『篝火は太陽を導く夢を見るか?』~制御不能の太陽に振り回されたトレーナーが救いを求めたのはかつて皇帝に牙を剥いたウマ娘でした~   作:rairaibou(風)

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エピローグ 『それぞれの、新しい夢』

 あの有馬記念から、三か月ほどが過ぎた、春。

 

 トレセン学園の練習コースは、新しい才能の、息吹に満ちていた。

 トレーナーは、新しく担当することになった、一人の後輩ウマ娘の走りを見守っている。まだ、どこか、自信なさげな、気弱な少女。ヤマノ。

 彼は、もう、ストップウォッチの数字だけを、睨みつけてはいない。

 かつてのカガリのように、時折、彼女の隣を走り、その息遣いや、表情から、彼女の「気持ち」を、必死に、読み取ろうとしていた。

 ヘリオスとの、あの、破天荒で、しかし、最高に輝いていた日々。

 その日々が、彼を、本当の意味での、トレーナーへと、成長させてくれていた。

 

「トレぴー! 差し入れ、持ってきてやったぜ!」

 

 聞き慣れた、太陽のような声が、響き渡る。

 振り返ると、そこには、制服姿のダイタクヘリオスが、タッパーに入った、いつもの漬物を、笑顔で差し出していた。

 彼女は、もう、トゥインクル・シリーズを走ることはない。

 だが、その輝きは、少しも、変わっていなかった。

 

 ヤマノが、伝説の大先輩であるヘリオスを前に、緊張で、固まってしまう。

 しかし、彼女は、意を決したように、ヘリオスに、打ち明けた。

 

「私……ヘリオスさんのような、みんなをアゲる走り方が、したいんです…!」

 

 その、切実な悩みに、ヘリオスは、太陽のような笑顔で応える。

 彼女は、ヤマノの頭を、優しく、くしゃくしゃと、撫でた。

 

「ウチはウチ、ヤマノはヤマノっしょ!」

 

 その言葉は、かつて、自分が、カガリに、導かれた言葉。

 

「キミだけのテンション、見つけな!」

 

 その光景を、トレーナーは、目を細めて、見つめている。

 確かに、一つの時代は、終わった。

 だが、その魂は、こうして、次の世代へと、受け継がれていく。

 トレーナーは、その、温かい光景に、ただ、静かに、微笑んでいた。

 

 

 同じ頃。

 

 トレセン学園の、トレーニングコースから少し離れた、静かな学術エリア。

 

 医学書を数冊胸に抱え、私服姿のキビノカガリが研究棟から出てきた。その足取りは、かつてないほど、軽く、そして、力強い。

 

「カガリ君」

 

 彼女が、並木道を歩いていると、一本の木の下に、同じく、私服姿のシンボリルドルフが、静かに、立っていた。

 彼女は、カガリを待っていたのだ。

 

 春の、穏やかな日差しが降り注ぐ、ベンチに、二人のウマ娘が、並んで、座っている。

 

「…勉強は、順調か、カガリ君」

 

 ルドルフが、穏やかに、口を開いた。

 

「ええ。ですが、覚えることが、多すぎます」

 

 カガリは、少しだけ、困ったように、笑った。

 それは、ルドルフが、初めて見る、彼女の、ごく、自然な笑顔だった。

 

 ルドルフは、一度、目を伏せる。

 そして、長年、ずっと、言えなかった言葉を、ようやく、口にした。

 

「…有馬記念前の、君の言葉。嬉しかった」

 

 彼女は、カガリの瞳を、まっすぐに、見つめる。

 

「君が、私のライバルで、本当に、良かった」

 

 その、あまりにも、素直な言葉。

 カガリは、一瞬だけ、驚いたように、目を見開いた。

 そして、すぐに、これまでで、一番、優しく、そして、美しい笑顔で、答えた。

 

 そして、彼女もまた、自らの胸の内を、静かに、明かし始める。

 

「…最近、脚の調子が、ずいぶんと、良いんです。医学的なアプローチで、リハビリを続けた、おかげか…」

 

 彼女は、意を決して、ルドルフの目を、まっすぐに見つめ返した。

 

「シンボリルドルフ生徒会長。…いえ」

 

 彼女は、一度、言葉を切った。

 

「ルドルフ。もし、私が、もう一度、走りたいと、願ったなら…。ドリームトロフィーリーグに、私の居場所は、あるだろうか」

 

 その、あまりにも、切実で、そして、希望に満ちた、問い。

 ルドルフは、一瞬だけ、息を呑んだ。

 そして、込み上げてくる熱いものを、こらえきれずに、そっと、目頭を押さえた。

 彼女は、涙声で、しかし、心の底からの、歓喜の声で、答えた。

 

「…もちろんだ。私達は、ずっと、君の帰りを、待っていた」

 

 その言葉に、カガリは、これまでで、一番、優しく、そして、美しい笑顔で、頷いた。

 

「…ええ。ありがとうございます」

 

 そして、彼女は、続ける。

 その声は、どこまでも、晴れやかだった。

 

「久しぶりに、あの人にも、連絡をしてみようと、思います」

 

 ルドルフは、その「あの人」が、誰を指すのかを、すぐに、理解した。

 彼女もまた、最高の笑顔で、頷き返す。

 二人の間に、もう、皇帝も、ライバルも、いない。

 ただ、二人の、ウマ娘がいるだけ。

 穏やかな日差しの中、静かに、しかし、確かに、新しい夢が、始まった。




以上で本作品は完結となります。お付き合いいただきありがとうございました。
ウマ娘の発表後様々なウマのエピソードに触れ、その中でも印象的なウマをモデルに書かせていただきました
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