東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第42話ー地霊殿ー

日も落ちた黄昏時(たそがれどき)、とある木こりは背後の者に気付く。

 

 

その者は問う

 

 

「お前、俺の事を誰だこいつと思ったろ?」

 

 

薄ら笑いを浮かべる謎の存在に木こりは不気味さを覚える。

 

 

その者は問う

 

 

 

「お前、俺の事を不気味だと思ったろ?」

 

 

辺りの暗さも手伝い男の感じた不気味は徐々に恐怖へと変化する。

 

 

 

その者は問う

 

 

 

「お前、俺の事を怖いと思ったろ?」

 

 

 

木こりは一言も口をきいてない、それなのに何故この者は自分の心がわかるのだと戦慄する。

 

 

その者は問う

 

 

 

「お前、俺の事をなぜ心がわかるのだと思ったろ?」

 

 

 

木こりは恐れ(おのの)き、こいつは妖だと確信する。

 

 

 

その者は問う…

 

 

 

「お前、俺の事をーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー妖だと気付いたろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されるがままについてきた地霊殿。

 

 

その中は見た目を裏切らず、立派な造りの洋館だった。

 

 

紅魔館に色彩というものを足してみればこのような華やかな建物になるのかもしれないなどと思いながら、萃香さんと星熊さんに続いて奥へと進んで行く。

 

 

 

その最深部、一際目を惹く大きな扉を開けた先に、その人達はいた。

 

 

 

「お待ちしてましたよ、ようこそ地霊殿へ」

 

 

 

ピンクの髪に、幼くも端整な顔はウインクでもしているかのように片目を閉ざして、所々にハートをあしらった服を着た少女が僕達を出迎えた。

 

 

「おっ、久しぶりだねぇ。今日も妹は留守なのかい?」

 

 

「あら勇儀、こいしがいなくて安心するのは姉として良い気分ではないわよ?」

 

 

 

「やっぱりお見通しだねぇ…いや、あいつは突然あらわれるからーーー」

 

 

 

「心臓に悪い、でしょ?ふふ、わかってるわよ」

 

 

 

手始めに、星熊さんと若干噛み合わないような会話を繰り広げる少女。

 

 

 

どうやらこっちの子がこの地霊殿の主なようだけど、その見た目はなんというか…

 

 

 

「主には見えない、ですか?」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

突然こちらを見たと思えば何の脈絡も無しにそう言い放つ少女。

 

 

しかし今の言葉って僕の二の句を読んだかのように聞こえたけど…もしかして無意識のうちに口に出てたか?

 

 

だとしたらとんだ失礼をしてしまってるぞ、僕。

 

 

 

そんな一抹の不安を抱えながら再び彼女を注視してみる。

 

 

顔は穏やかな笑顔のままだけれど、どことなく見た目以上の何か得体の知れないものを感じるような気がしなくもない。

 

 

 

「そんなに身構えないでもいいわ、私は古明地さとり。貴方の予想通り、この地霊殿の主よ」

 

 

 

あれ?僕の予想って言ってたけど、じゃあさっきのは言葉に出してなかったのか?

 

 

自分で自分の思考が良くわからなくなってきたぞ!

 

 

いや、それよりも相手が名乗ったのだから僕も名乗らなければ。

 

 

 

大学受験を控えた高校三年生にもなれば、このへんの常識は身に付けていて然るべきである。

 

 

 

「僕は」

 

 

「阿良々木暦さんね、半人半鬼の高校三年生、幻想入りして紅魔館に滞在中、今日は萃香の好意で幻想郷のあちこちを案内してもらっている、と」

 

 

 

「…そ、その通り…」

 

 

 

息を飲むとはこの事だろう。

 

 

事実、僕は息を飲むのと一緒に出そうとしていた言葉まで飲み込んでしまった。

 

 

 

 

「ちょいとさとり、初対面の、しかも人間の外来人に対して悪趣味な悪戯はするもんじゃないよ」

 

 

 

半ば呆れているような、それでいてどこか苛立っているような顔で萃香さんが言い放つ。

 

