三日間にわたって続いた城南大学の学園祭も、いよいよ最終日の昼下がりを迎えていた。あれほどキャンパスを埋め尽くしていた熱狂の奔流は、祭りの終わりを惜しむかのように最後の輝きを放ち、しかしその勢いはどこか穏やかなものへと変わりつつあった。
「ふぅ……なんだか、あっという間でしたね」
僕の隣で、エリが満足げな、そして少しだけ名残惜しそうな息を吐いた。
僕たちはメインストリートの喧騒から少し離れた、文学部の校舎裏にある中庭のベンチに腰を下ろしていた。ここは学内の隠れた名所のような場所で、大きな楠木が作る木陰と手入れの行き届いた小さな花壇が静かな時間を演出している。祭りの中心地から離れているせいか、僕たちの他にはほとんど人影はなかった。
この三日間、僕はほとんどエリ専属のエスコート役を務めていた。彼女の尽きることのない好奇心に引きずられるように、研究室の展示から各種サークルの出し物、果てはプロレス同好会の野外試合まで、ありとあらゆる場所を巡った。僕の隣でエリは目を輝かせ、驚き、そして笑い続けた。その表情の一つ一つが、僕の脳裏に焼き付いている。
「楽しかったかい?」
「はい。ユウ君がずっと一緒にいてくれたので、百倍楽しかったです」
彼女は、何のてらいもなくそう言って微笑んだ。この数日間の僕のエスコートには、どうやら満足してくれたようだ。ホストとして役割を全うできたらしき事に、僕は胸をなでおろす。
僕たちの目の前のベンチの上には、最後の昼餐として屋台で買い込んできたホットスナックたちが湯気を立てている。健太達の店で買ったタコライス、美咲さんのところで半ば無理やり買わされた忍者やきそばパンがいくつか、それに、ケバブとチュロス。統一感のかけらもないラインナップだが、これもまた学園祭の醍醐味だろう。
「でも、やけにこの辺りは人が少ないですね」
エリが、ケバブを頬張りながら不思議そうに周囲を見回した。確かに、メインストリートの喧騒が嘘のように、ここは静かだった。
「ああ、たぶん、みんな講堂の周りに集まってるんじゃないかな。今日のメインステージのゲスト、今、一番人気のアイドルグループを呼んだらしいかよ。確か……シャインだのシャイニングだの、キラキラした名前の」
「アイドル、ですか」
エリは、その単語をまるで初めて聞くかのように口の中で転がした。
「ユウ君は、そういうものにも詳しかったんですね。少し意外です」
「まさか」と僕は苦笑した。「健太だよ、健太。奴が熱狂的なアイドル好きでね。いつだったか、業界の流行り廃りからジャンルの魅力、最近話題のグループの事まで、覚えちゃうくらい延々とプレゼンを聞かされたんだよ。まあ、結構興味深くて楽しい話だったかな」
僕がそう言って肩をすくめると、エリは「ふふっ」と楽しそうに笑った。そして、いつものように、僕の何気ない一言から、壮大な知の冒険の扉を開いた。
「でも、考えてみれば不思議ですね」
彼女は、遠くから微かに聞こえてくる音楽の響きに耳を澄ませながら言った。
「人間は、なぜ、歌ったり踊ったりするのでしょう? それは、生きるために直接必要な行為ではありませんよね。食事をしたり、睡眠をとったりするのとは明らかに違う。それなのに、古代の洞窟壁画の時代から現代のアイドルのコンサートに至るまで、人類は、この一見すると無意味にも思える行為を、決してやめようとはしなかった。この、歌と踊りという文化の根源には、一体、どんな謎が隠されているんでしょうか?」
始まった。僕たちの穏やかな昼食は、今、人類の最も根源的で普遍的な表現活動の歴史を巡る、壮大な旅の始まりを告げていた。
僕は、チュロスを片手に、少しだけ思考を巡らせた。
「歌と踊りの起源、か。それは、人間の言語能力そのものの起源と、深く関わっているのかもしれないね」
