東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第47話ー束の間の団欒ー

「前夜祭、ねえ」

 

 

今日も今日とて紅魔館の朝は早い。というか、本来ならば吸血鬼であるところの三人は活動しているはずがないのだけれど、どういう風の吹き回しか忍、レミリア、フランの吸血鬼三名がみんな起きていてその上でモーニングを頂いている。って、何がモーニングを頂いている、だ!怪しくて異なるというのは僕が使う言い回しであって、ここ幻想郷に則っとって言うならば異変だよこんなもん!

 

 

 

「明日の夜は決戦じゃからの、寝起きで戦う訳にもいかんし今日からは昼起きる事を心がけ夜は寝る生活に切り替える事にしたんじゃ」

 

 

 

忍はそんな事を言っていた。スカーレット姉妹も概ねその意見に賛成らしく、こうして紅魔館メンバーが揃って朝から食卓を囲むことと相成っているわけだ。幸か不幸か食卓に並ぶ料理の数々は僕の想像とは裏腹に、吸血鬼専用な感じのメニューではなく、どこかの高級ホテルの朝食にでも出てきそうな色鮮やかで食欲を唆るような物ばかりだった。

 

 

 

おそらくはこの食事を一人で用意したであろう咲夜さんの苦労を思うと頭の下がる思いだよ…本当に。

 

 

 

それにしても生活リズムに気を使う吸血鬼というのもな…何というかこれも時代の流れなのだろうか?

 

 

 

現実的に見れば人間味のある部分を見れて微笑ましく思うべきなのだろうけれども、それとは裏腹にどこか残念な気持ちも拭いきれない。

 

 

つーかお前達は夜行性だろうに…忍に至っては夜の王(ナイトウォーカー)じゃなかったのかよ!特撮ヒーローがコンビニでカップ麺にお湯を注いでるのを目撃してしまったような…大切な何かを無くしたような気分にさせられるぜ。

 

 

そしてこれはそんな朝の団欒のワンシーンでのやり取りになるのだけれど、それは唐突に、突拍子もなく放たれた。

 

 

 

「決戦前夜なら今夜は豪勢な食事を用意しましょう」

 

 

 

豪華な夕食ーーー絢爛な晩餐。

 

 

 

このモーニングを前にして更に豪華な夕食を所望するあたり、今夜は満漢全席でも出てくるのだろうか?それは寝食を世話になる身としては有難いのだけれど、かといって時と場合ーーーTPOというものがある。それではまるで…

 

 

 

「おいおいレミリア、それじゃまるで最後の晩餐みたいじゃないか。僕は外国の文化を解さないけれど日本ではあまり縁起の良い話じゃないぜ」

 

 

 

「最後の晩餐って何なの暦お兄様?」

 

 

 

「死んじゃう前の日に食べる夕食の事だよフラン。僕達のような日本人はそういう縁起の悪いものを嫌うんだ」

 

 

 

豪華絢爛を楽しむのであればこの戦いを無事勝利してから祝勝会をすれば良いと思うのは僕が受験生だからとか、薄くて弱いからとか、そんな細かい理由ではなくて日本人としての当たり前に身につけているだろう生体反応のようなものだろう。

 

 

 

武士は食わねど高楊枝。

 

 

 

わざわざ贅沢をせずとも、気位だけは高く持つべきという美徳でもある。

 

 

 

「あら?なら暦、日本にはこんな風習もなかったかしら?確か…前夜祭だったわよね」

 

 

 

 

前夜祭ーーー

 

 

 

そりゃ確かに無くもないけど…クリスマスイブだって言ってみればクリスマスの前夜祭だし。だけどそれは翌日に控えている予定がお祭りだった場合に使われる言葉であって、僕達が明日に控えてるのは戦いだ。

 

 

 

その前日前夜に前夜祭というのも違うんじゃないかな?違うよね?

 

 

 

 

 

「相変わらず小さき事にこだわるのうお前様。それによいではないか、前夜祭。明日は祭りと言わぬまでも結果的にあの三人が血祭りに上がる事じゃしの」

 

 

 

「いや、上手いこと言ってんじゃねえよ忍。それに食事を用意してくれている咲夜さんだって戦力の一人だろうが。前日前夜と言うなら咲夜さんだってしっかりと休んでおくべきじゃないのか?」

 

 

 

「そんな事なら心配ないわよ。ねぇ咲夜?」

 

 

 

「ええ、勿論でございますわお嬢様。私の能力ならば暦さんや忍様が瞬きしている間に食事のご用意をするなんて造作もありませんもの」

 

 

 

すげえ事をサラッと言うなここの住人は。いや、さすがにこれは何かの比喩だろうけど瞬きの間に仕事をこなそうというプロ意識には素直に感心させられるよ。メイドとしての労働能力はそりゃ高いといえるだろう。

 

 

 

でもそれって結局、余計に疲労するんじゎないのか?

