新世紀エヴァンゲリオン:虚無の器   作:5の名のつくもの

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「火が弱くなってきた。そろそろ買い替え時か」

 

謹慎処分であろうと学校に通わなねばならず、義務教育を貫徹するために惰性で登校を続けており、態度自体は至って真面目である。先生方からすれば真面目であるが本人は面倒を嫌って従順を装った。友人を作ることを嫌って常に一人で過ごしている。クラスに溶け込むというよりも消失した。

 

休み時間は決まって屋上でフレーバーを楽しむ。持ち物検査で引っかかりそうだが巧妙に隠し通した。その立場から御目溢しも珍しくない。特権と言えば特権であるが命を張っている以上は当然のことだ。それ故に特別待遇を怪訝に思い、例の超兵器のパイロットを疑う声は少なくないが、クラスメイトの追及に対しては無視を貫徹する。

 

「碇君…」

 

「君か…」

 

「大丈夫なの?」

 

「それは俺の言葉だけどな」

 

屋上でボウッと過ごしていると唯一の友人にして共感者が現れた。綾波レイは同種の人間である。お互いに空っぽだった。何も意味を持たない。意味を持たずに生きていた。なぜ戦っているのか、なぜ生きているのか、なぜ死ねないのか。全てにおいて空虚が及んでいた。奇しくも寡黙な両者であるが意外な程に波長があう。シンクロ率はエヴァよりも良好なのは皮肉の一つに数えられた。

 

碇シンジが謹慎処分に伴い綾波レイが切り札と動いている。初号機は事実上の封印状態なので彼女のエヴァが戦力にスライドした。しかし、初号機よりも扱いの難しい機体と知られる。その証拠が痛々しい姿の綾波レイだった。片目を包帯に巻いている。左腕を三角巾で固定していた。

 

「起動試験で暴走したって聞いたよ。碌なことじゃない」

 

「私はまだ上手く動かせない。零号機を動かさないと」

 

「なんで?」

 

「私が戦わないといけないから」

 

「そう。綾波は偉いな」

 

意識せずと仲良く並んで座っている。無機質なコンクリートの壁に寄りかかったが汚れは気にしなかった。単一的な制服が汚れたぐらいで揺るぐことはない。どうせ洗濯するのだから気にすることは無駄に追いやった。スペアは腐るほどに用意している。破れたら裁縫でチクチクと縫うだけだ。

 

ひとしきりフレーバーを吸い終えるとポケットにしまう。シンジはレイを労わるように頭を撫でた。急なことに驚き、ポッと頬を染めるが、本人はぶっきらぼう。あまりにも自然だった。彼なりに心配している。愛を知らない。親から捨てられた。そんな境遇を有して尚も不器用な未完成な慈しみを覚えている。

 

「昔に父親からやってもらった気がする。これぐらいしかできない」

 

「いいの。続けて」

 

「あぁ」

 

そこに無駄な言葉はいらなかった。シンジは謹慎処分の最中であるが、NERVのことは知らされる。つい先日にエヴァ零号機の起動試験が行われた。初号機のワンマン運転は人類の希望であるが極めて脆い。初号機パイロットの到着が遅れたり、負傷から戦えなかったり、ありとあらゆる場面を想定した。したがって、サポートの予備機として零号機の参加が求められる。

 

これがなかなかに曲者なのだ。初号機以上の聞かん坊である。綾波レイが実戦仕様で試験に挑むもすぐに暴走を開始した。プラグを強制排出してシャットダウンにより事なきを得る。その際に全身を強く打って大怪我を負ってしまった。零号機の参加はもう少し待たねばならない。

 

それを知らされた時は「ふ~ん」ぐらいだが本心は心配にラッピングされていた。彼が唯一のココロを通わせる。空っぽだから二つで一つになれる。怪我をしたと聞いて居ても立っても居られないが処分中なので動くに動けなかった。こうして学校で会えたことが嬉しいが不器用を盾にして欠片も表現できないのである。父と子の血は争えなかった。

