東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第22話ー相互不可侵ー

一重に鬼という名前を聞いて人々が連想するものとはどのような存在だろうか?

 

肌の赤い大男

 

筋骨隆々な怪力無双

 

異形の象徴とも言える角

 

挙げればキリがない程のイメージ像があるだろうがそれはあくまでも鬼と呼ばれる存在の外見にすぎない。

 

それでは内面は?

 

これにしても憶測でしか語れない人が大半ではないだろうか。

 

そしてはその内容といえば

 

残忍、冷酷、凶暴…

 

不吉の限りを尽くした内面像ができあがると思う。

 

それもそのはず、鬼とは人を攫い人を喰らうーーー

 

そこに生まれるイメージにプラスなものなどあるはずがないだろう。

 

しかし意外と知られていない一面もあるのだ。

 

そう、鬼とは優しいものだという事実。

否、鬼とは仲間に優しい。

 

かの有名な童話『赤鬼青鬼』でも知られてはいるのだが、鬼とは同族やその手下など、自分が関わりを持つ者を何よりも大切にし、それを何よりの誇りとしている。

 

そしてここに仲間を傷付けられた鬼が一人ーーー

 

史実にはおよそそぐわないその容姿は

 

怪力無双とは程遠い華奢で白い手足

 

あどけなさを残す幼い顔

 

強さとは対極に位置するかのような少女の姿をした鬼が立っていた。

 

そしてその鬼とはーーー

 

何者をも寄せ付けない殺気を纏った伊吹萃香その人だ。

 

「おい、後ろの二人は黙って見てる気かい?私は三対一で構わないんだよ?人間相手に鬼の私が本気を出せば勝負にもならないだろうしねぇ」

 

いくら怒りの限界を過ぎているとはいえ萃香は誇り高き鬼である。

 

故に弱い者を一方的に虐げるような行いを嫌う。

 

相手が弱い人間ならば、策を講じて人数を集めて武器を使って初めて勝負になるというもの。

 

そして鬼としての矜持はそんな小細工を凝らす人間を真正面から叩き伏せる事にある。

 

卑怯結構、不意打ち結構、多勢無勢結構、それらをねじ伏せてこその鬼なのだ。

 

だが、そんな萃香の意思とは裏腹にバンパイヤハンター二人は笑いながら答える。

 

「ふふ、お気遣いはありがたいですが遠慮しておきますよお嬢さん。あくまでも貴方の目的はお仲間の敵討ちなんでしょう?それならば我々は関与するべきではない。いや…それ以前に彼の戦いに横槍をさして機嫌を損なうのは後々面倒なのでね。どうぞ心ゆくまでお二人で戦って下さい」

 

余裕を崩さないブラム・クルース。

 

そんな彼に対してこれ以上の問答は無意味だと確信したのか、萃香も半ば呆れた様子で返事を返す。

 

「やれやれ…人間風情が鬼を相手に後々の心配かい?残念だけど私の相手をして後々なんてものは無いよ。まぁ良いさね、私はちゃんと注告はした。これで仲間がくたばってもそれはあんたの責任さ」

 

萃香にはもう何も言う気はなかった。

 

後は仲間の…天狗の無念を晴らす事だけに集中する。

 

その目は真っ直ぐヴィンセント・バフィーを捉えた。

 

「大好きなお喋りは終わったか?」

 

鬼の眼力にも怯まないこの男は相変わらず挑発的な言を吐く。

 

「あぁ、残念ながら終わっちまったねぇ…あんたの命の猶予がな!」

 

 

言うやいなや、一気に怒りと妖気を爆発させる萃香。

 

それは静まり返った無縁塚に再びざわめきを呼び戻す…

 

「ほら、突っ立ってないでかかってきな…格の違いをわからせてやるよ!」

 

萃香のこの一言をきっかけにヴィンセント・バフィーは飛びかかるーーー

 

 

「笑わせんなクソガキ!」

 

およそ人間とは思えないそのスピードに萃香も多少は驚いた。

 

この幻想郷において人間でありながらこんな超スピードで間合いを詰めてくるのは萃香の知る限りでもそうはいないからだ。

 

だが、風を司るはずの天狗達があれだけの被害にあっている事実から萃香もそこまでは驚かなかった。

 

さらに補足するなら鬼である萃香にはその動きがちゃんと見えていたのだから。

 

