エリが僕のプロポーズによって気絶するという、僕の計算を遥かに超えた現象が発生してから数時間後。場所は変わって、春休みに入り閑散とした大学のカフェスペース。その一角で、僕は生まれて初めて、床に正座させられるという屈辱を味わっていた。
僕の目の前には仁王立ちで腕を組むエリの姿がある。その表情は普段の理知的で穏やかな彼女とは似ても似つかない。目は据わり、口は真一文字に結ばれ、その全身からは「絶対に許さない」という静かだが、極めて強力な意志のオーラが放たれていた。ジト目という表現がこれほど似合う彼女を僕は知らない。
そして、僕たちのその異様な光景を、少し離れたテーブル席から三対の目が、好奇心と困惑が入り混じった、まるで珍しい動物でも観察するかのような眼差しで眺めていた。健太、美咲さん、そして雪城さんまでいる。
「……それで、阿佐ヶ谷先輩。今日のこの緊急招集の要件は一体何なのでしょうか」
最初に沈黙を破ったのは、紙コップの紅茶を優雅に啜りながら冷静に状況を分析しようと試みた雪城さんだった。
「何か、極めて珍しい事象が発生しているらしい、ということはこの場の空気感から推察できますが」
彼女のその問いに、エリは僕から視線を外すことなく、低い、地の底から響くような声で答えた。
「はい、雪城さん。本日皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。さきほど、この男――ユウ君から、結婚を申し込まれました」
その一言が投下された瞬間、カフェスペースの穏やかな空気は爆縮した。
「「はぁぁぁぁぁ!?」」「ゲッホッ!? ゲホッ、ゲホッ……!?」
健太と美咲さんの驚愕の声がハモる。そして、それまで冷静を装っていた雪城さんが飲んでいた紅茶を盛大に噴き出し、激しく咳き込み始めた。彼女のあのクールなポーカーフェイスが崩壊するのを僕は初めて見たかもしれない。
「ゴホッ! ゲホッ……! せ、先輩、今、なん……と?」
「ゆ、ユウスケ! お前、どういうことだよ!?」
健太が椅子から立ち上がらんばかりの勢いで叫んだ。
「エリナちゃんとは付き合ってないって、あれほど言ってたじゃねえか! いつの間にそんな関係に!?」
「別に、交際関係がない状態でプロポーズすることを禁止する法律は日本にはないよ」
僕は床に正座したまま、至極もっともな事実を述べた。僕には彼らがなぜここまで驚いているのか、そしてエリがなぜここまで怒っているのかが、正直なところ全くピンと来ていなかった。
「そ、そうだけどよぉ! 普通は段階ってもんがあるだろ!?」
「普通、ねぇ。その『普通』の定義は、一体誰が定めたんだい?」
「うぐっ……」
僕のその純粋な問いに健太は言葉を詰まらせた。僕たちのその不毛なやり取りを見て、美咲さんが深いため息と共にてきぱきと場を仕切り始めた。
「待って、ごめんなさい、ちょっと情報が渋滞してるわ。ユウ君、お願いだから、1から、誰が聞いても分かるように説明してくれないかしら?」
彼女に冷静にそう言われ、僕は先程の出来事を簡潔に要約して説明することにした。
「エリが、僕が他の女の子に取られちゃうんじゃないかって、すごく深刻に悩んでたんだ」
「ええ、うん、それはいつものやつね。想像がつくわ」と美咲さんは、納得したように頷いた。
「だから、それならいっそ結婚してしまえばそういう心配もなくなって、問題が根本的に解決するなって思ったんだ。我ながらエレガントで合理的な解決策だと思ったんだけど」
「おっと、そこで一気に論理が飛躍したわね」
美咲さんはこめかみを指でぐりぐりと押さえながら天を仰いだ。どうやら、僕のこの完璧なはずの論理は彼女にも理解しがたいものらしい。
