東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第17話ーバンパイヤハンターー

あと僅かで完全に満月を迎えるといったところの丸い月。

 

その月を背にするように夜空に浮かんでいるのは三人の男達だった。

 

これが通常の感覚なら人間が空中浮遊している時点でマスコミが殺到するレベルのスクープなのだけど、この幻想郷に来てからはその程度の事では驚かなくなっていた。

 

 

「お久ぶりですねお二人様、いつぞやはお世話になりました。あれから随分とお探ししたのですよ?まさかこんな隠された土地に移り住んでいたとは」

 

声を掛けてきたのは三人組の中央にいる人物、

 

歳は忍野メメと同じくらいだろうか?

それでも見た目は忍野とは大違いだな…

 

三人ともが同じような黒いマントと黒い神父服のようなものに身を包み、喋り方も紳士的な印象を受ける。

 

後ろに控えている二人は若干若く見えるがそれでも二十代だろう。

 

そしてその印象は僕にとってあまり良いイメージではないのだ。

 

その姿、その喋り方からはあの男を…

 

春休みに戦ったバンパイヤハンターのギロチンカッターを思い出すから…

 

「おい忍、あれはなんだ?やっぱり怪異の類なのか?」

 

決して威圧的でも好戦的でもない相手だけど、あまりにもギロチンカッターを連想させるこの男に警戒しない訳にはいかなかった。

 

それにこの中に知り合いがいるような物言いだし、幻想郷についても詳しくなさそうなところから察するに忍の知る人物だと仮定したのだ。

 

だからこそ忍に対して質問したのだけど、それに答えたのは忍ではなかったーーー

 

「失礼、初見の方もいらっしゃるのに自己紹介が遅れてしまいましたね。私はブラム・クルースという者です、そしてこの二人は私の弟子になります。ほら、二人とも自己紹介しなさい」

 

促された二人が一歩前に出る。

 

「どうも、僕はバン・ブラハム。宜しくね」

 

「…ヴィンセント・バフィーだ」

 

 

「私達は人探しをしてここまで来たのです、そこのレミリア・スカーレットさんとキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードさんを探してね。」

 

レミリアと忍を探して来たと言うブラム・クルース。

 

この二人と共通の知り合いにして三人組という条件に悪寒が走る…

 

なぜなら僕の予想が正しいならばこの三人組はーーー

 

「お前達、何者だ!この紅魔館に何の用だ!?」

 

叫んだのは美鈴さんだった。

 

この三人組に何かを感じたのか、いつもの穏やかで親しみやすい様子ではなく鬼気迫る態度だ。

 

だが、そんな臨戦態勢ともとれる美鈴さんを気にもしないような態度のブラム・クルースは答えた。

 

僕の一番恐れていた返事をーーー

 

「何の用?言ったじゃないですか、人探しをしていたと。私達はそこの二名の吸血鬼を探してここにやって来たんですよーーー」

 

 

ーーーバンパイヤハンターとしてねーーー

 

 

ハンターの存在は知っている。

 

嫌というほどにあの地獄のような春休みに味わった存在だ。

 

人間である者、人間と吸血鬼のハーフ、中には自身も吸血鬼なのにバンパイヤハンターとして同族狩りをする者までいた。

 

そしてその力は絶大。

 

種族によって狩り方や力も違うがバンパイヤハンターに共通して言えるのは『強い』という事だ。

 

そんな奴が目の前に三人ーーー

 

「ふん…見たくもない顔がぞろぞろと押し掛けよって。うぬ等、何故ここにおる?」

 

ここまで黙っていた忍が口をひらく、

 

が、その態度は不愉快を隠す気もなく、殺意にも似た嫌悪感を感じさせる。

 

「随分と嫌われてますね、何故も何も勿論目的はひとつですよ。貴方方のような凶悪な吸血鬼を討伐に来たのです」

 

「そんな事を聞いておるのではない、うぬ等は人間であろう?儂に殺された事を差し置いても寿命というものがある、人間であるはずのうぬ等が何故ここに存在しておるのじゃ?」

 

 

