東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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外伝ー誰も知らない物語・上ー

取り返しのつかない失敗を列挙していけば果てが見えない程の失敗を繰り返してきた僕ではあるけど、なら果たして取り返しのつく失敗などあるのだろうか?

 

 

僕こと阿良々木暦の価値観を申し上げるとすれば答えは否。

 

 

どれだけの挽回を試みようとも、失敗を犯したという過去は、事実は、現実は変えられない。

 

 

しかしながらそこに救いの余地を求めるならば、人は失敗を取り返せなくても乗り越えてはいける生き物だと僕は思う。

 

 

厳密に明言すると、人は失敗を忘れる事ができるのだ。

 

 

大きな失敗を経て得た大きな成功

 

 

大きな悲しみを経て得た歓喜

 

 

マイナスを上回るプラスに直面してこそ人は人生をプラスに塗り替えていくものではないだろうか?

 

 

そう、人は忘れながら歩む生き物。

 

 

 

そして忘れてはいけない…プラスのその裏には忘れ去られた物語がある事を。

 

 

 

これは、そんな忘れ去られたーーーー

 

 

 

 

誰も知らない物語ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんということでしょう」

 

 

某一級建築士系テレビ番組の代名詞とも言える台詞を呟いたのは八九寺真宵。

 

 

僕にとってのかけがえのない誇るべき親友であり、生き別れたどころか、死に別れたどころかーーー

 

 

成仏別れなどという新ジャンルにしてカオスな別れを遂げた筈の小学五年生の女の子。

 

 

八九寺は一通り僕との再会を喜び、僕の全身を使ってその喜びを表現した後、やっと落ち着きを取り戻して僕の前に立っている。

 

 

 

 

「いえ、待ってください阿良々木さん。あたかもわたしが阿良々木さんに自ら望んで抱きついたかのような表現を感じましたが全くもって心外です。できることなら一生涯、阿良々木さんにはミクロ単位での接触も持ちたくありません」

 

 

「辛辣だ!まだ続いてたのかよその阿良々木さん嫌いプレイ!?ていうか八九寺、何でお前は相変わらず僕のモノローグを普通に読み取れるんだ!?」

 

 

「底の浅い阿良々木さんの心中を読み取るなんて造作もありません。それに一生涯とは言いましたけどわたしはもう一生を終えてるんですけどね」

 

 

 

「誰の底が浅いって!?というかツッコミにくいブラックジョークはやめろや!」

 

 

こんな他愛もないやりとりも本当に懐かしく感じてしまう。

 

 

あの春休みからこっち、僕は様々な経験を重ね、そして素晴らしい友人達と出会ってきた。

 

 

でも、その中でもーーー

 

 

戦場ヶ原でもなく

 

 

羽川でもなく

 

 

神原でも、仙石でもない

 

 

 

八九寺こそが人と喋っていて一番楽しい相手だった事を改めて実感する。

 

 

「それはそうとバカラ木さん」

 

 

「まて八九寺、僕の名前をトランプゲームで有名なギャンブルのような名前で呼ぶな。しかも僕に対しての馬鹿だという意味もかかっていて中々秀逸な噛み方ではあるが僕の名前は阿良々木だ」

 

 

 

「失礼、噛みました」

 

 

 

「違う、わざとだ…」

 

 

 

「かみまみた」

 

 

 

「わざとじゃない!?」

 

 

 

「病みました」

 

 

 

「僕との再会がそんなに嫌だったのかお前は!?」

 

 

流石は八九寺、しばらく振りのブランクなど微塵も感じさせないキレである。

 

 

 

「いや、冗談抜きにですよ阿良々木さん。どうしてあなたがこのような所にいるんですか?」

 

 

もはやお約束とも言える一連の流れを経て、八九寺もこの現状の中ようやく落ち着きを取り戻したようで、当然出てくるであろう疑問を口にする。

 

 

「いや、それが話せば長くなるんだけど…」

 

 

一から説明すれば確かに長くもなるだろう。

 

 

しかし事の流れを(つまび)らかにしない事には話も進むまい。

 

 

と、その時ーーー突然目を見開いた八九寺が何かを察したかのように僕の発言を遮る。

 

 

「いえ、わたしが軽率でした…それ以上は仰らなくても大丈夫です…」

 

 

「あ?」

 

 

確かに八九寺は小学五年生にしては聡明ではあると思うけど僕はまだ何も説明してないぞ?