 

これが僕のような平々凡々の人間から出た発言ならば、そんなものヒラリと躱す事もできるだろう。

 

 

 

しかし萃香さんは鬼である。

 

 

 

自他共に最強である事を認める種族、その萃香さんに窘められたのだ。

 

普通であれば余裕をもった対応なんてできるはずもない。

 

 

 

 

 

 

 

「あら萃香、珍しくも嫉妬してるの?久しぶりに会ったのだからそんな怖い顔をしないでちょうだい。貴方がこの人間を特別視してるのはわかったから」

 

 

 

流石というのか何なのか、やっぱり地底の長を務めるだけある…そんな不機嫌な萃香さんを前にして、古明地さとりと名乗るこの妖怪少女は、その笑みも態度も崩さないのだった。

 

 

 

って、ん?萃香さんが僕を特別視?

 

何の事を言ってるのだろうか?

 

 

あ、そういえば幻想郷案内に出発する折、霊夢さんから僕の安全を守るよう言われて僕の護衛の約束をしていたんだった。

 

 

それで僕に対して特別な程に目をかけてくれているという事だろう。

 

 

危ない危ない。

 

 

危うく萃香さんが僕に対して恋慕の情でも抱いているのかと恥ずかしくも盛大な勘違いをしてしまうところだったぜ。

 

 

思い返せば千石と遊んだ時も僕は勝手な勘違いをしそうになっていたんだった。

 

 

全く、我ながらいつから僕はそこまで自意識過剰な人間になってしまったのだろうか?

 

 

考えても見れば誇り高く、最強の名を冠する鬼、伊吹萃香ともあろうお方が僕程度のちっぽけ極まりない人間如きにそんな感情を抱くはずもないだろうに。

 

 

 

「…ほう、さとり…あんたよっぽど私の逆鱗に触れたいみたいだねぇ?それ以上余計な事を口走ったら怪我じゃすまないよ?」

 

 

 

「あー…いえ、萃香。確かに謝るけど貴方の心配は良くも悪くもいらぬ心配みたいよ?ここまでの朴念仁は私も寡聞にして知らないわ」

 

 

 

怒りを露わにする萃香さんを他所に、何故か残念な物を見るような目で僕を見つめるさとりさん。

 

 

相変わらずその目はウインクをしているかのように片目だけ閉ざされているけれど、左胸のあたりに飾られてる眼球をモチーフにしているであろうアクセサリーも相まって、視線の攻撃力がとても痛いものになっている。

 

 

 

眼球と言えば羽川の眼球を舐める約束を思い出すところだけれど、流石にあのアクセサリーみたいな眼球なら舐めたいとも思えないな…

 

 

 

「いや何を言ってるの!?絶対に舐めないで下さいね!?というか何ですかその危険思想は!?」

 

 

顔を真っ赤に染めて僕からあからさまに遠ざかるさとりさん達。

 

 

 

いや、それよりも…

 

 

 

「だから何でどいつもこいつも僕のモノローグを簡単に読み取るんだよ!舐めないよ!僕が舐める眼球はあくまでも羽川の眼球だけだ!」

 

 

 

そういう地の文まで会話に盛り込んでくる奴は戦場ヶ原と八九寺だけで沢山だよ!

 

 

 

「眼球を舐めたいってのはなんだい?何かの儀式?」

 

 

 

「え?何を当たり前な事を聞いてるんですか萃香さん。女性の眼球を舐めるのは全男子の夢でしょ?」

 

 

 

それが羽川の眼球であるならば尚更だ。

 

 

その念願が叶うならば僕はこの身を業火に焼かれても笑っていられるだろう。

 

 

 

「人間てのはいつからそんなにイカれた種族になっちまったんだよ…」

 

 

 

今度は萃香さんまでもが僕をジト目で見つめていた。

 

 

いや、正確に言えばその後ろの星熊さんも引きつった顔をしている。

 

 

 

みんなしてそんな目で僕を見ないでくれ!僕が新しい何かに目覚めたらどうしてくれるんだ?

