東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第10話ー悪魔と人間の妹ー

様々なアニメ、漫画が横行する現代において憧れの場面というものが存在する。

 

その代表的な一例をあげるとすれば

 

『朝、美少女が自分を起こしにくる』

 

ではないだろうか。

 

それを言い始めたら毎朝妹達に起こされている僕の事を『馬鹿言ってんじゃないよ』と思う方もいるだろうが、あくまでもあれは実の妹であってアニメ、漫画でいうところのヒロインではない。

 

妹萌えなんていう物騒なジャンルもあるらしいけど、そんなもんは妹がいない奴の幻想だという事を僕は声を大にして訴えたい。

 

仮にあっても僕の妹は萌えないし。

 

萌えというか、奴らは常に燃えてるし…

 

さて、話を戻そう。

 

要するに僕は期待していたのだ。

 

あの容姿端麗なメイド様が『朝御飯ができてるわよ、起きて暦君』なんて起こしに来てくれるのではないかと…

 

まあここまで話してしまえばもはや出オチ、前のめり気味に笑ってもらっても構わない。

 

 

そう、僕は確かに起こされた。

 

メイド様以外の誰かに…

 

「暦ー!起きてー!朝だよー!遊ぼうー!!!」

 

自分が置かれた危機的状況に…戦慄!

 

 

昨晩の恐怖の再来だったーーー

 

 

「フ、フラン!?どうして僕の部屋に!?」

 

「朝御飯だから暦を起こすように咲夜に言われたのよ、だから起きてフランと遊ぼう?」

 

朝から元気なフランだった…

 

朝御飯という要件が元気すぎて行方不明になっちゃってるよ…

 

今まで数々の妹による襲撃を受けてきた僕にして、今日ほど目覚めに恐怖した事はないだろう。

 

これは幼女が可愛らしく遊ぼうと言ってるわけではない…

 

吸血鬼が朝から元気に殺し合おうと言っているのだから。

 

「今日はなんだか具合が悪い気がするなあ、良し!もう少し寝よう!」

 

現実を受け入れたくない僕は再び布団を被った。

 

それはもう足のつま先から頭のてっぺんまでスッポリと。

 

でもそんなささやかや抵抗はこの無邪気な吸血鬼の前になんの意味も成さない…

 

「今日はかくれんぼかしら?でもそんな所に隠れたらすぐ見つかっちゃうよ?」

 

「話が通じない!?」

 

駄目だ…このままだと僕はその意思もないのに強制的に二度寝する事になる。

 

 

「あら?妹様に気に入られるなんて珍しい、良かったわね暦さん」

 

布団から顔を覗かせるとドアのところに咲夜さんが立っていた。

 

 

「さ、咲夜さん!これってそんな微笑ましい状況ですか!?」

 

懐かれてるっていうよりこれじゃロックオンだ!

 

「大丈夫よ、妹様だって暦を取って食おうだなんてしないわ。仮にも同族ですしね。さあ二人とも朝御飯ですよ、はやくおりてきてください」

 

そう告げて咲夜さんは部屋を後にした。

 

 

同族…か…

 

起き上がった僕に抱きついたまま満面の笑みのフランに目をやる。

 

どうやら本当に気に入られたみたいだな…

 

「な、なあフラン?遊ぶのはとりあえず置いといてご飯を食べに行かないか?咲夜さんも待ってるしさ」

 

「…暦はお腹が空いてるの?」

 

「そ、そう!お腹が空いて死にそうだ!だから遊ぶのは我慢できるかな!?」

 

「うーん…」

 

どうやら僕の提案に思うところ有りな様子だった。

 

そんなに弾幕ごっことやらが好きなのだろうか?

 

「ねえ暦?私が我慢したら私のお願いきいてくれるかしら?」

 

「お願い?まあ…僕にできることだったらきくけど…ちなみにお願いって?」

 

むしろこの子にしてみたらお願いなんてしなくても望みは力ずくで叶えそうなものだけど…

 

そんなフランのお願いだからこそ興味を引かれたのかもしれない。

 

「私のお願いはね、暦に私のお兄様になって欲しいの!」

 

 

…おわかり頂けただろうか?

