東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第27話ー最後通告ー

【紅魔館】

 

「zzz…」

 

 

「…ちょっと」

 

 

「zzz…zzz…」

 

 

 

「ねぇ、ちょっとってば!」

 

 

 

「zzz…zzz…zzz…」

 

 

 

「いい加減に起きなさい!」

 

 

怒声と共に太極図の球体が寝息を立てていた女性の頭にめり込んだ。

 

 

 

「いったーい!!って、あれ?霊夢さんじゃないですか!?何してるんですかこんな所で?」

 

 

涙を浮かべながらも目を覚ました女性は紅美鈴、紅魔館の門番である。

 

が、門番とはあくまでも役職名でしかなく、業務の殆どを睡眠で過ごす彼女は最近、影で紅魔館のオブジェとの呼び声も高い。

 

「はぁ…レミリアもさっさとこんな門番クビにしたら良いのに…」

 

 

そして呆れ顔で溜息を漏らすこの女性は博麗霊夢。

 

幻想郷の巫女であり、幻想郷を取り囲む結界の管理者でもある。

 

 

「ところで働き者の門番さん、レミリアはいるかしら?」

 

 

「はは、どこか棘がありますねぇ…ま、どこぞの白黒とは違ってちゃんと門番を通してくれるあたりはありがたいです。お嬢様ならこの時間はまだ寝てるかパチュリー様や忍様とお茶してるんじゃないですかね?」

 

 

 

「まぁいいわ、とりあえずレミリアに用があるの。最悪、咲夜でも良いから取り次いでくれる?」

 

 

 

「えっ?用があるなら直接行ってきたら良いじゃないですか?」

 

 

「…門番としてそれはどうなのよ?まぁ、良いわ。なら勝手に上がらせてもらうわよ」

 

 

いよいよ門番として全く機能していない美鈴をよそに霊夢は紅魔館へと入っていく。

 

そこは昼も夜もなく薄暗い空間が広がっていて全体的に赤く朱く紅い内装が霊夢を出迎えた。

 

 

「ちょっとー!誰かいないのー!?レミリアに用があってきたんだけどー!!!」

 

 

およそ巫女らしからぬ大声を張り上げて住人を呼び出す、それは来客というよりは道場破りのような佇まいだ。

 

 

「あら霊夢じゃない。下劣な大声が聞こえたからビックリしたわ。レミリアお嬢様に何の用かしら?」

 

先程まで何も無く、何もいなかった場所に突如として現れたのは十六夜咲夜。

 

この紅魔館のメイドにしてメイド長、そしてこの館の中で唯一の人間でもある。

 

 

「一言余分よ咲夜、けどちょうど良いわ。紫と例の外来人に言付けを頼まれてレミリアに会いに来たのよ」

 

 

「スキマ妖怪と暦さんに?まぁわかったわ。お嬢様ならテラスで紅茶を飲んでるわよ、今からお茶請けをお出しするから一緒に来なさい」

 

 

「あ、私の分も用意して頂戴ね!特にお茶請けの方を多目に!!!」

 

 

「貴方…」

 

こうしてどこか哀れみのような視線を霊夢に向けた咲夜は再び一瞬にして霊夢の目の前から消え、そして次の瞬間にはお茶請けを手にして霊夢の目の前に現れた。

 

 

「ほんと便利よねぇ、あんたのその『時を操る程度の能力』」

 

 

博麗の巫女ですら唸るその能力とは十六夜咲夜の能力、『時を操る程度の能力』である。

 

 

「そうでもないわよ?止めた時の中でも自分の時間は進んでいるのだから寿命だって進むわけだし。気付いたら次の瞬間には私がお婆ちゃんになってるかもしれないわよ?」

 

 

「それはイヤだわ…使いすぎれば自分にツケが回ってくるような能力はパスね」

 

そう言い捨てるとすっかりと咲夜の能力への関心を捨てる霊夢。

 

しかしこれは咲夜のちょっとした嘘がそうさせただけなのだった。

 

 

止めた時間の中では咲夜の寿命をも止めている。

故に咲夜だけが歳をとるのが早いという変なタイムパラドックスは生まれない。

 

なら何故にこのような嘘をつく必要があるか?

