東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第21話ー三者三様ー

【博麗神社】

 

「それでは説明していただきますよ霊夢さん、どうして今回の異変を紅魔館に一任したんですか?」

 

いつものヘラヘラした態度からは想像もつかない真剣な態度で質問するのは射命丸文、今回の異変の被害で天狗の仲間を襲われた事が彼女の怒りを露わにしていた。

 

天狗とゆう種族は妖怪の中でも社会的な一面を持っており、その縦社会制度は今も根強く残っている。

 

そして縦社会として機能していながら横の繋がりも強く、同じ天狗の仲間をまるで家族のように考えているのだ。

 

それ故に同胞を傷付けられた仇を自分で討ち取るつもりでいた射命丸文は今回の異変にノータッチでいる霊夢に疑問を覚えずにはいられなかった。

 

「だから落ち着きなさいよ文、あんたらしくもないわよ。今回の異変…私達の手を出すべき案件じゃないのよ」

 

手を出すべき案件ではない。

 

この言葉に理解も納得もできないのは文はもちろん、それを一緒に聞いていた魔理沙も同じだった。

 

「そりゃどういう意味だよ霊夢。私はまだ良いとしても文はそれじゃ納得できないぜ?なんせ仲間をやられてるんだからな」

 

期待とは正反対の霊夢の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしている文の代わりに講義を口にする魔理沙ーーー

 

勿論そんな事は言われなくてもわかっている霊夢は静かに喋り始める。

 

「そうね…まずは今回の異変の首謀者とレミリア達の関係から話しましょうかーーー」

 

こうして静かにゆっくりと語られる吸血鬼にまつわる過去の話。

 

その昔、誠の兄弟のように親しみあったレミリアと忍の事…

 

その暮らしを突然台無しにした異変の首謀者達の事…

 

殺されかけたレミリア、その相手を殺した忍の事…

 

それがきっかけで離れ離れになってしまった二人の事…

 

 

 

余りにも永きに渡りはたせなかった再会を実現させた矢先、またも現れた宿敵の存在ーーー

 

 

それを語る霊夢を見つめながらも一切の横槍を挟まず、二人はただ黙ってその話に耳を傾けていた。

 

 

「ーーーと、そういう話よ。だから今回の異変には私達は関与しない、紅魔館だけで解決してもらうわ」

 

一通りを話し終えた霊夢はこう締めくくった。

 

ここまで黙って聞いていた二人も難しい表情を浮かべながらも話自体は受け入れていた。

 

 

けど、まだ納得はできていなかった。

 

 

「話はわかりました…ですが霊夢さん、私も同じように同胞を傷付けられています。過去の因縁こそありませんが私にもその三人組と対峙するだけの理由があるはずです、何故そこまで今回に限って紅魔館に肩入れするのですか?それこそ貴方らしくもないでしょう?」

 

やはり仲間の仇を諦めきれない文。

 

さらにその疑念を膨らませているのは何よりも霊夢の態度だった。

 

これまでの彼女はどんな異変にも自身で解決する事を良しとしていたし、それが博麗の巫女としての務めだとしてきたのだ。

 

それが今回に限っては自身も動かないどころか紅魔館の者以外が関与する事も良しとしていない。

 

「話せないならば仕方ありませんね…納得のいく理由もないのであれば霊夢さんに従う必要もありません、それなら今回は私は別行動とさせていただきます。」

 

押し黙っているばかりの霊夢に痺れを切らして飛び去ろうとする射命丸文、それを見ていた魔理沙にもその理由からか止める言葉を出せずにいた。

 

そして文のその態度に霊夢が重い口を開くーーー

 

 

「待ちなさい文…」

 

「なんですか?まだ何か?」

 

普段は絶対に出さないような文の威圧的な空気に場が緊張感を増す。

 

「あんたが納得するかはわからないけど今回の異変に関与しないと決めた理由を話すわ…」

 

日頃から面倒な事を嫌う霊夢だが今回はそうではない。

 

それはこれから話す事を心苦しく思うかのようなある種の悲痛さを纏っていた。

 

「これから話す事は他言無用よ?勿論あんたもよ魔理沙」

 

「お、おぅ!勿論だぜ」

 

「で、理由とは?」

 

ひとつ大きな溜息をついた霊夢は短く呟く。

 

「頭をね…下げられたのよ」

 

「はぁ?何言ってんだ霊夢?」

 

間抜けな声を上げたのは魔理沙だった。

それに反して文は真剣な面持ちで耳を傾けている。

 