僕は、生物学的な視点から話を切り出した。
「例えば、多くの鳥類は複雑な『さえずり』を使って、縄張りを主張したり、異性に求愛したりする。あるいは、クジャクが美しい羽を広げて舞うように、多くの動物がリズミカルな身体の動き、つまり一種の『ダンス』を求愛のディスプレイとして利用している。もしかしたら、僕らの祖先にとっての歌や踊りも、最初は言葉だけでは伝えきれない強い感情、特に、愛や喜び、あるいは威嚇といった情動を表現し、仲間と共有するための、最も原始的で強力なコミュニケーションツールだったんじゃないだろうか」
「なるほど。生物学的な本能に根ざした、コミュニケーションとしての歌と踊り、ですか」
エリは僕の意見に深く頷いた。僕の生物学的な視点からのアプローチに、彼女の知的好奇心はますます刺激されたようだった。
「確かに、人間は言葉を獲得する遥か以前から、感情を共有し集団の結束を強めるために、歌や踊りという非言語的な手段を用いてきたのでしょう。それは古代の狩猟採集社会において、生存のために不可欠なものであったはずです」
彼女はそう言って、遠くから微かに聞こえてくるアイドルグループの音楽に耳を傾けた。
「例えば、原始的な部族社会における『儀式』や『祭祀』。人々は火を囲んで同じ歌を歌い、同じリズムで身体を揺らすことで個人の境界線を溶かし、集団全体としての一体感を高めていったのではないでしょうか。それは、共同体としてのアイデンティティを再確認し、自然の恵みや祖先の霊に感謝し、あるいは狩猟や戦いの成功を祈願するための、最も神聖で、そして強力な手段だったはずです」
「集団の結束を強める、か。フランスの社会学者デュルケームが提唱した『
僕は、社会学の講義で聞きかじった知識を披露した。
「人々が一体となってある儀式に参加することで普段は感じられないような高揚感や連帯感が生まれ、それが共同体の紐帯を強くするという話だ。歌と踊りは、まさにその集合的沸騰を引き起こすための最も効果的な装置だったと言えるね」
「その通りです、ユウ君」とエリは僕の言葉を嬉しそうに拾い上げた。「それは個人の意識を超えた、集団としての『意識』が生まれる瞬間です。歌声や手拍子、足踏みといった同調的な行動は、人々の感情を共振させ、まるで一つの巨大な生命体になったかのような一体感をもたらす。現代のコンサート会場で、何万人もの観客が同じ歌を歌い、同じ振り付けで身体を揺らす光景も、その古代の儀式と本質的には何ら変わらないのかもしれません。場所と形式は違えど、人間の心の中に根ざした『一体感を求める』という根源的な欲求が形を変えて現れているだけなのです」
彼女の言葉に僕はケバブを頬張る手を止め、遠くの講堂から聞こえてくる歓声に耳を澄ませた。確かに、あのアイドルのコンサートに集まっている人々もそれぞれの悩みや孤独を抱えているだろう。だが、あの瞬間だけは彼らは同じ歌を歌い、同じリズムで踊ることで一つの大きな『私たち』になっている。それは彼らにとって、日々の現実から解放される一種の『祝祭』なんだろう。
「それは、狩猟や戦いの前にも行われたはずです」とエリは続けた。「部族の戦士たちは威嚇的な歌を歌い、激しい踊りを舞うことで自分たちの士気を高め、敵を怯えさせた。あるいは、異性に求愛するための『舞踏』も、その身体能力や芸術性を示すことでより良い遺伝子を持つパートナーを選ぶための一種の『試練』だったのかもしれません。歌と踊りは、個人と集団、そして生と死、愛と憎しみといった、人間の最も根源的な営みと深く結びついていたのです」
「なるほどなぁ。歌と踊りは、言葉だけでは伝えきれない、もっと深い情報伝達の手段だったということだね」
「はい。そして、その『情報伝達』の質を高めるために、人類は歌と踊りに様々な『様式』や『技術』を加えていったのではないでしょうか」