 

それは彼女がどこまでもメイドに徹しているため。

 

自身が仕える主人を差し置いて自分が他者から羨望の眼差しを浴びることを良しとしない心構えからの所作である。

 

 

話は戻り、二人はテラスでティータイムを楽しむ紅魔館の主の元へとやって来た。

 

 

「お嬢様、霊夢がお見えです」

 

 

「あら霊夢、先日はどうも。ちょうど今からパチェと忍お姉様とお茶だったのよ、貴方も一緒にどう?」

 

 

 

パラソルを日よけにしたテーブルを囲むように座るのはレミリアとパチュリー、そして吸血鬼の頂点である忍野忍。

 

 

そして主であるレミリアは、魔理沙とは違って霊夢はある程度の常識を介している事、そして日頃は逆にレミリアが博麗神社へと遊びに行く事が多い事からお茶会へと誘った。

 

 

「せっかくだからご馳走になるわ、あんたに話もあるしね」

 

 

これはいい機会と見て遠慮もなく席へと座る。

 

一方、パチュリーは相変わらず読書。

 

忍に関しては先日のあれこれのせいで霊夢に対してあまり良い印象を抱いておらず、不機嫌そうな顔をしている。

 

 

しかしそこは博麗の巫女、肝が座っているというか無神経というか、何の臆面もなく話を切り出した。

 

 

 

「単刀直入に言うわよレミリア。あんたに紫から伝言を預かってるわ」

 

 

咲夜が入れた紅茶のカップが目の前に置かれるタイミングで霊夢は話し出す。

 

「今回の異変に関しては紅魔館以外の幻想郷全てがノータッチの姿勢で通すことに正式決定したわ」

 

 

「そう…形はどうあれ納得してもらえたなら良かったわ」

 

 

少しの動揺も見せずに受け答えるレミリア。

 

それはまるで、こうなる事を予め知っていたかのような振る舞いだった。

 

しかしここで、霊夢の口から衝撃的な事実が告げられる。

 

 

「ここまではあくまでも表面上の話よ…本当の部分での決定事項は別にあるわ…」

 

 

少し含みのある言い方をする霊夢に何かを感じたのか、レミリアをはじめとする他の二名も霊夢へと視線を向ける。

 

 

「もったいぶらずに話しなさい。どの道、良い話ではないのでしょう?」

 

 

どこか悟った物言いのレミリアを一瞥して霊夢は目を閉じ言葉を紡ぎ出す。

 

 

「えぇ…隠しても意味のない事だしキッパリと言っておくわ。この異変への幻想郷からのノータッチが意味する本当の意味は…貴方達の敗北は紅魔館の消滅を意味しているのよ」

 

 

紅魔館の消滅。

 

博麗の巫女から放たれた衝撃的であり、全く掴めないその言葉に一同が眉をひそめる。

 

そして一人の吸血鬼が沈黙を破って口を開いた。

 

 

「ふん、何がキッパリとじゃ。紅魔館の消滅と言ったな小娘?そもそも儂等が負けるなど万に一つもありえん事じゃが、もし負けたとしてその消滅とはどういう意味じゃ?」

 

 

 

唯一の紅魔館の住人でない者からの言葉。

 

しかし、この忍にして吸血鬼の絆とはそれ程までに重要であり、これまでの物語の中で暦以外の者に対する心配や配慮など皆無に等しかった忍の他者を想っての言葉は霊夢に対して敵対心や苛立ちを持つ言葉にはならなかった。

 

故に霊夢はその質問に静かに答える。

 

 

「長い幻想郷の歴史の中でも今回の異変はあまりに異質なのよ。幻想入りした外来人の多さ、結界への干渉、スペルカードルールの非加入…つまり幻想郷はこの異変を特例の危険因子として捉えている」

 

 

ありのままの事実を隠さず伝える事が、博麗の巫女にできる唯一の誠意だった。

 

