東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第12話ー鴉天狗ー

恐らくは山手線のどれかに当たり、その属性の方々には聖地ともてはやされているあの場所ならば美少女の天狗というマニアックな品々にも出会えるのだろう。

 

 

しかしそれらを度外視すれば天狗というものは本来、日本が誇る天狗伝説が主である。

 

神や、妖怪や、魔物など、その諸説は様々だが一貫して美少女などという伝承はない。

 

一言『天狗とは?』と聞かれたとして、ほぼ全ての人が鼻の長い山伏の着物を着た大男を想像するのではないだろうか?

 

 

 

 

「どうも、はじめまして。私、幻想郷で新聞記者をしております清く正しい射命丸 文と申します。いやー、幻想郷に外来人が来たと聞いて、スクープは鮮度が命!と、今朝から探しまわっていたんですよ」

 

「は、はあ…あの、あなたは妖怪なんですか?」

 

「これは失礼!私は鴉天狗という妖怪です。あ、でも人を襲って食べたりはしないですから安心してください」

 

「天狗!?天狗ってあの天狗ですよね!?いや、嘘だ!絶対に嘘!天狗で美少女だなんて聞いたことない!」

 

「あやや…美少女は嬉しい褒め言葉ですが、そこまで否定的だと素直に喜べませんねぇ…外界の人間達は天狗にどんなイメージを持ってるんでしょうか」

 

 

どんなもこんなも冒頭の通りのイメージである。

そもそもこんな女子高生みたいな天狗は外界ではコスプレだとしか見られない。

 

「それに私これでも千歳を超えてますからねぇ、天狗の感覚では少女で通りますけど人間の感覚ではどうなんですかね?」

 

「熟女の向こう側ですね…」

 

少なくとも寿命が千歳を軽く超え 、それが少女で通るというスケールが存在してない。

 

「ところで取材は大丈夫ですか?どうやらお急ぎのようでしたけど」

 

「ああ、この先の神社に行こうとしてたんですよ。紅魔館って所から目指してたんで歩いていると時間が勿体無いから走ってたんですよ」

 

「紅魔館?という事はレミリアさんの所で寝泊まりしてらっしゃるんですか?人間なのに吸血鬼と寝食を共にするとは…益々興味深いですねぇ」

 

 

「いや、それには色々と事情が…あの、できたら神社に着いてからでも大丈夫ですか?夜までに帰らないといけないので」

 

「そうでしたか、では急ぎましょう!たまには霊夢さんにも挨拶したいですしね」

 

「あれ?霊夢さんとお知り合いなんですか?」

 

「私も幻想郷は長いですからねぇ、知り合いは多いですよ。それが博麗の巫女ともなれば尚更です。彼女は良いネタになりますからねぇ」

 

ネタ?なんだろう…一瞬、この人に悪意を見た気がするけど。

 

それにしても話を聞くのが上手いというかついつい話し込んでしまうような雰囲気を持ってる人だ。

 

これも新聞記者としての才能なのだろうか?

 

「じゃあ行きましょうか。あと僕はこのまま走りますけど大丈夫ですか?」

 

「はて、大丈夫と言いますと?」

 

「いえ、全力疾走で神社まで行こうとしてるんですけど速さとか体力的に平気かなと思って…」

 

「ははは!それなら心配には及びませんよ、私これでも鴉天狗として幻想郷最速と呼ばれてますから」

 

「わかりました」

 

こうして僕は再び走り出すーーー

 

本音を言うと僕はこの射命丸さんを振り切りたかったのだ。

 

元々、目立つ事を好まない性格の持ち主な僕。

 

万が一僕が新聞の記事になったりしたら悪目立ちは免れない。

 

かと言ってそこまで口がうまいわけではないからその場しのぎで逃げ切る事もどきないだろう。

 

だから走って振り切ってしまいたかった。

 

しかしこれは僕が甘かった…

 

その後走り続けて博麗神社に着いた僕が見たのは縁側で座っている射命丸さんの姿だったのだ。

 

後半は多少の疲れも出たし、神社に続く山道もつらかった。

 

それでも吸血鬼性の上がっている僕が遅かったとは思えない。

 

この人が誇張したのではなく本当に速いのだ。

 

「おやおや、もっと時間がかかるかと思っていたのですが…こんな短時間で走ってくるとは貴方本当に人間ですか?」

 

「はぁはぁ…そんな僕より早く到着して息も切らしてない人に言われても皮肉ですよ」

 

 

どれだけとんでもない世界なんだ幻想郷…

確かに忍野の言っていた通り、ここの住人が外の世界に出るのはヤバイな。

 

「しかし頑張って走ってきたところ残念ですが、どうやら霊夢さんは留守のようですよ?先程から呼び掛けているんですが出てきません」

 

留守か…

 

確かに巫女とはいえ、それがいつでも必ず神社にいなければいけない訳もない。

 