「私達人間にはわかりにくい部分ではあるけどあんたの方がこの意味はわかるんじゃない文?勿論私もあんたと同じように話を聞いた時は反論したし異変の解決に乗り出そうとしたわ、でもね…あのレミリアが深々と頭を下げて頼んできたのよ。今回だけは私達に任せて欲しいってね…」

 

「あのレミリアさんが…」

 

文にはこれだけで事の重大さが手に取るようにわかってしまった。

 

種族差はあれど鬼に仕えていた文はその誇りの高さを知っている。

 

傍若無人にして唯我独尊、謝まりはしても頼みはしない、したとしても命令だろう。

 

そんな鬼の名を刻む吸血鬼が頭を下げた…

 

「もし自分達が勝てなければその後は好きにしてくれて構わないって条件まで出してきたわ。恐らくその時は死ぬつもりでね…レミリアの覚悟は本物よ。誇りのために命を賭ける種族が誇りのために人間の私に頭を下げた、これを無下にできる程人間は利口じゃないのよ…鴉と違ってね。で、あんたはどうなの文?」

 

後の判断は全て委ねるとばかりに質問を投げかける霊夢。

 

それに対して苦渋の表情で押し黙る文。

 

それはある意味で当然の事だった。

妖怪にとって一番大切な事は生きながらえる事よりも、どう生きるかーーー

 

自分の在り方こそが全てなのだ。

 

ここで首を突っ込めば吸血鬼としてのレミリアは二度とあの高貴さもプライドも気品も取り戻せないだろう。

 

もう文に選択肢はなかった。

 

 

「ふぅ…これだから鬼って種族は苦手なんですよ。わかりました、今回はレミリアさん達にお任せします。それに鴉は狡猾なんです、危険な目にあわずに他人が目的を達成してくれるなら儲け物ですからね。私はスクープの種を探しながらレミリアさん達の応援でもします」

 

「ふふっ、素直じゃないのも鴉だからなのかしらね?」

 

「えっ?だからどうなってんだよ二人とも⁉︎訳がわからないぜ!」

 

「あんたはどこまでバカなの⁉︎とりあえず今回はレミリア達に任せるの!わかった!!」

 

「それにしても霊夢さんが良く納得して引き下がりましたね?意外と優しいところもあるじゃないですか」

 

「あぁ…勿論それもあるんだけどねぇ…レミリアが頭を下げた途端に一緒にいた吸血鬼が物凄い殺気を振りまいてきたのよ。あれで引き下がらなかったら大惨事ね…」

 

「はは…お疲れ様でした…」

 

こうして各々は複雑な想いを胸にしながらも今回の異変へのノータッチを誓ったのだった。

 

 

 

【紅魔館】

 

「なる程な…それで霊夢さん達はおとなしく引き下がった訳か」

 

紅魔館の地下に位置する大図書館で忍とレミリアに事の説明を受ける僕とフラン。

 

もっともフランはご立腹の様子だ。

 

「お姉様に頭を下げさせるなんて…霊夢は今度会ったらきゅっとしてーーー」

「止めなさいフラン。今回の事は良いのよ、それに貴方は能力を無闇に使っちゃダメ。頭を下げたのはあくまでも私の誠意からよ、霊夢にやらされたわけじゃないわ」

 

レミリアがいきりたつフランを宥める。

 

フランの能力については気にならなくもないけどひとまずは落ち着きを取り戻したようなので今は置いておくとしよう。

 

「それにしても驚いたわい、突然頭を下げるなんて儂も予想しとらんかったからのう。主でも眷属でもない人間にそこまでする意味は何処にあるのじゃレミリアよ?」

 

フランのように怒りを露わにしたりはしていないが、同じ吸血鬼としてはやはり快く思わない部分もあるのだろう…

 

特に笑顔も見せず忍は尋ねた。

 

「他意はないわ忍お姉様、あの人間はこれまで何の見返りもなくこの幻想郷を守ってきたの。今回もお節介には違いないけど悪意ではない…それに吸血鬼の問題に巻き込みたくなかったしね、だから誠意を見せたのよ」

 

頬杖をついて苦笑気味に漏らすレミリア、その顔は不思議と満足気だった。

 

「ふむ…儂も人の事は言えんがやはり変わったのうレミリア。妹御とうまくやっている現状も納得というものじゃ」

 

「えっ?何の事なの忍お姉様?」

 

突然話題を振られたフランは全く理解できないといった感じでキョトンとしている。

 

