東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
数ある草花の中で日本を象徴する花と言えば大凡の人はこれを想像するのではないだろうか?
そう、桜である。
いや、我ながらにしてツッコミを入れるのも複雑ではあるのだけれど、何故僕は桜を『これ』などと言うのか?
だって今の季節は夏も終わりを告げるくらいの、夜は肌寒さすら感じる陽気、桜がさんざめく季節では断じてない。
「萃香さん、今って桜の季節でしたっけ?」
「ん?花見でもしたくなったのかい?酒ならあるよ」
「会話にならない!?」
まだ幻想郷の地理に関しては殆ど無知といえる状態の僕が、あちらこちらと飛び回り(実際飛んでたのは萃香さん)、やっと辿り着いたのは季節外れの桜が咲き乱れる場所だった。
「まぁ冗談はさておき、ここがあんたを連れてきたかった二番目の場所、白玉楼さ」
萃香さんの発言がどこまでが冗談なのかはさておき、辿り着いたこの場所は白玉楼という名前らしい。
厳密に言えば、それは地名ではなく施設名であるようで、目の前には大層立派な門が僕らを出迎えていた。
「白玉楼…名前の通り桜の場所なんですね。いや、桜がゆえの名前なのか…どちらにせよ凄い所ですね」
日本人であれば単純に桜だけならば見慣れているのかもしれない。
ただ、季節外れという事と桜以外の植物が存在しない景色とゆうものは既視感抜きに圧巻である。
「ふふ、綺麗なだけならわざわざ連れてきたりしないさ。あんたに会わせたい奴はあの中にいるよ」
そう言うと萃香さんはまるで自宅に帰るかのような自然な素振りで表門へと向かって行く。
正直僕としては、永遠亭の例もあってか次はどんな人物が待ち構えているのか気が気ではない。
「邪魔するよー!幽々子はいるかーい?」
おそらくは顔見知りであろうこの白玉楼の住人の名前を叫んで門を開く萃香さん。
鬼の傍若無人さも些か見慣れてはきたけど、流石に入場の思い切りの良さは肝を冷やすものがある。
そして次の瞬間、前方からおよそ友好的ではない声が響き渡る。
「止まれ!それ以上無断で白玉楼に踏み入れば切って捨てる!!」
既に萃香さんの手によって開け放たれた門の先を見れば、
白髪に緑のベストとスカートを纏い、頭に黒のリボンをつけた女の子がこちらを睨んでいた。
そして注意するべきはその腰元ーーー
その少女の手は日本刀のような刀に添えられていて、抜刀の体制も整っている。
とてもじゃないけど、いらっしゃいませの状況ではない。
「相手も確認せずに臨戦態勢に入るのは相変わらずかい…」
やれやれといった雰囲気の萃香さん。
どうやらこの抜刀寸前の少女とも知り合いらしく、目が合うなり少女は姿勢を正す。
「萃香さんでしたか、これは失礼しました。とんでもない妖気だったのでつい…幽々子様に御用心ですか?」
先程までの鬼気迫る態度から一変、穏やかで礼儀正しい感じの少女は僕達を中庭に通してくれた。
「いや、用事って程の事でもないんだけどね。この外来人を幻想郷案内で連れ回してるから寄ってみたんだ。幽々子はいるかい?」
「外来人をですか?あの萃香さんがどういった成り行きで…?確かに幽々子様は白玉楼の中にいらっしゃいますが…その前にーーー」
威圧とまではいかないが、ある程度の警戒心を持った眼で僕に向き直ると、少女は尋ねる。
「外来人と伺いましたが貴方は一体何者ですか?萃香さんとは知らぬ仲ではないとはいえ、素性の知れない者を主人の元へ簡単に案内する訳にはいきません」
突然斬りかかってはこなそうだけど僕に対する警戒は解く気がないようだ。
しかし…その主人様への忠誠心が、故だろうけど、あからさまに不審人物を見るような眼で見られて素性を聞かれても正直なところ挨拶に困る…
僕の両親が警察官な事もあってか、こういう職務質問みたいな空気はあまり好きではないのだ。
「えっと…僕は阿良々木暦です。何者と言われても…最近この幻想郷に来てしまった高校三年生の外来人としか言えません」
「高校?三年生?それは何かの団体名ですか?」
この子…恐らくは真面目に聞いているんだろうな。
それにしてもどのレベルで僕の世界の事と話が通じないんだろう?