話を聞くにこの三人組がその昔、忍とレミリアが別れるきっかけになったバンパイヤハンターの三人組である事は間違いなさそうだ。

 

でもその話は二百年も前の話、こんなにも若々しい見た目の人物がそんな老体なはずがないのだ。

 

というか普通なら死んでいるはずである。

 

「そうです、私達は貴方に殺されました。ですからあの時に人間としては終わっています、でも私達の想いは終わっていなかったのですよ」

 

「わけのわからん事を言いよる、要するにうぬ等は人間ではないと?」

 

「如何にも。貴方に殺された後、私達の魂は魂魄として冥界に誘われるはずでした、でも私達はそれを拒否した…転生を拒否したのです。その結果、思念体として、いや、亡霊とでも言いましょうか…こうして現世へと留まる事に成功しました、これも貴方方のような吸血鬼に対する憎悪の念があってこそ、感謝いたしますよ」

 

感謝するという言葉とは裏腹に憎悪を口にするブラム・クルース、

 

それにしても疑問が残る。

 

何故今なのか?二百年もの時間がありながら何故このタイミングなのか?

 

いかに世界中を探し回っていたと言っても二百年もかかる人探しなど有り得るだろうか…

 

 

「それにしてもおかしいわね、私と忍お姉様が再会したのも二百年ぶり…あまりにも貴方達にとってタイミングと都合が良すぎるわ。これはどういう事なの?」

 

僕が抱いた疑問を口にしたのはもう一人の当事者であるレミリア。

 

確かにこの二人の再会とこのハンター達の登場はタイミングが良すぎる。

 

「簡単な事ですよ、生前の私達が敵わなかったお二人にそのまま挑むのは具の骨頂、やはり何かしらの対策が必要です。しかも相手はあの伝説の吸血鬼ですからね、並大抵の対策では子供騙しにもならない。だから待っていたのですよ」

 

「待っていた?何を待っていたというの?」

 

「知れたこと、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが弱体化する時を待っていたのです。今の私達には時間の制限がない、いつか来るであろう好機を待つ事は問題にもなりませんでした。ま、二百年もかかるとは思いませんでしたがね」

 

忍の弱体化…

 

それは同時に僕の…阿良々木暦の吸血鬼化の事を指すーーー

 

これまで死ぬ程の後悔をしたあの春休みの出来事…

どうやら再び後悔の上塗りをする事になりそうだ。

 

「はっ、テメェのおかげだぜそこのアホ面したクソガキ。テメェがその化け物とペアリングされたおかげで大分力が落ちやがったからなぁ」

 

僕を見下ろしながらヴィンセント・バフィーが乱暴に言い放つ。

 

「ダメだよバフィー、彼のおかげでこんなチャンスに巡り会えたんだ。彼は世界を救ってくれたも同然だよ?」

 

まるで軽口でもきくように穏やかな様子なのはバン・ブラハム。

 

この二人の性格は正反対のようで相性は良さそうに見える、

 

短気なヴィンセント・バフィーを穏やかなバン・ブラハムが和ませる…そんな関係と見て間違い無いだろう。

 

ただ、僕はそんなつまらない性格分析を続ける程に冷静ではいられなかったーーー

 

 

「ま、待って下さい!僕はそんなつもりで忍と一緒に生きる事を選んだわけじゃありません!それに説明が付かない事はまだあります、何故忍が弱くなるのを待っていたあなた達がこの幻想郷で現れたんですか!?」

 

そう、忍を狙って待ち続けていたならあの春休みに仕掛けてこれたはずなのだ。

 

少なくとも僕と忍のペアリングを知っているという事は春休みの出来事を知っていなければ説明がつかないのだから。

 

「貴方はなかなか良い所に着目しますね、その質問には私がお答えしましょう」

 

拍手と共に笑顔を向けるブラム・クルースは淡々と話す

 

「貴方のご察しの通り、数ヶ月前、貴方とハートアンダーブレードがペアリングされた事は知っております。勿論そのタイミングでハートアンダーブレードを討伐する事はできました。ですがそれだけでは私達の目的は達成したとは言えない…」

 

「目的の達成?」

 

