『篝火は太陽を導く夢を見るか?』~制御不能の太陽に振り回されたトレーナーが救いを求めたのはかつて皇帝に牙を剥いたウマ娘でした~   作:rairaibou(風)

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第七話 - 宝塚記念 『並走する篝火、再生のターフ』

 安田記念での敗北から、数週間が過ぎていた。

 

 初夏の気配が漂う、早朝の練習コース。その光景は、誰の目から見ても、異様だった。

 栗毛のツインテールを揺らすダイタクヘリオスと、その親友であるメジロパーマーが、並んでスタートラインに立っている。

 

 そして、その少し前。

 

 二人を先導するように、同じ学園のジャージに身を包んだ、一人のウマ娘が、静かに、屈伸をしていた。

 キビノカガリ。

 その、あまりにも場違いな光景に、コース脇で見守る他のトレーナーや生徒たちが、ひそひそと囁き合っている。

あれは、あのキビノカガリじゃないか。なぜ、彼女が、選手と共に。

 

 だが、そんな周囲の困惑など、ヘリオスには、全く関係ないようだった。

 安田記念の後、しばらく彼女を覆っていた、迷いの霧。それは、もう、どこかへ消え去っている。

 

「カガ先とパマちんと走れるとか、バイブス爆上がりじゃん!☆」

 

 彼女は、隣に立つ親友に、満面の笑みで話しかけた。その瞳には、いつもの、太陽のような輝きが、完全に戻っていた。

 

 しかし、パーマーの表情は、どこか硬い。

 彼女は、ヘリオスにだけ聞こえるような小さな声で、そっと、打ち明けた。

 

「いや、あたしは、正直、ちょっと緊張するっていうか…。だって、あのカガリ先輩だよ? なんか、ピリピリしてない?」

 

 その視線の先で、カガリが、氷のように冷たい表情で、アキレス腱を伸ばしている。

 

「えー、そっかな? モーマンタイだって! カガリっち、鬼マジメなだけだから! ノリはウチらと一緒っしょ!」

 

 ヘリオスは、屈託なく笑い飛ばした。

 ただ、この奇妙な練習が、楽しみで仕方がない。その、純粋な感情だけが、全身から溢れ出していた。

 

 

 コースの脇では、二人のトレーナーが、その異様な光景を眺めていた。

 ヘリオスのトレーナーと、合同練習に付き添いで来た、メジロパーマーのトレーナー。

 やがて、パーマーのトレーナーが、心配そうに口を開いた。その声は、周囲を気遣うように、低く、抑えられている。

 

「…本当に、いいのか?」

 

 彼の視線は、静かにストレッチを続ける、キビノカガリへと向けられていた。

 

「引退したウマ娘が、現役のトレーニングに付き合うのはしんどいぞ。それに、カガリ君は…」

 

 その言葉の先は、言われなくても、分かっていた。

 

 キビノカガリが、現役時代、その競走生命を絶たれるほどの、大きな故障を経験したという事実。それは、この業界に長く身を置く者であれば、誰もが知ることだった。

 そのリスクを、ヘリオスのトレーナーは、本当に、理解しているのか。彼の目は、そう、問いかけていた。

 

 だが、ヘリオスのトレーナーは、動じない。

 彼は、コースの向こうで、ヘリオスを励ますパーマーの姿と、それを見つめるカガリの、真剣な横顔を、ただ、まっすぐに見つめていた。

 

「構わない」

 

 その声は、静かだった。だが、そこには、一片の迷いもない。

 

「これは、俺と、カガリ君とで決めたことだ。あの子を、ヘリオスを再生させるための、俺たちのやり方だ」

 

 その、揺るぎない覚悟を前に、パーマーのトレーナーは、もう、何も言うことができなかった。

 

 

 カガリが、スタートラインに、静かに立った。

 その隣に、ヘリオスとパーマーが並ぶ。トレーナーは、固唾をのんで、その異様な光景を見守っていた。

 この、前代未聞の合同練習が、数日前にカガリから提案された時、パーマーは、最後まで首を縦に振らなかった。だが、親友であるヘリオスの「お願い、パマちん! 絶対、意味あることだから!」という、必死の説得に、最後は折れた形だった。