「かかっ、なんでもない。フランよ、よい姉を持ったのう。大切にしてやるがよい、これでかなりの寂しがりやだからのうレミリアは」

 

「だ、誰が寂しがりやよ⁉︎やめてよね忍お姉様!」

 

ここにきて初めてフランを名前で呼んだ忍はやっと納得したように笑った。

 

相変わらずわけがわからないという表情のフランを他所にレミリアもクスクスと笑っている。

 

こうして見ていると本当の三姉妹みたいだな…

 

「でも笑ってばかりもいられないぜ忍、これでこっちの戦力は紅魔館メンバーだけで確定だ。あと三日…気を引き締めていかないとな」

 

「まだ言っておるのかお前様よ?儂やレミリア、それにフランもおるのじゃ。そんなに身構えなくても平気じゃよ」

 

霊夢さん達の介入を拒否した事によって戦力は限定された。

 

それはこれ以上誰も巻き込まない代わりに戦力の限定を意味する。

 

自信だけで生きているこの吸血鬼三姉妹は別としてもその他のメンバーだって戦うのだ、さすがに余裕満面に扇を振ってるわけにはいかない。

 

特に僕なんて戦力外も良いところなんだからーーー

 

「それに三日もあるのじゃ、お前様とてお前様が想像もつかないような事になっとるはずじゃよ」

 

いつものように凄惨な笑みを浮かべる忍。

 

レミリアもフランも何かを察知したのか同じように笑っていた。

 

「ったく…まあ精々この三日間は生きてる喜びを噛みしめるさ。それに今日は色々あったからな、流石に疲れたよ。今夜はもう休ませてもらう」

 

振り返れば今日一日だけで散々な目にあったしな…

 

疲れっぷりでいったら春休みに相当するかもしれない。

 

こうして図書館を後にした僕は自室のベッドの中でとても長い一日の疲れを癒すように深い眠りについたーーー

 

 

 

【同刻・無縁塚】

 

魔法の森を抜けて再思の道をさらに行ったところに存在する木々に囲まれた淋しい広場、そこに佇むは一人の少女ーーー

 

 

「おやおや…三日を過ごすには最適な場所かと思って来てみれば先客がいらっしゃいましたか」

 

声の主は他でもないバンパイヤハンターの長、ブラム・クルースだった。

 

他の二名、バン・ブラハムとヴィンセント・バフィーは無言のまま先客である少女を鋭い目線で射抜いている。

 

 

 

「…ここは無縁仏の墓場さね。そして幻想郷への出入り口としちゃあ一番適している場所さ…あんた達もここから来たんだろ?」

 

少女は穏やかな声で話しかける。

 

「ふむ、中々聡明な方ですね。確かに私達はこの場所からこの幻想郷にお邪魔しました、まぁ一緒に来た方々は少し先の森まで飛ばされたようですがね」

 

この一緒に来たと言われている人物とは阿良々木暦と忍野忍の事だろう。

 

だが、少女はそんな事には興味も示さずに話題を進めていくーーー

 

 

「ふーん…いや、そんな事はどうだって良いんだよ。私があんた達を萃めたのは別の理由さね、まぁ能力まで使わなくてもどっちこっちここに来たみたいだけどねぇ」

 

相変わらずノラリクラリとした口調で話す少女、それに対してブラム・クルースも穏やかに受け答える。

 

「ほぅ、これは興味深い…それでは貴方は私達を待っていたどころか此処まで呼び寄せたと?」

 

 

「そうさ、私はあんた達に個人的な用があったからねぇ」

 

「そうですか、ではお伺いしますが私達にどのようなご用件でしょうか?」

 

 

そして次の瞬間…場の空気が一気に変わるーーー

 

 

「山の天狗達を襲ってくれたのはどいつだい?」

 

先程までのノラリクラリとした口調は一転、信じられない程の怒気と威厳を宿した言葉が発せられる。

 

その圧力に木々は震え、風が吹き荒れるーーー

 

 

「なる程…敵討ちでわざわざこんな所までいらっしゃったと?それはご苦労様です」

 

あくまでも気圧される事もない三人組、その長であるブラム・クルースも平然とした様子で答える。

 

「そんな高尚な考えはありゃしないよ、そもそも天狗とは表面上とはいえ相互不可侵なんだ。ただあれだけの数の天狗を殲滅できる奴に興味があってねぇ。そのツラを拝みたくなったのさ」

 

言葉の内容の割には湧き出る怒気の質が半端のそれではない。

 

そしてそのまま言葉を繋げる

 

