東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第35話ー邪まな仙人ー

ハッピーエンドなりバッドエンドなり、兎にも角にも一度はその人生にエンドマークが打たれた筈の異形が二名。

 

 

本来ならば神聖であるはずの墓地で、墓石の下に収まっている筈の斧乃木余接と宮古芳香がぶつかり合う。

 

 

 

否、ぶつかり合うという表現もこの場合には適していない。

 

 

 

何故ならば、その攻防は攻守交代する事なく、終始、宮古芳香の攻めを斧乃木余接が捌く形だからだ。

 

 

 

 

「毒爪・ポイズンマーダー!」

 

 

 

 

どういった原理なのか、これもまた斧乃木余接が知り得るキョンシーの情報とは異なるが、本来死後硬直でうまく行動できない筈の宮古芳香は空を飛ぶという方法で飛びかかってくる。

 

 

 

「あまり舐めてもらっても困る、さっきと同じ攻撃なら僕には通じない」

 

 

 

迫り来る宮古芳香の爪を再び飛び退いて避ける。

 

 

そしてその爪痕からはまたも例の光の弾幕が展開された。

 

 

 

「うわお」

 

 

 

その無表情から、驚いているのかふざけているのかは解りかねるが、少なくとも斧乃木余接が不意のリアクションをとってしまったのも無理もない。

 

 

 

何故ならば、そこに展開された光の弾幕は先程とは量もスピードも桁違いーーー

 

 

初見で弾幕を全て避けきった斧乃木余接はさすがの一言に尽きるが、今迫ってきている弾幕は、どう足掻いても飛行の術すら持たない斧乃木余接に躱しきれる代物ではなかった。

 

 

 

 

凄まじい爆音と共に砂塵を巻き上げ、弾幕は次々と斧乃木余接がいるであろう場所へと被弾していく。

 

 

 

周りの墓石は砕け、地を抉り、それでも止む事のない弾幕。

 

 

 

それは少女の姿であり、ふざけたハイテンションだった宮古芳香からは想像もつかないような、確固たる殺意の表れ。

 

 

 

キョンシーである彼女は、使命の為なら、相手が少女だろうが、童女だろうが、幼女だろうが、一切の慈悲も無く、確実に殺し抜く。

 

 

 

その雨のように降り注ぐその弾幕が止むまでどれだけの時間がかかっただろうか?

 

 

 

時間にすればそれはほんの一瞬だったのかもしれない。

 

 

静まり返る爆発の余韻の中、次第にその場を覆っていた爆煙が晴れていく。

 

 

 

 

行動理念が極めて単純な宮古芳香だが、任務の上で粛清対象だった斧乃木余接の生死を確認するだけの頭はあるようで、その視線は晴れていく爆煙を一心に見つめていた。

 

 

 

 

だが、宮古芳香が爆煙の中に斧乃木余接を確認する事はなかった。

 

 

 

 

例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)

 

 

 

それは完全な不意打ち。

 

 

意識の外から放たれた言葉の方、つまりは真上を見上げた宮古芳香が見たのはーーー

 

 

 

 

 

自分に向かって巨大な人差し指を振り下ろす斧乃木余接の姿だった。

 

 

 

 

先程の宮古芳香が放った弾幕を、降り注ぐ雨のようだと比喩するのであれば、斧乃木余接の一撃はさしずめミサイル。

 

 

 

弾幕と呼べるような数の有利は無いが、一撃における必殺性は弾幕とは比べものにならない。

 

 

 

 

その一撃は容赦なく宮古芳香を地面に叩きつけ、それにとどまらず、その地面すらを破壊した。

 

 

 

地響きをおこす程の衝撃は再び砂埃を巻き上げる。

 

 

 

しかし専門家である斧乃木余接はそれで油断したりはしない。

 

 

 

細心の注意を払いながら、その場を離れ、いつ来るかもわからない攻撃に備える。

 

 

 

いつでも動ける体制をとりながら砂埃が晴れていく様を見守る。

 

 

 

そんな静寂が数十秒ほどたって、徐々に砂埃は晴れていく、そしてその中に宮古芳香の姿はあった。

 

 

 

やはり超至近距離からの一撃を避ける事はできず、もろに直撃していたのだ。

 

 

 

しかしそれも立っているとは形容できない。

 

 

 

確かに、二本の足で大地を踏みしめてはいるものの、宮古芳香の身体は既に常人では考えられない程の負傷をおっていたのだ。

 