そしてその言葉を受けた面々は表情を重くする。

 

 

「具体的に紅魔館の消滅とはどういう事を指すのか…ちゃんと言いなさい霊夢」

 

 

「…あんたをはじめとする紅魔館の連中は幻想郷の重要なパワーバランスの一部なの、それに相手は結界に干渉できる相手…貴方達が敗れたとなればそれを野放しにする訳にはいかない…」

 

危険因子は芽がでる前に詰みたいのよ。」

 

でも貴方達、吸血鬼の誇りを汲まない訳にもいかない…だから貴方達が勝つ事を信じてこの異変は任せる事にしたの。」

 

でも、万が一負けたら…その時は私の結界と紫の能力を使って異変の元凶を紅魔館ごと異次元に…消し去るわ…」

 

これが幻想郷の管理者である大妖怪、八雲紫が出した異変の解決を紅魔館に一任する条件…」

幻想郷は全てを受け入れる…でも幻想郷を脅かす者はこの大地にはいらない…それが紫の言葉よ」

 

 

 

一通りを話し終えた霊夢。

 

その場にはもう沈黙以外の何もなかった。

 

 

そもそも八雲紫とは幻想郷の創立者の一角にして誰よりも幻想郷を愛する、最強の呼び声も高い大妖怪。

 

 

そして幻想郷に纏わる数々の異変を解決するに当たって、影ながら霊夢や魔理沙をサポートしてきた存在だ。

 

 

その力と存在、発言力は絶対とも言える影響がある。

 

 

そんな八雲紫が紅魔館を消すとハッキリと言ったのだ。

 

その意味する所は外来人である忍にはわかりずらかったが、レミリアやパチュリー、霊夢には痛い程わかっていた。

 

 

そしてそれが意味するのは紅魔館の消滅だけではない。

 

 

 

もし仮に敗北したとして、その瞬間、紅魔館と共に戦った忍や暦、果ては寝食を共にした咲夜や美鈴も異次元に消える運命にあるのだ。

 

 

 

それをわかっているからこそレミリア達は口を開く事ができなかった。

 

 

「…ねぇレミリア、あんた達吸血鬼の誇りを安く見ている訳ではないわ。ただ、それでも今回の異変、幻想郷と共に解決に臨むって選択は持てないの?」

 

 

これは霊夢にできる最後にして最大の歩み寄り。

 

 

常に平等であり、冷静である霊夢ではあるが、その実は優しく、そして情に厚い部分を持ち合わせている。

 

 

 

もし、レミリア達が幻想郷と手を取り合って異変を解決する事になれば八雲紫の対応も変わってくるだろう。

 

 

ましてや仲間を傷付けられた天狗達、その上に立つ鬼、果ては八雲紫自身も協力してくれるかもしれない。

 

 

そうなれば解決は決定的とも言える上に紅魔館の存続も約束される。

 

 

霊夢としては共に幻想郷に住まう者を救える道があるにも関わらず、わざわざ危険な道に歩ませる事を傍観するのが耐えられなかったのかもしれない。

 

 

そして、それがわからないほどレミリアも霊夢を知らない訳ではなかった。

 

 

「私は…」

 

 

選択を迫られたレミリアは言葉を迷う。

 

 

己のエゴとも言える選択が故に自分を慕う者、自分が慕う者を危険に追い込んでいる。

 

 

その事実がレミリアの判断を鈍らせた。

 

 

だがその時、忍が柄にも無い大声を張り上げたーーー

 

 

 

「レミリア!!!」

 

 

 

場の沈黙にそぐわないその大声に一同は目を見開いて忍を見る。

 

だが忍のその金眼は真っ直ぐにレミリアを捉えていた。

 

 

「なんじゃその弱々しい態度は!うぬは誇り高き吸血鬼であろう!?儂もそうじゃ!うぬと同じく誇り高き吸血鬼じゃ!」

 

 

忍のその顔は誰の目から見ても激怒。

 

 

姿こそ幼女ではあるが、その身に纏うプレッシャーは全盛期のそれと比べても遜色のない程だ。

 