「そうです、会った時にも言いましたが私達の目的はこの二人の討伐。ハートアンダーブレードだけを討伐しても意味がないのですよ。そこのレミリア・スカーレットが一緒でないとね」

 

その紳士的な物言いとは裏腹に、とてつもない邪気を孕んだ目でレミリアを見るブラム・クルースーーー

 

それはあのプライドの高いレミリアを相当刺激したらしく、一瞬にしてレミリアの表情が強張る

 

 

「ふん、たかが人間が今の私達に勝てるとでも?いえ、たとえ私がいなくて忍お姉様だけだったとしても再び殺されるのが落ちだったでしょう。二百年前に少し私を追い詰めたくらいで思い上がらない方が良いわよ?」

 

怒鳴りはしないものの凄まじい程の怒気を含んだ言葉に僕を始めとする紅魔館の住人達の表情が固まる。

 

プレッシャーだけでその場から逃げ出したくなる程の気迫ーー

 

あの他人を褒める事を滅多にしない忍が強いと認めるだけの事はあった。

 

が、しかし…

 

そんな圧力すら全く通じていないかのように三人の男達は平然としている。

 

「はは、そう怒らないで下さい。私は今貴方と話をしている訳じゃないのです、そこの青年と話しているのですから。さて質問の返答に戻ります、どうして幻想郷に現れたか、ですよね?」

 

「そ、そうです。そもそもここはそんな簡単に入れるような世界じゃないはずですよね?なのに何故!?」

 

「その理由は簡単です。この世界は忘れられた者が集まる世界、生前の私達は人々に尊敬され、頼られ、恐れられていた、ですが時間というのは残酷なものです。二百年もの月日は私達が生きた歴史をも忘却の彼方に消してしまった…そう、私達の存在は世界に忘れ去られていたのですよ。そして気付いたのです、この幻想郷の存在に。そして同時にこの幻想郷に住むレミリア・スカーレットの存在にね」

 

世界に忘れ去られる程の時間を過ごしてきたというこの男達ーーー

 

それは人間なんかには想像もできないような膨大な時間だったに違いない。

 

そして、気付いた…

忘れられた者が集まるこの世界に。

 

でもまだ解けない問題は残るのだ。

 

「貴方達が幻想郷を見つけた事はわかりました…でもここの結界はそれだけでは通れないはずです!僕と忍だって偶然で通れただけであって貴方達はどうやって!?」

 

「ふふふ…それは偶然では無かったのですよ。確かに幻想郷に気付き、バンパイヤハンターのスキルでレミリア・スカーレットの存在を知る事もできました、ですが私達だけでは幻想郷に侵入する事はできなかった。貴方達の協力無しにはね」

 

 

「えっ!?ちょっと待って下さい!僕達の協力ってどうあう事だ!?」

 

「ゲートを開きましたよね?前回のような時空を超えるゲートではなく空間をねじ曲げるようなゲートを。私達はそれに干渉しただけですよ、この幻想郷に繋がるようにね」

 

この男は僕達の事をどこまで知っているのだろうか…

 

いや、それよりもこの男の言う事が本当ならこんな危険人物を幻想郷に連れてきたのは間接的とはいえ僕達の責任という事になる。

 

 

「結界を破る事はできないまでも結界に隙間を作る事はできるのですよ、他者による助力があればですけどね。おかげで私達は長年待ち望んだ状況に立ち会えた、感謝しますよ…阿良々木暦さん」

 

やはり紳士的でありながらも濁った目で僕を見据えるブラム・クルース…

 

 

そして僕は自分の間抜けっぷりに言葉も出なかった。

 

僕があんなバカな事を考えなければ、少なくとも幻想郷の住人が危険な目にあう事はなかったのだ。

 

「ふん、阿保のような顔をするでないお前様よ。そもそもお前様が気にするような事ではなかろう、今回たまたまこうなっただけでこ奴等はいずれ儂を襲っておった。あくまで偶然こうなったにすぎん」

 

結果的には変わらないと主張する忍、それは僕を庇ってなのか、くだらない問答は止めにしたいという意思なのか…

 

どちらにせよこの事態を不愉快に思っている事は確かだった。

 