 

 

首は本来許されている可動範囲を大きく超えた角度に折れ曲がり

 

 

 

前方に真っ直ぐ伸びていた二本の腕は各関節であらぬ方向へと角度を変え、二の腕あたりからは白い骨らしき物が見えている

 

 

 

足もかろうじて立ってはいるものの、膝から先はヘシ折れて、つま先と踵は本来向いているべき方向と逆を向いていた

 

 

 

 

 

それは斧乃木余接の一撃が、いかに重大で深刻な破壊をもたらしたかが良く解る有様だった。

 

 

 

 

 

「至近距離から全力でぶち込んだのにまだ原型を留めているんだね、驚いたよ。いや、驚いたというよりも僕の非力さにショックを受けたかな」

 

 

 

 

ショックという単語を使っているわりに極めて平坦な口調で呟く斧乃木余接。

 

 

 

まあ、彼女は常に無感情で無表情なので、その内心は推し量るに容易ではないのだが。

 

 

 

それでも斧乃木余接が驚いている事には変わりないであろう事は明白だった。

 

 

 

「し、死ぬ…駄目…死ぬは…い…いや…あれは…よ、良くない…」

 

 

 

 

いかにキョンシーとはいえども、これはさすがにダメージが大きすぎたのか、例のハイテンションも影を潜めて弱々しく独り言を呟く宮古芳香。

 

 

 

 

それでもキョンシーとしての矜持なのか、目の前の敵を粛清せんとボロボロの身体で前へ出ようとする。

 

 

 

 

勿論、そんな満身創痍の相手だからといって、手心を加えるような斧乃木余接ではない。

 

 

 

 

相手を指差すように、ゆっくりと人差し指を立てた右手を挙げる。

 

 

 

 

「その頑丈さは尊敬に値するけどここまでだ。あなたは次の一撃で確実に崩壊する。不死身であるはずのキョンシーが死ぬっていうのも滑稽な話だけど、これで終わりだ…」

 

 

 

いつも通りの斧乃木余接ならば、ここで躊躇なくトドメをさしていただろう。

 

 

これが任務で、宮古芳香が標的という、いつも通りのシチュエーションならば。

 

 

 

 

もっとも、いつもとシチュエーションが違うからといって、自分に襲い掛かる相手をいつまでも野放しにする斧乃木余接ではない。

 

 

 

しかし今回は違う。

 

 

 

斧乃木余接はここでワンチャンスにしてラストチャンス、最後通告を怠らなかった。

 

 

 

 

 

「…だからね、そろそろ出てきたらどうなんだい?お姉さん」

 

 

 

 

もしも、この通告が徒労に終わっていれば斧乃木余接は情け容赦なくその必殺の人差し指を宮古芳香に叩き込んでいた事だろう。

 

 

 

そうなれば、いかに強く頑丈なキョンシーといえども壊れていた。

 

 

 

回復も、修繕も、修復も、あらゆる手段が手遅れなほどに破壊されつくしていただろう。

 

 

 

 

しかしーーーーー

 

 

 

 

「あらあら、見つかってしまったのですね」

 

 

 

幸か不幸か、『それ』は突如として斧乃木余接の前に表れた。

 

 

 

 

立ち並ぶ墓石を、瓦礫を、木々を、その全てを()()()()()真っ直ぐ歩いてくる。

 

 

 

 

「いったいいつから気付いていたのかしら?」

 

 

 

突然表れたその女性は満身創痍の宮古芳香の横に寄り添うようにして歩みを止めた。

 

 

 

「いつからと言えばついさっきかな。それよりもお姉さん、あなたは人間なの?随分と人外な事をやってのけていたけど」

 

 

 

あらゆる物質がそこに存在していないかのように、当たり前に障害物をすり抜けて歩いてきた相手に全く驚きもしない斧乃木余接も人外的であり、どうしようもなく人外である。

 

 

 

「戦いの最中で私の気配に気付くなんて凄いのね」

 

 

 

「え?気配なんてわかるわけないじゃない。そんなのは漫画の中の話だよ。気付いたのはさっきの攻撃を避ける時に『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』で大ジャンプしたら見えただけさ」

 

 

 

「……」

 

 

 

非現実的な存在でありながら、変なところでリアリストな斧乃木余接。

 

 

 

 

その女性も斧乃木余接のあっけらかんとした返答に一瞬言葉を失っていた。

 

 

「それより僕の質問に答えてもらえるかな?」

 

