東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第18話ー誇りー

三人の男達が去った後の紅魔館は重い静寂に包まれていた。

 

現在、僕は自分用に充てがわれた部屋にいる。

その部屋のベッドには静かに寝息を立てるチルノと、その傍には彼女の応急処置を終えた咲夜さんが立っていた。

 

 

「これで急場は凌げるでしょう。そもそも妖精は自然が生み出したもの、自然が存在する限りはその存在も消滅したりしないわ。それでも危なければ明日にでも永遠亭に連れて行きましょう」

 

「あの咲夜さん…永遠亭って…?」

 

「この幻想郷の診療所みたいな所よ。暦さんみたいな吸血鬼体質の人には無縁かもしれないけど大怪我や病を患った人は皆そこに行くの。さて…それではお嬢様の所へ行きましょう。」

 

ひとまず容体も落ち着いたチルノに布団をかけて僕と咲夜さんは部屋を出た。

 

その枕元に一言『ごめんな』と声を掛けて…

 

現在、僕と咲夜さん以外のメンバーは全員で地下の大図書館に集まっている。

 

例の三人組の事を話し合う為だ。

 

三日後の満月の夜に再び現れると宣言して去っていった彼等、その対策についての会議だった。

 

「遅いぞお前様、他の者も待ちくたびれたわい」

 

図書館に着くと既に僕達以外の全員が大きなテーブルに着席していた。

 

「ああ、ごめん。少し手当に手間取ってた」

 

見渡せばパチュリーさんも一緒に着席していた、そしてその横に座っているレミリアからも言葉が掛かる。

 

 

「それで咲夜、あの妖精は大丈夫なの?」

 

「はいお嬢様。応急処置は終えたので問題はないかと。妖精の生命力があれば大丈夫だと思われます」

 

「そう…ご苦労だったわ。では貴方も席に着きなさい」

 

こうしてレミリアの進行のもと、緊急の対策会議が開催されるーーー

 

「では始めるわよ、まず最初にあの三人の特徴から。これについては過去に戦っている私と忍お姉様から説明するわ。忍お姉様、お願い」

 

「うむ、ではまず奴等のリーダーにあたるブラム・クルースからじゃな。奴は剣の使い手じゃ、そして魔法にも長けておる。まあ魔法というよりは外法じゃな…他者の力を阻害するような忌々しい魔法じゃよ」

 

「待ってくれ忍、他者の力を阻害する魔法って何だよ?」

 

たまたま僕が質問しただけで、これについては全員が疑問に思ったらしくその視線が忍に集まる。

 

「そうじゃな、魔法と言えば火や水などの自然界に存在する力を自在に操る事が一般的じゃが奴の魔法は違う。奴の魔法は他者の身体にこそ作用するのじゃよ、奴の結界の中では吸血鬼の弱点は、より一層の弱点になるしスキルは制限される。少なくとも闇に同化するようなスキルは使えなくなるのう」

 

「いまいちわかりにくいな…それはそんなに厄介な力なのか?僕にはあまりわからないけど」

 

「これは実際に戦ってみんとわからんよ。回復力も落ちるしそんな状態で十字架や銀の攻撃を受ければ全盛期の儂でも危ないかもしれん。奴等の武器は全て銀製じゃったしな…現にその魔法のせいで昔レミリアは危険な目にあっておるしの」

 

自信家の模範のような忍が危ないと言うのだ、それは実際に危険なものなのだろう。

 

レミリアに視線を向けるとその時の出来事を思い出したのか、怒りにも似た表情を浮かべていた。

 

「空間魔法の類ね」

 

口を開いたのは同じ魔法使いであるパチュリーさんだった。

 

「空間魔法?…って、それはなんですか?」

 

「限られたの空間の中において限定的に条件変更をかける魔法よ。その男の結界の中では空間に干渉するような魔法は使えないと考えるべきね。空間に溶け込む吸血鬼のスキルや…咲夜の時間停止なんかも使えない恐れがあるわ。結界内での戦いはデメリットもあるけど驚異的な部分も多いのよ」

 

「聞く限りデメリットがあるようには思えないわね。ねぇパチェ、それの何処にデメリットがあるのよ?」

 

 

過去に煮え湯を飲まされた経験からだろうか、ブラム・クルースの話に食いついてくるレミリア

 

「空間魔法を展開する者は結界を展開している間はその他の魔法を使えないものなの、それがデメリットよ。対して他の者は空間魔法でなければ自由に使えるはずよ、もんろん弾幕もね。相手はそれに対して物理攻撃しか攻撃手段がなくなるの、よっぽど格闘に自信がなければできない魔法よ」

 

ブラム・クルースの格闘センスに思い当たる節でもあるのだろうか?