エリのその言葉は、僕たちの議論の焦点を生物学的な起源から文化的な発展へと移行させるものだった。
「例えば、音楽における『音階』や『リズム』の体系化。あるいは、舞踊における『型』や『振り付け』の洗練。これらは、単なる身体表現をより高度で複雑な芸術形式へと昇華させていった。それは単なる感情の表出に留まらず、より洗練された美的体験を共有するための人類の知的な営みでもあったはずです」
僕は、空になったケバブの包み紙を丸めて、チュロスを一口かじった。甘くて香ばしいシナモンの匂いが遠くの音楽と混じり合う。
「つまり歌と踊りは、単なる本能的な行動から、徐々に文化的な『技術』へと発展していった、ということだね」
「ええ。そして、その技術の発展は社会の複雑化と密接に連動していました」とエリは言った。「例えば、古代ギリシャの『演劇』。ディオニュソス神への祭祀から生まれたそれは、歌と踊りと物語が一体となった総合芸術でした。人々に倫理や道徳を教え、社会のあり方を問い直すための重要な公共の場でもあった。あるいは、中世ヨーロッパの『聖歌』。グレゴリオ聖歌のような単旋律の歌声は、神への信仰心を高め、人々の心を一つにまとめるための、強力なツールでした」
「なるほど。歌と踊りは、宗教や倫理、あるいは社会秩序を維持するための重要な装置でもあったんだね」
「その通りです。そして、その表現形式も時代や文化によって驚くほど多様化していきました。インドの複雑な古典舞踊、アフリカのポリリズムを特徴とするドラム音楽、日本の雅楽や能、歌舞伎。それぞれの文化圏で歌と踊りは独自の進化を遂げ、その社会の歴史や世界観を映し出す鏡となっていったのです」
エリの語る歌と踊りの歴史は、まるで世界中の美術館や劇場を巡る壮大な知的旅行のようだった。僕は、僕らが今いるこの日本の学園祭というささやかな舞台のすぐ隣に、遥か昔から脈々と受け継がれてきた人類の普遍的な表現活動の巨大な歴史のうねりを感じていた。
「そして、その歌と踊りの文化は」とエリは、さらに話を現代へと引き戻した。「近代に入り、また新たな変革の波を迎えることになります。それは、メディアとテクノロジーの進化です」
「メディアとテクノロジーの進化、か。僕の専門分野に近づいてきたね」
僕は、残っていたチュロスをエリに差し出しながら言った。彼女は「ありがとうございます」と微笑んでそれを受け取り、小さな口でかじった。
「印刷技術の登場で楽譜が安価に大量生産されるようになり、それまで一部の専門家や貴族のものであった音楽が広く市民階級にも普及した。あるいは19世紀末の蓄音機の発明。これは音楽の歴史における革命だった」
僕は、まるで自分の手柄であるかのようにその技術的なインパクトを語り始めた。
「それまで音楽というのは、演奏されるその場限りの、一度きりの体験だった。同じ演奏は二度と聴くことができなかった。でも、蓄音機はその『時間』と『場所』の制約から音楽を解放したんだ。好きな時に、好きな場所で、世界最高峰の演奏家の音楽を繰り返し聴くことができるようになった。音楽は儀式や社交の場から切り離され、個人のプライベートな空間で楽しむ『消費物』へとその性格を変えていったんだよ」
「なるほど。音楽の『複製技術時代』の到来ですね」
エリは、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの言葉を引用して、僕の説明を補足した。
「複製技術は芸術作品から『アウラ』、つまりその場限りの一回性や権威性を奪い去る一方で、それを大衆が享受できるものへと変えた。それは、音楽の民主化とも言える大きな変化でしたね」
