東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
その後、伊吹萃香と名乗る鬼の少女と霊夢さんと僕は神社を後にして現在妖怪の山と呼ばれる場所に来ている。
萃香さんいわく見舞いとの事だが、見舞いをする側が飲酒で上機嫌とはこれ如何に…
ちなみに忍野はお留守番という事で神社に残った。
「僕みたいな居候の厄介者が仕事もせずに遊び歩いていたらバチがあたっちゃうよ、神社だけにね。それに阿良々木君の両手に花な折角の機会を潰したとあっちゃ申し訳ない、留守番はこの僕に任せて皆は行ってくると良いさ」
十二分に余計な事を言って僕達を見送った忍野は今頃自室で呑気に寝てる頃だろう…
「しかし吸血鬼の昔にそんな事がねぇ…格の差はあるけどあれでも鬼の名を持つ種族、誇りの為に戦うのもわからんでもない。いや、良い話が聞けて良かったよ。こりゃ止めてくれた紫にも感謝しなきゃねぇ」
相変わらずケラケラと笑う萃香さんは瓢箪の酒を口にする。
「そんな事よりさっそく件の三人組と一戦交えてるあんたの方がビックリよ!酒と喧嘩以外にする事ないのかしら?」
そしてその横で苦言を呈しているのは博麗の巫女こと博麗霊夢さんだ。
「まぁまぁそう言いなさんな霊夢、土産話は聞かせてやっただろ?」
ここに来るまでの道中、萃香さんからは昨夜あったバンパイヤハンターとの戦いの事を聞かされ、
そして僕からは僕の知る範囲、僕の語れる範囲での吸血鬼に纏わる昔話を伝えた。
もっとも萃香さんに語った吸血鬼の物語の大枠は既に耳にしていたらしく、萃香さんとしては答え合わせというか細部確認というか、
ただ話の核心を煮詰めるような感覚で僕の話を聞いていたようだ。
もっとも、その話を誰から聞いたかというと僕には全くわからない人物だったのだけど…
スキマ妖怪ってなんなんだ?
そして何故僕は現在こうして異質な三人で野山を散策しているかと言えば
たまたま霊夢さんに会うために萃香さんが神社に来た所、調度帰ってきた霊夢さんと出くわし、さらにたまたま忍野に会うために神社に来ていた僕という騒動の発端にして張本人と対面する事になったが故だそうだ。
そもそもは別に紅魔館まで来て事の真相を問いただすような事まではするつもりもなかったらしい。
あくまでも偶然の産物だ。
そしてそんな偶然によって幻想郷における僕の一日は今日も今日とて壮絶を極めるのだけれど。
「で、どうだったのよ萃香?その三人組は強かったの?」
過ぎた事をどうこう言っても始まらないと思ってなのか、単純に切り替えが早いのか霊夢さんから質問があがる。
そしてそれに対する萃香さんの返答はなんとも曖昧なものだった。
「んー…戦いって言っても私が喧嘩売って殴り合っただけだからねぇ…お互いに手の内なんて見せ合ってないからなんとも言えないよ。それに三人組って言っても一対一だったから他の二人は未知数さ」
未知数ーーー
未だ知らない数値の相手戦力。
そもそも僕はこの萃香さんの戦力について全く知らない訳で比較しようにも比較対象にすらないないのが現状だ。
いや、この幻想郷において鬼という一目置かれる程の存在が弱い筈がない…
そんな存在である萃香さんが少なくとも弱いとは言わないのだからそれはそういう事なのだろう。
「あんた程の実力者が随分と曖昧ね、少なくとも弱くはないんでしょ?」
煮え切らない霊夢さんはさらに言及する、そしてそこには予想外な返答が待っていた。
「いや、弱いよ」
「え?」
そんな力のこもった返答に僕は思わず間抜けな声を上げる。
「あれは弱い、少なくとも私とやりあったあの男は弱いよ」
「え?だって強いかどうかわからないんじゃないんですか!?」