 

レミリアは納得したように腕を組んで黙り込んだ。

 

「確かにその魔女の言う通りじゃ、奴は基本的に剣での戦いしかせん。じゃがその剣技が危険なのじゃ…まず吸血鬼の動体視力でなければ剣筋が見えんからのう、癪にさわるが奴は達人じゃよ」

 

率直な印象としては

 

『人間っぽい奴』

 

だった。

 

宙に浮いたり結界を扱うあたりから、奇天烈な魔法なんかを駆使してくると思っていたのが物理攻撃とは…

 

いや、今は亡霊というだけで元は人間なのだ。

使える技術も人間が編み出したものであるのは当たり前か…

 

「それだと紫や霊夢はどう説明するのよ?あいつ等だって結界の使い手よ?パチェの言う通りならあの二人だって弾幕ごっこなんてできないはずじゃない」

 

「博麗の巫女と八雲紫をその辺の人間上がりの亡霊如きと一緒にしちゃダメよレミィ。そもそもこの幻想郷を覆う規模の結界が展開できる時点であの二人そのものが異変なんだから、まぁ博麗の巫女に関しては先祖代々の積み重ねも関係しているようだけど」

 

 

確かに今のパチュリーさんの話を聞けばこの幻想郷の結界主は尚更化け物じみている気がする。

 

まあ、だからといってあの三人組が危険である事に変わりはないんだけど…

 

「しかしそんな危ない奴が三人もいるのか…驚異的だな…」

 

「うむ、更にその弟子に当たる二人じゃな。まずは能天気な楽天家のような小僧の方、バン・ブラハム。奴は銃器の使い手で多彩な魔法も使ってくる、昔レミリアを打った張本人じゃ。もちろん弾は全て銀製、飛騨すれば人間はもちろん吸血鬼もただではすまん」

 

「拳銃!?マジかよ!そいつが一番危ないじゃねえか!!」

 

「いや、実力で言えばやはりブラム・クルースが一番厄介じゃよ。拳銃と聞けば驚異的に思えるが今のお前様なら簡単にはくらわんはずじゃ、三日後ともなれば尚更のう。奴の一番面倒なところは魔法と銀弾のコンボじゃ、状況によってはブラム・クルースに引けをとらんよ」

 

 

「結局のところ危ない奴には変わらないのな…」

 

「まあ油断はせんことじゃな、誰をとってもあの三人に雑魚はおらん。負ける気はせんが儂でも手傷くらいは負うじゃろうしのう」

 

忍が手傷を覚悟する相手…

その昔、レミリアを瀕死にまで追い込んだ相手…

 

チルノを傷付けられた事によって頭に血が上っていた僕だけど、その話を聞けば聞くほどに相手の恐ろしさを実感してしまう。

 

 

「はあ…まあ、それも今更だな。危ないなんて事はわかってた事だ、諦めるよ。で、忍、三人目の男は?」

 

「かかっ、勝つ事まで諦めたような口振りじゃなお前様よ?儂とレミリアがおって負けるはずがなかろう。ただ用心だけはしておけという意味じゃ」

 

「そうよ暦、私が不覚をとったのは二百年も前の話…今の私があの程度の亡霊の寄せ集めに負けるはずがないわ、それに忍お姉様もいるし紅魔館の人間もついている。私達が勝つ運命は揺るがないわ」

 

 

「勝つ事まで諦めてはいねえよ、それでも怖いものは怖いんだよ。それより忍、三人目はどうなんだ?」

 

 

「三人目、ヴィンセント・バフィーじゃな。お前様としても一番腹に据えかねる相手じゃろ?奴は武器という武器は扱わんよ、魔法も使わんしな」

 

「はあ?それはどういう意味だよ?武器も無しにバンパイヤハンターなんてやってたってのか!?」

 

