楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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私はようやくのぼりはじめたばかりだからな
このはてしなく遠いハリポタ坂をよ…



打切。

三本の箒において私達、何時もの面々はバタービールで祝杯をあげていた。

ようやく辛く、長い試験が終わった翌日。

三年生以上のホグワーツ生はホグズミードにて久方ぶりの心休まる一時を得ていた。

ハリー達三人組(や行くことを禁じられたネビル)を除いて、という条件付きではあったのだが。

聞き耳を立てていたのだが朝食でのスリザリン生曰く、ルーピン先生は人狼であったらしい。

勿論私はそのことを明かしはしなかった。

私は誠実なので当然自らが結んだ契約を反古にしたりしない。その必要がなければ、ではあるのだが。

スネイプ先生がスリザリンで彼の正体を暴露し、ルーピン先生は今頃逃げ支度、もといホグワーツから旅立つ為の荷造りをしているのだろう。

詳細は未だ伝わってこないが、おそらく元々そうなるはずだったように、ハリーはシリウス・ブラックとついでにバックビークを救い出し、有体の守護霊を作り上げたはずである。

ちっ……ヒッポグリフ食い損ねた。レシピ見た限り、ストロガノフは結構美味しそうだったのに。

いや、ほら。私が生前読んだ異世界物だと、確かご当地グルメをいかに楽しむかが異世界を楽しむかのキモだったはずだ。

私がヒッポグリフを御馳走として見るのも間違ってはいないはずである。

 

というか

「あの、エロイーズ。止めませんか?」

今、目の前で展開されている場面の方が、そんな些細なことよりも遥かに大問題だった。

「試験が終わったでしょ。ならもう問題ないはずよ」

凛とした表情で、しかしニキビに塗れたおぞましい面で彼女はそう言った。

きっかけは、多分日々の試験勉強によるストレスのように思う。

彼女は吸魂鬼対策として所有していたチョコレートというチョコレートを、食事の間という間に食べるようになっていった。

否、食べ過ぎたのが問題だ。

チョコレート中毒は、いや刺激物だけでなく余計に摂った糖分も問題だったのだろうが、それは彼女の顔面を、より見るに堪えない物にする副次効果をもたらしたのである。

おかげで私達何時もの面々以外は、同じハッフルパフ生であろうと寄り付かないようになり、スリザリンの性質の悪い連中からはあからさまに笑われるなどで更にストレスをため込むという悪循環に陥っていた。

そんな彼女は、事態を解決するための手段を思いついた。

呪いで顔のニキビを吹き飛ばすという手段である。

いや、お前何でそんな手を使おうと思ったとか、何処かの司令官の「私にいい考えがある」という名言と同じ嫌な予感しかしないので止すようには忠告はした。

 

「駄目よ。もう決めたことだから」

 

ああ、何でそんな変な方向に思い切りが良いのだろう。

やっちゃいけないことだと何故か確信できていたものの、結局彼女に翻意を促すことはできなかった。

 

「大丈夫だろう? そう、今よりも酷くなることは無いはずだ」

「そうそう。やっちゃいなさいよ」

 

アーニー、スーザン。バタービールを飲んだ勢いで言わないで欲しい。後、アーニーの台詞は何かのフラグのようにしか思えない。

何故だろう、震えが止まらないのだけれど。

 

「行くわよ!」

 

 

そして自爆テロならぬ、自爆グロを引き起こしてしまった。

彼女の呪いは力加減を間違えたからか、爆破と言って良い威力だったからだ。

 

「バタービールにエロイーズの鼻が!」

「ちょっとニキビの膿が、私のパンケーキに掛かっているじゃない。このパンケーキ、もう要らない!」

 

辺り一面大惨事で、それよりも第大惨事だったのがエロイーズの顔だった。

 

「うわあああああ!」

「エロイーズ……鼻が」

 

きつい臭いが周囲に満ちていたわけでも無いのに、彼女の鼻はもげてしまっていた。物理的に。

思わず目撃してしまった何人かが口元を抑えていた。

それから周りに漏れた血の匂いに、顔を顰めている人たちも何人か確認できる。

魔法薬の材料などで慣れているからだろうか、口元を抑えていても実際に吐き出した者はいなかった。

あまりにも酷い光景だが、エロイーズの顔の状態の方がより深刻だ。

皆が動けない中、私は持っていたハンカチで、エロイーズの鼻があった場所から勢いよく出ている血を押さえた。

 

「マダム・ポンフリーの所に行きましょう。急いでください!」

 

顔の鼻とその周辺を少しばかり吹き飛ばしてしまって放心中だった彼女に肩を貸し、私はエロイーズに促した。

ある程度技を知ってはいるものの、学生の身で治療行為は行えない。

バタービール漬けになっていた鼻の方はジャスティンが直接触らないようにしながら、持ってきてくれることになった。

スーザンは私とエロイーズと共に学校に戻ることになり、アーニーとハンナは周りに謝っていた。

ふと思う。

それにしても最初からいなかったザカリアスは、しかし私達が大変なこんな時に一体何をしているのだろう?

