東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第41話ー地底の猫ー

「う…ん…いつつ…」

 

 

 

「おや、お目覚めかい?ちょいと、鬼のお二人さん。お客さんのお目覚めだよ」

 

 

 

幻想入りしてこっち、もはや数えるのが面倒な程、何度目になるかという気絶から目を覚ました僕の耳に聞こえてきたのは、幻想入りしてから思い返しても初めて聞く女性の声だった。

 

 

 

「ったく、いつまで寝てるんだよ?あれしきの事で情けないねぇ」

 

 

 

「確かに体感で一ヶ月近くは寝たような気がしなくもないけど鬼のあれしきは僕の致命傷だ!」

 

 

 

「ははっ、こりゃ手厳しい。鬼の二人に殴られたなら今頃死体になってあたいが運んでやってる所だよ。生きてるだけ立派なもんじゃないか」

 

 

 

 

「あん?あんなもんちょいと拳骨を落としたくらいのもんさね。なんならやり足りないくらいだよ」

 

 

 

目覚めて早々、あまりにも不吉な会話を聞いた事に対しては耳を伏せるとして、どうやら身体の感覚も戻ってきた。

 

 

 

僕が置かれた状況も含め諸々謎ではあるけれど、何かに乗せられてるような感覚がある。

 

 

 

とりあえずは早急に身体を起こして先の非礼を詫びるとしよう。

 

 

 

 

「あ、あの!僕はもう自分で歩けるから大丈夫!…で、貴方は?」

 

 

 

怠さの残る身体を起こし、声を掛けると、萃香さんと星熊さんが足を止めてこちらを振り向いた。

 

 

 

そして、肝心の僕を運搬していた少女も歩みを止める。

 

 

 

「うんうん、血色も良いしこりゃ死ななそうだねぇ、残念!あたいは火焔猫燐、お燐で良いよ」

 

 

 

ん?今、この少女は僕が死ななくて残念みたいな事を言わなかったか?

 

 

 

いや、それよりも何よりもーーー

 

 

 

「僕は阿良々木暦、色々とあるけど人間…だ。えっと、お燐さんはもしかするともしかしてーーー猫の怪異なのか?」

 

 

 

そう、その姿。

 

それこそがどこをどう見ても猫を連想させてくれる。

 

 

 

まずはその耳、秋葉原あたりで歩けばたちまち取り囲まれて写真の被写体として大人気になりそうな猫耳が生えている。

 

 

 

そしてその背後、そこからはやはり猫のような長く細い尻尾が二本ーーー

 

どう見ても犬のような尻尾ではなく、正真正銘、猫の尻尾が生えていた。

 

 

ここが秋葉原ではなく、幻想郷である以上、これはコスプレではなくこの見た目に付随する怪異である証明と言えるだろう。

 

 

ちなみに余談ではあるが、何を隠そう僕こと阿良々木暦は猫が苦手である。

 

 

 

これに関して言える事は、苦手といっても某人気漫画の水をかぶると女の子になっちゃう無差別格闘継承者のような、気絶するレベルの猫嫌いという訳ではないという事。

 

 

 

嫌ではなく苦手。

 

 

 

ゴールデンウイークに起きたある事件をきっかけに、僕の中には何とも言えない猫に対する苦手意識が芽生えたようで、以来、猫を見かけると心の古傷が疼くかのような何とも言えない気持ちになるのだ。

 

 

 

「んー、猫ってのはあながち間違いではないんだけどねぇ…正確に答えるならあたいは火車の妖怪だよ。貴方が今乗ってる車でお仕事をしてるのが火車さ」

 

 

 

「ーーー火車…?」

 

 

 

確か、どこかで聞いた事があるような気がするぞ。

 

 

…いや、思い出した。

 

 

昔、読んでいた漫画に火車って名前の妖怪が出てきたんだ。

 

 

詳しくは思い出せないけど、火車っていうのは亡くなった人の身体と魂を連れ去って地獄に連れていくっていう、ある種ネクロマンサー的な妖怪じゃなかったか?