「……なるほど」と、雪城さんが咳払いをして議論に復帰した。「つまりセンパイは、阿佐ヶ谷先輩が抱える『所有権の不確実性』という問題に対し、婚姻という法的拘束力を持つ社会契約を締結することで、その所有権を恒久的に確定させようとした、と。そういうことですね?」
「うん、そうそう! さすが雪城さん、話が早いね」
僕は、ようやく僕の意図を正確に理解してくれる人物が現れたことに少しだけ嬉しくなった。
「何がエレガントで、何が所有権なのか、俺には全然わかんねーんだけど……」
健太だけが一人、蚊帳の外で頭を抱えている。
「この通りです、皆さん!」
エリが、パン、と柏手を打って三人の注意を引いた。
「この男の常識とデリカシーの致命的な欠如は、もはや治療不可能なレベルにまで達しています! わたしは今回ばかりは堪忍袋の緒が切れました! 皆さんには、この朴念仁に、人間社会における『常識』と『情緒』というものをゼロから叩き込むのを手伝っていただきたいのです!」
彼女のその悲痛な訴えに、僕は心外だと抗議の声を上げた。
「なんだよ。エリは僕と結婚するのは嫌なの?」
「そういう話をしているのではありません!」
エリのその金切り声に近い叫びが、閑散としたカフェスペースに虚しく響き渡った。僕の問いは彼女が怒っている核心を全く捉えていないらしい。だが、僕にはその核心とやらが皆目見当もつかないのだ。
「なるほど」と、雪城さんが腕を組んで面白そうに僕たちを見比べた。「センパイの提案は確かに極めて合理的ではありますが、現代的な価値観とは言えませんね。恋愛感情をすっ飛ばして問題解決の手段として婚姻関係を利用しようとするのは、まるで中世の政略結婚のようです。阿佐ヶ谷先輩が憤慨する気持ちも理解できなくはありません」
「えー、でも、好き同士なら別に問題ないんじゃない?」と僕は素朴な疑問を口にした。「結局のところ、最終的な結果は同じなわけだし」
「結果ってなんだよ、結果って」
健太が呆れたようにツッコミを入れる。
「センパイの言う『結果』とは、おそらく、法的な入籍手続き、それに伴う共同生活の開始、そして将来的には生物学的な次世代の生産、つまり生殖行為を指しているものと推察されますが」
雪城さんが淡々と、しかし的確に僕の意図を分析してみせた。
「間違ってはいないけど、そういう言い方は生々しくて嫌ね」と、美咲さんが顔をしかめて付け加える。
「結果が同じならそれで良いというわけではありません!」
エリが、再び僕に向き直って声を荒げた。
「その『結果』に至るまでの『過程』も、ちゃんと気にしてください! 女の子にとって、それはとても、とても大事なことなんです!」
「過程かぁ」
僕は少しだけ考え込んだ。
「でも僕ら、もう中学から数えて七年も一緒にいるんだし、十分な『過程』は積み重ねて来たんじゃないかな?」
「そ! う、では、ありますけど……!」
僕のその、ある意味では正論とも言える反論に、エリはぐっと言葉を詰まらせた。彼女の顔が、怒りなのか羞恥なのか、再びほんのりと赤く染まっていく。
僕たちのその痴話喧嘩とも言えるやり取りを、三人の野次馬たちはもはや面白がって見物するモードに完全に切り替わっていた。
「あら、阿佐ヶ谷先輩、少し押され気味ですね」と雪城さんが楽しそうに紅茶を啜る。
「人の心がない男っていうのは、こういう純粋な正論を武器にするから厄介なのよね」と美咲さんがやれやれと首を振る。
「いや、ユウスケにも、さすがに心くらいはあるんじゃねぇかなぁ……たぶん」と健太が自信なさげに付け加えた。
彼らのそのひそひそ話が聞こえているのかいないのか、エリは悔しそうに唇を噛み締めると、ついに我慢の限界とばかりに感情を爆発させた。