「で、うぬ等はどうしたいのじゃ?念願のシチュエーションなのじゃろう?儂もレミリアも今一度うぬ等を葬る事は吝かではないぞ、ベラベラと喋っておらんでかかってきたらどうじゃ?」

 

ここまできて既に戦闘態勢は万全の忍、そしてその言葉に反応して構えるレミリア、今この瞬間にでも飛びかかりそうな勢いだったーーー

 

 

 

が、予想外な言葉でこの場は急速に方向を変える。

 

「残念ですがそれは今ではない、あの月が三日後、完全な満月になります。貴方方吸血鬼が一番力を発揮できるのは三日後なのです。二百年も待ち望んだ宿敵と戦うなら万全であって頂きたいですからね、それまではお待ちしますよ。せめて親しい者とのお別れの時間を楽しんで下さい」

 

三日後の満月の夜まで待つという三人ーーー

 

それは絶対に勝てるという余裕からなのか単なる罠なのか、真意が全く掴めない。

 

「かかっ、儂が弱体化するのを待っておったとぬかす奴が今度は万全になるまで待つと言いよるか?」

 

「完全体の貴方はあまりにも強すぎますからね、私達としてもハンデは貰いたいのですよ。その変わりの満月なのです。簡単に死んだりしないで楽しませて下さいね?」

 

「ふざけた事を言ってないで今すぐかかってきたら?満月なんて待ってたら只でさえ無い勝機が余計に無くなるわよ?」

 

 

睨み合う両者…いや、ブラム・クルースに関してはヘラヘラと笑うだけで睨んですらいなかった。

 

「ちょっと待って下さい!忍達に危害は加えさせない!」

 

そう、こうなってしまった原因は僕にもあるのだ。

 

ここで黙って傍観者を気取っている訳にはいかない。

 

「おや?貴方は人間でしょう、何故吸血鬼なんかの味方をするのですか?」

 

「確かにこいつは昔は恐れられ、人を殺した事もあるかもしれない…でも今は違う!僕が一生かけて二度とそんな事はさせない!それにレミリアだって今は幻想郷の住人だ、人間を襲うような事はしない!お前達が二人と戦う理由はないはずだ!」

 

少なくともバンパイヤハンターとして二人を討伐するならば、無害であるはずのこの二人を相手にする理由はもう存在しない。

 

これは僕にとって唯一の希望であり、最後の賭けだった。

 

でもそんな儚い希望は一瞬で崩れ去る…

 

「馬鹿馬鹿しいですね、私達がバンパイヤハンターとして二人を追っていたのは人間であった頃の話。今は違うのです。今の私達は私怨で動いています、富と栄光を約束されていた私達を殺した吸血鬼をこの手で葬り去るためだけに。わかったら貴方は三日以内に消えて下さい。でないと巻き添えを食いますよ?」

 

わかってはいたけどやはり話は通じなかった…

 

だからといって僕に撤退の意思は無い。

 

「退けないな、僕は忍と生きると決めたんだ。こいつが明日死ぬなら僕の命は明日までで良い!どうしても忍を殺すなら僕も殺されるまで戦うだけだ!」

 

「お前様…」

 

殺される事の恨みがどれほどかはわからない…

 

この三人が忍とレミリアを恨むのも当然かもしれない…

 

それでも僕は守りたいのだ、一度は助け、一度は殺し合い、そして一生を共に生きると誓ったパートナーを。

 

「やれやれ…話になりませんね。貴方も死ぬ事になりますよ?それでも構わないんですか?」

 

呆れ果てて理解できないと言った態度のブラム・クルース。

 

それもそうかも知れない…

 

人間が吸血鬼を狩るためではなく、守るために命をかけると言っているのだからバンパイヤハンターとしては理解不能だろう。

 

 

「残念ですがそれは私達も同じよ、お嬢様に害を成すつもりなら黙って見ている訳にはいかないわ」

 

言葉の聞こえた方に目を向ければ、ここまで黙って聞いていた咲夜さんと美鈴さんが凛とした態度で構えていた。

 