 

 

「あ、あぁ…ごめんなさい、私はこの幻想郷の仙人よ、邪仙とも呼ばれているわ。名を霍青娥、貴方は?」

 

 

 

「仙人…邪仙…か。人間とするにも怪異とするにも微妙なラインだね。まあ僕のお姉ちゃんも怪異じみた陰陽師で、あれでギリギリ人間だ、無理矢理にでも納得しておくよ。僕は斧乃木余接。死体の九十九神さ。怪異の分類としてはそこのキョンシーと近い、のかな」

 

 

 

斧乃木余接はざっくりとした自己紹介と共に、凶器と呼んでも遜色ない右手の人差し指を二人に向ける。

 

 

 

「あら?貴方は腐らないのね?」

 

 

 

「腐る訳ないでしょ。死体人形とはいえ、僕とそのキョンシーでは根本が違う。式から在り方から何から何までが違う。そもそも僕はそんなに馬鹿じゃない」

 

 

 

 

「この子は馬鹿で可愛いでしょ?それにしても派手に壊してくれましたね、修理も手間なのよ?」

 

 

 

そう言うと霍青娥は宮古芳香に向き直る。

 

 

霍青娥からは敵意を感じないとはいえ、斧乃木余接は油断しない。

 

 

何が起こっても対処できるだけの間合いをとり、二人に向けた人差し指はそのまま、いつでも迎撃できる体制をとっていた。

 

 

 

が、今度こそ斧乃木余接も驚かざるを得ない事態が起こる。

 

 

 

 

それは、言葉にするには余りに生々しく、おどろおどろしく、忌々しくーーーー

 

 

 

怪しくて異なる行い。

 

 

 

 

キョンシーのそれを人の身体と呼んで正しいかの議論はさておき、霍青娥はその手で折れた首を、腕を、足を、修理しているのだった。

 

 

 

 

肉を裂く音、骨が軋む音、時折聞こえる宮古芳香の呻き声、どれを取っても異常の限りを尽くしている。

 

 

 

 

「ふぅ…今回はなかなかの壊れっぷりだったわね。でもこれでおしまいです」

 

 

 

仕上げと言わんばかりに霍青娥は宮古芳香のおデコをペチンと叩く。

 

 

 

するとーーーー

 

 

 

 

「うぉー!!ふっかーーーつ!!!」

 

 

 

宮古芳香は、先程までのダメージが無かったかのように瀕死(?)の重傷から復活した。

 

 

 

 

「これは…」

 

 

 

 

いかに専門家とはいえ斧乃木余接にも目の前の事態は理解しかねていた。

 

 

 

もし仮に自分が同じような重傷を負った場合、こんな出鱈目で無茶苦茶な復活はまず出来ないという紛れも無い真実からだ。

 

 

 

 

「ふふ、驚きましたか?貴方は否定的かもしれないけど、これはこれで便利で可愛いものよ?」

 

 

 

 

すました顔で微笑む霍青娥は不気味そのもの。

 

 

 

そも斧乃木余接にそんな感情があるかと言えば議論は尽きないが、警戒のレベルはマックスを振り切っている。

 

 

 

「なるほど、少なくとも貴方がいれば半永久的に復活するという事はわかった。けれど、それが僕にとっての脅威になるとは限らない」

 

 

 

視点を変えれば強がりともとれる斧乃木余接の発言。

 

 

 

短絡的と言えばそうなのだが、彼女の中では既にキョンシーを操る霍青娥を先に撃破する必要があるという算段が成り立っていた。

 

 

 

 

しかし、それは他でも無い霍青娥の言葉で思考を変える事になる。

 

 

 

 

「随分と戦うことが好きなのね、でも貴方は戦う為にここに来たのかしら?」

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

そう、斧乃木余接は原点に帰れば戦闘の為にここにいるわけではない。

 

 

 

与えられた任務は他にあるのだ。

 

 

 

 

「危ない危ない、つい忘れるところだった。そう、僕は探しているんだ。僕は迷子を探しているんだ」

 

 

 

 

 

「迷子?」

 

 

 

 

「うん、この幻想郷に入るにあたって多少の力業を行使したんだけれど、その時に僕と一緒にいたお姉ちゃん、僕の主人であるお姉ちゃんが迷子になってしまったんだ」

 

 

 

 

言わずもがな、迷子はどちらだという話だ。

 

 

しかし、いつでも無表情で無感情な斧乃木余接がそう言えばそう聞こえーーー

 