 

そしてそのままの勢いで忍は続ける。

 

 

「それがなんじゃ?うぬは今、儂の事を気にかけた挙句に負けた後の心配までしよったのう?馬鹿にするでない!誇りを曲げてでも得た余生に価値などあってたまるか!それにのう…」

 

 

忍の怒りに満ちたその眼に一瞬だけ哀しさが宿るーーー

 

 

「儂は…儂はうぬを単なる同族などと思ってはおらん!儂はレミリアを本当の妹のように思っておるのじゃ!それを信じもせず、頼りもせずに逃げを考えるじゃと?ふざけるな!」

 

 

「忍お姉様…」

 

レミリアはただただ黙って忍の眼を見つめ返していた。

 

 

「うぬの誇りを守る為なら命など惜しくないわ!儂を見くびるなよ!吸血鬼とはそんな安い種族ではなかろう!儂の為に誇りを曲げようなどと口にする事は儂が許さん!!」

 

 

 

いつの時も吸血鬼である事に誇りを持って生きてきた忍。

 

 

そんな中で数少ない繋がりを持ち、絆を持った相手だからこその言葉ーーー

 

 

それが同じ吸血鬼であるレミリアの胸を打たない筈が無い。

 

 

そしてもう一人

 

 

 

「恐れながらお嬢様」

 

 

「咲夜…」

 

 

声を発したのはここまでレミリアの背後に控えていた咲夜。

 

 

メイドとゆう立場に準じている彼女からの発言は珍しい。

 

 

「恐れながら申し上げます、私も…忍様に同じです。確かにお嬢様には生きてもらいたく思います。ですがその結果、お嬢様の在り方が変わってしまいお嬢様がお嬢様でなくなるのは耐えられません」

 

 

勝手な発言を申し訳なく思う様子を見せながら、しかし力強く咲夜は続ける。

 

 

「まして、それが私達の事を想っての事とあれば尚更我慢できる訳がないでしょう。私達はお嬢様の生きる上での力であり助けでありたいと思ってお仕えしております、それがお嬢様の生き方の邪魔になって平気な筈がありましょうか?」

 

 

咲夜は最後に頭を深々と下げて締めくくる。

 

 

「どうか…お嬢様のままであって下さい。私達はそんなお嬢様にお仕えして最後を迎えるのならば本望です。言ったはずですよ…生きている間は一緒にいると。最後までお供させて下さい」

 

 

その覚悟は数百年の時を生きた吸血鬼の心を動かすに足るだけの説得力を宿していた。

 

 

「かかっ、人間が言いよるわ」

 

 

 

だからこそ忍までもが咲夜の言葉に笑みをこぼしている。

 

 

「レミリアよ…後はうぬが決める事じゃ。この城の主としてのうぬの答えを聞かせよ」

 

 

 

再び一同の視線はレミリアに集中する。

 

しかしそこにはもう弱々しく迷う吸血鬼はいなかったーーー

 

 

 

「…頭を上げなさい咲夜」

 

 

「…お嬢様」

 

 

「全く…随分と出しゃばるメイドになったものね?まだまだこの先も教育が必要なようだわ」

 

 

レミリアのその顔はすでに迷いはなく、凄惨な笑みを浮かべていた。

 

 

「霊夢、貴方のその提案は素直に感謝する。でも、ここで誇りを曲げたら私は…私達吸血鬼は死ぬのよ。そしてそれはもう二度と取り戻せない」

 

 

霊夢はただ黙ってレミリアの言葉に耳を傾けている。

 

 

「今回の異変、私達紅魔館が解決してみせる。万が一の時は好きにしなさい、私達が負けることはありえないのだから」

 

 

そう言い切ったレミリア、そしてその仲間達はそんなレミリアを満足気な笑みで見つめている。

 

 

「ふぅ…わかったわ。なら私からはもう何も伝える事はない。この異変、最後まで見届けさせてもらうだけよ」

 

 

 

霊夢もこれ以上の言葉は持ち合わせていない。

 