どうにも腑に落ちなかった。

 

仮に亡霊といえども元は人間でバンパイヤハンターとして生きていた者だ。

それが何の武器も持たずに戦ってきたと言われれば簡単に納得はできない。

 

 

そういえばあのギロチンカッターも武器らしい武器を持ってはいなかったけど…

 

ギロチンカッターとヴィンセント・バフィーでは余りにも異質な気がしたのだ。

 

「忍お姉様が言うのはそのままの意味よ暦。奴は武器を持たないの、奴自身が武器みたいなものよ。まぁ正確には武器も魔法もあるんだけど」

 

「正確にはって…いったいどっちなんだよ?」

 

「あいつは両手両足に銀製の甲冑を付けているの、そこに魔力を纏って打撃で攻撃するのがヴィンセント・バフィーの戦闘スタイルよ。確かにバンパイヤハンターの中でも打撃が主な攻撃手段という者は珍しかったわね」

 

レミリアのその言葉に僕は妙に納得してしまった。

 

あの男が殴り合いで勝負している姿を想像したら余りにもしっくりきたのだ。

 

 

「でも油断はできないわ、シンプルな攻撃手段だからこそ一撃の必殺力はバン・ブラハムを凌ぐ…接近戦ではヴィンセント・バフィー、遠距離ではバン・ブラハムといったところかしら。そこにブラム・クルースの結界のせいで闇に紛れる事もできないからあの打撃も馬鹿正直に対処しなきゃならないし…組み合わせが厄介なのよ」

 

 

「バランスのとれたチームなんだな…そりゃバランス好きのあいつが喜びそうだ」

 

「ん?誰の事?」

 

「いや、こっちの話だよ。なんでもない。で、その三人組にどうやって対応するんだ?まさか乱闘に持ち込む訳じゃないんだろ?」

 

三人の特徴を聞いた上で思ったのはこちらとの相性だった。

 

例えば遠距離攻撃に特化したバン・ブラハムに対して僕や美鈴さんのような接近戦タイプはあまりにも相性が悪い。

 

いくつかのグループに分けて…できれば三人組を一人一人分断するような形がベターだと思われる。

 

だが、そんな僕の意見とは逆にレミリアが出した提案は単純明解なものだったーーー

 

 

「ブラム・クルースは私達吸血鬼だけで戦わせてもらうわ、残りの二人は貴方達に任せる」

 

私達吸血鬼とは恐らく忍とレミリア…あとはフランの事だろう。

 

僕と話していながら貴方達に任せるという発言から、その吸血鬼メンバーに僕は含まれていない事は明白だった。

 

 

それにしても…

 

「ちょっと待ってくれレミリア!それは余りにも無謀じゃないか!?相手の特徴まで理解しているならそれに見合った組み合わせとかーーー」

 

僕はレミリアのあまりに考え無しな発言に思わず席を立ってしまった。

 

 

勝ち負けを心配するのは勿論だけどそれ以上に自信がありすぎるのは過信でしかないという思いが先行してのことだ。

 

しかしそんな僕を遮ったのは他でもない僕のパートナーだった。

 

「落ち着けお前様よ、レミリアは何も考えずに言っておるのではない。それはこの場の誰よりも儂が一番良くわかっておる」

 

「わかってるって…なら僕達にもわかるように説明してくれないか」

 

 

「…吸血鬼はな、誇りを何よりも重んじる。人間や他の怪異からしてみれば身勝手で馬鹿げている事かもしれんが儂ら吸血鬼にとって誇りは命よりも重いんじゃよ。今回の相手は過去にレミリアのプライドを踏みにじった相手じゃ、その大将を討ち取りたい気持ちは痛い程わかるし儂も同じ気持ちじゃ。吸血鬼の誇りを汚したあの男を生かしてはおけん」

 

「誇り…じゃあ誇りの為に吸血鬼だけで戦うって事か?」

 

「そうじゃ、お前様を含めこの館の住人は巻き込む形になってしまうが許して欲しい。この通りじゃ」

 

ふいに立ち上がった忍が頭を下げた。

 

あのプライドの塊のような忍野忍が頭を下げたのだ。

 

吸血鬼はプライドが高いと言った側から他人であるレミリアの為にその頭を下げた…

 

