司令官アエロリットは艦長ガンドランドに口を挟む。
「艦長。生産できない兵器を大量使用するとはどういう事だ?」
「司令、今は出し惜しみをしている場合ではありません。相手も古代兵器を投入しているのでしょう。我々は敵の攻撃を防ぎ切れる保証はありません。聖帝ガウザーが撃墜されれば、大量にある"神の炎"の在庫も使用できません。出し惜しみをして使えない兵器を保管するなら今使い切った方がマシです!」
「わ、わかった」
ガンドランドの剣幕にアエロリットは押し黙るのだった。
◆
ー日本国海上自衛隊駆逐艦夕立戦闘指揮所ー
「敵、ミサイル10発発射。先程と同様に放物線を描いて接近中」
レーダーを見ていた南野は敵がミサイルを再度発射したことを確認して報告する。射撃管制担当の牟田口は拍子抜けだった先ほどの攻撃を受けて落ち着き払っている。
「敵は撤退ではなく攻撃を選んだようですね」
稲荷神が残念そうに言うと、艦長が言う。
「そのようですね。攻撃を仕掛けてきた以上、こちらも情は無用かと」
「当たるわけないのに彼らは理解できんのでしょうな」
「戦場で楽観は禁物だぞ」
「失礼しました」
稲荷神と艦長の言葉に牟田口が加わるが楽観視する牟田口を艦長がたしなめる。
「こちらに向かって来るミサイルはどうします?私が撃墜しますか?」
「いえ、我々の日々の訓練の成果をお見せするチャンスです。それにあの空中戦艦の耐久度を確認するいい機会です。来たるべき戦いで稲荷神様に頼りっぱなしには出来ませんから」
稲荷神の提案を艦長はやんわりと断って言う。
「敵の攻撃を迎撃。その後、敵空中戦艦に対空誘導弾を2発、対艦誘導弾を1発差し上げろ」
垂直発射装置の蓋が開き、煙と炎を放出しながら12もの対空誘導弾が発射される。続けて艦中央から対空誘導弾より一回りも大きい誘導弾。対艦誘導弾が発射される。
巡洋艦を1発で大破に追い込む対艦誘導弾が空中戦艦へと向かっていった。
◆
ー聖帝ガウザー中央司令室ー
『敵、12発の迎撃兵器を発射。現在"神の炎"に向かって飛翔中』
「これほどの数を単艦で対処するなど!迎撃にたった12発。相当に自信があると見える!」
オペレーターの言葉に艦長は驚く。そして、敵の兵器性能を見誤り、開戦に至った軍王は無能だと心の内で罵った。
艦長の気迫に、階級では上の司令官アエロリットも口を挟めずにいる。彼の視線の先には魔力探知レーダーを元に映し出した10本の"神の炎"が青い尾を描きながら飛翔する様子が映されている。本来であれば誇らしい様子であるが、敵の迎撃性能をみるに不安を拭えない。
『"神の炎"接敵します。3…2…1…今』
先ほども見た悲劇が起こる。魔帝製の兵器、"神の炎"に接敵した敵迎撃兵器は"神の炎"と共に爆発し、その数を減らしている。
司令官アエロリットは、少し前まで絶対の信頼と自信を置いていた兵器がなす術なく撃墜されるその光景をぼうぜんと眺めていた。その間にも次々と"神の炎"は爆発し、炎の雨と化す。
『敵兵器2発こちらに向かってきます』
「アトラタテス砲自動管制システムを作動せよ!」
「了解」
2発の誘導弾に向けて光弾が雨あられと浴びせられる。艦長は立場も殴り捨てて命中するように祈る。その祈りが通じたのか、1発が爆発し誘導弾が落下し始める。この光景に希望を見いだす。だが…
『アトラタテス砲オーバーヒート。冷却開始します』
「全ての魔素を前面装甲の強化に回せ!」
『了解しました』
先ほどの光の膜より頼もしい装甲強化が施される。そして、乗組員が何かにつかまった頃、聖帝ガウザーが激しい揺れに見舞われ、各種アラームが鳴り響いた。