「その通り。そして20世紀に入ると、ラジオ、映画、そしてテレビといったマスメディアの登場がその流れをさらに加速させた」と僕は続けた。「特に、テレビの普及は『見る』音楽の文化を爆発的に広めた。それまでは音楽は主に『聴く』ものだったけど、テレビは歌手の表情や衣装、そして何より『踊り』をお茶の間の何百万人もの人々に同時に届けたんだ。エルヴィス・プレスリーの腰の動きに若者が熱狂し、ビートルズがテレビ番組に登場すれば国中が大騒ぎになる。スターの歌と踊りは、マスメディアという巨大な増幅装置を通して、大衆の欲望を掻き立てる巨大な文化産業へと変貌していったんだ」
「そして、その流れの最先端にいるのが、今、講堂で歌い踊っている『アイドル』という存在なのかもしれませんね」
エリは、遠くの歓声を聞きながら静かに呟いた。
「彼女たちの歌と踊りは、CDやDVD、そしてインターネットを通じて国境を越えて瞬時に世界中に拡散されていきます。ファンたちはその映像を繰り返し見て振り付けを覚え、SNSでその魅力を語り合い、国や文化の壁を越えて巨大なファンコミュニティを形成する。それは、かつての部族社会が火を囲んで踊ることで一体感を得ていたのと本質的に同じ構造なのかもしれません。ただ、その『共同体』が、テクノロジーによってグローバルな規模にまで拡張されているだけで」
「すごいな、エリ。健太のプレゼンよりずっと分かりやすいよ」
「ユウ君が分かりやすく説明してくれたからです」
彼女はそう言って微笑んだ。僕たちの会話は、いつものように互いの知識を補い合い、一つの大きな知のタペストリーを織り上げていくような心地よさがあった。
「でも、そのテクノロジーの進化は良いことばかりをもたらしたわけではないですよね」
エリは、少しだけ真剣な表情でその光がもたらした影の部分へと目を向けた。
「音楽があまりにも簡単に、そして大量に消費されるようになった結果、その一つ一つの価値が希薄化してしまったという側面はありませんか? サブスクリプションサービスを開けば何千万という曲にアクセスできる。それは素晴らしいことですが、その膨大な情報の奔流の中で、私たちは、かつての人々が一つの曲に込めていたような深い思いや、それを聴くことの『ありがたみ』のようなものをどこかに置き忘れてきてしまったのかもしれません」
彼女のその指摘は的を射ていた。僕も、スマートフォン経由で何千曲という音楽を楽しんだが、その全てをじっくりと聴き込んだ経験があるかと言われれば自信がない。多くは、ただのBGMとして日常の中で消費されていくだけだ。
「そして、もう一つ」とエリは続けた。「歌と踊りがあまりにも巨大な産業になってしまった結果、そこには、常に『商業主義』の論理がつきまとうようになりました。人々の心を動かす純粋な芸術表現としてではなく、いかにして多くのCDを売り、多くの観客を動員するかというマーケティングの対象として音楽が作られていく。その中で、本当に個性的で実験的な表現が生まれにくくなっているという批判もあります」
「それはどんな芸術分野でも起こりうることだね」と僕は頷いた。「大衆に受け入れられる分かりやすさと、芸術としての革新性のバランス。それは、いつの時代も作り手たちが抱える永遠のジレンマなんだろう」
僕たちはしばらくの間、言葉を失った。
古代の神聖な儀式から始まった歌と踊りは、テクノロジーと資本主義の波に乗り、今や世界中を覆い尽くす巨大なエンターテイメント産業となった。その進化の果てに、僕たちは一体何を得て、何を失ったのだろうか。
遠くから聞こえてくるアイドルの歌声が、その答えのない問いを秋の澄んだ空へと運び去っていくようだった。
「……なんだか、少し難しい話になってしまったね」
僕は、重くなった空気を変えようとわざと明るい声を出した。そして、最後のデザートとして残しておいた忍者やきそばパンの一つを手に取った。