ましてや今は忍野が神社を見ているのだ、自由に外出していたとしてもなんの不思議もないのだ。

 

まあ、霊夢さんには悪いけどとても人が来ているようには見えないけど…

 

「大丈夫ですよ射命丸さん、ここには今霊夢さん以外の奴がいますから。」

 

「それは初耳ですね、その方は巫女のバイトでもしてるんですか?いや…こんな参拝客も来ない神社でバイトする者もいませんか。それに私が何度呼び掛けても誰も出てきませんでしたよ?」

 

この人さっきから言葉は丁寧だけど発言は失礼な事を言ってるような…

 

エロくないだけで神原みたいな人だな。

 

いや、尊敬の念がないぶん神原よりタチが悪いかもしれないぞ…

 

「いえ、そいつも外来人ってやつで偶然にも僕と知り合いなんですよ。初めて会った時はビックリしましたけどね。多分気付かなかったか居留守でも使ったんでしょう。名前はーーー」

 

「おいおい阿良々木君、僕の仕事をとらないでくれよ。それとも阿良々木君はこの歳になっても僕が自己紹介もできない奴だと思っているのかい?」

 

振り向けば真後ろの襖が開かれてそこに忍野メメが立っていた。

 

「うわっ!忍野!?ビックリするじゃねえか!いつからそこにいたんだ?」

 

「あっちゃー、結局先に僕の名前言っちゃうんだもんな阿良々木君。本当に元気なんだから、何か良い事でもあったのかい?ん?そっちのお嬢さんはどうしちゃったのかな?」

 

 

その言葉で僕も射命丸さんのほうを見たが、なんというか…

 

鳩が豆鉄砲をくらったような顔とはこんな感じなんだろうなって顔をしていた。

 

いや、鳩じゃなくて鴉か?

 

「びっくりしました…私が気配にも気付かず背後を取られるなんていつぶりの事やら…貴方達は本当に人間ですか!?」

 

それは演技とかではなく本当に心底驚いたのだろう。

さっきまでの余裕に満ち溢れた感じではなく、僕達を探るような目線だった。

 

「はっはー、初対面で元気の良いお嬢さんだ。何か良い事でもあったのかい?僕も阿良々木君も人間さ、弱くて短命な普通の人間。君は…うん、その感じだと天狗かな?」

 

「い、いかにも…私は鴉天狗で伝統の幻想ブン屋、清く正しい射命丸です。以後お見知りおきを」

 

「うん、丁寧な自己紹介ありがとうお嬢さん。僕は忍野メメ。さっきは悪かったね、おじさんは照れ屋だから若い女の子の声が聞こえて動揺して出てこれなかったんだ。で、阿良々木君なんかとご一緒に参拝とはどういう用件かな?まさか鴉天狗ともあろう者が神頼みもないだろう」

 

「おい忍野、その阿良々木君なんかとってのはどういう意味だ!?」

 

「絡むなあ阿良々木君、なに、深い意味はないよ。君が僕の所に来るたび違う女の子を連れているのは今に始まった事じゃないしね。それとも新聞記者が相手って事は何かやらかしたのかな?」

 

「お前の中の阿良々木君はいったい何者なんだよ!」

 

 

こいつは射命丸さんや神原なんて比較にならないくらい失礼だな!

住所不定無職の怪しいおっさんじゃなかったら告訴して賠償金を請求したいくらいだ。

 

「お話の途中で申し訳ありませんが本日はお二人の取材をしたくて訪問させていただきました。宜しければさっそくインタビューに入りたいのですが」

 

「うーん…取材かあ…僕はそういう悪目立ちする事は遠慮するよ。どうしても聞きたい事があるなら僕の事もその彼から聞いてくれ。阿良々木君との話はそれが済んでからでも大丈夫だよね?それまで僕は部屋で寝てるからさ。わかってるよね、阿良々木君?」

 

「あ、ああ…じゃあ終わったら起こしに行くよ」

 

そう言うと忍野は襖の向こうに戻っていった。

 

わかってるよね、阿良々木君ーーーか。

 

それは、自分に関して余計な事は喋るなって意味だろう。

 

我ながらあいつとここまで意思の疎通ができていることが残念だ。

 

 

こうして押し付けられるような形で射命丸さんの取材が始まった。

 

密着取材というよりは粘着取材とも言える彼女の質問攻めは正直ものすごい疲労感を覚えたけどおかげで僕がここに来た経緯や吸血鬼についても説明はできた。

 

 

「なるほどぉ、貴方の人間離れした運動神経も納得です。それで紅魔館に宿泊してるのですねぇ…」

 

「そういう事です…あ、あの、話しながら写真を撮りまくるのはなんとかなりませんか!?」

 

「これは気にしないで下さい、やはり新聞記事というのはリアリティが大切なので写真は必要不可欠なのですよ!」

 

気にしないで下さいって…

それは撮られる側が言うべき言葉ではないだろうか?