 

 

それこそ羽川でもなければ零を聞いて十を知るなんて真似はできないと思うんだけど…

 

 

「ここにいらっしゃるという事は阿良々木さん…あなたもとうとうお亡くなりに…」

 

 

 

「なってねえよ!勝手に僕を亡き者にしてんじゃねえ!」

 

 

零を聞いて全くわかっていなかった。

 

 

「おや、違いましたか?こんな場所にやってくるからにはてっきり自殺でもなさったのかと」

 

 

 

「するかそんなもん!」

 

 

 

「厳密に言うとロリコンをこじらせてとうとうあの街のロリ成分の足りなさから禁断症状が出て自殺したのかと思いました。まあ、あの街からわたしがいなくなれば近隣のロリコンは皆同じ症状を発症するでしょう」

 

 

 

「とんでもない新語を生み出してんじゃねえよ、なんだそのロリ成分て…お前の不在で近隣の皆さんを皆殺しにするな。それにしつこいようだが僕はまだ死んでない」

 

 

 

「そうは言われましても阿良々木さん、ならどうして、どうやってこのような所に?」

 

 

 

どうして、どうやってと問われれば答える事と吝かではないのだけど、その八九寺の言い回しは少し引っかかった

 

 

 

「ちょっと待て八九寺、そもそも僕にはここがどこかすらわかってないんだ。口ぶりから察するにお前はここがどこなのか知ってるのか?」

 

 

そう、先にも疑問にあげたこの場所。

 

 

実際のところ僕は遠路はるばるここへやって来たのではなく、掛け値なく目を覚ましたらここにいたのだ。

 

 

どうして、どうやってと問われれば答えようもあるけれど、まずは現状を把握しておきたかった。

 

 

 

「おや?ここへ来る時に説明を受けませんでしたか?ここはーーーー」

 

 

 

地獄ですよ

 

 

 

あたかも、それが当然であり周知の事実かのように言い放つ八九寺。

 

 

しかしそれは僕にとって衝撃以外の何者でもなかった。

 

 

そもそも、四季映姫さんに言われた罪を償ってきなさいというあの言葉…

 

 

そして僕の最大の罪とは伝説の吸血鬼である旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを救った事にあるという指摘。

 

 

 

それを思えば僕が地獄にいても不思議はないだろう。

 

 

しかし、それはあくまでもあの春休みを僕自身が悪だと認め、更にはそれを償おうとした場合に限る。

 

 

 

僕の中で忍を救ったあの行いは決して正しい行為ではないと思う…しかしその反面、それを悪だと思う心も存在していない。

 

 

あいつを生かし、共に生きると誓ったあの出来事に、僕は一切の後悔はないのだ。

 

 

故にそれを償おうとは思わなかった。

 

仮にあの出来事を罪だと認め、償えというのならば、僕は悪で構わない。

 

 

それで地獄に堕ちるというのなら、僕は喜んで地獄に落ちるだろう。

 

 

 

お互いに許しあう事を許さず、それでも共に生きていくと誓ったあの吸血鬼を、僕は否定したりはできなかったのだ。

 

 

 

では何故、僕が今、地獄にいる事を不思議に感じるのかーーー

 

 

 

それは他でもない、八九寺が目の前にいるからである。

 

 

確かにこいつは人に噛み付くは名前は噛むは、挙げ句の果てには名誉毀損な発言を連発するような奴だがーーー

 

 

 

地獄に落ちるような奴では断じてない。

 

 

 

言及するなら、八九寺は母親にも会えず、辛い思いのままにその生涯を終え、それだけに飽き足らずその後十年以上も彷徨い続けたのだ。

 

 

仮に八九寺が、生前のどこかで地獄行きになるほどの非行を行っていたとしても、あの経験の果てに地獄に堕ちるのであればあまりに救いがなさすぎる。

 

 

 

「なんて顔をしてるんですか阿良々木さん?そんなに不思議な事でもないでしょう?」

 

 

 

「お前こそ…お前こそなんでそんなに平気な顔をしてられるんだよ!おかしいだろ!八九寺が地獄だなんて…納得できるか!」

 

 

 

文字通り、八九寺が何を悪い事をした訳ではない。

 

 

わかってはいるのに思わず僕の語気も強まってしまう。

 

 

 

「そのご様子だと本当に何の説明もないままここへといらっしゃったようですね…それにしても阿良々木さんは相変わらず阿良々木さんですか」

 

 

八九寺は微笑んでいた。

 

 

 

その笑顔はあの八月の別れの日に見せた、儚げで消えてしまいそうな…とても優しい笑顔だ。

 

 

「良いですか阿良々木さん、ここは地獄とは言っても阿良々木さんが想像するような地獄ではありません」

 

 

 

「地獄ではありませんって…どういう意味だよ?」

 

 

「ここはですね…賽の河原という場所です。地獄には変わりませんが、ここに来るにはある条件があります」

 

 

 

賽の河原?