襲いかかる拳での攻撃を防ごうと、萃香が腕を上げて受け止める体制をとる。

 

見えていようが見えていまいが、鬼である萃香に人間の攻撃をわざわざ避けるなんて頭はないのだ。

 

しかし次の瞬間、萃香は今度こそ心底驚くことになるーーー

 

 

ズン、という衝撃と共に彼女を襲った衝撃は最早人間のできる打撃のレベルを遥かに超えていたのだ。

 

その威力たるや上級妖怪のそれにすら匹敵しそうな威力である。

 

「なっ⁉︎」

 

怪力無双を誇る鬼の萃香もウェイトは少女のそれだ。

そのため余りの威力に踏ん張りきれなかった萃香は遥か後方に吹き飛ばされる。

 

 

「はっ!でけぇ口を叩いてたわりにはあっけねぇな?まさか死んじまったか?」

 

特に追い討ちをかける事もなく乱暴な言葉をかけるヴィンセント・バフィー、目線は真っ直ぐ萃香に向いている。

 

「人間らしくもない力だねぇ、これは弱い者いじめをしないで済みそうだ」

 

土埃の中から出てきたのは殆ど無傷の萃香だった。

 

敵討ちとゆう名目を思えば少々不謹慎に思えなくもないがその顔にはうっすらと笑みを浮かべている。

 

「はっ!弱い者いじめたぁ笑わせやがる。こっちとしても折角の玩具がすぐぶっ壊れたらつまんねぇんだ、精々頑張って死ねよ」

 

 

初弾の一合で完全に優勢を確信していたヴィンセントは油断していた。

 

およそ満足な構えを見せる間も無く萃香による間合いへの侵入を許していたのだから。

 

妖力に頼るでもない単純な脚力だけで間合いを詰めた萃香、だがそのスピードはまるで弾丸。

 

気付けば目の前に現れたような錯覚に襲われたヴィンセントはガードも間に合わないーーー

 

 

「余裕見せてると…舌噛むよ!」

 

放たれた鉄拳はヴィンセントの腹に突き刺さる。

 

先の萃香がそうであったように、鬼の腕力で殴られたヴィンセントは後方に吹っ飛ぶ。

 

木々をなぎ倒しながらもその勢いは止まず、森の中にその姿を消していった。

 

 

「やっぱ弱い者いじめになっちまったかい。さて…人間にしては頑張ったけど所詮こんなもんさ。あんた達も向かってくるかい?」

 

殴った方の拳をヒラヒラと振りながら残りの二名を見やる萃香。

 

これが普通の人間であれば恐れをなして逃げ出していたかもしれない。

 

しかし二人の薄ら笑いは変わらない。

 

その時、背後に刀で斬りつけられたかのような殺気が走る

 

「何を勝った気でいやがる?鬼ってのは勘違いナルシストの集まりなのか?」

 

森から出てきたのはやはり無傷のヴィンセントーーー

 

いや、漆黒のマントだけは破れさり今は武道着のような物を身につけた姿をしている。

 

しかし肉体的な意味で言えばやはり無傷なのだろうーーー

 

「まぁ勘違いさせちまったなら悪かったな?生憎テメェごときの拳じゃ俺は殺せねぇよ」

 

残る二人と同じように忌々しい薄ら笑いを浮かべるヴィンセント。

 

一方、萃香は怒るでもなく絶望するでもなく…ただ不思議に思っていた。

 

 

「解せないねぇ…本気じゃないにしても鬼の力で殴られたんだ。人間なら鍛えてるとかそういう問題じゃなく確実に死ぬ。なのにその無傷っぷりはなんだい?あんた達…人間じゃないのか?」

 

「テメェは人の話を聞いてねぇのか?さっきクルースが言っただろう?俺達はな…」

 

 

ーー元人間だーー

 

言葉が聞こえた時には既に目の前まで距離を詰めているヴィンセント。

 

今度は萃香も迎撃体制が整っている、超近距離での打ち合いが始まった。

 

そしてその一発一発がまさに必殺の一撃。

 

霊力を込めた銀の甲冑による打撃、対して鬼の剛腕から放たれる拳ーーー

 

無縁塚には肉体を殴りつける鈍い音が鳴り響く。

 

「っらあ!どうしたよ鬼!そんなんじゃ敵討ちなんざ夢のまた夢だなぁ!」

 