 

 

 

 

「どうせなら貴方は二度と目覚めない眠りについた方が良いと思うわ…それに私のこの眼は第三の眼(サード・アイ)、アクセサリーじゃなくて私の一部よ」

 

 

 

左胸の眼球を指差しながらそう応えるさとりさん。

 

 

いや、そのアクセサリーのような眼が身体の一部という事にも勿論驚いてはいるんだけれど、それよりも今までのやり取りで僕の疑問は確信へと変わった。

 

 

 

恐らくだけどこの人はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、相手の心が読めてますよ。私は(さとり)妖怪ですから」

 

 

 

 

古明地さとり

 

 

物腰こそ柔らかで、温和な印象を受ける彼女ではあるが侮ることなかれ。

 

 

有する能力は『心を読む程度の能力』。

 

 

旧地獄の地底に君臨する頂点であり、地霊殿のトップ。

 

 

 

その種族は、覚妖怪ーーーー

 

 

 

 

そんな事実を突きつけられた僕はといえば

 

 

「やっぱりかよ…」

 

 

 

僕の名前から経歴までを言い当てた辺りからそうだろうとは思っていた。

 

 

 

まあ、割と妖怪というカテゴリーの中ではポピュラーな部類だとは思うし(僕が知っているくらいだから)、逆説的に言えば心を読む妖怪なんて僕にはそれくらいしか思い当たらない。

 

 

確かに相手の心が読めるならば地底のトップに君臨する事もできるだろう。

 

 

仮に戦いになっても次に何を仕掛けてくるかがわかっていれば後手に回る事はないのだから。

 

 

納得納得。

 

 

 

「あら…貴方は私を恐れないのね?」

 

 

 

不思議なものでも見るかのようにさとりさんは言う。

 

 

 

「普通なら誰だって心を読まれる事を良くは思わないものよ?妖怪でさえ私の能力を恐れ、嫌悪し、果ては避けていくというのに…貴方は納得するばかりで私に対して気持ち悪さを抱かないの?」

 

 

 

そんな質問を投げかけられた。

 

 

 

いや、僕の場合は()()()()()質問だったと言えるだろう。

 

 

 

なんたって

 

 

 

 

「気持ち悪いなんて思わない、というか思えない。心を読むってのは確かに凄い事だけど…生憎、僕の周りにはそういう能力に長けた奴がゴロゴロいるんだ。殆どなんでも知ってる友達や、なんでも見透かす奴、果ては本当に何でも知ってるお姉さんとか。だから心を読まれるのは慣れてるって感じかな?それに僕ってーーー」

 

 

「わかりやすい奴だとか良く言われる、のね」

 

 

 

おっと、この人は正真正銘心を読むんだった。

 

 

ならば僕の言葉の先を言い繋ぐ事くらいは容易いだろう。

 

 

 

「嘘は言ってないし…ふふ、貴方は本当に面白い人間なのね。萃香の言う通りだわ」

 

 

 

「あん?私はそんな事…言ったんだろうね、心の中では」

 

 

 

成る程、心が読めればこんなやりとりもあり得るのか。

 

 

一部分とはいえ、あの臥煙さんすら凌駕する先読みは、見ていて圧巻の一言につきる。

 

 

いや、羽川に関して言えば電話越しの声から僕の置かれた状況すら読み取った過去を持っている。

 

 

だとすれば真の王者は羽川になるのか?

 

 

流石だぜ、委員長の中の委員長!