「勝手に出過ぎたマネをして申し訳ありませんお嬢様、ですが私達も暦さんと同様にお嬢様を黙って殺させる訳にはいきません!共に戦うことをお許し下さい」

 

「何よあなた達…それじゃまるで私が負けるみたいじゃないの。まぁ良いわ、勝手にしなさい」

 

不機嫌そうに振る舞うも少しニヤケているレミリアはある意味で誰よりも素直だった。

 

この人達とレミリアの間にどんな絆があって、どんな物語があったのかはわからない…

 

それでもレミリアと共に生きる事を望む気持ちは僕達と同じようだ。

 

「ねぇ暦お兄様、あいつらは暦お兄様やレミリアお姉様の敵なの?」

 

事の成り行きがわかっていなかったレミリアも単純ではあるが状況を理解して僕に尋ねてくる。

 

「敵っていうか…まあ仲良くはできない人達だよ。ほっといたらレミリアや忍が危ないんだ」

 

「じゃあ敵なのね?それなら私の敵って事じゃない、許す訳にはいかないわね」

 

うーん…僕としてはフランまで危険な目に合わせたくはないんだけど…

 

でもフランだって純粋な吸血鬼である上にレミリアの妹なのだ。

 

いつ標的にされるかわからないという意味では戦う理由は充分なのかもしれないな…

 

「そうゆう事です、残念ですが僕達は退かない!貴方達が三日後に来るならその時は僕達全員で迎え打ちます!」

 

「仮にもバンパイヤハンターとしては無関係な吸血鬼以外の者を相手にするのは気が進まないんですがね…まあ猶予は三日あります、良く考えて行動して下さい」

 

自分達が憎むべき相手にこれだけその身をあんじてくれる存在がいることを不思議に思うようなブラム・クルース。

 

それでも数の有利など無意味と言わんばかりに不敵な笑みは崩さなかった。

 

「ちっ…もう良いじゃねぇかクルース。どうせこいつ等も吸血鬼の仲間なんだからついでに殺しちまえば良いんだよ!ごちゃごちゃ面倒くせぇ事を言ってねぇで始末すんのが一番早ぇ」

 

「僕もバフィーに賛成だね、ついでに殺すってのは言い過ぎだけど悪は根絶やしにしないと次から次にわいてくる。絶てる芽は絶っておくべきだよ」

 

どうやらブラム・クルースとは逆に好戦的なヴィンセント・バフィーとバン・ブラハム。

 

思想の相違はあっても争いを避ける気はさらさら無いようだった。

 

「よぉテメェ等、三日後に来るまでせいぜい生きる喜びを味わえよ?逃げる奴は早いうちに逃げるんだな、クルースの顔を立てて逃げ出した腰抜けまでは追いかけねぇからよ」

 

「逃げるじゃと?自分より弱い相手から逃げる必要がどこにある?うぬ等こそ吐いた言葉を死ぬ程後悔させてやるからそのつもりでおるがよいわ」

 

あくまでもやる気な二人を尻目にブラム・クルースとバン・ブラハムは笑っていた。

 

 

「はっ!笑わせるぜ!まぁ三日後を楽しみにしてろ、三日後テメェ等はこうなるんだからよ」

 

まだ勝負もしてないうちから勝ち誇ったような態度のヴィンセント・バフィーが黒いマントから何かを取り出すーーー

 

そしてそれを見た僕達はヘラヘラ笑う相手とは対照的に凍りついてしまったーーー

 

 

「チ、チルノっ!?」

 

 

ヴィンセント・バフィーの手にぶら下げられたのは、あの人懐っこくも頭が悪い妖精のチルノだった。

 

ただ、僕が見かけた元気で活発な彼女は見る影もなく、そこには全身ボロボロで至る所から出血した痛々しいチルノの姿だったーーー

 

「はっ!ここに来る途中でいきなり喧嘩売ってきやがったんだよ。たいして強くもねぇクセにいきがるからこうなるんだ。テメェ等もこうならないように祈るんだな」

 

「まったく…貴方も悪趣味が過ぎますよバフィー。弱い者虐めはやめなさい」

 

 

「そんな事はどうでもいい!早くチルノを離せよこの野郎!」

 

