東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
八九寺真宵ーーー
その名を聞くたび、口にするたび、今でも僕が泣き出しそうになるのを必死に堪えていると言えば些か大袈裟に聞こえるだろうか?
十年以上も道に迷いながら、しかし己の在り方に何の迷いも無く、僕の前から姿を消した小学五年生の女の子ーーー
彼女が消えてからというもの、僕の中に発生した大きな空白というか溝というか…喪失感とも言える感覚は少しも色褪せずやはり僕の中にあり続けている。
もし仮に、僕の命を犠牲にすれば八九寺を取り戻せるというならば、僕は何の迷いもなくこの命を差し出すだろう。
そんな大仰な事を口にする僕が未だにこうして生き永らえているのは、やはり僕の命でどうにかできるような問題ではないという事実は勿論の事、
それでなくても、八九寺に未練を抱くのと同様に、今の僕の人生にも未練タラタラなのが否定できない事実ではあるのだけど…
そんな僕がいつもの生活の中で、いつものように慣れ親しんだ道を歩く時、あの懐かしい後姿を無意識に探してしまうのは未練ここに極まるとでもいったところだろう。
そしてそんな探し続けた後姿がまさか目の前に…
って、いやいやちょっと待てよ。
まずありえる訳がないじゃないか。
いくらなんでも成仏したはずの八九寺がどう間違ったら幻想郷にいるんだよ!?
成仏したふりして幻想入りしてたのか?
確かにこんなイレギュラーな場所なら世界のルールである『くらやみ』も発生しなそうなものではあるけども…
だとしてもあれだけ感動のラストを飾ったにもかかわらず実は成仏してませんでしたでは、八九寺Pとまで自負していたあいつらしくもない。
いや、そこを百歩譲ってみたとしてもだよ?
譲りに譲って、譲り渡して考えてみてもだよ?
こんな唐突にあの八九寺に再開を果たすことになったとしても、僕も挨拶に困るというものだ。
どれだけ願っても届かないみたいな、淡く切ない感覚があって初めて僕はこうも強く八九寺を想っていられたみたいな部分だって否めない訳で、
それがこんな何の感動も生み出さない、言ってみれば
ちょっと離れた街でたまたま入ったファミレスに、偶然昔の友人がバイトしてた、みたいな
嬉しいには嬉しいんだけどお互いの距離感がわからずにどこかよそよそしい空気になるようなシチュエーションはどうにかならないものだろうか…
状況的には僕が先に気付いてしまった以上、僕から声を掛ける事になる訳なんだろうけど…
そんな微妙な空気のままに
「よ、八九寺。久しぶりじゃん」
なんて声を掛けたら、一瞬で空気が凍りつくだろう。
ましてや相手は僕より遥かに年下の女の子だぞ…
そんな空気に対応できるとはとても思えない。
と、なればここは年上で男性という事を念頭に考えれば必然的に僕の器量が試されるワンシーンであることは明白だ。
まるで昔のあれこれを感じさせないような立ち振る舞いが要求されている。
そうなれば話は簡単だ。
みんなの予想通りのリアクションになってしまうのは僕としても面白くないし大変に不本意ではあるけれど、あくまでも八九寺に余計な気を使わせないためだ。
昔のように後ろから抱きついて喜んでますよーみたいなリアクションをしてやろう。
だが、勘違いだけはしないでほしい。
僕はあくまでもそんな下品かつ下劣な事はしたくないのだ。
少女相手に不意打ちのようなセクハラなど言語道断、僕に選択の余地があるのならばどんな手を使ってでも避けたい道である。
全然気乗りはしないし、こんな流れを作ったこの世の中に対して業腹であるのだけれど、
嫌々、あくまでも嫌々この流れに今だけは乗ってやる事にしよう。
まったく、僕も甘い…
「八九寺ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ここで会ったが百年目だ!
いや、百年どころか何百年何千年経っても離しやしないぞ!
もうこのまま衝突して八九寺と一体化したって構わない!むしろ一体化したい!いや、合体したい!!!
なにが都条例だ!そんなもん僕の八九寺に対する愛の前では何の意味も成さないって事を今日こそわからせてやる!
「ちょ、ちょっとどうしたのよ⁉︎」
「なんだぁ⁉︎あいつ頭がおかしくなったのか?」
霊夢さんと萃香さんが何か言ってるけど気にしてられるか!
今の僕は巫女にも鬼にも都条例にも止められない!!