これが本当なら喜ばしい事なのだろうけどそれよりを先んじて混乱が頭を駆け巡るーーー
「腕っぷしの強さはわからないさ…でもねぇ、芯が弱い。いや、腐ってるんだろうね」
瞬間、あの夜対峙した時のことを思い出すーーー
目的の為なら手段すら厭わず、どこまでも徹底した冷徹さ、そしてその外道…
芯が腐っていると言えば確かにそれを体現している。
「拳ってのは魂が宿るんだ、だからこそ鬼は拳で物を語る。そしてあいつの拳からは何も響かなかった…あれじゃ誇りをかけて立ち向かう者を倒す事はできないさね」
なんともこれ以上ない精神論を唱える萃香さん。
まるでさっきまでの忍野のような事を言うどこかの部活監督だけどーーー
やはり僕には一番響く言葉だった。
「どうしたって腕力だったり霊力みたいな部分は差が産まれるけどそれを凌駕するのはやっぱり魂さ、あいつらが相手なら私は百回戦っても負けやしないよ。ま、魂以外の部分でも私の方が強いしね」
霊夢さんはそういった精神論を好まないのか、興味なさげにひとつ溜息をついて口を閉ざした。
「強いんですね、萃香さんは…僕達は勝てますかね…」
ほとんど独り言のような質問だった。
けれどもそれは僕が今抱える不安の全てを含んだ言葉だった。
「さぁね、私にはわからないさ。ただ、あれに負けたなら吸血鬼がかけた誇りとやらも大したもんじゃなかったってだけの事。そう思われたくなきゃ勝つしかないねぇ」
悪戯に笑いながら再び瓢箪の酒を飲む萃香さんはそれ以上を語らなかった。
そして僕もこれ以上を問う事はしないだろう。
どうしたって勝たなければならないのだ、語られ続けた僕の敗北の物語の中で、これだけは絶対に譲れない。
僕の知らない時の中で、僕の知らない土地の上で、僕の知っている大切な奴が誇りをかけた戦いなのだからーーー
「しっかし久しぶりに来たけど警備の天狗もいやしない山は殺風景だねぇ、あいつらは今どうしてるんだい霊夢?」
「文から聞いた話だと白狼天狗の大半は永遠亭で手当てを受けたまま入院してるそうよ、比較的軽傷だった天狗もとても山の警備に当たれるような状態じゃないみたい」
話の内容から察するに、この辺りに住んでいる天狗達はあの三人組の被害で療養中らしい事がわかった。
僕が直接の原因とまでは言えないにしてもこういう実際の被害を目の当たりにすると、どうしても胸が痛む思いだ。
「ったく…鬼がいなくなってから平和ボケしてるからそんな事になるのさ。こんな事なら地底から山に戻ってこようかね…」
「あんたまた余計な異変なんて起こしたら次こそ退治するわよ?」
萃香さんにはなんかしらの前科でもあるのだろうか?
霊夢さんが眉間にシワを寄せて呟くとケラケラ笑いながら酒を飲む萃香さん
「なんだい、面白いかと思ったのに。ま、勇儀あたりはそんな事で地上には来ないだろうけどね」
「こられたらこっちの身がもたないわよ!あんたみたいな百鬼夜行とあんな怪力乱神なんて二度とごめんだわ!」
なんかを思い出したのか深い溜息をつく霊夢さん、
余計な首を突っ込むのが一種のルーティーンになりつつある僕がそれについて口を開こうとしたその時だった
「おや、あれは…」
萃香さんがそう言うと、その目線の先に衝撃的なものがーーー
およそ少女といった感じの後姿
そして大きなリュックサック
頭の両サイドには風に揺れるツインテール
その姿はまるでーーー
「八九寺ーーーー」
あの夏の日に僕の前から姿を消した蝸牛の迷子を彷彿とさせる姿がそこにはあった。
短いですがすいません!
八九寺ファンとしては是非やりたい展開に持ち込みたかったのでそこまでのシナリオ作りみたいな…早い話が閑話ですw
それでは興味と時間のある方は引き続きよろしくお願いしま!