東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第23話ー想いー

「ーーーーと、いう訳なんだ」

 

 

幻想郷滞在三日目の朝、僕は相も変わらず博麗神社に来ている。

 

これが参拝目的であったりするならば神様の御利益もありそうなものだけども、生憎僕の目的は神様でもなければ巫女様でもないーーー中年のオッさんである。

 

 

「ふむ…なる程ねえ。いやあ、相変わらず阿良々木君の周りには話題の種がつきないねえ、今日も今日とて多忙を極める君を見ていると暇な時間に身を窶してる自分が情けなくなる思いだよ」

 

 

こうして皮肉に塗れた薄ら笑いと共に火の付いていない煙草を咥えた忍野メメ。

 

この幻想郷という世界の一部でありながら異世界のような土地において唯一の顔見知りで僕が唯一頼れる相手がこんなアロハの中年だと思うとそれだけで頭が痛くなってくる。

 

 

「そんな悠長な話をしに来たんじゃないんだよ、結果として僕は三日後…いや、もう二日後になるのか…とにかくその三人組のバンパイヤハンターと戦うの事になったんだから!そもそもハンターに対抗する手段なんてものがあるのか忍野?」

 

 

 

「普通の高校生が当たり前に戦うっていうのも大人の立場としては感心しないよ?本当に阿良々木君は元気だなあ、何が良い事でもあったのかい?」

 

 

昨夜の出来事を忍野に説明して今後の対応について相談しにきて現在に至るのではあるけど、僕の画策とは裏腹に話の核心に触れない忍野にどうにも煮えきらない気持ちを抱くーーー

 

 

いや、そもそも忍野メメとはそういう人間だった。

 

常に中立の意見のみを持ち、人を見透かしたような事を口にし、その意図を悟らせない男こそが忍野メメなのだ。

 

それに今回の事は今まで何度も釘を刺されていながらも何も学習していない僕が自ら首を突っ込んだ案件である、

 

さらに補足するなら相手は怪異ですらない。

 

いや、厳密に分類するならば既に人間という存在ではない彼等を表す言葉は『怪異』のそれなのかとも思うけど、その目的だって明白だ。

 

 

吸血鬼の退治ーー

 

 

それは決して無闇矢鱈と害を成すような蛮行ではなくどちからと言えば人間の起こす行動意識に近いようにすら思える。

 

それを前提に考えれば、今回僕が忍野を頼る事はお門違いも良いところなのかもしれない。

 

 

「いや、すまなかった忍野。この件に関してはお前に話を振るのは些か都合が良すぎたよ…それでなくても僕の都合で幻想郷からの帰還を世話してもらうってのにその上決闘の話まで頼るべきじゃなかった」

 

 

思い起こせばここまでを含めて僕は学習というものをしていないと思い知らされる。

 

蟹や蝸牛、猿、猫…吸血鬼にしてもそうだ。

 

僕はいつでも自分ではどうにもできない事に自分から首を突っ込んでは、手に余る事態に追い込まれるとすぐに人に頼ってきた。

 

そしてそこで初めて自身の都合が他人に危険や迷惑ん振りまいている事に気付く…

 

久しぶりの再会を果たした側から昔のように忍野に頼る僕は全くの成長を遂げていないように思えた。

 

 

やはり自分で蒔いた種であればこそ、自分で枯らすのが責任である。

 

いや、枯らすでは駄目なのだ。

 

今回の事は根っこから解決しなければならない。

 

話は二百年に渡って根を張り続けた問題なのだ。

 

こうして神社を後にしようとした僕だが思い掛け無い声がかかった。

 

 

 

「専門家ーーー」

 

 

「えっ?専門家って…」

 

 

「その三人組の話さ、相手は専門家だって言ってるんだよ。皮肉にもバンパイヤハンターの三人組だなんて僕と阿良々木君と忍ちゃんが初めて会った時のデバッグだね。本当にもう、阿良々木君はロマンティストなんだから。そうゆう思い出の再現はツンデレちゃんとやってもらいたいものだよ」

 

 

やれやれといった様子で視線を僕に向ける忍野は表情こそ薄ら笑いのままだが纏う空気が真剣のそれだった。

 

 

「専門家って忍野…相手はもうとっくの昔に死んだはずの人間なんだぞ?それを言うなら専門家じゃなくて怪異じゃないのか?」

 

 

それは僕が抱いた三人組に対する率直な印象だった。

 

確かに対吸血鬼に関しての知識ならば専門家とも言えなくはないだろうけど、しかしその存在はあくまでも怪しくて異なるもの…怪異ではないだろうか?