 

 

 

 

しかし不便な事も多いだろうなあ。

 

 

 

聞きたくもない誹謗中傷に強制的に晒される事を思えばメリットばかりな能力とも思えない。

 

 

 

特に僕のような人間がさとりさんの能力を持っていたなら、鳴り止まない程の批判の声に戦慄して外出はおろか、自室からも出れなくなりそうだ。

 

 

人間強度もへったくれもない、問答無用のオーバーキル。

 

 

 

「私も似たようなものよ、だからこそ普段はこの地霊殿から出ないようにしているのだから」

 

 

 

「え?地底のトップなのに?」

 

 

 

「そうよ、全ての言葉を持つ者が心に嘘をついて平然としている世界。特に私には本心が筒抜けと知れば大抵の場合は良い結果を生まないもの。ま、鬼は別としてね」

 

 

 

「ん?そりゃどういう意味だい?」

 

 

 

「貴方達みたいな存在は珍しいのよ。基本的に思った事しか口にしないんだから…心を読もうと、言葉でやり取りしようと結果が変わらないもの」

 

 

 

「そりゃ私達鬼が単純だって皮肉かい?」

 

 

 

「ふふ…違うわよ、正直で真っ直ぐだと言ってるの」

 

 

 

ああ、確かに鬼はそんな印象だ。

 

 

そもそも本心を隠そうだなんて小物的発想すらしてなさそうだもん。

 

 

 

まあ、さとりさんが『基本的に』なんて言うくらいだから例外な部分もあったりはするんだろうけど。

 

 

 

 

鬼ですら本心を隠す場面…僕なんかには見当もつかないな。

 

 

 

そしてここからは僕とさとりさんの会話になった。

 

 

とは言ったものの、僕は何も喋らない。

 

 

 

さとりさんの持つ能力の有効活用とでもいうべきか、僕は質問された事に対しての回答を頭に浮かべたらそれはさとりさんに伝わっている。

 

 

一方通行のようで成立しているという不思議な対話だった。

 

 

 

途中、全く予期せぬ質問をされたり、萃香さんや星熊さんの横槍が入ったり、僕の性癖やら、果てはこれまでの悪業の数々が不本意な事に露見してしまい、とても過激なお叱りを受けた事に関しては割愛させて頂く。

 

 

ただ、本当に死ぬかと思った。

 

 

 

というか、多分三回は死んだ。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「貴方は本当に不思議な人なのね…話の種が尽きないわ」

 

 

 

「話をしている実感はまるでないんだけれど…それに話せば話す程に僕の命が擦り切れていく気がする、物理的な意味で」

 

 

 

既に完治しているとはいえ、一々鬼の力で突っ込まれてる僕の身にもなって欲しい。

 

 

 

「なんだよその目は、こっちだって聞けば聞くほどあんたの悪業の数々が露見して不愉快極まりないんだ。あんた下手したら鬼よりも鬼畜だよ」

 

 

 

「心外だ!意義を申立てる!!」

 

 

 

「残念だけどそれは萃香の言う通りだね。個人的な好みにとやかく言うつもりはないけどあんたのそれは…なんつーか…酷い」

 

 

 

「星熊さんまで!?」

 

 

 

主に吸血鬼を含む僕のこれまでの怪異譚が話の中心だったのだけれど、その話の全てに少女達が関わっている。

 

 

何の因果かその少女達の全てに共通して、人には言えないようなやりとりを持っている僕としては、わざわざ言うつもりもない事まで詳らかになってしまうさとりさんの能力は驚異だった。

 

 

 

「それはそれだけ貴方が正直で、それだけ彼女達との思い出を大切にしている証拠よ。私が読み取れるのはあくまでも表層心理だけ、深層心理までは読みきれないもの。よっぽど強い意識…トラウマなんか以外はね」

 

 

 

深層心理、か。

 

 

確かに結局のところ、心の奥底なんてものは当の本人ですら理解していないのかもしれない。

 

 

僕だって自分の心の奥底を明確に把握しているかといえば、自分の事なのにわからないことだらけだ。

 

 

 

まあ、言うほどに僕の心の器が大きくて深いとも思えないけれど。

 

 

 

「それに人は唯一無意識で行動する生き物よ。幻想郷の妖怪の中でも一部例外はいるけれど、基本的に人間だけ。妖怪にも動物にもない、人間だけの特性…無意識は私ですら読めないの。それは少しだけ寂しい時もあるけどね…」

 

 

 

少しだけ寂しそうな笑顔で呟くさとりさん。

 

 

「ああ…妹の事かい」

 

 