「黙りな人間!いい気でいられるのも後わずかさ!」

 

双方防ぎもせずにただ殴る。

 

技術など関係ない、手が届くところをただ力任せに殴りつけるだけの乱打戦。

 

しかしその全てが規格外…その戦いは人の世ならば伝説として語り継がれる程の壮絶さだ。

 

そして何回目かもわならない拳が交差した時、不意にヴィンセントが一歩下がった。

 

「ちっ…やっぱ鬼っつってもこんなもんか」

 

吐き捨てられたのはあたかもガッカリとしたかのような言葉。

 

それに反応しない萃香ではない。

 

「何かと思えばそりゃどういう意味だい?」

 

「あ?つまんねぇっつってんだよ。こんな殴り合いじゃ何年続けても俺は倒せねぇ」

 

「ほぅ…思い上がりもそこまでいけば気持ちいいよ。それにしても人間ごときが鬼を侮辱するような口振りは看過できないねぇ」

 

「だからよぉ…さっきも言ってやったろ?俺達は元人間さ、確かに人間だった頃ならとっくに死んでるだろうよ。だがな、今の俺達はテメェ程度じゃどうにもできねぇんだよ」

 

「さっきから気になってはいたけどその元人間ってのはどういう意味だい?」

 

「俺達は既に死んでんだよ、今ここにあるのは思念体…まぁ亡霊って奴だろうな。だから人間の限界なんかにゃ縛られねぇしテメェみたいな化け物を相手にしても負けねぇのさ」

 

ここにきてようやく事の説明がつながった萃香は内心納得していた。

 

そもそも鬼があそこまで拳を振るっているのだ、小さな人間の里くらいなら壊滅していてもおかしくない攻撃だった。

 

それをたった一人の人間が全て受け切った挙句、余裕の表情で目の前に立っているのだから不思議に思わないはずがない。

 

しかし、それが人間でなく亡霊というならば納得もいく。

 

「それにしてもアレだな…これじゃあの天狗達の方がまだ面白かったぜ」

 

ヴィンセントの口から出たのは萃香には到底理解できない言葉だった。

 

明らかに自分よりも弱い天狗…数の有利はあったにしてもそれでも萃香の方が戦力としては圧倒的だろう。

 

それにもかかわらず、天狗を相手にしていた方が面白かったと言う彼の言葉の意味がわからなかった。

 

「なんだい、天狗はそんなに強かったって事かい?それとも…私が弱すぎて天狗を相手にするよりつまらないとでも?」

 

誇り高い鬼としては怒り心頭どころの話ではない。

 

仮にも昔は部下として従えていた天狗と比べられた挙句、それに劣るかのような事を言われたのだ…みるみる萃香の顔が引きつっていく。

 

 

しかし、ヴィンセントの言葉はそんな萃香の推測を悪い意味で裏切ったーーー

 

「はっ!安心しろよ、意味は逆さ。テメェは天狗より強い…だからこそつまらねぇんだよ」

 

萃香の怒りが混乱に変わるーーー

 

「何を言ってんだい?そりゃ矛盾だろう?」

 

「矛盾なもんかよ、テメェは壊れもしなきゃ泣き叫びもしねぇじゃねぇか。こっちとしては面白味に欠けるんだよ」

 

「…どうゆう…意味だ…?」

 

「天狗は傑作だったぜ?ゴミみてぇに弱いクセに気概だけは一人前、そのくせ手足を折ってやったら泣き叫ぶ。無駄に群れて過ごしていやがるせいで同族を見捨てて逃げもしねぇから追う手間もなかったしな。仲間だけは助けてくれって哀願する奴の目の前でその仲間を血だるまにした時のツラ…笑いが止まらなかったぜ!」

 

萃香の目から光が消えた瞬間だった。

 

仲間を…誇りを汚される事の意味を誰よりも理解する鬼。

 

そんな萃香を目の前に、今語られた事実は理性を失わせるには充分な効果を持っていた。

 

そしてひとつ、重大な勘違いをしていたのはヴィンセント・バフィー。

 

彼が今も立っていられるのは萃香が『腕力だけ』で交戦していたからに他ならない。

 

亡霊である彼等を腕力で殴ってもダメージは蓄積しない。

そこに霊力や妖力を込めた攻撃でなければ思念体に致命傷はあり得ないのだ。

 