 

 

 

「いや、迷子は貴方でしょう?」

 

 

 

 

る筈が無かった。

 

 

 

 

「何を言ってるんだいお姉さん?僕が迷子になる筈がないでしょ?僕はどんな任務も完璧にこなす可愛い愛玩死体人形の斧乃ーー」

 

 

「へー、お前迷子なのか?」

 

 

 

キョンシーに空気は読めなかった。

 

 

 

 

例外のほうが(アンリミテッド)…」

 

 

「ストップストップ!!そうね、貴方も大変なのね!迷子を探すのも一苦労よね!!!」

 

 

「何を言ってるんだ青娥?」

 

 

「あぁもう馬鹿で可愛いわね!黙ってなさい!」

 

 

 

こうして一悶着も二悶着もありながら、斧乃木余接の置かれた境遇、及びその為の今後の対策を説明する時間が設けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…つまりはお迎えの用事がてら幻想入りをねぇ。外の世界にもまだまだ面白い人間がいるものですね」

 

 

斧乃木余接の話を聞き終え、とりあえずはこの状態を理解し、どこか懐かしむような様子の霍青娥。

 

 

ひとまずはこれ以上のバトル展開になる事はなさそうだ。

 

 

 

 

「と、いうわけなんだ。どこか心当たり、もしくは人の集まりそうな場所を教えてもらいたいんだけど」

 

 

 

目先の目標としては主人であるところの影縫余弦との合流、そしてその後の任務遂行。

 

 

 

その為の特例的な幾つかの条件もあったがここでは割愛する。

 

 

 

 

「ふむ、心当たりが無い訳でもありませんよ。それに人間が暮らしてる里も知ってます」

 

 

 

「それなら話は早い。で、場所は?」

 

 

 

目の前の二人が粛清対象ではなく、他に全うすべき任務がある以上は斧乃木余接がここに長居する理由はない。

 

 

 

次の目的地さえはっきりしてしまえば早急かつ迅速に行動に移す、仕事に関してのフットワークの軽さはキャラが一貫していない斧乃木余接にとっての数少ないキャラクター性のひとつでもあるのだ。

 

 

 

 

しかし、世の中そう上手くいかないようにできているのが常である。

 

 

 

 

「なら私が案内します」

 

 

 

「え?」

 

 

 

斧乃木余接には霍青娥の言葉の真意が理解できずにいた。

 

 

 

いかに無感情とはいえ、人の親切心が理解できない彼女ではない。

 

 

しかし霍青娥のそれは親切心とはまた違う気がしてならないのだ。

 

 

 

 

「ついてくる気なのお姉さん?僕は構わないけど、どういうつもりなのかは聞いておきたいかな」

 

 

 

「ただの興味よ、この子もこの子で可愛いけど貴方も同じ死体人形なのに随分と風変わりで面白いんですもの」

 

 

 

ケラケラと笑う霍青娥。

 

 

 

無邪気なのか邪気を孕んでいるのかは定かではないが、特に深い理由がある訳ではなさそうだ。

 

 

 

そしてそんな霍青娥を見ながら斧乃木余接は考えるーーー

 

 

 

常に与えられた任務に対して効率良く動く彼女にとって、現地を良く知る人物との接触、同行は決してデメリットにはならない。

 

 

 

強いて言えば、懸念されるのはこの霍青娥が何かしらの悪巧みを画策している可能性だが、それすらも斧乃木余接にしてみれば些事にすぎない。

 

 

 

何が起きたところで自分の力でどうにかできるだけの絶対的とも言える自信が彼女にはあるからだ。

 

 

 

「じゃあお願いするよお姉さん」

 

 

 

「ええ、お願いされるわ、余接ちゃん」

 

 

 

こうして即席の異色タッグが完成。

 

 

 

迷子のご案内…もとい、迷子を探しに二人は歩き出したのだった。

 




余接パートでした!


そして以前、どこかで書いた気がしますが暦以外が主役になる話では、語り部を他の人間視点にして物語を書きたいと思っていたんですよ…


いやー、はっきりと無理!

とりわけ余接ちゃんの語り部なんて再現度がマイナスにしかなりませんでした(。-_-。)(一応試みてはみた)


さて、次回は鳥のお姉やんと暴力陰陽師の話になるかと思います。

こんなところで再現度の話をしてしまえば次回なんてそりゃあ悲惨な事になるでしょうが…


興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!!
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