 

「…本当に、走るんですね、カガリ先輩」

 

 パーマーが、まだ、信じられない、というように呟く。

 

「当たり前だ」

 

 ヘリオスは、わくわくした様子で、その場で軽くステップを踏んだ。

 

「カガリ先輩が、ウチらのために、一緒に走ってくれるんだって! ヤバくない!?」

 

 その、純粋な期待の眼差しを受け、カガリは、二人に、改めて向き直った。

 そして、静かに、しかし、はっきりと、その狙いを告げた。

 

「勘違いしないでほしい」

 

 その声は、冷たい。

 

「私は、君たちの練習を手伝うために、ここにいるわけじゃない。ダイタクヘリオス。君の、あの予測不能な『テンション』を、私は、知りたい。データではなく、この身体で」

 

 その、あまりにも真剣な言葉。

 ヘリオスの瞳に、ただの好奇心ではない、真剣な光が宿る。

 パーマーもまた、ゴクリ、と喉を鳴らした。

 これは、ただの合同練習ではない。

 一人の天才を理解するための、壮大な実験なのだと、彼女は、ようやく、理解した。

 

 

 カガリを先導役に、三人の併走が、始まった。

 最初の二百メートル。カガリは、まだ、ついていけた。現役時代に、その身に叩き込んだフォームは、今も健在だ。

 だが、そこから先は、地獄だった。

 

 肺が、焼けるように熱い。

 脚の筋肉が、限界だと、悲鳴を上げている。

 引退して久しい彼女の身体は、現役、それもGⅠ級の二人のペースに、到底ついていけるものではない。視界が、白く、明滅する。今すぐにでも、倒れてしまいそうだった。

 だが、彼女は、歯を食いしばった。

 

(これが、メジロパーマーさんの、長距離を走るための、無駄のないリズム…)

(そして、これが…)

 

 隣を走るヘリオスの、その息遣い。

 地面を蹴る、蹄鉄のリズム。

 そして、彼女の全身から発散される、純粋な、走ることへの喜びそのもの。

 カガリは、それを、データではなく、肌で、魂で、感じ取っていた。

 理論では、説明できない。数字では、決して、表現できない。

 温かい、光のような、その感覚。

 それは、彼女が、忘れてしまっていた。あるいは、自ら、捨ててしまった、はずの感覚だった。

 

 トレーナーは、コースの脇で、固唾をのんで、その光景を見守っていた。

 隣に、親友がいる。前に、尊敬する先輩がいる。

 ただ、それだけで。

 安田記念の後、完全に消えてしまっていた、ヘリオスの、あの、太陽のような輝き。

 それが、今、確かに、戻ってきていた。

 

 約束の、千メートル。

 カガリは、ふらつきながら、コースの外へと離脱した。芝生の上に、崩れるように、倒れ込む。

 その視線の先で、ヘリオスとパーマーが、まだ、楽しそうに、並んで走っていく。

 カガリは、肩で、大きく息をしながら、ただ、その光景を見つめていた。その表情には、極度の疲労と、しかし、それ以上の、何かを掴んだような、不思議な光が宿っていた。

 

 

 カガリは、芝生の上に倒れ込み、肩で、大きく息をしていた。

 全身の筋肉が、限界を超えた疲労を訴えている。だが、不思議と、その心は、澄み渡っていた。

 やがて、走り終えたヘリオスとパーマーが、彼女の元へと駆け寄ってくる。

 

「ちょ、カガ先!? 顔色ヤバいって、大丈夫!?」

 

 ヘリオスが、心配そうに、その顔を覗き込む。その瞳には、もう、安田記念の後のような、迷いの色はない。確かな、太陽の輝きが戻っていた。

 

「ヤバいヤバい! とりま、なんか塩っけあるやつ食べよ!」

 