それは人間を相手にする上で能力や妖力を行使する事を良しとしない彼女の誇りが故の事。

 

それが最早適応しない。

 

相手は人間でもなければ、情けをかけるべき戦士とは程遠い腐れ外道。

 

ここから先の戦いは戦いにあらず、萃香にとっての戦いが狩りに変わったのだ。

 

「お前は…もう死ね」

 

地獄の底から響くかのようなありとあらゆる不吉を孕んだ声。

 

このような少女から発せられたとは思えない発言と共にその体に繋がれた鎖の先にある丸、三角、四角の塊が光を帯びる。

 

 

『密と疎を操る程度の能力』

 

 

捉えようによっては無敵に近い萃香の能力。

この状況においてその発動は勝負ではなく殺し合いを意味していた。

 

 

「鬼符・ミッシングパワー」

 

突如として萃香の小さな体がグングンと大きくなる。

 

それは瞬く間にヴィンセントの背丈を越えていく。

 

「はっ!まだこんな隠し芸も持ってたのかよ!?こいつは楽しめそうだ!」

 

纏う空気とその姿を変えた萃香を目の前に声をはるヴィンセント。

 

 

「あんたにゃ墓も勿体無い…チリも残さず消してやる!」

 

混沌とした目でヴィンセントを見下ろす萃香はその巨大な拳を振り上げる。

 

本人も受ければただでは済まない事を理解してか咄嗟に下がって距離をとろうとするーーー

 

が、下がれない。

 

足元に目を向ければいつの間にか足首から先を岩石が飲み込んでいた。

 

 

「あんたの足元に鉱物を『萃めた』。残念だけど避けられないよ」

 

 

先程までとは違い妖気を込めた全力の拳、それが今まさに振り下ろされようとしたその刹那ーーー

 

 

 

「そこまでよ」

 

よく通る美しい声が萃香の拳を止めた。

 

萃香を含め、その場の全員が声のする方に目を向ける。

 

「こんばんわ、招かねざる皆様」

 

 

そこには夜だというのに日傘をさし、口元を扇子で隠した金髪の女性の姿ーーー

 

幻想郷の最古参にして最強の呼び声も高い、あらゆる境界を操る大妖怪ーーー

 

 

八雲紫の姿があった。

 

 

「なんのつもりだい紫?いくら紫とはいえ私の戦いを止める事の意味がわからないわけじゃないだろ?」

 

 

 

突然に止められた萃香は不機嫌を露わにする。

 

それもそのはず、大妖怪として恐れられる八雲紫と鬼である伊吹萃香の付き合いは長い。

 

そしてその実力からか、唯我独尊であるはずの鬼も八雲紫だけは対等な存在として認めているのだ。

 

そんな紫が自分の誇りをかけた戦いを止めた事を納得できないのも当然の理である。

 

 

「ごめんなさいね萃香、でもその『誇り』故に私が出向いて止めに入ったのよ。突然だけれどここは退いてくれないかしら?」

 

「それこそふざけてるのかい?ここでこいつ等を消す事になんの不利益があるのさ?」

 

「言ったでしょう?『誇り』のためよ…萃香には後で説明するからこの場は私の顔を立てると思って退いてちょうだいな。それとも鬼は友人の心からの頼みを無下にするような薄情な存在に成り下がってしまったのかしら?」

 

 

話術とゆう土俵において萃香と紫では勝負にならない。

 

いつの時も本心のみを語り、真っ直ぐに嘘偽り無く生きてきた萃香。

 

対して紫は膨大な知識に加え心を読ませる事なく立ち回りながら生きてきたのだ、言葉の上で萃香に勝ち目がないのは明白である。

 

否、それが戦闘だったとしても萃香に勝ち目があるかは望み薄ではあるのだが。

 

「鬼は…友の頼みを無下にはしないよ…わかった、ここは紫に免じて退くとするさ。でもこいつ等はどうするんだい?」

 

「ありがとうね萃香、貴方のそういう所が好きよ。この方達の事は心配いらないわ、あと数日もすればわかる事よ」

 

「紫の話は難しすぎて良くわからないよ、まぁ他でもない紫がわざわざやって来たのならよっぽどなんだろうさ。私は一杯やりながら見届けるとするよ」

 

 

相変わらず解るようで良く解らない事を言いながら笑う紫、萃香の毒気はすっかり抜かれてしまったようだ。

 