「それにあんた達の目的も気掛かりでねぇ、見たところ同じような服装だし何かしらの集団目的があるんだろう?」

 

あくまでも単独行動の少女にはこの三人組に関する知識はない。

 

故に目的も知らなければ何処から来た誰なのかも知らない。

 

ただ確かなのは天狗を襲った張本人であるという事だけ。

 

しかし過去の例もあってか、これが異変だとすればその原因を探るだけの価値はあるとみての質問だった。

 

そしてこの質問が少女の怒気を殺気に変える決定的致命打となる。

 

「目的ですか…そうですね、強いて挙げるとすれば過去の因縁がある吸血鬼の討伐ですよお嬢さん。見ての通り私達は同じ組織の人間です…おっと失礼、正しくは元人間ですね。」

 

 

「吸血鬼?幻想郷で吸血鬼といえば…紅魔館のレミリア・スカーレット達の事かい?」

 

「ご名答、ですが討伐目標は他にもいるんですがね。その吸血鬼の討伐こそが我々の目的ですよ」

 

「それが本当なら天狗が襲われる理由が見えてこないねぇ」

 

今にも惨劇の現場に変わりそうな空気の中で交わされる問答、そこに割って入ったのはおよそ礼儀とは程遠い態度のヴィンセント・バフィーだった。

 

「ちっ、もういいだろクルース?こんなガキをいちいち相手にする必要がどこにあるんだ?」

 

それは苛立ちを隠す気もなく、また天狗を襲った事を悪びれる様子もない発言だった。

 

「おい坊や、ガキってのはまさか私の事かい?こう見えてあんたより長生きしてるんだ、口のきき方には気を付けな」

 

「はっ!黙って聞いてりゃグダグダと面倒くせぇんだよ、天狗を片付けたのは俺だ。文句あんのか?」

 

あくまでも無礼にして好戦的、そんな態度に少女の怒気も高まる。

 

 

「あんたが犯人かい…さっきも聞いたが天狗を襲った理由は?」

 

「理由だぁ?こっちは吸血鬼の居所を聞いただけさ、それをあの天狗共が中々しゃべらねぇ…それどころか山から出て行けの一点張りだ。だから始末したんだよ、わかったか?」

 

風が止んだーーー

 

既に周りの木々もざわめきを止めている。

 

かわりにその場を支配したのは魂までも握り潰すかのような殺気。

 

当然殺気の主は少女だ。

 

「そりゃ…無関係の天狗に手を出した…巻き添えを食らわしたって事で間違いないね?」

 

「だから言ってんだろ?聞かれた事に素直に答えてりゃあんな目にあわずに済んだのにバカな奴等だぜ」

 

少女は静かに立ち上がる。

 

その小さな体躯からは想像もつかないほどの殺気を纏ってゆっくりと最後の会話を進めるーーー

 

「じゃあ…あんたもバカだから同じような目にあうんだね…」

 

「あ?何か言ったか?」

 

「安心しな、さっきも教えてやったろ?ここは無縁仏の墓場さ…あんたが死んでも墓には困らないよ」

 

「はっ!上等な口をきくじゃねぇかよクソガキ!おいクルース!こりゃ売られた喧嘩だ!やっちまってかまわねぇよな⁉︎」

 

傍で聞いていたブラム・クルースとバン・ブラハムもやれやれといった様子で諦めている。

 

おそらくこのような戦闘は彼等にしてみれば日常的なのだろう。

 

「天狗達のやられ方を見る限り幻想郷での戦闘ルールなんて知らないんだろうね…ガチな戦いは久々だから加減の仕方は忘れちまったよ。だから死ぬ前に名前くらい聞いてやる、名乗りな」

 

「いちいちムカつくガキだな、俺はヴィンセント・バフィー!テメェを殺す相手の名前だ、死んだら閻魔にでも教えてやれよ」

 

「覚えておくよ、鬼に挑んだ愚か者の名前としてね!私はあの山の元四天王、伊吹萃香だ!あんたがくたばったら四季か幽々子にでも報告しな!」

 

 

 

こうして幻想郷の最果ての地で、誰にも知られる事なく戦いの火蓋が切って落とされるのだったーーーー

 




さて、幻想郷屈指の実力者である鬼の登場です!
数ある東方キャラの中でも作者は萃香が一番好きなキャラなので登場してもらいました!

※作者はロリコンでありません!

今後の展開も色々と考えているのでお楽しみに!

あと、できる限り次回からは挿絵も入れていこうかなと検討中です。
ご意見やご感想などあればコメントなど頂けるとありがたいです!
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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