今こそ再びこの手に八九寺をーーーー
ガシッ!!!!
「八九寺ー!!会いたかったぞこの野郎!お前が消えたあの日から僕がどれだけお前に恋い焦がれていたことかー!!」
「ぎゃー!」
「お前が現れてくれるなら場所なんてどこでも構うもんか!道だろうが地獄だろうが幻想郷だろうがお前を抱けるなら僕はどこにだって行ってやる!!」
「ぎゃー!ぎゃー!!」
「ああもう!お前と一体化するのに服も体も邪魔でしかない!!こら!暴れるな!!くまなく舐められないだろうが!!!」
「ぎゃー!ぎゃー!!ぎゃー!!!」
「霊符・夢想封印!」
「鬼火・超高密度燐禍術!」
「河符・ディバイディングエッジ!」
「なっ⁉︎うわぁぁああああああああ!!!」
閑話休題
「はっ!」
目が覚めると眉間に皺をよせた霊夢さんの顔が
「二つの意味で目が覚めたかしら?」
「えっと…」
「いきなり走り出したかと思えば妖怪に襲いかかるなんて…しかも発言が危なすぎるわよ」
危ないものを見るような目で僕を見る霊夢さんを他所にあたりを見渡せば、少し離れた所に萃香さんがいた。
そしてその後ろには先程の八九寺に見えた後姿の女の子も
「あれ?別人…?」
「おいおい、半人半鬼なんて言ってる時点で面白い奴だとは思ってたけどいよいよ本当に面白い奴だねぇ。そんなに河童が好きなのかい?」
ケタケタ笑いながら萃香さんが話しかけてきた。
そしてその後ろから顔を出した女の子は一目瞭然、八九寺ではなく全くの別人だった。
「ったく、突然なんなのさ!?巫女はいるし鬼はいるし…挙句の果てに知らない男に襲われるし!どうなってるんだよ!?」
それは全体的に水色をモチーフにしたファッション的な意味では八九寺にそっくりな全然知らない女の子。
「えっと…霊夢さん、あちらの方は…?」
いろんな感情が入り混じりながらも目の前の現実を整理すべく、なんとか霊夢さんに説明を求める。
「あれはこの辺に住んでる河童の妖怪で河城にとり、まぁ幻想郷の発明家って感じの特に害はない妖怪なんだけど…あんた知り合いじゃなかったの⁉︎」
どうも先程のやりとりから、僕がこの河城にとりさんを知っているものだと勘違いしていた様子の霊夢さん。
「ごめんなさい…人違いでした…」
それはそうだろう。
確かにいくら幻想郷とはいえども、こんな所で八九寺と再開なんてあまりにも話がうますぎる。
それでもあの少女の面影を重ねずにはいられない少女を目の前にして、僕のこの数ヶ月におよぶ感情の防波堤は決壊した。
「えっ⁉︎ちょっとあんた、何泣いてんのよ?」
「おやおや、鬼の目にも涙かい?」
「いや、泣きたいのはこっちだよ!」
そう、気が付けば僕は自然と泣いていたのだ。
ほんの束の間、あの少女とのやりとりを鮮明に思い出しただけで僕の涙腺は崩壊した。
「どうやら訳ありみたいだねぇ、あんたも昔になんかあったのを抱えてる口かい?」
萃香さんが何かを察したのか、先程までとは打って変わってとても優しく問いかけてきた。
他の二人も、さすがに突然に涙を流す僕を目の前にして茶化してきたりはしなかった。
「その、僕の大切な友人とにとりさんがとても良く似ていたので…その友人にはもう会えないんですけど…思い出したら嬉しくなっちゃってつい…ごめんなさい」
八九寺に関する詳細までを話す気にはなれなかったが感情の起伏も手伝ってかつい暗い事を口にしてしまうーーー
「ま、誰だって色んなものを抱えてるもんさ。長く生きてりゃ別れだって経験していかなきゃならないしねぇ。それでも涙を流すほどに大切に想ってもらえてるその友達とやらは幸せ者だよ」
深くは言及しなかったものの、何かを悟ったのだろう…萃香さんもそれ以上は聞いてはこなかった。
「それにしてもにとり、あんたがこんな所でウロウロしてるなんてどうしたのよ?」
目の前で大の男が突然泣き出した挙句、あまりにも暗い雰囲気を醸し出した所でさすがに気まずくなったのか、霊夢さんが話題を変えるかのようににとりさんに話しかける。
「え?いやぁ…いつもなら椛と将棋を射してるところなんだけどさ、あいつ今はいないから…」
博麗の巫女、なんたるミステイク!