 

 

 

「ふむ面白い。ならばメイド娘、うぬの言うように儂が瞬きする間に食後のドーナツを用意して貰おうか。如何にレミリアのメイドとはいえ儂を目の前にそれ程の大見栄を張ったのじゃ、できんとは言わせんぞ」

 

 

 

「待て忍、あたかも大物ルーキーを気取った新参者に対して偉大なる先輩が現実を教えるかのような空気を出してんじゃねえよ!雰囲気は偉大な感じを出してはいるけど内容は器の小ささが露見してるぞ!ドーナツについてはお前の願望でしかねえじゃん!」

 

 

 

 

「ふん!全盛期の儂にもできるか怪しいような事を言うからじゃ!レミリアのメイドとはいえあくまでも此奴は人間、儂の上に立つ事は断じて認めん!」

 

 

 

「ちっさ!器がちっさ!」

 

 

 

つーかこいつは自分以上に目立つ存在をどれだけ目の敵にしてやがるんだよ。咲夜さんだってそんな風に間に受けられたら流石に困るーーーーー

 

 

 

「どうぞお召し上がりください忍様。お飲み物は紅茶で宜しかったでしょうか?」

 

 

 

振り向けば忍の目の前にあった筈の朝食の食器は全て片付けられていて、代わりにどう見ても作りたてのドーナツとティーセットが置かれている。

 

 

 

いつの間にかというか、瞬きする間もなかった。

 

 

 

「ふふ、二人とも驚いてるわね。この咲夜は幻想郷の人間の中でも珍しい、人間にして能力を持つ者なのよ。まあそれくらいの事はやってもらわないと紅魔館のメイド長は務まらないわ」

 

 

 

レミリアもまた、いつの間にか用意されていた紅茶を優雅に飲み笑っている。

 

 

 

って何だよこれ?何がどうなってるのかさっぱりわからない!

 

 

あの八雲紫さんならばこんなマジックじみた真似も可能だろうけど、人間である咲夜さんがあんなとんでもない能力を持ってるとも思えない。

 

 

 

だとすればこのドーナツや紅茶はどこから現れたというのだ?

 

 

 

「私の能力は『時を操る程度の能力』、文字通り忍様が瞬きしている間に時間を止めて用意させていただきました」

 

 

 

とんでもない能力の持ち主だった。

 

 

 

時を操るって…殆ど無敵じゃねえか。というか、考え方次第では吸血鬼より強いんじゃないのか?むしろ吸血鬼に限らなくても世界最強と言って過言ではないだろう。

 

 

 

「そうでもありませんわ、暦さん」

 

 

 

「へ?あれ、今の声に出てたっけ?」

 

 

 

「いえ、ただわかりやすい顔だったので。私の能力はあくまでも時間操作、それも時を遡ることはできない。及び、私が直接干渉する物の時は止められない…ここまで言えば理解できるでしょう?」

 

 

 

 

直接的な干渉ができないーーー

 

 

 

よく考えてみればすぐわかりそうなものだ。咲夜さん以外の全ての時間が止まっているのならば咲夜さんは料理も戦闘も、果ては呼吸すらできないはずなのだから。時間が止まるとはそういう事だ、料理をする為の火も止まり呼吸をする為の空気ですら止まる。それでも料理や家事をこなせるのは咲夜さん以外にも止まった時の中で止まっていない例外の存在を証明している。

 

 

つまり戦闘に置き換えて考えれば、いくら時を止めて攻撃をしようとしても相手に自分の身体が触れた時点で相手もまた動き出すという事を意味するのだろう。だとすれば超規格外な身体能力を持つ吸血鬼を相手に勝てる筈がないのも納得いく。

 

 

それはゼロ距離の接近なのだ、咲夜さんがそのナイフで直接心臓を刺そうと思えば刃先が五ミリも刺さる前に咲夜さんの首が飛ぶだろう。それを可能にする身体能力の高さを僕は嫌という程に知っている。ましてやここは幻想郷なのだ、そんな規格外が跋扈している世界なのだ、人間が最強の称号を手にするなんて簡単にいくはずがない。

 