「被害報告!」
「装甲展開用魔素は使い切りました。ですが、魔導機関の損傷はなし、異常ありません」
「魔導電磁レーダー及び前部外殻損傷。どちらも使用不可能です。魔素安定化に影響が見られます」
「魔導電磁レーダーの復旧は?!」
「…修復は不可能です」
敵の攻撃はなぜか魔力を発していない。故に、魔力探知レーダーが使用できず、唯一の目である魔導電磁レーダーが使用出来なくなった。まだ飛空艦に魔導電磁レーダーはあるが、リンク機能はなく、魔信で敵誘導弾の位置を共有する必要がある。
軍事的には撤退するのが一番だ。だが、後ろには飛空艦が控えている。それに、聖王室の武力の象徴たる聖帝ガウザーが撤退する事はクルセイリース大聖王国の敗北を意味する。それは許されざることであった。
撤退するかを悩んでいる時、オペレーターの緊急信号と共に説明がなされる。
『敵大型誘導弾が接近中。距離20。超低空から亜音速で接近中』
「下部のアトラタテス砲は使用可能か?!」
「上部は冷却中ですが、下部のアトラタテス砲は使用可能です」
先程の音速の対空誘導魔光弾と比べて今回の対艦誘導魔光弾は迎撃出来る可能性が高い。そう考えていると…
『敵大型誘導弾上昇』
「アトラタテス砲にて迎撃!」
『射程外です』
「閃光魔法、クルスカリバーを使用しろ!」
『魔導電磁レーダーが使用出来ないため光学手動照準になりますがよろしいですか?』
「かまわん。やれ!」
『了解。クルスカリバー発射します』
聖帝ガウザー前方に六芒星が出現し、その中心部から目視可能なレーザーが射出される。本来なら魔導電磁レーダーとリンクした射撃が可能だが、手動で音速に近い速度の誘導弾を撃墜しなければならない。それはとても困難であった。
『着弾まで3…2…1…』
「くそ…」
駆逐艦夕立から発射された対艦誘導弾は古の魔法帝国の遺産たる空中戦艦パル・キマイラこと、クルセイリース大聖王国の武力の象徴たる聖帝ガウザーに命中し、炎と衝撃による圧力が聖帝ガウザーを駆け巡った。
やがて空中に十字の光と炎が現れ、轟音を撒き散らしながら3つに折れた。聖帝ガウザーだったソレはゆっくりと地上に落下し、ワカスーカルト郊外の森林を炎で包んだ。
この光景に聖帝ガウザーの後ろから続いていた飛空艦隊の乗組員は唖然としているのだった。
◆
ークルセイリース大聖王国聖都セイダー、テンジー城ー
飛空艦からのリアルタイム映像を軍王ミネートは見ていた。故に、聖帝ガウザーが墜落する様子もはっきりと映っていた。この光景は彼の心を粉砕するのに十分な威力を誇っていた。
古の魔法帝国の古代兵器が墜落する様子に彼は狼狽える。しかし、黒ローブを被った男が近づいてきた。
「何を慌てているのですか?まだ軍もキル・ラヴァーナルも残っているではありませんか」
「貴様…古代兵器の強さを知らぬのではあるまいな?」
「確かにアレは強い。だが、あの魔法を使えばいいのではないか?」
黒ローブの男、メナスは軍王ミネートに向けて怪しげな光を放つのだった。
〜コラム〜
稲荷神が小動きしなかった理由。
本文にもあるように、この時点で日本国は魔法帝国について正しく認識しています。なので、魔法帝国が所持しているだろう空中戦艦の耐久テストの意味を込めて誘導弾を使用しました。
稲荷神は最強と言えど、所詮は1個人でしかなく、瞬間移動なども使えないので自衛隊の兵器がどの程度通じるのか判断するためだった。
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