両方とも僕のせいとはいえ場の空気が余計に沈んでいくような感覚を肌で感じる。
「うーん、湿っぽいのは苦手だねぇ。良し!ここは気分を変えて外来人の為の観光案内ツアーといこうじゃないか!」
そしてこの空気を打破したのは酔っ払い幼女こと伊吹萃香さんだった。
「ちょ、ちょっと!」
「ん?なんだい霊夢?」
「あんたまた突拍子もなく勝手に決めちゃってるけど観光案内って何よ!?」
生粋の面倒くさがりである霊夢さんは萃香さんの申し出に否定的な態度を見せる。
「だって霊夢だって暇なんじゃないのかい?わざわざ天狗の見舞いなんかに付き合ってくれるあたり今日は予定がないもんだと思ってたけどねぇ」
「それとこれとは話が別!お見舞いがてら今回の異変の調査も兼ねてるのよ!ここが済んだら神社の仕事だってしなきゃならないんだし!」
「神社の仕事ったって今は例の外来人がやってくれてるんだろ?それに元からあの神社に仕事なんてないじゃないか、参拝客もいないんだし…って、あ…」
「あんた…今、なんか言ったかしら…?」
「はは…こりゃ藪を突いて蛇どころか鬼が出たかねぇ?じゃあしょうがない!私と河童とあんたとで行こうか!」
「「えっ⁉︎」」
まさかの強行に思わず僕とにとりさんがシンクロする。
「なんだい?外来人のあんたは行くとして河童まで行けないとは言わないだろ?」
なぜ僕だけは強制参加なんだよ!?
「いやぁ、私も鬼の誘いとあれば勿論断る訳にはいかないんですけど…できれば椛のお見舞いまでのお供にしてもらえませんか?やっぱり友達が心配なので」
萃香さんと、いや、鬼と昔に何かあったのだろうか?
非常にビクついて恐縮しながら了解を得ようとするにとりさん。
「んー、旅は道連れと言いたいところだけど友の見舞いとあっちゃあ野暮な事は言えないねぇ。よし、あんたは永遠亭まで一緒に来れば良いさ!どうせ道中に他の道連れも捕まるだろう!」
こうして僕の本日におけるスケジュールが半ば強制的に決定したのだった。
「あ、萃香さん。せっかくなんですけど少しだけ時間を貰っても良いですか?僕も紅魔館の人達に帰りが遅くなる事を言っておかなきゃならないんで」
さすがにこの広い幻想郷を案内してくれるとなればそれなりの時間がかかるだろう。
心配されるとは思わないけど、それでも今は命がけの戦いを控えてる身だ。
何も告げずに長時間いなくなるのは礼儀としても良くないように思える。
「あぁ、それなら私が伝えておくわよ。ちょっとこの後レミリアの所に行こうとしてたから」
申し出は霊夢さんからだった。
「レミリアに用でもあったんですか?なんにしても助かります、じゃあ僕は夜まで帰れないって伝えておいてください」
「わかったわ、あんたも萃香がいれば平気だとは思うけど気をつけてね?あ、にとりもなるべく早く帰るのよ?いつ例の三人組と出くわすかもわからないんだから」
「はは、なんだかんだ言って霊夢は優しいねぇ。これで少し素直さがあれば可愛いもんなんだけど」
「う、うるさいわよ萃香!私はまた余計な騒動を起こされたくないだけなんだから!」
霊夢さんはツンデレ属性も持ち合わせているようだ。
色々と大変な人なんだなあ、と、そんなやりとりを見ながら僕達は飛び去る霊夢さんを見送った。
「さ、気を取り直して!楽しい楽しい幻想郷巡りの旅に出ようじゃないか!うまくいけばあんたの小さな望みも叶うかもしれないよ?」
萃香さんが笑いながら話しかけてくる。
しかし僕の小さな望みとはなんだろうか?
「ま、とりあえずは永遠亭から目指してみるかね。」
果たして幻想郷観光案内ツアーがスタートした。
この辺りから両作品の原作にはないような設定なんかが入ってきますが気にしないでもらえるとありがたいです!σ(^_^;)
しかしなかなかコメントが貰えないのは変わらないですが気付けばお気に入りが70件を超えていてとてもビックリしています!
今度もなるべくがんばって更新していきますのでご意見ご感想のある方は気軽にコメント頂ければと思います!
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!