ークルセイリース大聖王国"軍神の棟"最上部ー
この場にいる者たちは皆、悲痛な沈黙を漂わせていた。何故なら、神の魔法と呼ばれる"国家級敵国殲滅魔法"通称"メテオ"が日本国の魔法攻撃によって跡形もなく消滅してしまったからだ。
日本国がメテオを防ぐなど予想の範疇の彼方の事であり、奥の手であった。
奥の手が防がれてしまった以上、これ以上の反撃の芽はクルセイリース大聖王国にはない。それは軍王の落胆の様子が物語っていた。
だが、神通力に関しては未だに残っている。しかし、それを扱う大魔導士達は死亡してしまっているので"国家級敵国殲滅魔法"を使用することは出来ない。
飛空艦隊は残っているが、メテオすら防ぐ日本国艦隊が飛空艦隊程度に敗北するとは思えない。文字通りの詰みであった。
今後について軍王の指示を皆が待っている時だった。不意に、激しい悪寒をこの場にいる者達、いや、クルセイリース大聖王国の民の皆が感じた。
それは、今まで感じたこともない悪寒。魂の底まで刺激するような激しい憎悪と邪気であった。
そんな邪気と共にクルセイリース大聖王国本土を地響きが襲った。それは、地震のように被害を国中に出す。
「落ち着け!落ち着いて何が起きているのか機器を使って確認しろ!」
軍王の言葉に魔導機器を操作する者達は迅速に反応する。そして、彼らは溢れ出ている筈の神通力が急激に減少し、代わりに魔力が溢れ出ているのを目撃する。その量は魔力探知機器が振り切れる程であった。
「何が起きているんだ!?」
皆が混乱していると、突如として笑い声が響いた。声の主はローブをとったメナスであった。メナスは黒目で顔半分に大きな黒い斑点がある。明らかに人外であった。
「貴様…何者だ?」
「おや?私は最初から最後までメナスですよ。私の本来の姿です」
そう言って彼は拍手する。
「いやはや実にめでたい。軍王ミネート。貴方は私が精神誘導をしていたとは言え、予想通りの愚行。感謝しますよ」
メナスは今までの話し方とはうって変わって見下した口調と話し方、雰囲気になり不気味だ。軍王は彼を睨むが意に介さない。
「実力主義を採用する貴国のシステムは素晴らしいが、国家中枢に入る者への身分確認程度では、防諜対策がなっていない。この程度造作もない」
軍王は近衛兵に顎で指示を出し、携帯式魔導銃(火縄銃の様な物)を構え、銃弾を放つ。だが、銃弾はメナスの手前で速度を急激に落として落下してしまった。
「私が何の対策もなく反乱を企てると思っているのかね?これだから人種は愚かなんだよ。しかし、日本国は違うね。この国と違ってメテオですら痕跡残さず破壊するんだから。あの国が危険だと言う私の判断は間違いではなかった。だが、クルセイリースも日本国も滅ぶ。その歴史的瞬間がこれから訪れるのだ!」
軍王はメナスの言葉の真偽が分からない。確かにクルセイリースは日本国の攻撃に晒される危険がある。しかし、日本国も滅ぶとはどういう事が理解できなかった。
「しょうがない。冥土の土産に教えてあげよう。私は君に幻惑魔法をかけ、思考誘導を施した。結果として圧倒的な力を持つ日本国に戦争を仕掛け、負けた。そして、神通力を使ってメテオを使わせたのだ。これで、私の目的は達成された。メテオは、今君達が感じている邪気を放つ邪神とも言える邪竜を封じ込める神通力によって発動された。つまり、神通力が少なくなった。神々の魔法によって封印された邪竜が復活する事が出来るようになったのだよ!」
「貴様が建国神話の化け物を解き放って何の得があるのだ!?」
「我が一族が世界を支配するには神の魔法が現存するクルセイリースは邪魔だった。異世界からやって来た日本国もこれ程までに強いとは思わなかったが、奴らも滅びるだろう。世界は滅び、古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国のコア魔法ですら邪神には通じん。我ら黒死族が、貴様らの呼び名で黒月族が世界を支配するのだ!」
メナスの演説じみた自慢に軍王ミネートはため息をついて言う。
「お前は馬鹿か、その様な化け物を復活させたら貴様らまで滅ぶではないか…」