 ヘリオスは、そう言うと、どこからともなく、タッパーを取り出した。中には、瑞々しいキュウリの漬物が、ぎっしりと詰まっている。

 

「ほら、じっちゃんの鬼うま漬物! これ、秒でバイブス復活するから!」

 

 彼女は、一本の漬物を、疲労で朦朧としているカガリの口に、半ば強引に突っ込んだ。

 

 しゃり、という、小気味良い音。

 疲労しきった身体に、塩分と、水分が、染み渡っていく。

 パーマーも、「あ、あたしもー」と、隣で漬物を頬張り始めた。

 カガリは、されるがまま、その漬物を咀嚼する。その光景は、あまりにも、シュールだった。

 

 やがて、カガリは、差し出されたヘリオスの手を取り、ゆっくりと、体を起こした。

 その顔には、極度の疲労と、しかし、それ以上の、何かを掴んだような、不思議な光が宿っていた。

 

 

 その日の午後。

 ミーティングルームの空気は、数日前とは、全く違うものに変わっていた。

 そこに、絶望や、迷いはない。ただ、静かな、しかし、確かな熱が、満ちていた。

 カガリは、トレーナーへと、向き直る。

 

「まだ、答えは見つかっていません」

 

 彼女は、静かに、そう切り出した。

 

「ですが、ヒントは、掴みました」

 

 その言葉に、トレーナーは、強く頷く。彼は、今日の練習で、全てを理解していた。

 カガリは、続けた。その声には、揺るぎない、覚悟が籠っている。

 

「次の宝塚記念は、勝ち負けではありません。ヘリオスが、今日のこの感覚を、レース本番で、もう一度思い出せるかどうか。それが、全てです」

 

 勝利ではない。「再生」という、より本質的な目標。

 トレーナーは、その提案を、心から受け入れた。

 

 

 宝塚記念当日。初夏の強い日差しが、阪神レース場のターフを照りつけていた。

 

 ゲート裏。ダイタクヘリオスとメジロパーマーは、すぐ隣で、どちらからともなく、顔を見合わせた。

 そして、まるで悪戯を企む子供のように、ニッと、笑い合う。

 作戦は、一つだけ。

 

「パーマーさんと一緒に、君が一番楽しいと思うペースで、行けるところまで行け」

 

 カガリとトレーナーから送られた、魂の解放の作戦。ヘリオスは、大きく、息を吸い込んだ。

 

 ファンファーレが終わり、ゲートが開く。

 瞬間、二人のウマ娘が、まるで示し合わせたかのように、飛び出した。

 ダイタクヘリオスと、メジロパーマー。

 

『これは、なんということだー! ダイタクヘリオスとメジロパーマー! 二人で、行くのか、どこまで行くのかー!』

 

 実況の絶叫が、場内に響き渡る。後続を、みるみるうちに引き離していく、二人の大逃げ。二千二百メートルという距離を考えれば、あまりにも、無謀なハイペース。

 

 だが、ヘリオスは、楽しかった。

 隣を走る、親友の、力強い息遣い。ぴったりと揃った、蹄鉄のリズム。

 安田記念の時に感じた、孤独や、焦りはない。ただ、風を切ることが、楽しい。

 カガリと併走した時に、思い出した、あの、温かい感覚。データでも、理論でもない、魂が、歌っているような感覚。

 

(これだ…!)

 

 彼女は、心の中で、叫んだ。

 

(これが、ウチの、走り…!)

