紛れも無く奴に会いたくない   作:ぶーく・ぶくぶく

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俺は走りながら言った。

 

「光と闇の結合体を取り出して、光と闇に分ける。天地開闢の神話みたいだな。ところでそんな大がかりな事を地上でやって大丈夫なのか?」

 

隣で、引きずられるように走っているドクター・ヤマが即答する。

 

「余剰エネルギーでみんな吹き飛ぶじゃろうな」

 

ミスティが即座に怒鳴った。

 

「ダメじゃない!」

 

ホークは肩をすくめる。乾いた声だ。

 

「吹き飛ぶのは困るな。生き残る方法に寄せろ」

 

ドブスンは両手を空けたまま走り、周囲を素早く見回していた。声は河内弁だ。

 

「そら困るわ。ワシら、吹き飛んだら話にならんで。お前、筋の通った段取り、あるんか。あるなら早よ言うてや」

 

俺は一瞬だけ顔をしかめた。

脳裏に蛍光灯と「改善案を出せ」が刺さりかける。

 

だが今回は違う。

却下されるための会議じゃない。生き残るための現場だ。

 

俺は息を吐き、言った。

 

「俺に考えがある」

 

ミスティが眉を上げる。

 

「言って」

 

ホークが短く促す。

 

「手短に」

 

ドブスンが頷く。

 

「手短でええ。長話は生き残ってからや」

 

俺は指を折っていく。

 

「まず、上に“でかい冷気の天井”を作る。積乱雲の核だ。ドブスン、ロシナンテで遥か上空へ上がって、全力全開で大規模に冷却してくれ」

 

ドブスンが目を細める。

 

「冷却って、暴走止めるためやないんか?」

 

「違う。冷却は雲を作るためだ。上空に広い冷気層を作って、そこに地上の湿った空気をぶつける。ぶつけた瞬間、雲が立ち上がる。積乱雲を人工で起こす」

 

ヤマが嬉しそうに唸る。

 

「ほう! 温度差を作って対流を強制発生させる。上が冷え、下が湿り、上昇して凝結……雷雲の土台じゃな」

 

ミスティが口を挟む。

 

「上空までどうやって行くの?」

 

「ロシナンテで上げる。俺が操縦する。ドブスンは上で冷気を作り続ける。点じゃなく面で、でかく、広く。上空全体を冷やす勢いで」

 

ドブスンが鼻で笑う。

 

「ほな、ケチケチせんとやるわ。どうせやるならド派手に冷やしたる。上で冬作ったるわ」

 

ホークが淡々と言う。

 

「で、俺は」

 

俺が続ける。

 

「ホークは地上で竜巻を作る。ブラックシープの足止めじゃない。目的は一つ、地上の温かい湿った空気を上空に吹き上げるエレベーターを作ることだ」

 

ホークは乾いた口調で確認する。

 

「竜巻で上げる。上昇気流を強制する」

 

「そうだ。地表は今、生命で湿ってる。温かい湿った空気がたっぷりある。お前が地面を叩いて空気を巻き上げろ。竜巻で上空へ一直線に持っていく」

 

ドブスンが頷く。

 

「ほなワシの冷気層に、ホークの湿った空気がぶつかる。雲が育つ。わかりやすいわ」

 

俺は首を振る。

 

「そこで終わりじゃない。ホークの竜巻はぶち抜く」

 

ミスティが眉をひそめる。

 

「ぶち抜く?」

 

俺は言葉を早めた。

 

「竜巻が上空の冷気層に湿った空気を叩きつけると、冷えた空気が重くなって落ちる。ドブスンが作った冷気を、竜巻の芯がぶち抜いて引きずり下ろす吹き降ろしが起きる」

 

ヤマが目を見開く。

 

「下降気流……ダウンバーストの強制発生じゃ! 上昇気流と下降気流が同じ軸で擦れ合う!」

 

俺が頷く。

 

「そう。上昇気流と下降気流が摩擦で帯電する。氷粒と水滴、塵が擦れて電荷が分かれる。巨大な帯電域ができる。雷雲だ」

 

ホークは乾いた声で言う。

 

「上げて、冷やして、落とす。擦って帯電。合理的だ」

 

ドブスンが笑う。

 

「ええな。上で冷やした空気を、ホークが下まで引っ張り降ろす。そしたら上も下も暴れる。ほな雷、落ちるわ」

 

ミスティが一歩前に出た。

 

「それで、わたしは?」

 

ヤマが先に言う。

 

「電気使いの出番じゃ。自然の雷は落ちるが、狙って当てるには導線が要る」

 

俺が頷く。

 

「ミスティ。お前はその帯電を整える。雷雲をただの天気にしない。ブラックシープへ電荷を集める導線を作る。帯電させて、ホークの竜巻を銃身にする。電磁投射砲の要領でブラックシープを宇宙に打ち出す」

 

ミスティが目を見開いたまま、叫ぶように遮った。

 

「ダメよ! 惑星ダストにはおじいちゃんたちもいるのよ。吹き飛ばしたら、おじいちゃんたちが死んじゃうじゃない!」

 

俺は一瞬だけ口をつぐむ。

その一瞬で、星の鼓動が伝わってくる。生き始めた惑星が、どこか不安定に震えている。

 

ホークが乾いた声で言う。

 

「だから生き残る方法に寄せろって言った」

 

ドブスンが顔をしかめる。

 

「せや。おじいちゃんら巻き添えはアカン。ワシらだけ生き残っても意味ないで」

 

ヤマが舌打ちしてから、珍しく真面目な声を出した。

 

「なら余剰エネルギーを地上に落とさん。落ちる前に逃がす。それしかない」

 

俺は頷いた。

 

「そうだ。だから宇宙に打ち上げる。地上で割らない。地上で暴れさせない。ブラックシープを帯電させて、竜巻の銃身で射出する。余剰は真空に逃がす。地上は守る。おじいちゃんたちも守る」

 

ミスティは唇を噛み、すぐに頷いた。

 

「……わかった。撃ち出す。撃ち出して、地上には何も落とさない。絶対よ」

 

ホークは短く言う。

 

「頼む」

 

ドブスンが肩を回す。

 

「ほな決まりや。ワシは上で冬作る。全力全開でやったる。ホークは下で湿った空気ぶち上げて、冷気ぶち抜いて落とす。ミスティは雷まとめて当てる。レオはロシナンテで全体を支える。……ええチームやんけ」

 

俺はロシナンテの方向を見上げた。

生体化した船体が遠くで低く唸っている。星の鼓動と同調して、嫌なほど生きている。

 

「行くぞ。ブラックシープを宇宙に打ち上げて、そこで石を引き剥がす。地上は守る。星は守る。……人も守る」

 

空が、ゆっくりと黒く盛り上がり始める。

積乱雲が生まれる前兆じゃない。

これから俺たちが、生む。

 

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