「ええ…あの子が眼を閉ざしてから久しいけれど、今もどこで何をしているのか…姉としては心配でしょうがないわ。元気に帰ってきてさえくれれば私はそれだけで充分、早く会いたいわ…」

 

 

 

そういえば地霊殿のトップは妖怪の()()だった筈だ。

 

 

という事は…

 

 

 

 

「じゃあそっちの子が妹さん?無口で大人しい子ですね」

 

 

 

恐らくはさっきからさとりさんの後ろでニコニコしてるのが妹なのだろう。

 

 

不思議と僕達が部屋に入ってから一言も口をきかないし、他の皆も特に何かを言うつもりは無さそうなので触れずにいたのだけれど。

 

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「えぇっ!?」

 

 

 

何故か僕以外の全員に驚愕の色が走る。

 

 

特に妹さんの顔は『そんなバカな』とでも言いたそうな感情が顕著に見て取れた。

 

 

 

 

「そんなバカな!」

 

 

 

実際に言っていた。

 

 

 

 

「こ、こいし!?いつからそこに!?」

 

 

 

「ありゃ、見つかっちゃった。私はずっとここにいたよお姉ちゃん」

 

 

 

ん?

 

なんだこの奇妙なリアクションは?

 

 

まるで誰もが彼女の存在に気付いてなかったかのような…

 

 

学校においての僕じゃあるまいし存在が認知されていないなんて普通あるのだろうか?

 

 

 

「すごいねぇ、面白そうな人間が鬼と一緒にいるから付いてきたんだけど、まさか私を見つけるだなんて!」

 

 

 

眼を輝かせながら興奮気味の彼女は歓喜にも似た声を挙げている。

 

 

 

「いや、見つけるも何も最初からそこにいただろ。え?もしかしてあれは幻想郷式のかくれんぼだったのか!?次世代的すぎてわからなかった!」

 

 

 

隠れずして隠れるかくれんぼ…なんだそりゃ。

 

 

 

「ははっ!そりゃ違うよ。あんたが見つけたのは正真正銘、掛け値なしで見つける事ができない筈の相手、古明地こいしさね。なんたってこいつはーーー」

 

 

 

「無意識の中に住む私の妹なの」

 

 

 

 

珍しいもの好きの萃香さん、そして実の姉妹だというさとりさんも嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

 

 

「見つける事ができない筈の相手って…そこにいるのにですか?」

 

 

 

「そこにいてそこにはいない、こいしは無意識を操るからねぇ。意識の外にいる。そこにいる事を認識できないのさ。まぁ、どういう訳かあんたには認識できたみたいだけど」

 

 

 

いつか忍が言ってた事を思い出す。

 

 

 

いかなる伝説も観測者がいなくては伝説たり得ない。

 

 

そんな言葉の正反対をそのまま体現するかのような存在、それが古明地こいし。

 

 

 

誰にも意識されず、認識されない者。

 

 

 

怪異とは人の信仰、願い、想いから生まれる者だけれど、その定義からも外れている少女。

 

 

 

誰からも願われず、想われず、認識されないからこそ存在するという矛盾。

 

 

 

申し訳ない言い方になるが、僕としては古明地さとりよりもよっぽど怪しくて異なっているように思う。

 

 

 

「でもなんで貴方には私が認識できたんだろ?私には人間の意識も妖怪の意識も届かないはずなのに」

 

 

 

見つかったこと自体はそれ程まずい事ではないようで、純粋に不思議がっている様子のこいしちゃん。

 

 

そして先程から鈍感やら朴念仁やらと言われたい放題だった僕にしてみれば、珍しい程にすんなりとその答えに辿り着く。

 

 

 

 

「もし僕が人間でも妖怪でもなかったら?」

 

 

いや、厳密には僕だって人間だ。

 

 

少なくとも人間であろうという()()はある。

 

 

 

ただ、それに反して普通の人間ではないという自覚だってある。

 

 

 

もしもこいしちゃんの言葉を額面通りに享受するなら、人間と妖怪にピントを合わせた能力ーーー

 

 

 

ならば中途半端に人間で、中途半端に吸血鬼ーーーそんな阿良々木暦ならば?