「貴様…この私を馬鹿といったな!その言葉、そっくり貴様に返してやろう。私に思考誘導され、まんまと私の計画の駒となったのだ。それに、我が一族の精神に働きかける魔法があれば邪竜など封印できる。お前達は餌となり、魂諸共国と共に消滅するのだ。ああ、キル・ラヴァーナルは元々我々の兵器であるからして、後で回収させてもらうよ」
近衛兵は携帯式魔導銃の一斉射をするが、黒い霧に包まれたメナスは「さようなら」と言う言葉と共にいなくなり、黒い霧が晴れると、メナスの姿はなかった。
◆
ークルセイリース大聖王国聖都セイダーー
度重なる地響きと魂を破壊するかの様な凄まじい邪気に、聖都セイダー含めたクルセイリース大聖王国本土の民は上から下への大騒ぎだ。
そして、彼ら彼女らは東の山を見る。群衆達の視線が時間の進みと共に東の山に集中していく。
そこには、黒色の蠢く尻尾のよう何かが突き出ており、黒い霧を纏って稲妻が断続的に走っている。
尻尾の様な物は山よりも高く、標高450m程度の山に対して、目測でも標高1000mはある程だ。日本国への調査団に参加した者達はソレの正体が理解できた。
ガハラ神国と言う国が言っていた"
彼らは自国を変えようと必死に努力したが、変えられなかった。国と言う組織を変えるには権力が足りなかった。だが、そんな事を悔いている場合ではない。軍人であったシエドロンとアバドンは部下と共に避難誘導と戦力展開を開始する。
そして、そんな彼らを尻目に守るべき臣民を見捨てて聖母ニースや総務卿ワイデスは聖王子ヤリスラを伴って飛空艦で退避していくのだった。
◆
クルセイリース大聖王国の聖都セイダーの民は自国の力を信じてやまない。しかし、突如として現れた化け物に人々は恐慌状態に陥った。我先にと逃げ出す中、一つの集団が化け物へと向かっていく。
それは、クルセイリース大聖王国軍特殊部隊である狙撃部隊である。銃神ダルサイノが率いるこの部隊は最新式の魔導銃が与えられている。
というのも、彼らの銃は国内の名工が部品1つに至るまで特注の代物であり、高価だ。だが、その性能は一線を画しており、ライフリングなども施された結果、射程距離は長く、連射もある程度可能という恐るべき代物である。
また、特殊部隊というだけあり、練度は国内随一だ。そんな彼らは化け物である"
彼らが緊張をほぐす為に他愛もない会話をしている時だった、"
それだけで、地面は揺れ、地盤の弱い所は亀裂が走る程であった。鼓膜は無事だったが、割れても可笑しくない程の雄叫びを近くの木々や岩に掴まって耐える。
そして、封印が解けた事に歓喜したのか、雄叫びと共に
地響きが響き渡り、黒い姿が露わになる。そこには、1本だけだった尻尾は8つに。頭も8つに及ぶ大蛇がそこにはあった。その大きさを例えるのならばワイバーンと蟻であった。
「全部隊に告ぐ。こちらから手を出すな。巨大生物が敵対的ではない可能性もある。こちらから刺激するな!」
「はっ!」
銃神ダルサイノ率いる狙撃部隊は山に身を潜め、巨大生物を観察する。時間が過ぎる中、8つの頭の内の1つが高度を取る。
そして、目が赤く染まり、その光のレーザーの様に発射される。レーザーは聖都セイダーに命中し、命中箇所が大きく爆発する。それは、聖都を分断すると表現するべきだろう。
その爆発音と衝撃波は山に潜む狙撃部隊にも感じ取れる程であった。焼け焦げる嫌な匂いは離れた場所に位置する彼らにも感じ取れた。
「大蛇を敵と認定!攻撃許可をパト・イナリ分隊が求めています!」
「許可する!攻撃した個体の頭部を狙え!攻撃しない者達はよく相手を見て弱点を探れ!」
通常、狙撃で数十kmも高度も距離も離れた敵の頭部を狙い撃つなど不可能だ。しかし、ライフリングと各種魔法を組み合わせる事により、コストの重さに目を瞑れば軍事技術最先端の日本国の狙撃銃の射程よりも長い。
狙撃銃から放たれた銃弾は着弾補正のために曳光弾だった。放たれた銃弾はレーザー攻撃をした個体の頭部に命中する。しかし、戦艦大和の46cm三連装砲なら兎も角、狙撃銃から放たれる豆鉄砲では攻撃力など無いに等しい。
だが、1発の弾丸がレーザー攻撃をした個体の目に命中した。命中した個体はのた打ち回り、別の個体が光の弾道が来た方向の山を睨みつける。