 

 

彼にはあからさまに距離を置かれていた。

最後の闇の魔術に対する防衛術の試験の終わりから何故だか様子がおかしかったのだ。

ジャスティンを睨んだり、後私の事を何か変な目付きで見てきたり。

それはルーピン先生があまりにも遅いから、ボガートが入ったトランクの中のザカリアスを連れて出て来た時から始まっていたのだが……。

うん。笑える姿として出したウェディングドレス姿の奴を出したのがまずかったのだろう。

最初は同じ姿のハグリッドを出すはずだったのだが、何かこう気が付いていたら彼を思い浮かべてしまったのだ。

おまけにそれは母親が出てきてからほぼ一瞬で想像できてしまったからか、別の物を思い浮かべて変化させるという手段が取れなくて。

故に後で何か困ったような顔でルーピン先生がこっちを見て来たとしても、正直無理が無いことなのだろうと思う。

もしも同じ試験を受ける機会があったら、次はメイド服姿で、なおかつ筋トレしながらカレー作っているマッチョのボガートに変えておこう。

きっと笑えるはずだから。

変化と言えば、試験以後、私なりに「あのごめんなさい、ザカリアス」と話しかけても避けられることが多くなってしまっていた。

一度だけ彼の方から、この夏にイギリスで行われるというクィディッチワールドカップに誘われたが、あんな危険な場所に行くわけにも行かないので丁重に断ったら、何だかこの世の終わりみたいな顔をしていたのだが何故なのだろう?

この年頃の男の子って良く分からない。

 

そんなことを考えながら、それでも何とかマダム・ポンフリーの下に辿り着けた。

治療の魔法を彼女に掛けて貰っているエロイーズを見ながら、私たちは再び息を吐けていたのだが

 

「何だかもうホグズミードに戻るという気分でもなくなってしまいましたね」

「そうね。まあ、エロイーズが無事そうで良かったけど。それにしてもティアは良くあの時咄嗟に動けたわね。私なんか気持ち悪くなっちゃったのに」

 

ああ、前世のおかげでグロは平気なのだ。

何が言いたいかと言うと、テオその本名をシリウス・ブラックと言うワンちゃんと話していたのは私だったのだから。

 

 

ウティスなんて恥ずかしい名前の人は知らないっ!

などということはなく、私だ。

彼に話した昔好きだった人とは、前世で私が好きだった人であり、私が語った内容通りの人だった。

そして怒らせたら、かつての私の仲間達基準でもまずい人物でもあったのだ。

心の底から謝れば大抵のことは許してくれたものの、謝らないで彼を侮った場合は……。

ぶっ飛んでいる仲間たちの中でも人を壊すこと、それを振るう際の躊躇いの無さ、それから犠牲者を出すことの速さは一番だったから。

彼を怒らせた場合、本当に命の心配をしなければならなかった。

まあ、そのおかげでどんなホラーや残酷描写も陳腐に思えるようにはなったのだが。

想像を超えたリアルには敵わなかったよ、という奴である。

もしも彼が暴走した場合の被害は想像したくない、割と真剣に。

 

と、そこまで彼の事を思い出していたらようやく治療が終わったようだ。

……エロイーズの鼻は曲がっていた。

 

「私、こんな」

望んだよりも酷い事態になってしまった結果に、涙ぐんだ彼女をしかし、スーザンやジャスティンは必死に慰めだした。

 

「あの、少なくともニキビは無くなったじゃない!」

「そうですよ。もう、悩まされることは無くなったじゃないですか!」

 

彼女に対する戒めとしてあえてそのように治療したのか、あるいはマダム・ポンフリーですら手の施しようがなかったのかは分からない。

ただ、言われて慰めになっていなかったのか泣き出した彼女に対し、私は何も言えなかった。

そう言えば来年度に除草ババァ……じゃなかったスプラウト先生の授業にニキビを取る物が無かったっけ、と不意に思い出したからである。

うろ覚えなのだが、確か名前をユーチューバーだかそんな感じだったはずだ。

覚えてさえいれば、こんなことが起こることを防げたのだろうか。

かりに防げたとしても、彼女はそれを防ぐことよりも、呪いを試すことを結局は優先したのではないだろうか。

割り切れないそんなことと共に、苦い想いも、それ以外に一つ沸き上がった。

 