そういえばさっき永遠亭でも萃香さんは病院とかの単語がわかってなかったのような…
「いや、高校っていうのはですねーーー」
「ふふ、その方はお通ししても大丈夫よ妖夢」
これは長い討論になるだろうと身構えながら本日何度目になるかわからない身の上話を始めようとした矢先、奥にそびえる日本家屋の方から声がーーー
「ようこそ白玉楼へ。お話は伺ってるわよ、半人半鬼の…暦君よね?」
そこにいたのはパチュリーさんとはまた違うけど、ゆったりとした和服に身を包んだ桃色の髪の毛の美しい女性だった。
「やっと出てきたかい亡霊の姫、ちょっとは妖夢のバカ真面目をなんとかしとくれよ」
やっと出てきたという言葉のさすあたり、この人が萃香さんの言う白玉楼で僕に会わせたい人なのだろうか?
「あらぁ?妖夢は真面目に働いてくれて助かってるわ、お酒ばかり飲んで伸び伸び過ごしている鬼にこそ妖夢の姿勢を見習ってもらいたいくらいよ」
対するこの女性、相手は見た目が幼女とはいえ鬼である萃香さんに何の遠慮もない発言だ。
正直言うと側で見ている僕の方がハラハラさせられる。
「ははっ!私は酒だがあんたも日永食っちゃ寝を繰り返してるだけだろう?お互い様だよ」
…あれ?
てっきり怒るのかと思われた女性の発言は、萃香さんの怒りを買うどころかまるで挨拶のようなやりとりで済まされてしまった。
と、いうことはこの二人、僕の思う以上に良く知る仲なのだろうか?
「紹介するよ、あいつがこの白玉楼の主にして亡霊の姫…西行寺幽々子」
「どうも…僕は阿良々木暦ーーーーって、あれ?さっき僕の名前を…」
気のせいでなければさっき僕の事を呼ばなかったか?
確か…半人半鬼の暦君ってーーー
「貴方のことは友人から聞いているわ、いつまでもそんな所に立ってないで中にお入りなさいな。ほら妖夢、お客様を案内して」
「…わかりました幽々子様」
画して僕達は未だに納得していない様子の妖夢という少女に案内されて、晴れて白玉楼に入っていく。
そしておよそ一時間後ーーー
「いやー、やっぱり桜を見て飲む酒は格段だねぇ!」
「あらぁ?桜に合うのはやっぱりお団子よ。月見然り、花見然り、お団子が合わない景色なんて存在しないわ」
「どっちでも良いですよ!」
縁側に腰掛けた二人はそれが自然な事のようにお花見を始めていた。
「というか萃香さん、もしかして花見酒のためにここまで来たんですか!?」
「ん?そうだけど?なんだい、あんたも飲みたくなったのかい?」
「いえ、そうじゃなくて…」
「あら?ならお団子が欲しくなったの?」
「花見から頭を離して下さい!」
確かに決戦まで二日あるとはいえ、呑気にお花見に興じてる場合でもないはずなのだ。
幻想郷を案内するという萃香さんの好意は素直にありがたいけど、流石にここまで呑気な事をしていても気がひける。
「あの萃香さん、お楽しみのところ水を差して申し訳ないんですがそんな時間もないんじゃないかと…」
放っておけば延々と飲み食いを続けていそうなこの二人を止めなければ話が進まない。
「なんだ、人間てのはせっかちで良くないねぇ?ま、確かに時間も限りあるか…じゃ、本題に入るかい?」
桜を名残押しそうに酒を煽ると、体を捻って僕の方に向き直る萃香さん。
「えっ?本題って…?」
「あんた、会いたくても会えない友達がいるんじゃなかったのかい?それにさっきも言ったろう?この幽々子は亡霊なんだ、あんたが聞きたいような話もあるんじゃないの?」
「えっ!?亡霊?って事は西行寺さんは…」
「そうよ、私は既に死んでいる…いわば幽霊のようなものかしら?それにしても人間は幽霊や亡霊と聞けば恐れ怯えるものなのに貴方は動じないのねぇ?」
僕を驚かせたかった訳でもないだろうけど、どこか悪戯な笑みで僕を見る西行寺さん
しかし僕が驚くはずがないーーー
一連の会話から僕が思うのはあの少女の事ーーー
僕の誇るべき親友にして
二度と会う事もないであろう少女ーーー
八九寺真宵は、幽霊だったのだから。
「僕の友人も幽霊だったんですよ。だから驚いたりはしません…それにもう会えないんです、その子はもう成仏したから…」
「外来人なのに随分と幻想じみた人生を送ってきてるようねぇ?」
「なっ、面白い奴だろ?」
確かに我ながら、吸血鬼を宿していたり幽霊と友達だったりと、およそ一般的な高校生とは違うとは思う人生だけど…そんなに見ていて愉快なものだろうか?