睨みつけた首はレーザーを目から放ち、攻撃を加えたパト・イナリ分隊が陣取っていた山は貫通、爆発する。
山が崩れた事による煙と、爆発炎で山は完全に見えなくなり、パト・イナリ分隊の通信は途絶する。だが、彼らのお蔭で化け物の弱点を見つけた。
「奴の弱点は目だ!目を狙え!奴を光魔法で引き付け、その隙に目を狙う!曳光弾は使用するな!」
「意見具申します。初弾で目に当てるなど無謀です!」
「分かっている!しかし、聖都の民を守るためだ!今までの訓練の成果を見せるんだ!俺はお前達の力を信じてる」
「…了解!」
そう言って部下は魔信で各部隊と連絡を取り合い、誰が何処に当てるかの割り当てを指示する。なにせ標的は8つもある。先ほどの攻撃で1つの目を潰したので残り7つだが、無理難題である事には変わりない。
そんな無理難題に応える為、臣民を守る為に彼らは行動を開始する。始めに光魔法にて何の変哲もない光球を作り出す。
この光球自体には攻撃や防御の役割も担えない。単に大蛇の注意を向けるためだ。
大蛇は目の前の光球が何なのかを理解できず、光球をみつめる。つまり、狙撃部隊が銃口を向ける方角に目線を集中させた事を意味する。
「今だ!撃てぇ!」
発砲音と共に破裂音が響く。銃神ダルサイノ率いる狙撃部隊はその圧倒的な射撃技術と狙撃銃によって大蛇ー"
それもその筈、"
だが、レーザーを撃ち込んだ際に、その魔力保護された膜ごと破壊してしまうのだ。だが、回復するのに数分かかるのでレーザーを撃ち込んでいない個体は目を狙われても問題ないのだ。
だが、狙撃が効果的だった2つの首はのたうち回る。その影響で狙撃分隊の1つが山ごと消滅する。残るは銃神ダルサイノの分隊だけとなった。
山々を"
「総員銃弾を置いて撤退しろ。その後、聖都臣民の避難誘導を行え」
「何を言っているのですか!我々はまだ戦えます!それにあの化け物を倒すには人手が要ります!隊長1人だけでは…」
「わかっている!だが、これは命令だ!あの化け物を正確に射抜けるのは俺だけだ!殿は任せて早く下山しろ!」
部下達はダルサイノの意図が分かった。彼はここで戦死して、部下達に一人でも多くの命を助ける時間稼ぎをするつもりなのだ。そして、クルセイリース大聖王国軍の精鋭達と共に化け物を倒す為の戦力となれ。そう言外に述べていることに。
「…分かりました。ご武運を」
そう言って、部下達は下山する。それを見届けてダルサイノは自らの愛銃を手に取った。
◆
ダルサイノの愛銃は部下達の銃よりも高性能であり、間違いなくクルセイリース大聖王国において最高峰の銃だ。
名を"エターナルクルス"と言い、狙撃銃にしては破格の連射性能と、射程を誇る。更に、特殊な魔法によって5kmは
だが、如何に狙撃の名手と言えど、上下左右に暴れる2つの首の目に当てるのは容易ではない。銃弾は少なくなる。そして、狙撃手であるダルサイノは一つミスを犯した。
それは、狙撃した後に狙撃位置を変えなかったことだ。地球の常識として、狙撃手は目標を仕留めきれなかったら狙撃地点を変えなければ反撃される恐れがあるからだ。
だが、クルセイリース大聖王国の狙撃銃は数kmの有効射程があるので狙撃手にとって目標を仕留められなくとも問題なかったのだ。そもそも、"狙撃"と言う概念すら無い国が殆どだった。
故に、彼は動かなかったのだが、"
クルセイリース大聖王国の銃神ダルサイノはレーザーによって消滅した。
〜コラム〜
幻惑魔法
何かと原作で日本国否定派閥が述べる常套手段。パーパルディア皇国もよく言っていたのでは?つまり、この世界には幻惑魔法なる物が使えるかは兎も角として知識としてある。ならば、使える者達がいても可笑しくない。
今作では黒月族(黒死族)が使える設定であり、彼らが世界征服のために覇権国家である魔帝において幻惑魔法を駆使して内戦やら内政干渉を引き起こした。これに怒った魔帝はコア魔法で徹底的に黒月族(黒死族)を絶滅させようと躍起になったのである。
なお、ヤマタノオロチはゲゲゲの鬼太郎のヤトノカミを参考にしています。わからない人はググってね。日本国召喚のヤマタノオロチよりデカいから。たぶん。
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