「もうっ! いいですか、ユウ君! 女の子にとって、プロポーズというのは、一生に一度の、とても大切なイベントなんです! そこには、夢や、憧れや、ロマンというものが、たくさん、たくさん詰まっているんです! それなのに、あんな、まるで今日の晩御飯のメニューでも決めるかのような物のついでみたいな言い方で済ませてしまうのは、絶対に、絶対にダメなんです!」
彼女のその必死の訴えに、僕は少しだけムッとした。
「ついでなんかじゃないよ。僕は、ちゃんと君のことを考えて、最善だと思ったから言ったんだ」
「ちゃんと考えている人はあんな適当なプロポーズは絶対にしません!」
エリの剣幕はますますヒートアップしていく。だが、僕も、そこだけは譲れない一線だった。
「適当、か」
僕は、床に正座したまま、静かに、しかしはっきりと反論した。
「僕は、エリに対して、一度だって適当に接したことはないつもりだよ」
僕のその、いつもより少しだけ低く真剣な声に、エリは一瞬言葉を失ったようだった。僕はゆっくりと立ち上がると、一歩、彼女の方へと近づいた。僕のその行動を予期していなかったのか、彼女はたじろぐように後ずさる。
テーブル席の三人も僕たちの間の空気が少しだけ変わったのを察したのか、先ほどまでの野次馬モードから、固唾を飲んで事の成り行きを見守る観客へとその役割を変えていた。
僕はエリの目の前まで歩み寄ると、彼女の怒りや混乱を全て受け止めるようにその瞳をまっすぐに見つめた。カフェスペースのざわめきがまるで遠い世界の音のように聞こえる。僕たちの周りだけが静かな真空に包まれたかのようだった。
「ねえ、エリ」
僕はできるだけ優しい声で、核心的な問いをもう一度彼女に投げかけた。
「僕と結婚するの、そんなに嫌かな?」
「い、嫌、では……ありません、けど……」
彼女の声は、先ほどの激情が嘘のように、か細く震えていた。
「でも、そういう問題では……!」
「僕にとっては、それが一番大事な問題だよ」
僕は、彼女が何かを言い募ろうとするのを静かに遮った。そして、僕自身の確かな気持ちを、一つ一つ言葉にして紡いでいく。
「僕はさ、もし将来、誰かと結婚するんだとしたら、相手はエリがいいなってずっと思ってたよ。正直、エリ以外の他の誰かと一緒にいるっていうのはあんまり想像できないかな」
僕はそう言って、彼女の小さな手をそっと取った。彼女はびくりと肩を震わせたが、その手を振り払うことはしなかった。僕は彼女の手を優しく握りしめると、その場にゆっくりとしゃがみこみ、見上げるような形で彼女の視線を捉えた。驚きで見開かれた彼女の瞳に、僕の真剣な顔が映り込んでいる。
「エリが僕の知らない誰かのものになっちゃうのも、正直、まあ、嫌かなぁって思う」
僕は少しだけ照れくささを感じながら、それでも言葉を続けた。
「だからさ、エリには、これからもずっと、僕のそばにいて欲しいって思ってるんだ」
僕は彼女の手を握ったまま、ゆっくりと顔を近づけていった。僕たちの間の距離が少しずつ縮まっていく。彼女の呼吸がすぐ近くで乱れ始めるのが分かった。鼻先が触れ合いそうになる、そのぎりぎりの距離で僕は動きを止めた。
「……あ、あう、あう……」
エリは完全にキャパシティオーバーに陥ってしまったようだった。その顔は先ほどよりもさらに真っ赤に染まり、潤んだ瞳はどこにも焦点を結ぶことができずに、ただ僕の顔のあたりを彷徨っている。その口からは、もはや意味のある言葉を発することはできず、ただただ可愛らしい悲鳴のような音だけが漏れ出ていた。
テーブル席の三人も、この予想外の急展開に、息をするのも忘れて僕たちのことを見つめている。僕はそんな彼らの視線も、エリの混乱も、全てを承知の上で、最後の、そして最も重要な言葉を彼女の耳元に囁いた。
「ねえ、エリ。君が、欲しいんだ」