 

 

「いや、今回に限りそれは違うよ阿良々木君。専門家の中には怪異に関わりすぎて自分が怪異になっちまう奴だってそう珍しいものじゃない。そうならないように間に怪異を使役したりする専門家もいるくらいさ。あの暴力陰陽師だってそうだったろ?そして今回の幻想郷における吸血鬼騒ぎの三人組は間違いなく専門家さ、人間でなくなっただけで存在も存在理由も専門家以外の何者でもない」

 

 

「人外の専門家…いや、しかし忍野、そこはたいした問題じゃないだろ?怪異であろうが専門家であろうが僕達が戦う事に変わりはないわけだし」

 

 

「そうだね、阿良々木君の言う通り怪異か専門家は大した問題じゃないよ。なんならそのまま怪異として認識しておいても良いくらいさ。ただ問題なのはその三人組が専門家としての知識と技術を持ち合わせているという事だよ、それも吸血鬼専門の知識と技術をね」

 

 

言われて初めて自覚する事実というものがあるーーー

 

存在を怪異と大差無いものだと区分するとしてその実力が吸血鬼専門だという脅威…

 

忍とレミリアも言っていたように吸血鬼としてのスキルがほとんど無効化されるような怪異を相手に戦う危険を再認識させられた気分だ。

 

 

「それに阿良々木君だって忘れたわけじゃないだろう?あの春休み、君と最後に戦った唯一の人間としてのハンター『ギロチンカッター』の事を」

 

 

「…忘れるわけないだろ…いや、忘れたくても忘れられないさ」

 

 

ギロチンカッター

 

 

人間でありながら一番人間らしくなかったとさえ言える春休みにおけるバンパイヤハンターの三人組リーダーのような男。

 

僕が人間でなくなった事を決定的に自覚させた人物であり、忍野忍…いや、当時のキスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードに喰われた人間。

 

あいつに刻まれたトラウマは半端のそれではない。

 

 

「今回の話は早く言えばギロチンカッターが怪異として蘇ったとでも言えばわかりやすいかな?人間なのに…いや、人間だからこそかな?ギロチンカッターこそがあの三人組の中で一番厄介だっただろう?つまりはそういう事、人間であるが故に戦い方も考え方も狡猾なのさ」

 

そう言われてしまうと返す言葉に戸惑う…

 

春休みに遭遇したハンターの中で唯一、歪んだ思想を持ち、目的のためには手段を選ばない残虐性とそれを冷静に考察する冷酷さを秘めていた。

 

思えば人間がどんな怪異よりも怪しく異なった生き物なのかとすら思わされる。

 

そんな相手が今回の敵ーーー

 

 

「怪異と人間を併せ持つような相手と事を構えるなんて本当に阿良々木君の優しさはいよいよ手のつけようがないよ、僕としてはそこまで他人に優しくなれる阿良々木君に尊敬の念すら禁じ得ないところさ」

 

 

ゆっくりと目を閉じた忍野は首を振って俯いた。

 

そして僕にはわかる…

 

これはただの皮肉なんかじゃなという事が。

いつだって忍野メメという男は大人として僕を窘めて正してくれた。

 

そして僕は悉くその気持ちを裏切り続けたーーー

 

忍野はそれでも僕に教えてくれているのだ。

 

人に優しくするのも立派だけど自分をもっと大切にしろ、と…

 

もはや使い古された言葉のひとつではあるけど、そんな当たり前をできないでいる子供のままの僕に忍野という大人は不器用にも丁寧に教えてくれているのだ。

 

 

「ま、過ぎた事をとやかく言っても何も始まらないからね。気持ちを切り替えて先に進もうか」

 

 

「先にって…どういう事だ?」

 

 

