東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

13 / 60
第13話ー二重結界ー

誰かが泣いている時にはどこかで誰かが笑ってる。

 

誰かが損をした時にはどこかで誰かが得してる。

 

誰かが苦労してる時にはどこかで誰かが楽してる。

 

 

世界なんてものは、およそそういう相対的なバランスで回っているのだと思う。

 

だからだろう…

 

僕が鴉天狗の粘着取材に心身共に疲しきっていながら、目の前のこの男は畳の上でお気楽極楽に寝ていやがるのは。

 

「おや?天狗ちゃんとのお話は終わったのかい?まったく待ちくたびれたよ、もう少しで寝ちまうところだったぜ」

 

「あのなあ忍野!お前は絶対あの取材がしつこくて長くなるってわかってたろ!?僕一人に押し付けやがって!どれだけ大変な思いをしたと思ってるんだ!」

 

 

まるで自分が待たされていた被害者のように言う忍野に余計腹が立つ。

 

 

「そう怒らないでくれ阿良々木君、僕が悪目立ちを嫌うってのは本当なんだからさ。それに僕は夜行性なんだ、こんな時間に押し掛けてこられたら取材拒否だってしたくなるさ」

 

「三十過ぎのおっさんが夜行性ってのも考え物だぞ忍野」

 

水商売でもしてるのかこいつは?

 

兎に角、無事に射命丸さんの取材も乗り切ったところで本題に入らなければならない。

 

それでなくても僕は夜までに帰らないと新たな妹に殺されかねないのだから。

 

「なあ忍野、昨日から何か進展みたいなものはなかったのか?」

 

「おいおい…昨日の今日なんだぜ阿良々木君?いくら僕が頼れる男だと言ってもそれはさすがに無理があるよ、解決の糸口すら見つかってないのが現状さ」

 

「頼れる男とは言ってないぞ!?けど、まあそうだよな…すまない。少し焦っていたみたいだ」

 

「うん、謙虚さは大切だよ。けどそうだなあ…そんな謙虚な阿良々木君に進展とまではいかないけど新しい情報ならなくもない。まあ君が帰るに当たって必要な情報とは限らないけどね」

 

「いや、それがどんな情報であれ聞いておきたい。なんの話なんだ?」

 

「それはね、この幻想郷に張り巡らされている結界の事さ。そもそも幻想郷には二種類の結界が張ってある事を阿良々木君は知っていたかい?」

 

「いや、結界の話はぼんやりと聞いたけど二種類とは聞いてなかった。僕はてっきりひとつだけしかないと思っていたんだけど」

 

「まあセキュリティとしては当たり前の話だよね。侵入者を防ぐ為には鍵は一つより二つの方が心強いのと一緒さ」

 

そんなものなのか?

 

結界ってイメージ的には鍵っていうよりドアに近い気がするけど。

 

「で、その二重の結界がどうしたんだよ?」

 

「まあ聞きなよ阿良々木君。そもそもその二つの結界にはそれぞれ違った役割があるんだ」

 

「違った役割?」

 

「そう、一つ目の結界は外界で存在を忘れられた物がここに集められるようにする結界。怪異は人間の信仰によって存在している物だからね、忘れられたら消える定めなのさ、そんな信仰されなくなった物を集める役目を担ってるがこの結界だよ。そして二つ目、こっちの結界は主に幻想郷と外の世界を分断する役割をもっている。簡単に言うなら相互不可侵の為にある結界さ、同じ大地にありながら結界の中は怪異達の世界で、外は人間達の世界と区別するための境界線みたいなものさ。まあ物理的な遮断力はないけどこれがなかなか侮れない。普通の怪異や人間にはまず通る事はできない代物だよ」

 

 

「いやちょっと待て忍野、説明が複雑で良く理解できていないけれどおかしくないか?一つ目の結界に関しては結界にイメージされるような拒絶感がないじゃないか。まるでなんていうか…招き入れる為のシステムみたいに聞こえるぞ?」

 

 

「そこが盲点なんだよ阿良々木君。いいかい?一つ目の結界に招かれる絶対条件は忘れられた物であるという事だ。存在が希薄な物であれば通過できるけど、それは逆説的に確立された確固たる存在は絶対に通過できないということなのさ。強すぎる物は立ち入れないと言っても良いかもね」

 

「ああ、そう言われたら確かに納得がいくな…で、なんで突然そんな結界の話になるんだ?」

 

「それがね、どうやらここ最近でその二つの結界に干渉する者がいるらしい。まあ簡単に打破できるような結界じゃないんだけど少しばかり歪が産まれているみたいでね…阿良々木君がここへ来たのはその歪が産まれたタイミングと忍ちゃんがゲートを開いたタイミングがドンピシャだったからかもしれないんだよね」

 

 

忍野の立てた仮説はつまりこうだ。

 

この幻想郷に入ろうとした誰かがいて、そいつが結界をいじり回してたらなんとかスキマができた。

 

 

その時、たまたま僕と忍が北白蛇神社でゲートを開いた。

 

で、そのゲートが繋がった先がたまたまスキマのできた幻想郷だったと…

 

 

「ふざけんなよ忍野!なんだその迷惑すぎる話は!?今すぐそんな悪戯した馬鹿を僕の目の前に連れてこい!しかるべき罰を与えてやる!!」

 

「落ち着きなよ阿良々木君、本当に元気が良いなあ、何か良い事でもあったのかい?これはあくまでも僕の仮説にすぎないと言ったろ?なんの確証もない与太話さ」

 