僕のその、あまりにも直接的で、そして飾り気のない言葉は、静かなカフェスペースに確かな重みを持って響いた。エリの小さな身体が、びくん、と大きく震えるのが、握った手を通して伝わってくる。
「あ……あう、あうあう……」
彼女は、もはや完全に思考を停止してしまったようだった。その大きな瞳からは、ぽろり、と一筋の涙がこぼれ落ちた。それが何の涙なのか、僕には分からない。でも、悪い意味のものではないだろうと僕は確信していた。
僕は彼女の返事を待つように、静かに、そして真剣に彼女を見つめ続けた。そして、最後のダメ押しをするように言葉を重ねる。
「ずっと僕の隣にいてほしい。僕と、結婚しよう、エリ」
その言葉は、彼女の部屋で口にしたものとほとんど同じだった。だが、その言葉が持つ意味の重さと、そこに込められた僕の感情の熱量は、比べ物にならないほど大きく、そして深くなっていた。
「あ、あう……は、はい……」
エリの口から絞り出すかのように、弱弱しい声が聞こえてきた。それは肯定の返事というよりは、ただ、僕の言葉に応えるためだけの反射的な音に近かったかもしれない。
だが、僕にとってはそれで十分だった。
僕は、彼女のその小さな肯定の言葉を聞くと、ゆっくりと立ち上がり、彼女を優しく引き寄せた。そして、その真っ赤に染まった頬に、そっと、ごく軽く唇を押し当てた。
「――きゅう」
僕の唇が離れた瞬間、エリの口から、まるで小さな動物の鳴き声のような、か細い声が漏れた。そして次の瞬間。彼女は、まるで糸が切れたマリオネットのように、その場にふにゃふにゃと崩れ落ちていった。
「おっと」
僕は、その小さな身体を慌てて、しかし優しく抱きとめた。僕の腕の中でエリは完全に意識を失っているようだった。その顔は、先ほどまでの混乱と羞恥から一転して、どこか安らかで、幸せそうな寝顔にも見えた。
僕は腕の中で眠るエリを抱きかかえたまま、唖然として僕たちを見つめている三人の野次馬に向き直ると、してやったり、とでも言うように、得意げな笑みを浮かべてみせた。
「どうだ、見たか。僕にだって、やろうと思えばこれくらいロマンチックなプロポーズはできるんだ」
僕のその、達成感に満ちた言葉。
だが、それに対する三人の反応は、僕が期待していたものとは全く違っていた。彼らは賞賛や祝福の言葉を口にする代わりに、三人そろって、まるで信じられないものを見るかのような、ドン引きした表情を僕に向けていた。
「……うわぁ」と健太が、素直な感想を漏らす。
「……人の心がないんじゃなくて、人の心を弄ぶのが上手いのね、この男」と美咲さんが、戦慄したように呟く。
「……これは、ある種の、極めて高度な情報戦です。阿佐ヶ谷先輩の完敗ですね」と雪城さんが、冷静に戦況を分析する。
彼らのその冷ややかな反応に、僕が「なんだよ、その目は」と抗議しようとした、その時だった。
僕の腕の中で、気絶していたはずのエリがゆっくりと目を開けた。そして僕の胸に顔をうずめたまま、この世の全ての諦めを凝縮したかのような、深くて、長いため息を、ふぅー、と吐き出した。
「……ユウ君はこういう人なのだと、七年間かけて、分かっていたはずなのに……」
その声は、ひどく疲れていた。
「まんまと雰囲気に飲まれてしまいました……」
「なんだよ、エリ。まだ不満なのかい?」
僕は、腕の中の彼女を覗き込みながら、悪戯っぽく笑った。
「なら、もう一回やる?」
「こ、こんなこと! 何度もやられたら、わたしの心臓が持ちません!」
エリは僕の腕の中からばっと顔を上げると、まだ真っ赤に染まった顔のまま、ぽか、ぽかと僕の胸を可愛らしく叩き始めた。その拳にはもはや怒りの力はほとんど残っておらず、ただ、僕の計算ずくの行動に対する照れ隠しの抗議の色だけが滲んでいた。