 

どこかで聞いた事があるような…

 

自問自答する僕に対して八九寺はゆっくりと言葉を続ける。

 

 

「ここはですね…親より先に亡くなった子供が送られる地獄なんですよ。親を遺す親不孝を罰するとでもいいましょうか…」

 

 

 

「親より先に…」

 

 

その言葉から話がぼんやりと繋がってきた。

 

 

冗談めいた内容だとはいえ、僕を見た八九寺がどうして僕を死んだものだと思ったのか。

 

 

それは当然至極といえばそうなのだ。

 

 

高校生である僕が賽の河原なんて場所に現れれば、親を遺して死んだのだと思われても仕方あるまい。

 

 

それに、ここの説明を受けなかったのかというのは恐らく、僕達の世界にもいるのだろう…その世界を担当する閻魔様、幻想郷担当の四季映姫さんのような存在が。

 

 

しかし…

 

 

「だからって…お前はそれで納得できるのかよ?八九寺だって好きで親と死に別れた訳じゃないのに!」

 

 

「そうですね…わたしもあの死から地獄に堕ちるというのは些か納得できない部分は否めませんね。ですからその後のボーナスタイムの分だと思う事にしてます」

 

 

 

「そんな…それって…」

 

 

 

「はい、本来ならば事故で死んだわたしは十一年前にここへと来るべきでした…でもわたしは彷徨った、怪異になってまでしがみついた…阿良々木さんに迷い牛の運命から救って貰った時ですら成仏しようとしなかった…嘘をついてまで…」

 

 

 

語る八九寺は懸命に笑顔を見せるが、その姿は今にも崩れ堕ちそうな程に弱々しい…

 

 

 

「ですから阿良々木さん、そんな顔をしないでください。あの『くらやみ』に飲まれなかっただけでも儲け物です、わたしは事故の事には納得しきれていませんが、その分だと思ってお勤めを全うしようと思ってますので」

 

 

気丈に振る舞う八九寺に僕はこれ以上の追求はできなかった。

 

 

本当は嫌に決まっている。

 

 

 

お母さんに会いたいというだけで理不尽に命を奪われ、少し成仏を先送りにしただけで地獄…

 

 

小学五年生に受け入れる事ができることの範疇を逸脱してるに決まってるのだ。

 

 

それを無理矢理にでも受け入れるのに八九寺はどれほどの覚悟をしたことだろう…

 

 

それを思えば当事者でもない僕が発言する事はおこがましいとまで思える。

 

 

「それはそうと阿良々木さん、三たび伺いますがどうしてここへ?」

 

 

「ああ、僕はーーーー」

 

 

ここにきて、僕はようやく事の成り行きを八九寺に説明する。

 

 

幻想郷の事

 

 

僕という魂の在り方

 

 

今僕や忍、果ては紅魔館の住民が置かれている状況

 

 

その全てを話した。

 

 

そこは例え地獄にいようとも、僕の知る限り最高の聞き上手である八九寺。

 

 

心地の良い相槌を打ちつつも、僕の話に耳を傾け真剣に聞いてくれる。

 

 

おかげで僕も話し易く、全てを語り終えるのにそう時間を要することもなかった。

 

 

 

 

「ーーーーと、いう訳なんだ」

 

 

 

全てを語り終えると、八九寺は何かを考察するかのように難しい顔で目を閉じていた。

 

 

 

「なるほど…相変わらず破天荒な生き方をしているようですね阿良々木さん。いえ、破天荒というか単純に無茶苦茶です」

 

 

 

「他に言う事はないのか!?」

 

 

 

「当たり前でしょう!そもそもなんですか幻想郷って!怪異の存在を知らなければ誰も信用しませんよ!正直、話を聞き終えた今でも阿良々木さんの頭がおかしくなったのかと半信半疑です」

 

 

 

「おかしくなってねえよ!お前の中で僕の信用度はどうなってんだ…」

 

 

 

「それに忍野さんと再会したとゆうのも俄かには信じられませんね、第一期阿良々木ハーレムのメンバーであるあの方がその幻想郷という所にいるとは話が出来すぎです」

 

 

 

「だから僕はそんないかがわしいものは組織してねえよ!それにあいつはアロハのオッサンだ!ハーレムなんて言葉とはまるで関係ないよ!」

 

 

 

「それにこんな中途半端なところで再登場されてしまっては終物語でのカッコイイ再登場に水を差すというものでしょうに」

 

 

 

「メタな発言はやめろ!」

 

 

こいつは何処にいようとも八九寺Pの肩書きは健在なのだろうか?