 

「来週には戻れると思う」

 

「うん。待ってる」

 

「初号機と零号機か…」

 

休み時間が終わるまで二人で静かに寄り合う。不思議な時間が過ぎていった。特にしゃべらない。特に触れ合わない。ただ頭をなでる。ただ頭をなでられた。見つめ合うこともない。ココロは通っていた。不器用を超えた少年の特異な心配と操り人形と生きる少女の意外な受容である。

 

そんな触れ合いは観測されていた。世界の行く末を握る少年少女なのでプライベートが監視されても仕方がない。この都市自体がNERVのために存在した。使徒殲滅のためならば権利を削ぐことも厭わない。初号機パイロットと零号機パイロットが正しく親睦を深めること自体は大いに歓迎されるべきだ。

 

「な~んか。へんよね~」

 

「暇だからって遊びに来ないでくれる? サンプルの解析に忙しいんだから」

 

「ケチ~」

 

「ケチで結構よ」

 

エヴァの運用を握るトップツーと聞くと凄みがある。実際は研究室で紙コップを片手に駄弁るばかりだ。一人はサンプルの解析に精を出してコンピューターをはじいている。もう一人はオフィスチェアでクルクルと回った。大の大人でも椅子で回りたい。そうでもしないと耐えられなかった。

 

「良い傾向だと思うけど謹慎処分が解けたら、エヴァ二機体制による盤石を固められる」

 

「連携も期待したいけど、碇シンジ君は食えないわね」

 

「あなた口説こうとしているの?」

 

「違うわよ。父親とまた違ったやり辛さがあるの」

 

「ちゃんとした言葉遣いをしなさい。私でなければ誤解されるから」

 

「へ~い」

 

本部においても初号機パイロットと零号機パイロットの交流は複雑を以て受け止められる。将来的には二機体制を敷いて使徒を迎え撃つ以上は絆が深まることに期待した。しかし、初号機パイロットは司令官の息子以前に問題児である。素行不良は見られないが、大人を信用せず、指揮命令を無視し、のらりくらりと舐めたようだ。鉄拳制裁を加えても良いがノーダメージと予想される。いざ心の奥深くに傷を負ってから物理的な傷は気にならなかった。

 

そんな彼に零号機パイロットが惹かれるとは想定外である。性質は真反対と言って差し支えなかった。凹凸がピッタリとはまるが如く親和性の高さを見せつける。彼女は彼の前では素直に感情を見せた。彼は彼女の前では素性を見せる。お互いにベールを脱いだ。互いに隠すべきものは何もない。

 

「運命の少年と運命の少女ね…」

 

「良い響きじゃない。私は嫌いじゃない」

 

「私もあんな青春してみたかったなぁ」

 

「後の祭りね」

 

「ほんと厳しいのね」

 

「あなたを甘やかしていたら碌なことが起こらないから」

 

旧友の背中に向けて語りかけた。正面が向けられることはなく、タイピングの音に返答が混じり、普通は不快に思う。昔馴染みの付き合いならば気にならなかった。真に友と言える関係では各々が好きに過ごしながら、意思疎通を明瞭に行うことができる。辛苦を共にしてきた故に絆は強固だった。

 

「まぁ、彼の独断専行のおかげで良質なサンプルを採取できた。それは僥倖ね」

 

「どうなの?」

 

「結論から言うと、何もわからない」

 

「ダメじゃない」

 

「仕方ないでしょ。わからないものはわからない。わからないことが判明しただけでも収穫なの。ただ、面白いことも見つかった」

 

「ほう、聞かせてちょうだい」

 

やっと椅子をクルっと回して向き合ってくれる。

 

「使徒の構成と人間の構成は99%が一致している」

 

「それって…つまり」

 

「使徒と人間は兄弟姉妹のようね」

 

続く

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