 

これが僕の聞き間違いや勘違いでなければ、この幼女…

 

僕に兄になってくれと頼んだようなニュアンスで聞こえたのだけど…

 

いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!

 

落ち着いて考えるんだ僕!

 

こういう時こそ冷静さを要求されるぞ!

 

昨日あったばかりで、なんなら一方的な虐殺行為しか成立してない関係性の相手に兄になれだなんてお願いする間抜けがどこにいるんだ!?

 

いないよね!?いないに決まってる!!

 

これに関しては羽川に聞いてもきっと『いない』の三文字が返ってくるはずだ!

 

もし仮にそんな奴がいたとしたら頭のどっかしらが致命的に壊れてるとしか思えない!!!

 

「もしなってくれないなら私、暦の事…」

 

 

「なります!是非とも喜んでならせていただきます!いやー、こんな可愛らしい妹ができて僕は幸せだなあああ!!」

 

 

もうこれしか言えなかった。

 

目の前のフランさんたら、目を真っ赤に染めてまたもや背後に例の魔法陣を展開してるんだもん…

 

こうしてこの日、僕こと阿良々木暦には三人目の妹ができた。

 

この妹が年齢にして僕の三十倍程年上という事には触れないでおこうと思う…

 

 

兎にも角にも、こうして無事に弾幕ごっこの恐怖から逃れた僕はそれはそれは美味しい朝食にありついた。

 

 

終始咲夜さんに僕という兄ができた事を自慢するフランを見て、僕が恐怖していたのは言うまでも無い。

 

冒頭の話を思い返せば

 

『ある日突然、すごく可愛い妹ができる』

 

というこのパターンも憧れのワンシーンなのかと思うと、実に歯痒いばかりである。

 

きっと僕は妹というものに縁がないのだろう…

 

 

「そういえば咲夜さん、忍とレミリアは?あとパチュリーさんも」

 

三人とも朝食だというのに姿を見せていなかった。

 

「パチュリー様はあまり食事をとることをしないわ、たまにお嬢様とお茶をするくらいかしら。お嬢様もまだお目覚めの時間じゃないわよ。忍様は起きてたけど食事はいらないと言ってたわ」

 

「そうですか…じゃあちょっと忍の所に行ってきます、ごちそうさまでした」

 

「それなら呉々もお嬢様を起こさないようにね?」

 

「お姉様の部屋に行くの?じゃあ私も一緒に行く!」

 

再び僕にしがみつくフランだった。

 

「い、いや、行くって言っても忍にご飯をあげるだけだから!フランは良い子にして待っててくれたらお兄様嬉しいなあー…なんて」

 

最悪の場合またもや弾幕ごっこの恐れもあったけど、忍の吸血シーンをフランに見られるのは何だか気が引けた。

 

なのでフランの頭を撫でてたしなめてみたんだけど…

 

どうやらこれが効果覿面だったらしい。

 

そういえば吸血鬼の頭を撫でるって特別な意味があったっけ…

 

「私、良い子にして待ってる!早く戻ってきてね暦お兄様!」

 

吸血鬼にこんな事を言えばとんだ皮肉なんだろうけど、本当に太陽のような笑顔で答えてくれたフランだった。

 

それは一瞬だけ昔の素直だった頃の火憐と月火を思い出させたーーー

 

っと、危ない危ない…

 

「わかったわかった、すぐに帰ってくるから待ってろよ。あと、やっぱ僕はお兄様って呼ばれるような柄じゃないからもうちょっと他に候補はないかな?」

 

やはり、こんな一般高校生がお兄様と呼ばれるのはどこかむず痒い気持ちになる。

 

忍にお前様と呼ばれるのは抵抗ないんだけどな…

 

 

「んー…お兄様はお兄様だから候補って言われても困るよ、何か他の呼び方があるの?」

 

「それを僕が決めるのも変な話だと思うけど…そうだな、やっぱ一般的にはお兄ちゃんかな?」

 

 

「お兄ちゃん…うん、頑張ってみる!」

 

努力が必要な話なのだろうか…?