 

だけど

 

 

「いや、それでもすごい力なのは変わりないですよ。最強じゃないってだけで弱いという事にはならない、なあ忍」

 

 

 

「そうじゃの。仮に戦闘になれば儂やレミリアが負ける事はないじゃろうが脅威には成り得る。大見得を張るだけの事はあるようじゃ。そして何より手作りにしてこのドーナツのクオリティの高さが気に入った!さすがはレミリアの認めたメイドじゃ、ぱないの!」

 

 

 

「いや、お前が褒めてるの最終的にドーナツの事だけじゃねえか!まずはその不遜な態度を改めろ!」

 

 

 

「何を言うておるお前様!儂がミスタードーナツ以外のドーナツを褒めとる時点で既に最高の賞賛じゃよ!それになかなかどうして…この出来立ての温かいドーナツというのもまた乙じゃわい、メイド娘よ、褒めて遣わす!」

 

 

 

 

最初から最後までドーナツ以外褒める気がないのだろうかこの幼女は…これが以前は伝説とまで謳われた最強の吸血鬼だったかと思うと泣けてくる。

 

 

 

「で、話は戻るけど咲夜の休息に関して問題無いのはわかったかしら?咲夜なら戦闘の五分前でも充分に休息がとれるわ。だから今夜の前夜祭も問題ないわね?」

 

 

 

「あ、ああ…まあ咲夜さんの事はわかったにしても美鈴さんは良いのか?あの人だってそれでなくても一日中門番として働いてるのに。レミリアも雇い主とはいえそこまでの重労働を強いるのは不味いだろ?」

 

 

 

立ち仕事といえば立ち仕事だろう。

 

 

いつ攻めてくるかもわからない相手に対して常に警戒しているのだから肉体的にも精神的にも消耗している筈だ。

 

 

 

「あぁ…あれの事は考えなくていいわ。咲夜は兎も角として美鈴には主としてこの上なく寛容な対応をしてるはずだから。多分、今この時も美鈴は休憩中よ」

 

 

 

「は?」

 

 

 

「それにパチェも心配いらないわ。パチェみたいな魔法使いは食事も睡眠も必要ないの、私達のような吸血鬼と同じでね」

 

 

 

食事も睡眠も必要ないーーー

 

 

確かに忍にしてみても本来は睡眠や食事は必要ないんだった。ドーナツや昼寝なんかはあくまでも趣味趣向のようなもので、本質的な部分では怪異である吸血鬼にとって無くても存在していけるもの。

 

 

 

パチュリーさんがどんな経緯で魔法使いになったのか、種族はなんなのか、その他諸々の事情はあるにせよ、必要ないのだと言うのならばそうなんだろう。

 

 

 

「だから全て問題無い、オールオーケー。ついでに言うなら我ら誇り高き気品溢れる吸血鬼が明日を気にして今を節制するなんてありえないわ。常にやりたい事をやりたいようにやる、それこそが怪異の貴族たる吸血鬼よ」

 

 

 

 

強さや危険度においての階級ならともかく、気品において怪異がランクを分けるのかよ…だけどレミリアがここまで言うなら今夜の前夜祭はもう決定事項なのだろう。

 

 

恐らくは忍もあの性格だ、間違いなく食い付く。フランだって僕が賛成ならば喜んで参加する事だろう。

 

 

 

考え方を変えてみれば、明日で自分の命がどうなるかもわからないのに夕食の在り方をこだわるのも些か固すぎるのかなーーー

 

 

 

 

「わかったよ。それじゃお言葉に甘えてその豪勢な夕食にあやからせてもらおうか。忍もそれで良いんだろ?」

 

 

 

「かかっ、是非もない。お前様がどうしてもと言うのであれば儂はお前様に従うまでじゃ」

 

 

 

気品とか貴族なんて言葉が出たからってあくまで自分はがっついてませんの姿勢を通すつもりかよこの野郎…

 

 

言ってはなんだけど忍の気品なんてものは春休み以降皆無だ。百歩譲っても夏休みに浴室で口を聞いてからは忍に気品なんてものは存在してない!