「ん?阿良々木君は僕の専門家としての意見を聞きにきたんじゃないのかい?きたるべき二日後の決戦に備えて少しでも立ち向かえる材料を揃えるために僕を訪ねて来たのだと思っていたんだけどな」

 

 

これこそが予想外の発言だった。

 

相手が怪異でもない上に僕が自ら招いたこの状況にあの忍野の口からこんなにも協力的な言葉が出てくるなんて僕には想像できていなかったから。

 

「っていう事は忍野、何かしらの対策を教えてくれるのか⁉︎」

 

 

余りの衝撃に喜びよりも驚愕が先行して語気が強くなる。

 

我ながら、ついさっきまで自分の成長の無さを振り返っていた男の姿にはとても見えなかった。

 

 

「まあ君と忍ちゃんに関しては僕の属するコミュニティーからは無害認定を受けているからね、その吸血鬼姉妹はともかく阿良々木君と忍ちゃんが討伐されるのはバランス的に良くないのさ」

 

 

「いや、そのへんの理屈は僕にはわからないんだけど…で、忍野!その対策ってのは⁉︎」

 

 

目の前に吊るされた餌に食いつく魚のように今か今かと忍野の言葉を待つ僕、

 

そして忍野の口がゆっくりと開かれるーーー

 

 

「専門家を相手にする時の対策…それはね…」

 

 

永遠にも近い一瞬の沈黙がその場を包むーーーー

 

 

「何もないのが現実さ」

 

 

目が点になるとはこの事だろう。

 

忍野の口から出た言葉が理解できない異国の言葉のように頭に反響する。

 

「ちょ、おい忍野!いくらなんでもこんな時にふざけてる場合じゃーーー」

「大真面目だよ阿良々木君。」

 

 

もはや忍野の顔からいつもの薄ら笑いが消えていた。

 

 

「いいかい?相手がどんな出鱈目な特性を持つ怪異だろうとそれを制してこその専門家だ。簡単に看破されるような技術や戦術なら専門家なんてとっくの昔に存在ごと怪異に消されているよ。それが一部の怪異を専門的に扱う専門家なら尚更だ」

 

 

 

古代より伝わる専門家の話

 

 

陰陽師、イタコ、シャーマン、巫女…

 

 

それらの存在が現存まで語り継がれ伝承されている理由、それは怪異に負けない力を持つ者だから。

 

怪異に存在を消されていないから。

 

 

考えてみれば当たり前の理屈だった。

 

もし人間が怪異を越えられないならば歴史のどこかで人間と怪異のバランスは真逆の者になっていた事だろう。

 

それが今でも人間としての社会を築いているのだから答えは出ていたと言っても過言ではないのだ。

 

 

「まあ僕としても親愛なる友人の一大事に力を貸してあげたいのは山々なんだけどね、まさか怪異の味方として専門家を討伐する方法を聞かれる日がこようとは想像もしてなかったよ。でも、わかって欲しいのはそんな方法があるとすればそれは僕が僕を殺す為の方法を教えるのと同義なんだ。」

 

 

「確かに…お前の言う通りだよ…なら忍野、なんでお前は僕を引き止めたんだ?」

 

 

突き付けられた現実は落胆どころか絶望にも近いものがあったけど、それよりも新たな疑問が残るーーー

 

 

忍野は確かに回りくどい言い方をするけどわざわざ人の希望を圧し折るような言葉は吐かない。

 

そんな忍野が僕を引き止めてまで対策の無さだけを告げるはずがないという疑問だ。

 

「何、ここからはおよそ専門家らしくもないただの与太話だよ。いいかい阿良々木君?僕は対策なんて無いとは言ったけど絶対勝てないとは言ってないだろ?」

 

 

どこまでも回りくどい言い方を好む奴だけど毎回それに腹を立てている僕が悪いんだろうか?

 

 

「やめろよ忍野、僕は鈍いんだ。何かあるならもっとストレートに言ってくれ」

 

 

「はっはー、自分の無能っぷりを盾にそこまで大きく出れるのは日本広しと言えども阿良々木君くらいだろうね」

 

「さりげなく無能とか言ってんじゃねえよ!」

 

 

前言を撤回する。

 

こいつとの会話に腹が立つのはこいつのせいだ!