「お前の仮説とかは当たるから嫌なんだよ…しかし相手はわからないとはいえ、その強力な結界に影響を与えられるような奴って結構やばいんじゃないのか?」

 

「うーん、それがそうとも言えるしそうとも言えないんだよね…結界の定義としては存在を忘れられた者なはずだから怪異ならば力はほとんど失っているはずなんだ。そうでなければこの幻想郷に気付く事すらできないだろうからね」

 

「なら結界に影響を与える程の力に説明がつかないだろ?」

 

「そうなんだよ、だからまだ調査中なのさ。まあこの話が阿良々木君に関係してるかわからないってのもそういう意味でまだ何とも言えないって意味でもあるしね」

 

「いずれにしても今後に期待…か。まあ僕は待つ事しかできない訳だし申し訳ないがよろしく頼む」

 

「わかってるさ、阿良々木君だって学校もあるしね。なるべく早いうちに片付けるよ」

 

「世話かけるな」

 

「いいよ」

 

「あ、そうそうもうひとつ聞きたいことがあったんだった。なあ忍野、弾幕ごっこって知ってるか?」

 

「ああ、それもこの幻想郷にのみ適応されるルールだよ。この世界においては妖怪と人間の殺し合いはタブーなのさ、そして力の差がありすぎる妖怪と人間が競い合う手段として設けられた弾幕ごっこだね」

 

「殺さない為のルールなのか!?昨日の夜から弾幕ごっことやらに何回か殺されかけてるんだけど…」

 

「はっはー、相変わらずモテモテだなあ阿良々木君は。まあ『今の』君なら弾幕を食らっても簡単に死にはしないさ。それに妖怪達も基本的には殺意を込めた弾幕を打ったりはしないよ」

 

「危険な物に変わりないって事か…ようするに僕が知っているような戦闘方法はここでは原則禁止って事だな?」

 

「そうだね、概ね正解だよ。でも例外もある。この幻想郷にはまだわずかに人間を食う妖怪もいるのさ、そんな奴らに遭遇しちまえばごっこなんて言ってられない。本気で戦うしかなくなる」

 

人を食う妖怪…僕には心当たりがある。

 

幻想郷に来た時に始めて会ったあの蜘蛛の妖怪は確実に僕と忍を食おうとしたいた。

 

いわばその類の妖怪がそうなのだろう…

 

「まあ会わないにこしたことはない。それに弾幕だって殺意を込めて打てば危ない武器なんだ。あれの根本は霊力みたいなものだからね、扱う本人の意思で性質も大きく変わってしまう」

 

「戦闘にならないのが一番って事だな…ありがとう、参考になったよ」

 

「どういたしまして、例の如く阿良々木君が無茶しない事を祈ってるよ」

 

無茶か…

 

それを避けれる性格なら僕は今頃、吸血鬼体質なんて無縁の生活をしていられたんだろうな。

 

「とりあえず僕は静かにお前の調査を待つさ、なるべくなら危険な目にあいたくないからな。ちなみにこれはあくまでも僕の興味からくる質問なんだけど忍野、お前はどうやってこの幻想郷に入ったんだ?お前の話なら普通は入れないはずだろ」

 

僕の場合は忍というパートナーにゲートを開いてもらったから来れた訳で、僕一人だったら来れた場所ではない。

 

対して目の前の忍野は正真正銘一人で来ている。

 

その方法はもしかしたら帰る事にも使えるんじゃないのか?

 

「人の事情をあれこれ聞くのは関心しないな阿良々木君、そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ?まあこれについては企業秘密みたいなものかな。ただ専門家の中でもこんな事ができる者は限られる、バランサーなんてやってる奴はそういないからね。中立の存在だからこそできた方法とでも言っておくよ」

 

「相変わらず回りくどい言い方だな…まあ、僕には真似できないって事はわかったよ。」

 

「参考にならなくて悪かったね、まあ時間はかかるかもしれないけど心配しないで待っててくれよ。」

 

「受験生としてはあまり時間に余裕は無いんだけどな…せっかく変えれたとしても戦場ヶ原に殺されかねない」

 

今日はまだ日曜日なはずだけど明日からは学校だ。

 

昔の僕なら問題なかったけど、今の僕が無断欠席は正直致命傷である。

それでなくても二学期は始業式から欠席してるのに…

 

「なんだい?まだあのツンデレちゃんとうまくやってたのかい?はっはー、結構結構。青春してるね阿良々木君。それなら尚更早く帰れるようにしないと後が怖いな、下手したら僕まで殺されちゃうかもしれないしね」

 

「お前は絶対捕まらないような気がするけどな!なあ忍野、お前はまたあの街に帰ってくる気はないのか?羽川なんかは会いたがってたぞ?」

 

「委員長ちゃんが?まいったね、僕もモテ期なのかな?まあ、あの街に帰るかは兎も角として委員長ちゃんにはいつか会う事になると思うよ。ま、それも今後の阿良々木君次第なんだけどね」

 

「なんだそりゃ?やっぱお前の話はわかるようでまったくわからないな。じゃあ僕はそろそろ行くけど引き続き宜しくたのむな」

 

「じゃあまたね阿良々木君、忍ちゃんにもよろしく言っといてくれ」

 

こうして相変わらず見送りにも出てこない忍野を後にして僕は神社を出た。

 

たいした収穫は無かったけどとりあえずわかったのは『結界に干渉する者』がいるという事か…

 

まあこれも僕には直接関係があるわけでは無さそうだし、やはりしばらくは待つしかなさそうだな。

 

そして僕は紅魔館への道程を歩き始めた。

 

時間には余裕がありそうだし、来た時みたいに走る必要も無さそうだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。