 

 最後の直線。

 さすがに、ヘリオスの脚が、鈍り始めた。マイルで培ったスピードだけでは、この距離は、あまりにも長い。後続の強豪たちが、牙を剥いて、襲いかかってくる。

 だが、共に逃げた、親友は、まだ、前にいた。

 メジロパーマーが、その、持てる力の全てを振り絞り、必死に、粘っている。

 ヘリオスは、交わされていきながら、その、親友の背中だけを、まっすぐに見つめていた。

 

 結果は、五着。

 しかし、その走りには、明らかに、安田記念では失われていた「輝き」が、完全に戻っていた。

 そして、レースを制したのは、最後の最後まで逃げ切った、親友のメジロパーマーだった。

 ヘリオスは、自分のことのように、彼女の勝利を、祝福した。

 その笑顔は、本物だった。

 

 

 レース後。

 トレーナーとカガリは、ターフから引き上げてくるウマ娘たちを、静かに待っていた。

 最初に、彼らの元へ駆け寄ってきたのは、勝者であるメジロパーマーだった。彼女は、まだ信じられない、というように、少し戸惑いながら、しかし、嬉しそうに、ヘリオスのトレーナーとカガリに、深く、頭を下げた。

 

「ありがとうございました! ヘリオスと一緒じゃなかったら、あたし、絶対に勝てませんでした!」

 

 その時だった。

 

「パマちん、まじえぐすぎ! おめでとウェーイ!☆」

 

 大きな声と共に、ダイタクヘリオスが、パーマーの背中に、思い切り、飛びついた。

 彼女は、自分の敗北を、微塵も、悔しがってはいなかった。ただ、心の底から、親友の、初めてのG1勝利を、祝福している。その笑顔には、一点の曇りもない。

 安田記念の後、彼女の瞳から消えてしまっていた、あの太陽の輝き。それが、完全に戻っていた。

 

 トレーナーは、その光景を、ただ、黙って見つめていた。

 着順は、五着。客観的に見れば、それは、敗北だ。

 だが、ヘリオスの、あの、本物の笑顔。それを見られただけで、もう、十分だった。

 彼の目頭が、じん、と熱くなる。

 

 カガリもまた、静かに、その光景を見つめていた。

 勝利よりも、自分の着順よりも、ただ、親友の栄光を、自分のことのように喜ぶ姿。

 理論ではない。データでもない。

 ただ、誰かと一緒に走れる、その、温かい喜び。

 それこそが、彼女の、あの、規格外の「テンション」を生み出す、源泉。

 カガリは、静かに、呟いた。

 

「…これが、彼女の『テンション』の、本当の形か」

 

 チームは、敗北の中に、何物にも代えがたい「復活」という、最高の成果を見出していた。

 どん底から這い上がった彼らが、確かな手応えを掴み、本当の意味で、再び、一つになった瞬間だった。

 

 

 その頃。

 夕暮れの生徒会室で、シンボリルドルフは、壁にかけられた大型モニターに映し出される、宝塚記念のレースを、静かに見つめていた。

 レースが終わり、ウイニングライブが始まる。画面の中で、自分の敗北を悔しがるでもなく、勝者となった親友を、心の底から祝福するダイタクヘリオスの姿。

 その、あまりにも太陽のような、純粋な笑顔。

 ルドルフの口元に、ふっと、かすかな笑みが浮かんだ。

 

「…なんだよぉ、ヘリオス」

 

 声のした方へ振り向くと、いつの間にか、トレーニングを終えたトウカイテイオーが、腕を組んで、同じモニターを見ていた。

 

「負けたのに、まるで自分が勝ったみたいに、笑ってる。安田記念の時とは、まるで別人だね。…ま、これでこそ、ボクのライバルにふさわしいってもんだけど!」

 

 その声には、呆れと、しかし、それ以上の、好敵手の復活を喜ぶような響きがあった。

 

 テイオーは、感心したように頷くと、何かを思いついたように、悪戯っぽく笑いながら、ルドルフへと向き直った。

 

「ねえねえ、カイチョー。ウワサで聞いたんだけどさ、ホントなの?」

 

 その声は、好奇心でキラキラと輝いている。

 

「あの子のアドバイザーのカガリ先輩って、カイチョーの、昔のライバルだったんでしょ? すごい強かったって。…ねえ、カイチョーは、どうやって勝ったのさ?」

 

 その、あまりにも無邪気な問い。

 瞬間、部屋の空気が、わずかに、張り詰めた。

 ルドルフの、口元に浮かんでいた笑みが、すっと、消える。

 