 

「まあ阿良々木君の無能については置いといて、この戦いについて大切な事は気持ちだ」

 

「おいおい、中学生の部活顧問みたいな台詞だな忍野…いくらなんでも気持ちって…」

 

「そうでもないよ阿良々木君、現に君達吸血鬼御一行は既に賭けているんだろ?」

 

 

「は?賭け?一体何のことを言ってるんだ?」

 

 

吸血鬼とギャンブルなんて共通点が一つもないように思えるんだけど、それも僕の学が無いが故なのだろうか?

 

 

 

「賭けたのは誇りさ、数多の専門家が現代まで存在しているのと同様に忍ちゃんやその吸血鬼姉妹だってはるか昔から現代まで存在しているのも揺るぎない事実だ。必ずしも怪異は専門家に勝てないわけじゃないんだよ阿良々木君」

 

 

「誇り…確かにあいつらは誇りの為に戦うとは言っていたけど本当にそれが勝敗の分れ目なのか?」

 

 

「はっはー、僕としてこういう一昔前の少年漫画みたいなノリは嫌いじゃないんだけどなあ、阿良々木君みたいな現代っ子にはウケないのかな?時代だねえ。伝説とまで謳われた忍ちゃんを前にして当たり前に勝てる専門家なんて僕には心当たりすらないよ、ましてやそんな彼女に肩を並べる吸血鬼があと二人もいるんだろ?対策なんかなくたって勝敗は最初から検討もつかないさ」

 

 

「まてよ忍野、それはお前が言っていた専門家としての知識や技術があれば話が変わるんじゃないのか?」

 

 

「それはそうだよ、相手は吸血鬼専門の専門家なんだ。生半可じゃないだろうね、でもーーー」

 

 

今は阿良々木君がいる

 

 

忍野は相変わらず火の付いていない煙草を咥えて僕を見る。

 

 

「それに吸血鬼姉妹にだって頼れる仲間がいるみたいじゃないか、突き詰めた話、大切なのは知識や技術じゃない。自分の存在を守るだけの理由と気持ちなんだよ、怪異に必ず理由があるように誰しもそこに存在する理由があるのさ」

 

 

「だから…部活顧問かよお前は」

 

言いながらもどんな対策やアドバイスよりも胸を打たれてしまった僕なのだけど。

 

 

「中立を重んじる僕としてはこの上なくフェアな戦いになると思うよ。いや、相手のやり方を言うならフェアって言い方は相応しくないのかな。そうだな、フェアというよりは五分五分の戦いというところかな。だから最初からそんな悲観的になる事はないよ阿良々木君、まだ負けと決まったわけじゃないんだから」

 

そう告げて忍野は身体を横にした。

 

これ以上の話しはないと言わんばかりに寝の体勢に入ったのだった。

 

「まあ、参考にはならなかったけど珍しくもありがたい忍野からのエールだと思って受け取るよ。ありがとうな」

 

「いいさ、それより勘違いは良くないよ阿良々木君。僕はエールを送ったつもりはないからね、この戦いで君は死んだっておかしくないのだから。僕から何かしら受け取ったというなら人の為に戦うならそれ相応の覚悟と責任を持つ事だ。人の為に自分を犠牲にするというのは聞こえは良いけど強くはない、そこのところを阿良々木君には今一度良く考えてもらいたいな」

 

 

正しいけど強くない…

 

 

それは僕が口にした事のある言葉だった。

 

そうか…あの言葉は僕自身に対しての言葉でもあったんだ。

 

 

「すまない忍野…今はお前の期待には応えられないけど、いつかは僕もそんな人間にーーー」

 

 

 

「ただいまー!」

 

 

何の解決にもならなかったけど何よりも僕の胸の奥底に突き刺さるような僕と忍野の話は霊夢さんの帰宅によって幕を閉じた。




遅くなりましたが次話投稿になります。
少し更新不定期になるかとは思いますがなるべく早く更新していきますので数少ないお気に入り登録してくださっている人は大変申し訳ありませんが気を長くお待ち下さい(。-_-。)

ではでは、興味とお時間のある方は今後ともよろしくお願いします!
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