東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
「…私に何が聞きたいんだ?」
藤原妹紅は晴れ渡る空の真下、遮るものなど何もないであろうはずの空中に静止して問う。
その怪しい物を見るかのような目線の先には一際背の高い樹木ーーーその天辺に立っている一人の女性がいた。
「そんな怖い顔すんなや鳥のお姉やん、心配せんでも別に虐めたりせえへんから」
悪気なさそうに笑顔で右手をヒラヒラとふる女性。
確かに元から気の強そうな顔付きの藤原妹紅ではあるが、その女性の言葉で、さらにわかりやすく表情を強張らせる。
「聞きたいこと言うんはな、うちのーーー」
「待て」
不機嫌も手伝った…が、それにも増して不可解な状況に藤原妹紅はその女性の言葉を遮る。
「その前に私から質問だ、お前は外来人か?」
外来人ーーー
幻想郷に住まう者の間では当たり前のように通じるその言葉は当の外来人本人には馴染みのない言葉であり、読んで字の如しとはいえ、目の前の女性は藤原妹紅の質問に対してやや長めの間をとった。
「うちは難しい事はわからんけどその外来人いうんは外から来た者の事やろ?せやったらうちは外来人で間違いないな」
その言葉からおおよその意味を理解したであろう女性はあっけらかんと言い放つ。
勿論、外来人からしてみれば幻想入りする事がどれだけ珍しい事なのかはわからない。
「やっぱりか…それにしても一日で二人も外来人に会うなんてな。で、次の質問だけどーーー」
「ちょい待ちや鳥のお姉やん」
再び言葉は遮られる。
遮ったのは、やられたらやり返すと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる京都弁の女性だった。
「今度はうちから質問や。いうても本来しよう思っとった内容とはちゃうねんけどな、興味本意やし、お姉やんが嫌やったら答えんでもええけど…」
この時、並の人間であれば気付きもしないような些細な変化ではあるがこの女性の纏う空気が変わった。
威圧でもなく、威嚇でもない、ただひたすら強者が持っているであろう闘気のようなものだ。
そして藤原妹紅はそれに気付くーーーそれは彼女が同じく強者であるが為に。
「…なんだ?」
出し惜しむかのように間を持たせる女性に煮え切らないのか、藤原妹紅は質問のその先を促してしまった。
これが自体を急転させる決定打になるとも知らず…
「
ーーーその名を藤原妹紅
曰く、彼女は妖怪退治の専門家である
曰く、彼女は他者と必要以上の関わりを持ちたがらない
曰く、それでいて優しく思いやりがある
曰く、弱き人々を魔の手から守る事を常としている
曰く、超常的な力を持っている
曰くーーーー
その身は
不老にして不死であるーーー
突然の『人間か』という問いに対し、藤原妹紅は返答できなかった。
生物的にはどこをどうとっても彼女は人間だし、疑いの余地もなく人間らしい人間だ。
しかし、ある一面において彼女は人間離れしている。
そしてその一面こそが最も人外であり、そして人間として欠落していた。
寿命という概念の抹消。
人に限らず全ての生きとし生けるものに平等な絶対的ルール。
その身に命を宿し、この世に生を受けたその日から、死という終着点へと真っ直ぐに歩むのは人の定め。
しかし、彼女はそのレールから外れた。
それも他でもない自分の手によって。
それが原因となってその他の人々に化物の蔑まれ、弊害された過去もない訳ではない。
それに何より、彼女自身が自分の犯した過去のある過ちから自分の人間らしさを否定する節は否めないのだ。
「はっ、返答無しかい。ま、それが何よりの返答っちゅう事やな。それならそれでうちは構へんし、それにここは無害認定を受けた世界…おどれが何であれ虐めたりせんから安心しい」
質問の返答がどうであれ、それに対しての興味は元からなかったのか、既に毒気の無い空気に戻っているその女性。
後は自分の用件を済ますのみと、再度質問を投げかける。
「まあ、そないな事はどうでもええねん。それよりうちの連れが迷子になって探しとるんやけど、おどれ心当たりとか人が集まるような場所は知らんか?さっき外来人に会うんは二人目やとか言うとったけど」
この女性、どれだけ妹紅に対しての関心がないのだろう。
そも外見的には普通の女性である藤原妹紅は今も空中浮遊した状態であり、そんな非現実を、ましてや外来人が目の当たりにして何も突っ込んでこない所からして普通ではない。