 

レイブンクローの首飾りの解呪は成功し、外付けの学習装置や新しいインスピレーションを与えてくれるものとしての役割は充分に果たせている。

ただし、私の期待値よりは少し、下だった。

世界を渡る為の魔法を瞬時に思い付けたりはしなかったし、解決方法を示す直接の手がかりも中に封じられた知識の中にはありはしなかったのだ。

ロウェナ・レイブンクローについての本も幾つか読んだ通り、彼女もそのことについて求めることさえしなかったのが大きいのだろうか。

世の中期待通りにいかない物である。

私が作り出した「服従の首輪」についてもそうだ。

シリウス・ブラック、いやテオに嵌めたそれは、本当ならもっと小鳥を使った実験を重ねた後に、本命たる彼に使用するはずだったのだ。

だと言うのに、当初の予定よりも彼と接触してしまったからこそついせっかちに進めてしまった。

最大の問題はそれだった。

そもそも当初の予定では、私の開発したそれはある程度放っておいても大丈夫なはずだったのである。

一度命令を組み込めば、使用した対象の安全を確保しつつ、しかし自立した思考で命令を確実に実行、また遠隔距離での私の指令の遂行をも果たす物であった。

しかし、現実にできたのはまるで違った。

直接顔を合わせねば命令できず、またそれもインペリオによる支配状態には近いものの、嵌めた相手の自立思考ではなく直接命令タイプ、要するに柔軟性に思いっきり欠ける代物だったのだ。

そもそも何でそんな物をわざわざ、ハリー達三人組から反感を買いそうな相手に仕掛けたのか?

今後の私の主目的に役立つ「わんわんお」になってもらう為である。

ちなみに知らない人の為に言うとわんわんおと言うのは「○○に忠実な存在」に対する別称だ。

この場合具体的には、私(が再び転生すること)に対してである。

同じ魔法界の日陰者同士仲良くなれるという見込みはあったものの、より確実性や私に対する有用性を彼に持たせるためにはこちらが主導権を握れる条件が不可欠。

だからこそ、あえて三人組(特にハリー)から問い詰められるリスクを冒してでも、こちらが確実に上位に立てる手段(すなわちわんわんおになってもらうこと)が必要だったのだ。

例えば私が入手できない資料やアイテムに対しても「動物擬き」である彼ならば、よりわんわんおとして役に立てるかもしれない。

それに現時点で私が思い付いていないことでも、人手が一人でも多くあればその時点で獲れる選択肢は違う。

何しろこちらは魔法界で言うところの「におい」がある身だ。

成人に達している魔法使いのわんわんおが一人味方に付いているだけで、どれほど心強いことか。

そう思って、彼に首輪を嵌めたのが、とんだ失敗だったというわけだ。

何故ならば離れられた場合、これから顔を合わせる機会は激減するだろうし。

まあ、万が一の場合に備えて、私が作ったことは材料からはばれない様になってはいる。

懸念事項を減らすために、首輪それ自体にも仕掛けはある。

勿論、この首輪は呪われて外せない! というものではない。

シリウスに仕掛けるにあたってそんな悪質な物を仕掛けるはずが無いだろう!

 

 

 

 

 

 

まあ、無理に外そうとしたり、壊そうとしたりすると人一人死ぬ威力の爆発が起きることにはなっているのだが。

 

 

 

 

 

私自身の為に、確実な証拠隠滅の為に仕掛けたそれに、誰がどう反応するかを知ることは、試験の翌日たる今日では流石に知ることは不可能だった。

だからこそこれからの情報収集が物を言うことになる。

要するに何時もの話だった。

 

 

試験休み、エロイーズの愚痴を聞き流す作業、夏休みに手紙を交わす約束。

それらの時間を過ごし、あっという間に汽車に乗る日になってしまった。

 

「久しぶりね。ティア」

「ええ、お久しぶりです。ハーマイオニー」

 

そんな日に、私は彼女と二人きりで会っていた。

語る時間は無かったが試験終了から、この日まで色々なことがあった。

ドラコ・マルフォイから手紙があったし、驚くべきことであるし、どういう理由かは知らないがルーピン先生からも手紙が届いたのである。

前者はザカリアスからと同じ内容であった。

このイギリスで開催されるクィディッチワールドカップに、観客として参加しないかというお誘いである。

何でも私の叔父に当たる人物(ドラコ・マルフォイの父親の事だ)が多少私と言う存在に興味があるが故、だそうだ。

 