 

 

ピントが合っていない存在ならば?

 

 

 

それなら不認識を認識できてもおかしくはないのではなかろうか?

 

 

 

まあ、これだって僕の憶測の域を出ない意見であり真相はわからないけれど、この場で僕のみが例外というのならば考えられる可能性もそれくらいのものだろう。

 

 

 

厳密に区分すれば、この幻想郷にだって半人半妖の類は存在するのだろうけども、種族として確立されていないのは僕くらいなはずだ。

 

 

 

と、そこで思わぬ声が掛かるーーー

 

 

 

「いや…私には解ったよ…あんたがこいしを見つけた理由!」

 

 

見れば萃香さんがまたもや眉間に皺をよせている…

 

 

 

 

「ちょっと萃香…流石にそれは…」

 

 

「いや!間違いないよさとり!こいつがこいしを見つけた理由はーーー」

 

 

 

全員が固唾を飲んで萃香を注視する。

 

 

僕が見出した考え以外でどのような可能性があるのか…不思議と嫌な予感しかしないけど。

 

 

 

「それは…こいつが人類史上、類を見ない変態だからだ!少女の匂いとか気配を察知したんだ!!このロリコンがぁ!!!」

 

 

 

「ふざけんなぁぁぁぁああああ!そして幻想郷出身者がよりにもよってロリコンなんて言葉使うなや!」

 

 

 

ほれ見ろ、言わんこっちゃない!

 

どうせ碌な意見が出るはずないと思ってたけどやっぱりだよ!

 

 

 

「何を言ってんだい!十歳そこいらの少女を見かける度に背後から襲いかかっては身体を弄ぶような輩が一丁前に反論してんじゃないよ!」

 

 

 

「ぐっ…で、でもそれとこれとは話が別だっ!僕に少女感知機なんてものは無い!」

 

 

あるのは精々八九寺探知機くらいだ!

 

 

 

「どうだか!さっきだって私や勇儀の角を弄んでたじゃないか!それに住んでる場所が紅魔館ってのも怪しいねぇ…はっ!あんたまさか…あそこの吸血鬼姉妹まで歯牙にかけようってんじゃ!?」

 

 

 

「かける訳あるか!むしろ僕の方が歯牙にかけられそうだよ!文字通り歯牙にかけられそうだよ!!」

 

 

 

「ま、まさか吸血鬼までも手駒にしたってのかい…そこになおりな!あんたみたいな世の弊害はここで駆逐してやる!」

 

 

 

「会話のキャッチボールが全部デットボールだ!ああっ!もう知るか!こうなりゃ少女がどうとか角がどうとか関係なくなるくらい弄り倒してやらあっ!」

 

 

 

 

「上等だよ人間が!鬼と吸血鬼もどきの格の違いをわからせてやる!」

 

 

 

「んあ?喧嘩か喧嘩か?なら私も混ぜろぉ!!!」

 

 

 

「うおっ!?鬼の二人がかりだと!?ぎゃぁぁああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、本当に面白い人なのね!お姉ちゃんにしても鬼の二人にしてもあの人を気にいるのは無理ないわ」

 

 

 

「こいし…」

 

 

 

丁度僕が鬼の二人からクロスボンバー(某完璧(パーフェクト)超人参照)をお見舞いされているその横で、地底のトップである姉妹が向かい合う。

 

 

 

「ん?どうしたのお姉ちゃん?」

 

 

明るい笑顔の妹とは対照的に、少し影のさした表情のさとりさんはポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 

 

 

「ねぇこいし…今まで何処に行ってたの?お姉ちゃん、いつも貴方を心配して待ってるのよ?貴方にもしもの事があっても誰も気付いてくれない…一人で困っていても誰も助けてくれない…今だってあの人間が気付いてくれなかったら、貴方から声をかけてくれるまで私は気付けなかった…」

 

 

 

「お姉ちゃん…」

 

 

 