その姿を見せられてすっかり激昂した僕は考えるより先に叫んでいた。

 

「なんじゃお前様よ、あれはお前様の知り合いか?」

 

「知り合いっつーか今日知り合ったんだ!それにあんな小さい子に手を出すなんて許せる訳ないだろ!」

 

「はっ!小さい子だぁ?こいつはこれでも列記とした人外でテメェより遥かに年上だぞ?」

 

「知らねえんだよそんな事は!さっさとチルノを離せって言ってんだろうが!」

 

僕が怒れば怒る程に愉快そうに笑うこいつが本当にイライラする。

 

さっきからは考えられないくらいこの場で僕が誰よりも殺気立っていたーーー

 

「そんなに返して欲しいか?なら受け取れよ!そら、テメェが欲しがってる大事な大事なお嬢さんだ!」

 

そう言うとヴィンセント・バフィーはチルノを投げた。

 

まるで野球ボールかゴミ屑でも投げるように乱暴に強烈に投げ捨てたのだーーー

 

「チルノっ!」

 

駄目だ!間に合わないーーー

 

チルノが軽いからか奴の腕力が強いのか、凄まじい勢いで投げられたチルノは吸血鬼の脚力をもってしても落下に追いつけるものではなかった。

 

 

マズい!このままだと地面に激突する!

 

その刹那ーーー

 

「大丈夫よ」

 

瞬きをするよりも早く落下地点に現れたのは咲夜さんだった。

 

衝撃は決して弱くはなかっただろうけどしっかりとチルノをキャッチしてくれた。

 

「どうやって!?いや、それよりもありがとうございます咲夜さん!」

 

一瞬遅れて咲夜さんとチルノのもとに駆け寄る。

 

どうやらチルノも怪我はしてるが気を失っているだけみたいだ。

 

「お礼を言われる事はないわ。本来なら妖精なんて助けたりしないけどあんな下衆にこの幻想郷の者を好きにされたくないだけよ」

 

やっぱりどこか戦場ヶ原と被るな…

 

そして戦場ヶ原にとっての僕は、きっと咲夜さんにとってのレミリアだろう。

 

デレのレベルは月とすっぽんだけど…

 

って、それどころじゃない!

 

「お前…何でここまでする必要がある!?チルノはもう気を失ってただろ!」

 

どうしようもない怒りを込めてヴィンセント・バフィーを怒鳴りつける。

 

それがこの男に対してどれだけ無意味だろうがそうせずにはいられなかった。

 

「はっ!ウゼェ奴だなテメェは。そいつが喧嘩売ってきたっつってんだろ?自業自得だろうが」

 

ここまで散々言い合いのような言葉を交わしてきた僕の中でとうとうこの三人組の印象が確信的に変わった。

 

こいつらは話が通じない。

 

紳士的だろうが暴力的だろうが楽観的だろうが自分の画を通す事しか考えていないーーー

 

誰よりも独裁的な集団なのだ。

 

「…三日後、覚悟するのはお前達だ!僕は絶対に許さない!」

 

「はっ!良い目になったじゃねぇかよ。楽しみにしてるぜクソガキ」

 

争いを心底好まない僕の戦線布告に誰より驚いたのは恐らく忍だろう。

 

こちらを見ながら満足気に頷いた忍はブラム・クルースに向き直った

 

「聞いたなうぬ等、儂等は逃げも隠れもせん。次こそ地獄に叩き落としてやるからそのつもりで来るがよいわ」

 

それはいつもの余裕たっぷりな凄惨な笑みだった。

 

「仕方ありませんでしね、少々予定とは違いますが良いでしょう。では三日後、楽しみにしてますよ…」

 

 

そう呟くと辺りをあの激しい光が包むーーー

 

 

目も眩むような光の中であの三人の笑い声だけが聞こえていた。

 

そして紅魔館のまわりが夜の暗闇を取り戻すと、三人組は消えていたのだった。




長い文になってしまった今回ですがいかがだったでしょうか?
ハンターの登場で物語は急展開を辿っていきます!

ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!

ご意見、ご感想は常にお待ちしております!
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