「テイオー」

 

 その声は、静かだった。だが、皇帝だけが持つ、有無を言わさぬ、重い響きがあった。

 

「見たこともないことを、軽々しく口にするものではない。それは、私にも、彼女に対しても失礼だ」

 

 その、静かな叱責に、テイオーは、はっと息を呑んだ。

 自分が、踏み込んではいけない領域に、足を踏み入れてしまったことを、瞬時に、悟る。

 

「…ごめん、カイチョー」

 

 彼女は、素直に、そして、小さく、頭を下げた。

 

 ルドルフは、それ以上、何も言わなかった。

 ただ、再び、モニターへと視線を戻す。

 画面の中では、ヘリオスとパーマーが、まだ、じゃれ合うように、互いの勝利と健闘を、讃え合っていた。

 その、あまりにも眩しい光景を、皇帝は、どこか、遠い目で見つめていた。

 

 

 宝塚記念から、数日が過ぎた頃。

 夕暮れの、トレセン学園の廊下。窓から差し込む光が、床に、長い影を落としていた。

 一人、その廊下を歩いていたカガリの前に、数人のウマ娘を従えた、影が、立ちはだかる。

 

 シリウスシンボリ。

 皇帝とは別の道を歩み、己の牙のみを信じてターフを駆ける、孤高の狼。

 

 彼女は、まるで、道を塞ぐように、そこに立っていた。

 

「廊下を、横に並んで歩かないほうが、よろしいですよ」

 

 カガリは、足を止めるが、動じない。

 ただ、事実として、そう、静かに告げた。

 その言葉に、シリウスは、不敵な笑みを浮かべる。

 

「邪魔なら、『あの時』みたいに、押しのけてみろよ」

 

 その言葉は、かつてのレースでの、激しい身体のぶつけ合いを、明確に、示唆していた。

 

 カガリは、シリウスの後ろで、明らかに、自分を恐れている、取り巻きのウマ娘たちを、一瞥する。

 そして、静かに、しかし、はっきりと、答えた。

 

「構いませんが。あなた以外に、私の行く手を阻む、勇気のある方がいるとは思えません」

 

 その言葉に、シリウスの取り巻きたちは、びくり、と肩を震わせた。

 

 その、あまりにも、動じないカガリの態度に、シリウスは、満足そうに、口の端を吊り上げた。

 

「…フン」

 

 彼女は、本題に入る。

 

「後輩のウマ娘の面倒を見て、面白いことを企んでるそうじゃないか」

 

 その言葉は、カガリの、ダイタクヘリオスへの指導を、明確に指していた。

 

「打倒ルドルフ。その目的のためなら、いつでも、力を貸してやる。アンタとアタシは、皇帝を快く思わない、『はぐれもの』同士だろ?」

 

 その、「はぐれもの同士」という、言葉。

 カガリは、その言葉に、反応した。

 彼女は、ゆっくりと、顔を上げる。その琥珀色の瞳には、何の感情も浮かんでいない。だが、それゆえに、底知れない、凄みがあった。

 彼女は、静かに、しかし、はっきりと、シリウスに告げた。

 その声は、地を這うように、低い。

 

「…お姉ちゃんに構われんようになって、拗ねとる子犬と、本気で、シンボリルドルフを憎んどった、わしを、同じじゃ、思うな」

 

 その、あまりにも、痛切で、そして、誇り高い、拒絶の言葉。

 シリウスは、一瞬だけ、驚いたように、目を見開いた。

 だが、すぐに、面白そうに、笑う。

 

「…なるほどな。相変わらず面白い女だ」

 

 彼女は、カガリに、それ以上、何も言わない。

 ただ、道を、開けた。

 

 カガリは、シリウスの、そして、その取り巻きたちの間を、何もなかったかのように、静かに、通り過ぎていく。

 

 一人、去っていく、カガリの背中。

 

 シリウスは、その、あまりにも、孤高な「一匹狼」の姿を、ただ、静かに、見送っていた。




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