「こいしは地霊殿に…お姉ちゃんの側にいるのが嫌なの?」

 

 

 

それは旧地獄の頂点とは思えないーーー

 

 

普通の女の子が泣きそうになっている顔だった。

 

 

 

「心配かけちゃってたんだね…ごめんなさいお姉ちゃん」

 

 

 

「こいし?」

 

 

 

「私ね…外に出て面白い物を探してたの、どんな些細なものでも話の種になるような出来事を」

 

 

 

「話の…種?なんでそんな…」

 

 

 

「だってお姉ちゃんが会話を楽しめる相手って私だけしかいないから。私ね、わかるんだ…昔、眼を閉ざす前はお姉ちゃんと一緒だったもん。誰と話しても心の声にばかり眼が向いて、気付けば腹の探り合い…それが嫌で私は眼を閉じちゃった。でもお姉ちゃんはそんな私の為に、地霊殿の主として私の居場所を守る為にしっかりと眼を開いて前を見てくれてる…」

 

 

 

もうさとりさんは言葉を発する事をしていなかった。

 

 

かわりにしっかりと、とても慈愛に満ちた眼で妹を見ている。

 

 

 

「お姉ちゃん、私が帰ってきて土産話をする時、いっつも笑ってくれる。楽しそうに『うん、うん』って私の話を聞いてくれる。でも私がいない時は寂しそうに本ばっかり読んでるのも知ってるよ?お姉ちゃんは心が読めちゃうから本を読むくらいしか新鮮な気持ちで他人の言葉を聞ける物がないのも知ってる…だからね、お姉ちゃんが笑って聞いてくれるような楽しいお話を探しに外に出てたの。それは私じゃなきゃできない事だと思ったから。でも…私がいない間、ずっと心配かけちゃってたんだね…ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…うっ…ふぇぇ…」

 

 

 

「えっ!?お姉ちゃん泣いてるの!?」

 

 

 

 

二体一の大乱闘のように入り乱れていた僕達も思わず動きを止めた

 

 

 

 

「ごめんねこいし!私、他人の心が見えるからって心を読めない貴方を理解しようとしてなかった!こいしがそんなふうに想って私の為にしてくれていた事を、嫌われてると勘違いまでしてた…お姉ちゃん失格よ!ごめんねこいし!!」

 

 

 

「そ、そんな泣かないでよお姉ちゃん…お姉ちゃんはいつだって…うっ…私の…私の自慢のお姉ちゃんだもん!うっ…うわぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

そこにいたのは地底の頂点として名を馳せた恐ろしい妖怪姉妹なんかじゃなかった。

 

 

 

なんの事はない、そこにいたのは少しだけ不器用で、誰よりもお互いを想い合う普通の仲の良い姉妹が泣きながら抱き合ってるだけの姿だった。

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

「そうだねぇ」

 

 

 

「うん」

 

 

 

僕と萃香さんと星熊さんは、互いに目を合わせると一言だけ言葉を交わして頷いた。

 

 

 

心を読むなんて能力がなくたって、これくらいのやりとりはできるものだ。

 

 

 

 

鬼の居ぬ間に洗濯という言葉がある。

 

まあ意味は全く違うけれど、あんなにも綺麗な物がある場所に鬼が三人もいるのは無粋なだけだろう。

 

 

 

 

僕等は古明地姉妹二人を置いて、そっと地霊殿を後にしたのだった。




どうも根無草です。

今回のお話如何だったでしょうか?
恐らくは設定の無理矢理さ、矛盾、キャラ崩壊なんかを感じた方も多いかと思います…

ただ、個人的にではありますが心を読めてしまう弊害を僕なりに考えての『こうあってほしい!』という願い100%で書いたお話なので何卒ご容赦下さい。


さて、次回を持ちまして幻想郷ツアー編は終わりになります!
引き続き興味とお時間のある方はよろしくお願いします!

PS
もしそれでもご意見ご指摘、アドバイスやご要望のある方は気兼ねなくコメントして下さい!
沢山のご意見、お待ちしてます。
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