そんな疑念は当たり前に藤原妹紅の中にも浮かんでいる訳で、その思いは真っ直ぐに目の前の女性に返されることになる。
「探し人にも人里にも心当たりはある…その迷子とやらはどんな奴だ?」
「なんや、知っとるんかい。迷子いうんはこんくらいの女の子で、髪が緑のなんやごちゃごちゃした服着とる無表情な式神童女や」
「女の子?…確かに背はひくかったけどさっき会った奴とは別人か…」
「ん?人違いっちゅう事か?まあそれならそれで人里って所に行く道を教えてくれたらええよ」
もとからそこまで宛にはしてなかったのか、そこまで残念がる様子もなくあくまで堂々と、飄々としている。
しかし、それもここまで。
回り出した歯車はもう止まらないーーー
「人里を教える事はできない」
「あ?」
「だから…お前みたいな怪しい奴に私の友が守る里を教える事はできないって言ったんだ!」
語気を荒げたその瞬間、もはや目視できる程に持てる力を解放する妹紅。
初対面の人間にあれやこれやと好き放題に言われた挙句、一番触れられたくない己の内面にまで土足で踏み込んで、さらにそれを眼中に無いかのような扱い。
勿論、彼女のストレスは振り切っているし、堪忍袋の尾なんてものはとっくの昔にブチ切れている。
しかし何より、彼女の本能がこの女性を人里へと近付けさせまいと警告音を鳴らしていた。
正体不明の外来人、しかも明らかに異形の者へと精通する知識と経験を有している。
悪意や害意の有無に関わらず、里の人々が関わりを持つべき相手とは到底思えなかったのだ。
「外来人がこんな妖怪や化物の群雄割拠する世界へやって来て、私のような空を飛べる人間と出会っても平然としている…あきらかに不審人物だろ?それにお前は匂うんだよ!」
「…参考までに聞いといたる、うちが何やて?」
「お前は私と同じ匂いがする…常に命のやりとりを繰り広げているような血の匂い、そして妖怪退治の専門家みたいな気配がな」
確証は全く無かった。
言い換えるならばそれは当てずっぽうであり、単なる勘にすぎない。
しかし、藤原妹紅の言う事は的を得ていた。
「なあんや、おどれも専門家かい。まあ、怪異に関わりすぎて自身が怪異になる専門家も珍しくないわな。にしても…うちとおどれが同じやと?」
彼女は空を飛んだりしない。
弾幕も扱えないだろう。
それでも、豊富な経験を持つ藤原妹紅には一瞬で理解できた。
目の前の女性が只者ではない…絶対的強者である事が。
「人が道訪ねただけで好き放題言いくさりよって、うちとおどれが同じ?んな訳あるかい。うちは真っ当な人間、それも正義の味方や。おどれみたいな人道踏み外した
そこに飄々とした空気はもう無い。
肌を刺すような、その場にいるだけで心臓を鷲掴みにするようなプレッシャー。
次の瞬間には相手の命を刈り取るかのような猛々しさ。
そんな異様な空気を纏う一人の専門家の姿がそこにはあった。
「確かに…」
「あん?」
そんな普通なら飲まれてしまいそうなプレッシャーの中、妹紅は静かに言葉を紡ぐ。
「確かに私は偽物だ、自ら道を踏み外した大馬鹿野郎だ…でもね…里には私の大切な友がいる!平穏に暮らす人々がいる!そいつらを守れるなら私は人外で構わない!少しでも危険を孕んだ奴を私は絶対に里には近付けさせない!!」
それは高らかな宣言。
それと共に妹紅の背中には、目を奪われるほどの鮮やかな炎の羽が顕現する。
「ははっ、いよいよ怪異じみてきよったな。ええで、ここは無害認定されとるし無闇矢鱈とバトる気はなかったんやけど、うちに個人的に喧嘩売ってくるなら話は別や。無害認定なんざシカトこいてシバき倒したるわ」
静かな森の中で二人の専門家はぶつかる。
片や不老不死の専門家。
片や不老不死を専門とする専門家。
「私は藤原妹紅!不老不死…蓬莱の人の形、藤原妹紅だ!」
「口上なあ…ならうちも宣言するわ、うちは不死身の怪異を専門にする専門家、陰陽師の影縫余弦や!」
死を知らぬ者
死を与える者
相容れぬ二人の戦いが始まる。
凄まじく短くてすいませんが何とか更新できました…
前回の後書きでも触れましたが影縫さんの台詞がね、なんと言いますか…京都弁ってなんぞ?的な状態です…
再現度もクソもあったもんじゃないし、違和感が仕事しまくってるとは思いますが、そこは皆さんの大人の対応でうまく脳内変換してやってください…
ではでは、お時間と興味のある方は引き続きよろしくお願いします!