「ユウ君の、ばか! いじわる! 合理性の皮を被った悪魔です!」
「ははっ、褒め言葉として受け取っておくよ」
僕は彼女のそのか細い抵抗を笑いながら受け止め、その小さな身体をぎゅっと抱きしめた。彼女はしばらくの間、僕の胸の中で「うー」とか「あー」とか唸っていたが、やがて諦めたようにその身を僕に預けてきた。
僕たちのその一連のやり取りを最初から最後まで見せつけられていた三人は、もはや呆れる気力さえ失ってしまったようだった。
「……あの、結局のところ、これ、何だったんですかね?」
雪城さんが、まるで哲学的な問いでも立てるかのようにぽつりと呟いた。
「さあ……」
美咲さんが、遠い目をして答える。
「壮大な痴話喧嘩と極めて濃厚なイチャつきを、ただただ見せつけられた、としか言いようがないわね……」
「……なあ」と、健太が、心底うんざりしたという声で言った。「俺たち、もう、帰ってもいいかなぁ……?」
彼のその、あまりにも切実な問いに、美咲さんと雪城さんは、深く、そして静かに頷き合った。
僕が腕の中で大人しくなったエリの頭を優しく撫でていると、三人がぞろぞろと僕たちのそばにやってきた。
「エリちゃん、まあ、色々と思うところはあるでしょうけど、おめでとう」
「阿佐ヶ谷先輩、如月センパイ。ご婚約、お祝い申し上げます」
「ユウスケ、エリナちゃん、おめでとうな! 末永く、爆発しろ!」
三者三様の、心のこもっていない、しかし、どこか温かい祝福の言葉。僕は、そんな友人たちに「ありがとう」と笑顔で返した。
「じゃあ、私たちはボウリングでもして帰るから。あなたたちは、どうぞ、ごゆっくり」
美咲さんはそう言うと、健太と雪城さんを促し、さっさとカフェスペースを後にしようとする。その背中に、僕は慌てて声をかけた。
「あ、みんな。急にこんなことに付き合わせて悪かったし、この後、お礼に何か奢るよ」
「いらないわよ!」
美咲さんは、振り返りもせずにぴしゃりと言い放った。
「今日、あなたたちとこれ以上一緒にいたらこっちの胃がもたないわ! 慰謝料を請求したいくらいよ!」
そうして三人は嵐のように去っていった。
春休みの午後、穏やかな光が差し込む静かなカフェスペースに残されたのは、僕、そして僕の腕の中でまだ少し赤い顔をしながらも、どこか安心しきったような表情で僕に身を委ねている、小さな天才だけだった。
「……さて、と」
僕は、腕の中のエリに優しく語りかけた。
「エリの不安は、これでエレガントに解決した、ということでいいかな?」
「……エレガントではありません」
エリは僕の胸に顔をうずめたまま、もごもごと抗議した。
「極めて、暴力的で、非線形で、反則的な解法でした……でも」
彼女は少しだけ顔を上げて、潤んだ瞳で僕を見つめた。
「……でも、ユウ君の解が、わたしにとっての『正解』であることも、認めざるを得ません」
そう言って、彼女ははにかむように小さく、本当に小さく微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、僕の胸の中に、これまでに感じたことのないような、温かくて、そして少しだけくすぐったいような感情がじんわりと広がっていくのを感じた。
僕たちの七年間にわたる長くて奇妙な関係は、こうして新しい章の始まりを告げた。
これから先、僕たちの前には、きっと、もっと複雑で、もっと解きがいのある、たくさんの問題が待ち受けているのだろう。
だが、まあ、なんとでもなるだろう。この、世界で一番愛おしい定数を、腕の中に抱きしめていられるのなら。
僕たちの非線形で、予測不可能な未来は、きっと、最高に面白くて、エキサイティングなものになるに違いないのだから。