「でも、結局のところ」と僕は、そのB級グルメの塊にかぶりつきながら続けた。「理屈はどうあれ、僕らはやっぱり歌ったり踊ったりするのが好きなんだろうね。理屈じゃないんだ。誰かが楽しそうに歌っていればつられて口ずさみたくなるし、リズミカルな音楽が流れれば自然と身体が動き出してしまう。それは、僕らの身体に深く刻み込まれた、抗いようのない本能のようなものなのかもしれない」
僕のその、あまりにも単純明快な結論に、エリは一瞬きょとんとした顔をして、そしてすぐに花が綻ぶようにふわりと微笑んだ。
「……そうですね。ユウ君の言う通りかもしれません」
彼女は、僕が差し出したやきそばパンのもう半分を受け取りながら静かに頷いた。
「どんなに複雑な理論や歴史を知ったとしても、最終的にわたしたちの心を動かすのは、もっとシンプルで、直接的な感情の響き合いなのかもしれません。目の前で誰かが、ただひたむきに、全身全霊で歌い踊っている。その姿に私たちは心を打たれ、勇気づけられ、明日を生きるための小さな活力を貰う。それ以上の理由なんて、本当は必要ないのかもしれませんね」
彼女のその言葉は、僕たちの長大な議論をとても温かく、そして優しい場所へと着地させてくれた。そうだ。難しく考える必要なんてないんだ。あのステージで歌い踊っているアイドルたちも、きっと、ただ誰かに元気になってほしい、笑顔になってほしい、という純粋な想いでパフォーマンスをしているのだろう。そして、それを受け取った観客たちが歓声という名のエネルギーを返す。その幸福な感情のキャッチボールこそが、歌と踊りの本質なのかもしれない。
「それは、まるで『応援歌』ですね」
エリは、遠くのステージを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「神々への賛歌として始まった歌と踊りが、巡り巡って、今、目の前にいる『君』を応援するための歌になっている。だとしたら、それはとても素敵な進化の形だとわたしは思います」
彼女はそう言うと僕の方に向き直り、悪戯っぽく微笑んだ。
「ちなみに、わたしにとっての最高の応援歌は、ユウ君がキッチンで料理をしながら、時々小さな声でハミングしている、あの鼻歌です」
「……え? 僕、そんな事してる?」
「はい。いつも、とても楽しそうに。それを聞いていると、わたしもなんだかとても幸せな気持ちになるんです。世界で一番贅沢なコンサートです」
彼女の不意打ちの言葉に、僕は自分の顔が少しだけ熱くなるのを感じた。僕の無意識の行動を、この聡明な友人はしっかりと観察していたらしい。
「うーん、全然記憶にないな……何の曲だろう?」
「とても楽し気なメロディーですよ。次の機会があれば、録音しておきましょうか?」
「いやぁ……流石にそれは恥ずかしからやめておいてね」
エリの事だ。下手に許可を出せば僕の鼻歌でオリジナルアルバムが作られかねない。僕は慌ててエリにストップをかけた。
学園祭の喧騒が、まるで遠い昔の出来事のように感じられる。僕たちの周りには、ただ、穏やかで、満ち足りた時間が流れていた。
三日間にわたる祝祭は、もう間も無くその幕を閉じるだろう。だが、僕たちの日常という名の、ささやかで、しかし発見に満ちた冒険は、これからも続いていく。
僕は、食べ終えたゴミを一つの袋にまとめながら、静かに立ち上がった。
「さて、そろそろ帰ろうか。祭りの後片付けが始まる前に」
僕がそう言って手を差し出すと、エリは「はい」と、満面の笑みでその手を取った。
繋いだ手の温もりが、どんな音楽よりも雄弁に僕たちの間の確かな絆を伝えてくれているようだった。僕たちの少しだけ知的で、そして限りなく穏やかな学園祭は、こうして静かにその終わりを迎えようとしていた。