 

 

「それに一番解せないのは他でもない阿良々木さん、あなたです」

 

 

 

「へ?僕?」

 

 

確かに我ながら現実離れした話をしているとは思うが、その何処にも嘘はついていない。

 

 

辻褄が合わないような話を聞かせた訳ではないのに解せないとはこれ如何に?

 

 

 

「そうです、阿良々木さんの話を本当の事だと受け取るなら、阿良々木さんは白黒平等というバランス良くアンバランスな魂を白に傾ける為にここにいらしたんですよね?」

 

 

 

「言い方に棘があるな…けど概ねそれで正解だよ。それがどうかしたのか?」

 

 

 

「そこが解せないと言ってるんですよ阿良々木さん。せっかくそのような機会を与えられたのにも関わらずどうしてわたしの所へ…賽の河原なんかに来てしまったんですか?」

 

 

 

親より先に亡くなった訳でもないのに、と八九寺。

 

 

 

確かにそうだろう。

 

 

八九寺の話を聞く限り、ここは親を遺した親不孝を償う場所な筈だ。

 

 

裏を返せば、僕がこの場所で償える事はーーー何も無い。

 

 

僕がここにいるという事は八九寺にとっては疑問以外の何物でもないだろう。

 

 

 

しかし僕には明確な意図があるのだ。

 

 

あの日…あの八九寺と別れた夏の日に、僕は自分の事で精一杯で去り行く八九寺に何の言葉も言ってない。

 

 

感謝の言葉も

 

 

謝罪の言葉も

 

 

 

 

 

別れの言葉もーーー

 

 

 

僕がここにいるのは、罪を償う為ではない。

 

 

いわばこれは単なる自己満足。

 

 

あの日、八九寺にちゃんと最後の言葉を言えなかった後悔を払拭する為のひとりよがりにすぎない。

 

 

 

そして、僕はそれを八九寺に告げなければならないのだ。

 

 

 

ーーーしかし、いざその機会に直面すると決意が鈍った。

 

 

折角、再会を果たしたのにそれを口にすれば再び八九寺と別れる事になる。

 

 

先送りにして良い事ではないけど、もう少しだけこの時間の中にいたいと思ってしまったのだ。

 

 

故に僕は咄嗟に話を逸らす。

 

 

 

「そうだな…それについてはちゃんと説明するけどその前に八九寺、お前はここで何をしていたんだ?地獄とはいえ針の山とか血の池地獄とかがある訳でもないんだろ?」

 

 

 

「ほう、阿良々木さんのクセに話をそらしますか。まあ良いでしょう、わたしはここでーーーー」

 

 

 

 

僕は知っていた筈なのだ。

 

 

 

都合の悪い事を先延ばしにすればどんなしっぺ返しがあるのかを。

 

 

 

なんたって僕は八九寺の親友なのだから。

 

 

 

でも僕は失念していた

 

 

咄嗟に話を逸らすためにした僕のこの質問がこの後どんな事態になるかを考えもしないで。

 

 

 

ここから忘却の物語は地獄らしさを増す事になるのだったーーーー




どうも、根無草です。

外伝となってますが話は本編で間違いありません。
ただ、東方要素があまりにも少ない事と、本人達の記憶に残らないとゆう部分から外伝とさせて頂きました。

タイトルについては化物語のエンディングだった『君の知らない物語』から頂きました!良い曲なので興味がある方は聴いてみてください!

本来なら1話に纏めたかったんですが、そこはやはり八九寺…無駄話が多すぎて無理だとゆう事に気付いて上下に分ける事になりましたw

さて、地獄での暦はこれから困難と理不尽に立ち向かう事になるんですがどうなってしまうやら…

興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!

PS
何故か評価とお気に入り登録数、観覧数までもが訳のわからない伸び方をしていて自分自身、喜ぶと共にとても驚いております!

本当なんかの怪異現象かと思いましたw

至らない点も多いかと思いますが、これからもよろしくお願いします!!

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