しかし納得していない者はまだ残っている

 

「おい、そこのクソアマ!いきなり出てきて人の勝負に水を差すってのはどういう了見だ!場合によっては生きて返さねぇぞ?」

 

声を荒げたのはヴィンセントだ。

 

既に足元の拘束は叩き壊してあり、今にも紫に飛び掛らんとしていた。

 

「あら?せっかく助けてあげたというのに酷い言われようね…そうね、貴方に足りないのは瞑想かしら?喜怒哀楽をコントロールする為の」

 

口汚い罵詈雑言を意にも解さない紫の言葉は平常心そのもの。

 

格の違いといえばそれまでだが、この場でヴィンセントが何と叫ぼうが紫の感情を揺らすには及ばない。

 

「わけのわかんねぇことをほざいてんじゃねぇよ!鬼を退かせるなら代わりにテメェが相手でもしてくれんのか?」

 

「物分かりの悪い人ね、これは私や萃香が解決するべき異変じゃないのよ。それともそちらの大将さんも同じ意見かしらね?」

 

口元を扇子で隠したまま、紫の視線はブラム・クルースを捉える。

 

その目は笑っているようで怒っているような不気味さを感じる。

 

「そうですね…我々の目的はあくまでも吸血鬼、この場においてのこれ以上の戦闘は望ましくありません。そちらが退いてくれるのならば異論はありませんよ」

 

それまでの薄ら笑いが一転、真剣な表情で受け答えるブラム・クルース。

 

本能的に八雲紫の本質を理解しているのか、その顔に余裕は見受けられない。

 

「なっ!?本気かよクルース!」

 

「本気ですよ、貴方も聞き分けなさいヴィンセント。これ以上はなんの利益にもならない、どころか損失に繋がりかねません」

 

「クルースもこう言っているんだ、たまには言う事を聞いたらどうだいバフィー?」

 

それまで傍観していたバン・ブラハムまでもが説得に加わる。

 

頭に血がのぼったヴィンセントに対してこの二人は冷静だった、故に八雲紫の存在を脅威として認めているのだ。

 

「聡明な方達で助かりますわ、安心なさい、私達が手を出すのはここまで…三日後の事に関しては一切関与しません。その代わりに…三日間、私の幻想郷に害を成すような事はしない方が賢明ですわよ?これ以上の被害は私も黙認しかねる事…その時は貴方達とこの世の境界が無くなるかもしれないわよ?」

 

「それを聞いて安心しました、約束しましょう。三日後、あの吸血鬼を討伐するまではこの地の者に手を出さないと。そして討伐後は速やかにこの地を去ると」

 

「ふふ、それなら良いですわ。まぁ…幻想郷を去るのは吸血鬼に勝てたらの話ですけどね。さぁ萃香、私達も帰るわよ」

 

 

こうして紫の作り出したスキマの中へと二人は消えていった。

 

後に残されたのはバンパイヤハンターの三人と無縁塚の寂しい空気のみ。

 

「まったく…あんな化物までいるのですかこの幻想郷には…さすがに肝が冷えましたよ」

 

既にいつもの薄ら笑いに戻ったブラム・クルースが言葉を漏らす。

 

「それほどのもんだったのかクルース?勝てない相手には見えなかったぜ?」

 

「君は頭に血がのぼると本当に周りが見えなくなるんだね…あの妖怪は間違いなく危険だよ」

 

「ブラハムの言う通りですよ、あの妖怪とまともにやり合えば勝敗はともかく無事ではすまないでしょう…今回はたまたま運が良かっただけです」

 

「そんなもんかねぇ…ま、あんたがそこまで言うならそうなんだろ。俺は難しい事はわからねぇからな」

 

 

強いとはいってもそこは元人間である三人。

 

幻想郷において最強と謳われる八雲紫とでは勝負になったかすら怪しい。

 

しかしこのブラム・クルースという男はそれを受け入れ、その上で冷静でいる。

 

その狡猾さこそが最大の武器であり最も厄介な部分であった。

 

 

「ここに至るまで二百年も待ったのです、吸血鬼以外の相手に劣る事などどうでもいい…ただ吸血鬼だけを討伐できれば良いのです」

 

多少の誤差はあったにせよ全ては計画通り。

三日後の戦いを前に三人は無縁塚で秘かに時を待つのであったーーーー

 

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