 

 

こうして僕はキッチンをあとにした。

 

そして忍がいるレミリアの部屋に向かうーーーー

 

 

 

 

「来るのが遅いぞお前様、待ちくたびれたわい」

 

意外な事に忍はレミリアの部屋の前で待っていた。

 

「あれ?どうして僕が来るのがわかったんだ?」

 

「ペアリングされておるからのう、お前様の気配はある程度ならわかる。部屋の中で待っておったらレミリアを起こしてしまうから外で待っておったのじゃ。で、何の用じゃお前様よ」

 

「GPSいらずだな…そうそう、お前に血をやるために来たんだった」

 

「まったく…儂はこれから寝るところじゃったのに…寝る前の食事は女子の敵じゃぞ?デリカシーの無い奴じゃ」

 

「お前に太るとかねえよ。どこまで俗世の影響受けてんだよ…」

 

「それはそうとお前様、何やら疲れておるようじゃが寝れんかったのか?」

 

「…それは触れないでくれ。どうせすぐにわかるから…」

 

恐らくは今日中に本人の口から聞くであろう僕とフランのあれこれは、思い出すだけで頭痛の種だった。

 

「良くわからん我があるじ様じゃのう…まあ、よい。では早速いただくとするか」

 

「あっ、ちょっと待ってくれ忍」

 

「ん?なんじゃお前様よ?新しいプレイでも思いついたのか?」

 

「自分の食事をプレイとか言ってんじゃねえよ!お前の中の僕はどのレベルで変態なんだ!?そうじゃなくて忍野の事だよ」

 

「あのアロハ小僧がどうかしたのか?」

 

「ほら、昨日神社で言ってたろ?吸血によって上がった能力は幻想郷にいる間は下がらないってやつ。ここにいる間は何があるかわからないからな、少し多目に吸って欲しいんだよ」

 

「成る程、そういう事か。確かにいつまで滞在するかもわからん以上は少しくらい強化しておいた方が良いかもしれんのう」

 

「そういう事だ。あ、でも吸いすぎるなよ?僕の致死量を越えれば僕達の関係性が破綻しちまうからな」

 

「わかっておるわ、数回に分けてパワーアップしていけば良いのじゃろ?」

 

一気に血液を吸い上げられたら…僕の存在が終わる程の量を吸われてしまえばこのペアリングは無かった事になる。

 

それはあの地獄のような春休みの再現であり、恐らく今度こそ誰も救われない…

 

「では、いただきます」

 

首筋に鋭い痛みが走ると全身が熱くなるのを感じる。

 

それは忍が今日も生きてくれている嬉しい痛みでありながら、僕が人間から遠ざかる悲しい痛みでもあった。

 

あの春休みから一生付き合っていくと決めた痛みでもある。

 

「っと…そろそろかな」

 

忍の背中をぽんぽんと叩く。

 

これが吸血を終わる合図だった。

 

「ぷはっ、吸った吸った。美味であったぞお前様」

 

「褒められるにしてもこれ以上微妙な褒められ方もないだろうよ…よっと」

 

立ち上がると多少の貧血で足元がふらつく。

 

「相変わらず力が上がった実感が湧かないんだよな、まあこんなもんで平気だろ」

 

「心配せずともちゃんと強化はできとるよ、では儂は寝る。夜まで起こすなよお前様」

 

「了解、じゃあおやすみ」

 

こうして忍はレミリアの眠る部屋に戻っていった。

 

「さて…僕も僕で色々とやらなきゃな」

 

 

この後、博麗神社に行って昨日できなかった詳しい話をするつもりである。

 

そして僕は昨日からのあれこれが衝撃的すぎて忘れていたのだった。

 

 

ここが、幻想郷であることを…




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