 

 

 

その死者をその後どうするかまでは覚えてないけれど、そんな感じの話だった気がする。

 

 

 

 

「ん?と、いうことは…もしかして今まさに僕の乗ってるこの車は…」

 

 

 

 

「死体運搬用の車だけど?」

 

 

 

「うわああああああああああ!!!」

 

 

 

脱兎のごく僕は跳ね起きて…いや、転がり落ちた。

 

 

まさか死体運搬の車に乗せられているとは誰も思わないって。

 

 

 

兎というか哀れな牡丹餅。

 

 

 

いや、もしも自分が毎晩眠りについている寝具が遺体安置に使われる毛布だったらと想像してもらえば僕のリアクションも頷けるだろう。

 

 

 

「おやおや?聞いた話じゃ貴方は吸血鬼なはずだけど、その様子じゃ棺桶で寝る習慣はないみたいだねぇ」

 

 

 

「ある訳あるかそんなもん!うわあ、想像しただけで鳥肌が…」

 

 

 

変な事を言われたおかげで、他人が安置されてる棺桶に相席する所まで妄想しちゃったよ…

 

 

どんな、相席失礼します、だそれは?

 

 

 

「さて、あんたも元気になったみたいだし先を急ぐよ?悪いが鬼は待たされるのが嫌いなんでね」

 

 

 

 

「あ、星熊さん…」

 

 

 

数歩先に立ち止まっている鬼の二人を見ると、やれやれと言った顔でこちらを見ている。

 

 

僕としては意識が飛ぶ前の出来事を思い出してしまい、どことなく気まずいような心境だ。

 

 

 

「あの…さっきはすいませんでした星熊さん」

 

 

 

「ん?ああ、そんな事はもう良いよ。勢い殴っちまったけど私もあんたも勝負に夢中だったんだ、悪意がない事くらいわかってるさ」

 

 

 

まるで何も無かったかのように笑顔で手を振る星熊さん。

 

 

 

怒らせれば勿論怖いけれど、その竹を割ったようなさっぱりとした性格はやはり鬼といったところだろうか。

 

 

その返しは普通にありがたかった、がーーーー

 

 

 

 

「ただ私は良いけど萃香がねぇ…余計にヘソ曲げちまって困ったもんだよ。嫉妬もその辺にしときゃいいのに」

 

 

 

急に意地悪い笑顔になったかと思えば、横目で萃香さんを見るなりそんな事を口にするものだから僕はもう戦々恐々である。

 

 

 

「ばっ!誰が嫉妬なんかするもんかね!私はただ私以外の角まで掴んだのが頭にきてーーー」

 

 

「それを嫉妬って言うんだよ?す・い・かちゃん?」

 

 

「~~~っ!勇儀ぃ!!!」

 

 

 

豪快に笑う星熊さんとは対照的に、顔を真っ赤にして叫んでる萃香さんとの光景はどこかシュールだった。

 

 

 

しかし萃香さんは何に嫉妬しているのだろうか?

 

 

僕みたいな弱い人間風情が、鬼の誇りである角を掴んでしまった事に対しての憤慨は納得できるけどーーー

 

 

嫉妬に関しては全くわからないぞ?

 

 

やっぱり鬼って種族にはわからない事が多いようだ。

 

 

 

「ったく…ほら!あんたもボサッとしてなさんな!丁度お燐とも会えて地霊殿へと着きそうな所まで来たんだ、さっさと行くよ!」

 

 

 

「え?あぁ、すいません。もう大丈夫なんで先を急ぎましょう…って地霊殿?何だそれ?」

 

 

 

「あぁ、そういやまだ言ってなかったねぇ。お燐、悪いけど歩きながら説明してやっておくれよ」

 

 

 

「ん、はいよ」

 

 

 

こうして僕達は再び歩き始めた。

 

 

お燐さんに聞くところによると、これから向かう地霊殿と呼ばれる場所にはこの地底を収める妖怪姉妹が住んでいるらしい。

 

 

 

妖怪姉妹なんて言われると、僕としては現在お世話になっている紅魔館のスカーレット姉妹が頭に浮かぶ訳だけど、まさかあの姉妹のように血の気の多い人物じゃない事を祈るばかりだ。

 

 

 

そもそも、この地底という場所からしてその成り立ちは出鱈目も良いところであり、本来は地獄として存在した場所だという。

 

 

なんでも『地獄の縮小化計画跡地』らしく、地獄にコストパフォーマンスやら省エネやらの概念が存在すること自体が既に僕の理解を超えているんだけれど…

 

 

 

兎に角、その計画跡地を利用して集まったのが鬼をはじめとする確かな実力に裏付けされた強力にして凶悪な妖怪達であり、その姉妹こそがその全ての妖怪を管理する存在だという話だ。

 

 

 