 

「では質問を変えさせて頂きますが、さっきの忍野メメさんとはどういったご関係なんですか?」

 

「ああ…あいつは会えば話す程度の仲で特別何かあったような関係じゃないですよ、僕もあいつについては深く知りませんし」

 

「そうなんですか?とてもそんな風には見えませんでしたけどぇ…まあ良いです、ではあの方の仕事はなんでしょうか?」

 

「神事に関係する事を職にしていたはずですよ、なんでもそういう専門の学校を出ていたはずですし」

 

「学校?寺子屋みたいなものですかねぇ?では貴方の吸血鬼の話にもそういった面で関係していると?」

 

「関係というか…まあ相談くらいはしましたけどね。直接の関係はありません。」

 

「ふむ…となると益々貴方達の事がわかりませんねぇ…」

 

 

どうにも腑に落ちないといった様子の射命丸さんだが、僕は何かまずいことを言っただろうか?

 

そもそも上手い嘘というものがつけないし、疑問に思うところくらいあるだろうけど粗方の筋は通ってるはずなんだけどな…

 

「あの、何か釈然としないふうですが?」

 

「いえ、貴方達の関係がそこまで深くなかったとして、何故そんなお二人が揃って幻想入りしたかがわからないのですよ」

 

この人はどこまで先を読んで考えを巡らせているのだろう…

 

僕の稚拙な会話力でも充分に話を理解してくれてるようだし、あっけらかんとした態度をしてはいるけど実は凄く頭が良いんじゃないのか?

 

 

「この幻想郷に外来人が来る事が珍しいって事は霊夢さんから聞いてますよね?私はこの幻想郷を千年以上前から見てきてますがその中で貴方達のようなケースは始めてです。たまに迷い込む人間はいましたが同時期に知り合い同士で幻想入りしたなんて話は前例がありません」

 

「さ、さあ…詳しくはわかりませんがそういう事もあるんじゃないですか?」

 

「いえ、それだけじゃないんですよ。貴方達には幻想入りする理由がないんです。まあ、話の流れから百歩譲って阿良々木さんはわかります。それでも理由としては弱いですが納得できます。ですが忍野メメさんに関しては全く見当たらない。あの方はここの存在を知った上で自ら入り込んで来たとしか思えませんねぇ」

 

「理由…ですか」

 

「そうです。あの方は神職以外にも妖怪相手に精通する何かがありそうに思えて仕方ありませんねぇ。それなら吸血鬼を宿した阿良々木さんとの因果関係も幻想郷に来れた事も説明できそうなものなんですが…それにあの方は只者じゃありませんね。私の背後をああも簡単にとったり、鴉天狗である私が全く読めない人間なんて普通いませんよ」

 

どんな思考回路をしてたらそこまで読めるのか全く理解できなかった。

 

ある意味で羽川のような知識人とも違う恐怖を感じる…

 

とりあえずこの人相手に余計な話はしない事にしよう。

 

そもそも天狗伝説の中に天狗は頭の良い者なんて言い伝えあったっけ?

 

それも今度羽川に聞いてみよう。

 

さて、問題はこの射命丸さんをどう躱すかだけど…

 

 

「ま、私はどっちでも良いんですけどね!少なくとも貴方達が幻想郷に害を成す為に来たようには見えませんし、仮にそうだったとしてもその時はこの幻想郷の実力者達がそれを阻止しようと動くでしょう。それならそれで面白い記事になりそうですし私はしばらく傍観させてもらいます!」

 

 

それは僕の予想を裏切る反応だった。

 

すっかり疑惑を持たれたと思っていたし、最悪の場合は異能バトルにまで発展しかねないなんて思っていたのにこの反応…

 

すっかり毒気を抜かれてしまった気分だ。

 

「はは、害を成すなんてとんでもない。それどころかすぐにでも元の世界に帰りたいくらいですよ」

 

「まぁまぁそう言わず。せめて阿良々木さん達の記事ができるくらいまではゆっくりして行って下さい。」

 

さっきまでの名探偵のような気配はどこへやら…

 

彼女は既に元の気楽な感じに戻っていた。

 

「じゃあ今日は取材への協力ありがとうございました!また何かあれば取材させて下さい。後、霊夢さんにも宜しくお伝え下さい!近いうちに遊びに来ると」

 

「いえ、こっちこそ大したスクープっぽい事もなくてすいません。霊夢さんにはちゃんと伝えておきますよ」

 

「ではまた!あ、今度はもう少し速くなってから私を撒こうとして下さいね?あまり遅すぎても張り合いがないですよ?」

 

そう皮肉じみた言葉を残して彼女は飛び去っていった。

 

その姿は一瞬で見えなくなってしまった。

 

「はは、バレてたんだ…」

 

つくづく怖い洞察力だな…

 

次回からはもう少し用心しようと心に誓った僕だった。

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