「そ、それよりもですよ?本当に西行寺さんが亡霊なのなら今は僕の友人の事よりも例の三人組についてお聞きする方が本筋じゃないですかね?」
そう、僕の親友である八九寺がそうであったように、あの三人組も…
いや、八九寺と同列のように例えるのも業腹だけど、しかしその本質は幽霊なのだ。
ならば同じく幽霊を名乗る西行寺さんに聞くべきはそっちの案件になって然るべきである。
しかしこれについての返答は予想外というか、悪く言えば期待外れのものだった。
「ごめんなさいね暦君、今回の異変について幻想郷はノータッチの決まりになっているのよ。あくまで紅魔の人間だけで解決するように言われててね、私から貸せる知恵は正直ないわ」
「言われてるって…いったい誰にですか!?」
「貴方の事を教えてくれた友人よ、そしてこの幻想郷を創り管理している大妖怪。だから異変の事で力は貸せないの…あくまで意地悪ではなくて紅魔の誇りのためにね?」
誇りのためーーー
それを言われて我に返るような気分になる。
確かにここで無理を言って何かしらの情報や対策を得たとして、あの吸血鬼達はそれを喜びはしないだろう。
それが如何に非効率で自己満であろうとも、彼女達は他者の力添えを望んではいない。
そして、そんな吸血鬼と一生を共にすると誓った僕がそれを裏切る訳にもいかなかった。
それにしても今回の異変にそんなとんでもない大妖怪までもが関与しているという事実の方が戦慄である。
「わかりました…確かにここで僕が西行寺さんに助けてもらうのは吸血鬼の怒りを買いそうですね。さっきのは聞かなかった事にして下さい」
それが正しい選択なのかはわからない。
いや、およそ間違った選択だろうとさえ思う。
しかし僕はいつでもこうやって生きてきたのだ。
春休みから始まる数々の物語の中で、僕が正しい選択をした試しなんて皆無のようにすら思われる。
それでも、いつだって僕は僕らしい選択はしてきたつもりだ。
いくれ敗北の歴史を重ねてもそれだけは不変でありたい。
「やっぱり貴方は変わった人ねぇ、半分は吸血鬼とはいえ半分は人間でしょ?そこまで肩入れするのも不思議だわ」
肩を竦める西行寺さん。
それもそうだろう、とてもじゃないけど人に共感してもらえるような話じゃないのだから。
「な?こんな奴だから私が連れ回してるのさ。それよりあんた、例の友達の事については聞かなくて良いのかい?」
いったい僕の何が萃香さんのツボを突いているのかはわからないけど、酷く気に入られているな…
それにしてもその質問は僕には答えるに苦しいものだ。
「良いのかと聞かれてもですね…本来彼女は幽霊で僕みたいな人間とは会うはずがなかった奴なんです、その上成仏までしたあいつに会う事なんてできるわけないし今更何か聞いてもーーー」
「あら?会うくらいなら多分できるわよ?」
「へっ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「だって私だって亡霊なのよ?その私に今まさに当たり前に会っているじゃない、他の幽霊に会う事だってできなくはないわ」
さも当たり前のように語る西行寺さん。
「だから言ったろう?何か聞きたい事はないのかって」
僕の様子が面白くて堪らないのだろう。
萃香さんもケタケタ笑いながらこちらを見ていてる。
「いや!会う事ができるってどうやって!?そもそもあいつが今どこにいるのかもわからないんですよ!?」
「それは詳しい話を聞いてみないとわからないけど私みたいな特集な亡霊でもない限りは映姫の所で何とかなるんじゃないかしら?」
映姫という人が誰なのかはわからないけど僕の中で事態は一気に急転した。
「それが本当なら…萃香さん!」
「おうさ!次の行き先は決まったようだね!」
あの日、八九寺を『くらやみ』から救えなかった僕の後悔…
今更八九寺を連れ帰る事ができなかったとしても僕にはまだあいつに伝えたい事が山ほどあるのだ。
会えば未練が後を引くかもしれないがここで会わないという選択は僕にはなかった。
「あら?もう行くの?」
僕達を見ていた西行寺さんが訪ねてくる。
「はい、突然押しかけて申し訳ないんですがそろそろ行きます」
「そう、なら最後にーー」