正直なところ会いたくない。

 

 

 

うん、会いたくないですとも。

 

 

 

鬼まで集まる旧地獄の長を務める姉妹に会って無事で済む自分というものが全く想像できない…

 

 

 

 

「ほれ、萃香もあんたもしゃんとしな。目的の地霊殿が見えてきたよ」

 

 

 

相変わらずフラフラと酒を飲んでる萃香さんと、お燐さんの話を聞いたおかげでモチベーションが飛ぶ鳥を落とす勢いで下がってる僕に向かって星熊さんが声をかける。

 

 

 

遥か前方を見やれば、外観は旧日本家屋が立ち並んでいた地底の街並みとは打って変わって洋館風のお城ともとれる立派な建物が見えてきた。

 

 

 

予備知識がない僕でもあれが地霊殿だと一目で認識できるほどの佇まいだ。

 

 

 

そしてその立派すぎる外観から、そこに住むであろう妖怪姉妹のカリスマ性、危険度、絶対的実力が伺える。

 

 

 

 

「ついさっき三途の川を渡ったばかりなのにまたもや三途の川に逆戻りしそうだぜ…」

 

 

次こそはあの小さな閻魔、四季映姫さんに地獄送りにされるのではないかと、僕は内心戦慄だ。

 

 

 

「いやぁ懐かしいねぇ。私も地底を出てから久しいけど相変わらず立派なもんだ」

 

 

 

僕の緊張をよそに、呑気な事をいってる酔っ払い幼女が少しだけ恨めしくなった。

 

 

 

「じゃああたいは一足先にさとり様へと取り次ぎに行くから御三方は適当に入ってきとくれ。あと、鬼の二人はくれぐれも館の備品を壊したりしないでおくれよ?」

 

 

 

すっと前に出たお燐さんはそれだけ告げると、とんでもない身軽さであっという間に館の中へと消えていった。

 

 

 

「やっぱり猫じゃねえか」

 

 

 

ブラック羽川も身軽で早かったもんな。

 

 

 

「さて、じゃあ私らも行くとしよう。地底に住んでるとはいえ私も滅多に立ち寄らないから久しぶりだしね」

 

 

 

「ん?やっぱり勇儀もあそこには近よらないのかい?」

 

 

 

「あの豪華さがどうも苦手でねぇ。鬼の私には町の長屋で飲む酒が一番合ってるのさ」

 

 

 

「ははっ、わかる気がするよ。私だって外来人の案内でもなけりゃ立ち寄らないだろうさ」

 

 

 

そんな会話をしてる二人は笑いながら館へと歩いて行く。

 

 

というか鬼も近付かない館って僕が無理して行く理由があるのだろうか?

 

 

 

「あ、あのー…お二人ともそんなに気が乗らないなら僕は無理してまで見学しなくてもーーーー」

 

 

「あん?鬼の親切が受け取れないってのかい?」

 

 

 

「ほぉ。鬼に不義理を働くとは見上げた糞根性だ…」

 

 

 

「行きましょう!さくさく行きましょう!いや!楽しみだなあ地霊殿!あんな綺麗な建物、生まれてこの方見た事も入った事もないや!鬼のご厚意が無ければ僕なんかには一生縁が無かっただろうな!有難や有難や!!!」

 

 

 

どっちこっちだよ本当!

 

 

行っても危ないし行かなくても危ないって僕にどうしろってんだ。

 

 

 

 

もう逆らう事は無意味と観念して、ここは虎穴に入らんずば虎子を得ずの精神に乗っ取り二人を追うように足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーくすっ、面白いお客様が来たわ」

 

 

 

 

 

鬼の二人の背中に追いつこうとした時、何処からかそんな少女の声が聞こえたような気がした。




どうもお久しぶりです。

長いことサボってたクセにたいして話が進んでない事をお詫び申し上げます。
しかしアレですね、自分の文才が足りないが故なんかではあるのですがモチベーションがいまいち上がらないというか…話の形は出来ているのにそれを文にできないジレンマと葛藤中です(。-_-。)

そういうひとつのスランプのような状態の克服方法をご存知の方がいましたら教えてください、切実に…

さてさて、つまらない私事はさて置き、予定では暦の幻想郷観光も地霊殿をラストにしようと思っております!

守矢派の方やその他キャラのファンだという方々には申し訳ないのですが、あまり長くやると話がダレまくるという判断からです、ご容赦ください。


では、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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