『篝火は太陽を導く夢を見るか?』~制御不能の太陽に振り回されたトレーナーが救いを求めたのはかつて皇帝に牙を剥いたウマ娘でした~ 作:rairaibou(風)
秋の京都レース場。
地鳴りのような歓声が、遠くで響いている。ダイタクヘリオスのトレーナーは、ただ呆然と、ターフビジョンを見上げていた。そこに映る掲示板の、一番上で輝くべき愛バの名前は、ない。
ずっと下。九番目という数字の横に、その名は小さく表示されていた。
ダイタクヘリオス。
彼女は、強い。その天賦の才は、誰もが認めるGⅠ級のものだ。事実、その快足で、既にいくつもの重賞タイトルを勝ち取っている。
だが、トレーナーだけが知っている、残酷な事実があった。
手にしたストップウォッチが、ずしりと重い。
彼の脳裏を、苦い記憶がよぎる。これまで彼女が手にした、栄光の数々。その勝利の瞬間、自分はいつも、本当の意味での中心にはいなかった。臨時でアドバイスをくれたベテランの言葉。短期留学先での、別の指導。
彼女は、まるで魔法にかかったように、その直後だけ、鮮やかな勝利を掴んだ。
自分が全責任を負い、二人三脚で作り上げたプランで挑んだレースでは、いつもこうだ。壁に、跳ね返される。
繰り返される悪夢。そのパターンが、彼の心を少しずつ、しかし確実に削り取っていた。
☆
重い足取りで、控室エリアへと戻る。
ロッカールームの扉を開けると、当のヘリオスは、タオルで汗を拭いながら、興奮気味に振り返った。その瞳は、敗北の悔しさではなく、好レースを見届けた満足感で、きらきらと輝いている。
「負けはちょいぴえんだけど、ウチら的には全然ありよりのありっしょ! てかトレぴ、見た!? ミラクルの走り、過去イチでえぐくなかった!? まじテンアゲなんですけどー!☆」
トレーナーは、絞り出すように尋ねた。
「ヘリオス。敗因は、なんだと思う」
「んー?」
彼女は、少しだけ首を傾げる。そして、悪びれる様子もなく、あっけらかんと言い放った。
「だって、お嬢の走りがパッション鬼ヤバでさー! 気づいたら秒で釘付けだったんよ! あんなんブチ上がんない方が無理くね!?☆」
お嬢、とは、ダイイチルビーのことだ。華麗なる一族の令嬢であり、氷のようにクールな走りを見せる彼女に、ヘリオスは完全に首ったけだった。
その、あまりにも無邪気な言葉。トレーナーは、返す言葉を失い、ふらりと壁に手をついた。
どうすれば、この太陽に、勝敗の意味を教えられる。どうすれば、彼女の才能を、本当の輝きへと導ける。
彼は、答えを見つけられないまま、ただ、静かに天を仰いだ。
☆
ロッカールームを出て、一人、スタンド下の薄暗い通路を歩く。
頭上から、ウイニングライブの重低音が、分厚いコンクリートを通して、腹の底に響いてきた。彼は知っていた。今、この瞬間も、ダイタクヘリオスがあの煌びやかなステージの上で、完璧な笑顔で光を放っていることを。
あの輝き。あれこそが、彼女のいるべき場所だ。G1を獲り、何万人もの観衆の前で、センターで歌い踊るべきウマ娘。
その道を、自分が閉ざしている。その無力さが、彼の胸を締め付けた。
ライブの喧騒が届かない、通路のさらに奥。
薄暗いモニターの前で、レースのリプレイを一人静かに見つめているウマ娘がいた。彼女の周りだけ、空気が違う。他の生徒たちがその姿に気づくと、ひそひそと囁き合い、足早に通り過ぎていく。
彼女は、ヘリオスの走りだけを、何度も、何度も巻き戻していた。その琥珀色の瞳は、冷徹で、鋭かった。
トレーナーは、壁の陰で、声をかけることをためらっていた。
もちろん、彼は彼女が誰であるかを知っている。
知っているからこそ、足がすくむのだ。
校内の奉仕活動。成績優秀な上級生が、下級生の勉強を見る制度。確か、彼女がヘリオスの担当だったはずだ。
レースのこと以外はからっきしな、あの太陽のことも、このウマ娘なら、何か理解しているのかもしれない。
関われば、何かが変わるかもしれない。良くも、悪くも。しかし、彼の頭上からは、まだヘリオスが歌うライブの音が響いている。
この輝きを、ここで終わらせるわけには、いかない。
彼は、自分のプライドも、立場も、すべてを捨てる覚悟を決めた。
意を決して、壁の陰から一歩、踏み出す。
彼女はまだ、モニターに映るヘリオスの姿に集中している。
トレーナーは、一度だけ、乾いた唇を舐めた。そして、その背中に、静かに声をかけた。
その声は、自分のものではないように、少しだけ、震えていた。
「カガリ君」
この度は、数ある作品の中から、本作を手に取っていただき、誠にありがとうございます。
ウマ娘は、アプリ・アニメ共に、一通り、楽しませていただいておりますが、なにぶん、全ての史実や設定を網羅できているわけではございません。キャラクターの解釈や、細かな設定に、皆様のイメージとは異なる部分があるかもしれませんが、あくまで、本作は、一ファンによる二次創作の「IFストーリー」として、温かい目で、見守っていただけますと幸いです。
作中には、原作キャラクターの、少し、情けない姿や、史実とは異なる関係性が描かれる場面があるかもしれません。ですが、そこに、原作のキャラクターや、モデルとなった競走バ達を、貶める意図は一切ないことを、ここに、明言させていただきます。
全ての登場人物への、最大限のリスペクトを込めて、この物語を、書いていくつもりです。
マシュマロ
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