一呼吸置くと西行寺さんはおっとりとした雰囲気を改め、少し真面目な表情で話しはじめる。
「貴方は自覚がないようだけど、貴方が人間として生きていこうとしてるならあまりこちら側の者と関わらない方が良いわ。類は友を呼んでしまうの、深く関われば戻れないわよ?」
怪異にあえば怪異にひかれる。
それはいつか忍野にも言われた事であり、僕が実際に体験してきた事だ。
どこかで生き方を改めなければ僕の人生は怪異と関わり続ける人生になるだろう事も自覚している。
でもーーー
「ありがとございます…でも僕はーーー目の前で大切な人が苦しんでいたらきっと余計なお世話を焼くでしょう。西行寺さんの言うことはわかってはいるんですけどきっと僕の生き方は変わらないと思います…だから、ごめんなさい」
これは誰に対する謝罪だったのだろうか…
自分の人生を諦めているわけではないけど、それでも僕が僕であるためにこの生き方は変わらないし変えられないだろうと思う。
「先のことばかり考えて生きても人生はつまらないよ、それよりも今の一瞬を全力で生きる方が遥かに有意義さ」
鬼としての矜持なのだろう。
萃香さんはあくまでも豪快に語る。
「ふふ、あくまでも頭の片隅に置いておいてくれれば良いわ。貴方の人生ですもの、好きに生きなさい。私からすれば限りある人生を謳歌できるのも羨ましいものよ」
これ以上の問答は不要とでも言わんばかりに柔らかな笑顔で話を締めくくる西行寺さん。
「でも惜しかったわぁ、もっと時間があったら色々とお話したかったのに」
「いや…前半のフードファイト異種格闘技戦がなければ時間はあったはずなんですけどね」
あんな量の団子を食べた後でケロッとしている西行寺さんもやはり只者ではないのだろうけど…
この世界の人は色んなメーターがバグを起こしてるんじゃないだろうか?
「まぁいいわ、また今度ゆっくりと遊びにいらしてね。満開の桜と沢山のお団子を用意して待ってるわ」
「そうですね…今度は是非、僕もお花見に参加させて貰いますよ。本当にありがとうございました」
やはり次がないだろう事は言えない僕だった。
それにしても幻想郷の人はみんな優しすぎる。
まだ永遠亭と白玉楼の二カ所だけしか回ってないけど
いや、紅魔館まで入れたら三ヶ所…
どこで出会った人達もみんな暖かい人ばかりだ。
ここは僕がいるべき世界、いても良い世界ではない事はわかっている。
それでもこんな人達が住んでいるこの世界が好きになってしまいそうで、帰れなくなっても良いかとさえ思えてしまう自分がいるのは否定できない。
「じゃあまたね、暦君。萃香もまた会いましょう」
「次に来る時は団子よりも酒を用意しといておくれよ。じゃあまたね」
こうして僕達は桜吹雪に飛び込むように空へと飛び上がる。
次の目的地を目指して。
「ん?なんだい、ニヤニヤして気持ち悪いねぇ。幽々子に惚れたのかい?」
僕と目が合った萃香さんが冗談混じりに茶化してくる。
「そんなんじゃないですよ!ただ、幻想郷の人はみんな優しいなーーーと思って」
「そんな事かい。まぁ、私のツレの言葉を借りれば幻想郷は全てを受け入れるらしいからねぇ…あんたがそう思うならそうなんだろ」
全てを受け入れる幻想郷ーーー
様々な異形の者が入り乱れるこんな世界もあっていいのかもしれない。
最初は恐怖のみを感じたこの世界に対する考え方が少しずつ変わってきた僕だった。
今回は作者の自己満でフラグ回収のためのフラグを立てる話になっております!
それ故に…『もっとゆゆ様とみょんの登場を丁寧に扱えやこのボケ作者』と思われる方も多いかとは思われますが、とりあえずは白玉楼の二人の登場はこれで一時終了になりますσ(^_^;)ご容赦ください!
さて、目指せ全キャラなんて思いながら幻想郷巡りを書き綴ってる訳なんですが…いつ終わるんだこれ?w
反省はしている、後悔はもっとしている状態です(。-_-。)
ですが、お陰様で感想コメの数やお気に入り登録の数も少しずつではありますが伸びていって嬉しい限りです!
これからも拙い文章力ではありますが、頑張って書いていきますので興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いいたします!