すいません、マジ勘弁してください。というメッセージをオブラートに包ませてもらう形にはなったが、仕方がない。

 

死喰い人や、かつてヴォルデモートに一番忠実だった部下までもが出席するところに、私が赴いたとしても酷いことになることしか想像できない。

この魔法界において潔白だったということになっている彼らの家と違って、私は最右翼なのである。

可能な限り存在を知られないようにする方が、私自身の身の為なのだから。

 

 

まあ、そんなことより本当に久しぶりに会話することになった私たち二人の話である。

試験終了後に彼らから詳細は聞いていなかった。

それに私の方でも彼らの事を避けていたのだ。

何か面白い話の一つ、あるいは何か特別な変化が聞けるだろうか?

 

そんなことを思う私に対して、彼女は色々なことを教えてくれた。

シリウスが無罪だったこと、自分が「逆転時計」なるアイテムを使用していたこと、バックビークもハリーの名付け親も無事なこと。

そしてルーピン先生が人狼だったこと、などである。

ハーマイオニーが彼女の知っていることを教えてくれている間、私はずっと「開心術」を使用していた。

情報に漏れがないか、偽りが無いか、あるいは私に対する疑念がないかを知る為に。

こと学習能力などに関しては、レイブンクローの首飾り無しの私と彼女とでは、彼女に軍配が上がる。

だが騙し合いや狡さならば、私の方が上だ。

それは多分性格的なことであり、経験的なことでもある。

後ろめたさがあるかと言えば、当然あった。

しかし、必要とあらばやるだけだ。

私を信頼してくれている彼女に対しても、世間話よりも詳しい情報交換を終えた後で、そんな様子は一切見せなかった。

 

「それにしても残念ね。ようやくまともな闇の魔術に対する防衛術の先生に会えたのに」

それに対する私の偽りない本音は、ただ一つだ。

「全くです。ロックハート先生と同じくらい、私には好きになれそうな先生でしたから」

それは勿論、禁書閲覧券発行的な意味合いではあったのだが。

全て問題ないな、と判断して話し終えた後で別れ、背を向けて彼女から眼を合わせなくなってからの、彼女の思考までは、私には分かりようがなかったのである。

 

何時もの面々から一名を除いたコンパートメントに、私は辿り着き、そして何時もの招かれざる客に相対していた。

ザカリアスである。

 

確か一年目は

「悪いな、このコンパートメントは六人用なんだ」

という感じの言葉で追い出した。

二年目は

「お前の席ねぇから」

という感じだったはず。

三年目の今年はより趣向を凝らして……

 

そう言えばルーピン先生が、わざわざ手紙でザカリアスには優しくするように言っていたことを不意に私は思い出した。

 

だから私は—―

 

「目障りだから消え失せろ」

 

という言葉をローマ法王のような慈悲深い表情で、分かりやすいように、懇切丁寧な口調で、今年も私達六人に合流したがっているザカリアスに言ってやった。

 

ザカリアスは何処ともなく、走り出した。

 

止まるんじゃねぇぞ。

その先に私はいないけど。

 

そんなことを思いながらコンパートメントの扉を閉めると、ハンナとアーニーは「oh……」みたいな感じで天を仰いでいたり、両目を右手で抑えていたりした。

 

「どうかしましたか?」

 

 

「何でもないのよ」

「ええ、何でもないわ」

 

何時も通りのスーザンや、大分マシな顔になってきたエロイーズに言われ、私は席に腰を下ろした。

やがて汽車は動き出す。

来年以降はどうやって新しい情報を手に手に入れようか、あるいはもう「戻る」ことは不可能なのではないかという思考で頭が一杯になってしまった私だが、窓から外の景色を見ながらふと思った。

 

来年も、楽しく平和な一年になれば良いな、ということを。

 

 

 

 

ただ、後から思えばこの年度が一番平和だった。

平和な時代の、打ち切りの話。

 




もうちょっとだけ続くんじゃ。

以下、次章予告(台詞のみ)

「そんな……ザカリアスがこんなことになるなんて!」

「構わんができれば儂の居ない時にしてくれんかのう」

「たぬきシリーズ、完成していたの!?」

「食べるのを止めなさい」

「この俺様のものとなれ! ユースティティアよ!」「断る!」

「君ならやる。そう信じている」

「もう、無理ばかりしちゃって」

「……エロイーズは良い奴だったよ」

「さあ、ほら。あーん」


……何個か嘘台詞が混じっています。未だ一文字も書いていないけどカミングスーン。
※来年になります。




と言いつつ、できたら突発的に上げるかもしれませんが。

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