そこに介入するだけの理由はもう何もないのだから。

 

 

 

「ところで霊夢」

 

ここにきてやっと手持ちの本を閉じ、パチュリーが口を開いた。

 

 

「何よパチュリー?あんたも何かあるの?」

 

 

「いえ、私も友人としてレミィが生き方を変えなかった事は嬉しく思うわ。そこじゃなくて貴方が不思議でね」

 

 

「私が?何のことよ?」

 

 

パチュリーは眼鏡をはずして霊夢の眼を見ると薄く笑って告げたーーー

 

 

 

「貴方、この話をわざわざ紅魔館まで来て伝えてくれたのはなんでなの?」

 

 

 

霊夢以外の全員がパチュリーの言葉に『あっ』という顔をする。

 

 

それもそうだ、この話はあくまでも八雲紫が霊夢に対して伝えた事であり、霊夢はわざわざそれを紅魔館の面々に伝える義務も必要も無かった筈なのだ。

 

 

 

「そ、それは!」

 

 

みるみる霊夢の顔が真っ赤に染まっていく。

 

だがパチュリーはそんな霊夢が面白いのか容赦せずに畳み掛ける。

 

 

 

「ふふっ、素直に言ったら?レミィの事が心配でどうにかしたくて伝えに来たって」

 

 

 

「ばっ!バカ言ってんじゃないわよ!!!私はただ決定事項を仕事の一環として伝えただけなんだから!そ、それにそうよ!事のついでよ!本当は他に用があったのよ!!!」

 

 

 

必要以上の大声でまくし立てる霊夢、その姿からは博麗の巫女としての威厳は欠片もなかった。

 

 

 

「貴方も苦労の多い性格してるわね…疲れないの?もっと素直になれば?」

 

 

レミリアですら憐れみにも似た表現で声をかける有様だ。

 

 

「大きなお世話よ!その言葉はあんたのお姉様に言ってやりなさい!!!」

 

 

 

「なっ!?儂はただ儂がおるのに負けるかもしれんみたいに言われたのが頭にきただけじゃ!うぬのように心配で心配でしょうがないみたいな顔はしとらんわい!!!」

 

 

 

 

そして突然に矛先を向けられた忍にも吸血鬼としての威厳は欠片もなかった。

 

 

 

「まぁまぁ二人共、その辺にしましょう?二人の気持ちは嬉しかったわよ?」

 

 

最後のトドメはレミリア。

 

これには二人もーーー

 

 

 

「「だから違ーーーう!!!」」

 

 

 

シンクロした。

 

 

 

「話はまとまったようだし私は図書館に戻るわ、また何かあったら呼んでちょうだい」

 

 

 

その様子を見ていたパチュリーは、ある程度満足したのか本を手にフラフラ飛びながらテラスを後にした。

 

 

 

「あの引きこもりが一番性格に問題あるわよ…」

 

「全くじゃ…」

 

 

 

奇しくも同じ感想をもらす霊夢と忍。

 

同じ不自由な性格の持ち主である二人はある意味で類は友を呼ぶというのか残念な部分での共通点を持っていたのだった。

 

 

 

「まぁ良いわ、話は済んだし私も神社に戻るわ」

 

 

とてつもない疲労感を宿した顔をして霊夢が席を立つ。

 

 

「あら霊夢、暦さんからの言付けがあったんじゃないの?」

 

 

呼び止めたのは咲夜、どこまでもメイドな彼女は自分の主に用件があると聞けばその内容も勿論忘れる訳がない。

 

 

「あ、すっかり忘れてたわ。あんたの所の外来人から言付けを頼まれてたのよ」

 

 

無理もないと言えば無理もないのだが、本当にすっかり忘れてた霊夢は暦の用件を伝える。

 

 

 

「さっきうちの神社に来てたんだけど今日は幻想郷を巡るって出かけて行ったわ。だから帰りが遅くなるって言ってたわよ」

 

 

「我が主様が?」

 