それだけで…たったそれだけの行動で、この吸血鬼達が抱える過去の意味が良くわかってしまう。

 

そしてその行動がどれだけ僕をパートナーとして想ってくれているかも…

 

「ちょ、やめて忍お姉様!私のために忍お姉様が頭を下げる必要なんて無いじゃない!」

 

同じ吸血鬼であるレミリアにも事の重大さはわかったようですぐさま、止めに入る。

 

だが、忍は断固としてその姿勢を崩そうとはしなかった。

 

「もう何も言う必要はないんじゃないかしら暦さん…少なくとも私達はお嬢様の戦いに邪魔をさせないようサポートするのも本望ですし、例え人間であっても誇りを大切にする気持ちはわかるはずよ?」

 

「咲夜さん…」

 

「そうね…吸血鬼の長きに渡るその歴史に他者が安易な気持ちで介入して良いものじゃないわ。私はレミィが満足のいく形をとらせてあげたい」

 

「そ、そうですね!それに私達の相手だって簡単じゃなさそうですしここはレミリアお嬢様達を信用して自分達の戦いに集中した方が良いと思います!」

 

「パチュリーさん…美鈴さんも…」

 

思い悩む僕だったけど答えは初めから決まっていた事だ…

 

忍がここまでして貫き通そうとしている意思なら僕はそれを尊重するしかないーーー

 

吸血鬼の歴史はわからないけど僕と忍の歴史はそうやって築いてきたのだから。

 

「ねぇ暦お兄様?忍様とお姉様の言う通りにしてあげて?吸血鬼が頭を下げているのよ…その気持ちを粗末にするなら私、暦お兄様を嫌いになっちゃうわ」

 

「フラン…ったく、ここの人達は僕よりも甘いんだな」

 

思わず笑ってしまう。

 

散々まわりの人間からお人好し呼ばわりされてきた僕が、ここの住人達を前に全く同じ気持ちになってしまうのだから笑うしかないだろう。

 

「大丈夫だよフラン、僕はそこまで冷血でも鉄血でもないさ」

 

僕の言葉でフランがいつもの笑顔を取り戻す。

 

「もう頭を上げてくれ忍、お前にそんな格好は似合わない。お前はいつもみたいに高すぎる目線から命令口調で喋ってれば良いんだよ」

 

それを聞いた忍がゆっくりと頭を上げる

 

「ふん、たまには良いかと思ってせっかく頭を下げてやればつけ上がりおって。じゃが…それでこその我があるじ様じゃ。安心せい、この儂がおるのじゃ。万が一にも負けやせんよ」

 

「当たり前だ、お前の真剣な願いを無下にするような男だったか僕は?それにお前の願いを受け入れたからには無事でいる事は最低条件だ!もちろんレミリアとフランもな」

 

 

「ふん、誰に口をきいているのかしら?吸血鬼の中でも最強の私達が揃っているのよ?無事じゃすまないのはあちらの方ね」

 

「あはは!大丈夫だよ暦お兄様、誰が相手でも私が壊しちゃうから!」

 

フランが多少危ない発言をしていたけどすっかりいつも調子を取り戻していた。

 

それに僕も他人事ではないのだ。

 

過去の因縁があったとはいえ、この幻想郷にあいつらを入れてしまった責任は僕にもある。

 

それは僕が果たさなきゃいけないものだから。

 

「じゃあ吸血鬼組以外はこっちで作戦会議でもしようか」

 

こうして忍、レミリア、フランを置いて図書館を出ようとした。

 

そう、出ようとしたタイミングでドアが勝手に開いたのだ…

 

 

「邪魔するわよ」

 

 

今夜もまだ眠れそうにもないーーーー




少し時間が空いてしまいましたがなんとか次話の投稿です!
ちなみになんですがバンパイヤハンターの名前にはちゃんと由来みたいな物があります。
詳しくは説明しませんけどみんな吸血鬼狩りに由来した名前です。

さて、いつぞや書かせて頂いた挿絵なんですが、なんとかペン入れまで漕ぎ着けました!
幼稚なお絵描きですが話だけに飽きた方はどうぞ!


【挿絵表示】

この後も咲夜なんかのメンバーを書き足していくので、そちらも平行してお楽しみ下さい!

ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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