「待ちなさい霊夢、あなたはそれを止めなかったの?ただでさえ妖怪の蠢く幻想郷なのに今はあの三人組もいるのよ?何かあったらーーー」

 

「あー、それは大丈夫」

 

 

 

苛立ちの見えるレミリアを遮って霊夢は少し大き目な声をあげる。

 

 

「おいうぬ、我が主様が大丈夫と言い切る根拠は?」

 

勿論この事に関して誰よりも暦の身を案ずるのは忍だ。

 

忍の性格上、決して心配する素振りや動揺などを見せはしないが表現には余裕がない。

 

 

「あんたは知らない名前だろうけどあの外来人には案内人が付いてるわ。それも幻想郷で最強の部類に入る鬼がね」

 

 

 

「ちょっと霊夢、鬼ってまさか…?」

 

 

 

「そう、そのまさか。伊吹萃香があの外来人の案内人よ」

 

 

その名前を聞いたレミリアは苛立ちこそ消えたが返って呆れたような顔になる。

 

 

忍に至っては鬼という言葉以外は理解不能だ。

 

 

「何があればあのいけ好かない鬼なんかと暦が一緒に出かける事になるのよ?」

 

 

今さらこの場でどうこう言っても仕方がない事とはいえ、レミリアはその質問をせずにはいられない。

 

 

 

「その説明は私が今するには面倒だから帰ってきたら本人にでも聞いてちょうだい。とにかく無事は保証できるわ」

 

 

霊夢がここまで言い切った事、そさしてレミリアから苛立ちが消えた事から忍も内心を落ち着かせる事ができた。

 

 

「まあよい。もし我が主様に何かあればその時はうぬの血を一滴残らず吸い尽くすまでじゃ」

 

 

「あんた良薬口に苦しって知らないの?巫女の血なんて吸ったら…あれ、デジャブ?」

 

 

「まったく…とにかく暦の事はわかったわ。わざわざ伝えに来てくれてありがとう霊夢。気は進まないけどあの鬼にもよろしく伝えてちょうだい」

 

 

「どいつもこいつも…私は伝言板じゃないのよ?ま、これで本当に用は済んだし帰るわ」

 

 

 

こうしてブツクサ言いながらも、今度こそ帰ろうとする霊夢。

 

 

そしてその去り際、振り向かずに一言つぶやいた。

 

 

 

「レミリア…勝ちなさいよ?」

 

 

 

それは紅魔館を消し去るなんてしたくない、できればまた宴会でも開いて喧しくも平穏な時を共に過ごしたいと願う霊夢からの激励。

 

 

 

「当たり前よ、約束するわ」

 

 

 

そこに多くの言葉はいらない。

 

ただ同じ大地に住まう者同士の気持ちはその一言だけで充分に語り合っていた。

 

 

 

「咲夜、お客様をお見送りして」

 

「かしこまりました」

 

 

こうして霊夢は咲夜と共に出ていった。

 

 

 

 

「…負けられんのう」

 

それは一昔前では出なかったであろう忍の言葉。

 

阿良々木暦とゆう人間との繋がりが忍にも霊夢とレミリアのやりとりを悟らせていた。

 

 

「大丈夫…私はあの時とは違う。今の私には私を慕ってくれる家族がいる。それに…頼れるお姉様だっているのよ?負ける訳がないわ」

 

 

 

晴れやかな笑顔で忍に向きかえり答えを返すレミリア。

 

 

「かかっ、最初からそれで良いんじゃよ」

 

 

忍もそれに満足気な表現で返す。

 

 

二人の吸血鬼はそれ以上を語らずに、既に冷めてしまった紅茶のカップを傾けた。

 




今回は紅魔館サイドです!

こうゆう暦不在の話を書くとき、誰を語り部にするべきかすごく悩みます…
今回は都合上、仕方なく客観視の語りになりましたが、また暦が語り部になれない状況になった時は誰かしらに語り部をやってもらおうと思いますσ(^_^;)


さて、今回も恐らく突っ込みどころ満載な仕上がりになっているとは思いますがご意見やご指摘、ご感想があれば遠慮せずにコメントしてください!


ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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