 

 

 

「決まりね。じゃあ私とフランと忍お姉様は明日の作戦会議を開くから夜まで部屋にいるわ。暦も夜までは好きになさい」

 

 

 

「好きになさいって…なら僕は他のメンバーと作戦会議でもしてくるよ。美鈴さんだって今日くらいは門番を休んでも構わないだろ?」

 

 

 

「だから今日くらいってより…まぁ良いわ。でも話し合うなら図書館でね。パチェを連れ出すと機嫌が悪くなるから」

 

 

 

 

こうして忍、レミリア、フランの三名はレミリアの自室へと戻って行った。僕としても明日の戦いについて煮詰めたい部分があったのでこれはある意味都合のいい展開だったりする。

 

 

 

「じゃあさっそく図書館へと行くとするか。ちょっと美鈴さんを呼んで来るから咲夜さんはここで待ってて貰っーーー」

 

 

 

「持ってきましたわ」

 

 

 

 

「むにゃ…ん…はっ!あれ?ここはどこ!?」

 

 

 

そこには襟首を掴まれた寝惚け眼の美鈴さんと、あくまでもクールに仕事をこなす咲夜さんの姿があった。

 

 

そしてレミリアの言っていた主としての寛容な対応の意味も、美鈴さんが今も休憩中の意味もわかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

「で、わざわざ私の図書館までやって来て煮詰めたい事っていうのは何かしら?」

 

 

 

相変わらず分厚い本を開いて読書に没頭していたパチュリーさんの元へとやってきた僕と咲夜さんと美鈴さん。

 

 

 

側では小悪魔と呼ばれている召使いのような女性が本の整理やら掃除やらでせっせと働いている。

 

 

 

 

「いや、煮詰めたいというか決めておきたい事かな…明日の戦い、忍達は敵の大将であるブラム・クルースを叩く事はもう決まってる。僕が決めたいのは残りの二人についてだ」

 

 

 

本を読む片手間のように話を聞くパチュリーさんをよそに、他の二名も真剣な面持ちで耳を傾けている。

 

 

 

 

「それは誰が誰を相手にするか…つまりは戦力の分断をどう行うかという事ですか暦さん?」

 

 

 

「その通りです咲夜さん。僕はあまり戦闘について慣れている訳ではないけれど、考えるにバンパイヤハンター達はチームプレイに長けていると思うんです」

 

 

 

あの宗教的なコスチュームを見れば一目瞭然なのだけど、僕が春休みに戦ったハンター達とは違いあの三人組には統率力がある。つまりは組んで戦わせるのはあちらの土俵になってしまうのではないかという懸念。

 

 

 

それにレミリアや忍の希望を汲むなら吸血鬼として戦いたいのはあくまでも大将であるブラム・クルースただ一人。ならばそれに乗じて相手戦力を個々に分断したいというのが狙いだーーーとは言っても所詮僕は普通の男子高校生であり、怪異をこの身に宿してはいるものの、戦闘に関するノウハウなんてものは皆無…ならばと踏んでの作戦会議なのだ。

 

 

 

「まあ貴方の言いたい事は理解したわ。で、それをどうやって分けようという考えは決まってるの?」

 

 

 

「それについては決めてないよ。どちらかと言えばその手の話はここにいる皆の方が得意かと思って」

 

 

 

ここが幻想郷であり、八雲紫いわく重要なパワーバランスの一角と評される以上、戦闘の事に関しては僕が意見する場面ではないだろう。

 

 

 

「そういった頭脳戦ならパチュリー様ですね!どう思われますかパチュリー様?」

 

 

 

「それだと自分が脳筋と言ってるようなものよ美鈴。まぁ良いわ…と、その前に咲夜の意見を聞かせてちょうだい」

 

 

 

「私ですか?私としては賊の結界の効果で能力の使用がどこまで可能なのかも未知数ですので進言しかねます。ですが…」

 

 

 

「ですが、何?」

 

 

 

「仮に私が足手まといになるようでしたら遠慮なく私を見捨てて下さい」

 

 

 

「は!?な、何を言ってるんだ!?」

 

 

 

僕は瞬間的に思わず叫んだ。

 

確かに能力のない状態の咲夜さんは普通の人間だろう…だからといって見捨てる理由になってたまるか!これはあの春休みの繰り返しじゃないんだ、ならばあの時は出来なかった誰もが笑って物語を締めくくるようなハッピーエンドだってあるはずだろ!

 

 

 

 

「落ち着いて下さい暦さん、これはあくまでも最悪の場合の話ですわ。仮に私が足を引っ張り、私を助けに入った誰かまでもが敵の手に落ちるような事があれば戦況は一気に傾く。それが結果的に紅魔館の…お嬢様達の危険因子になるのならば私の事は見捨てて欲しい。そういう意味です」

 

 

 

「そんな…なんでそこまで…」

 

 

 

「決まってますわ、私はこの紅魔館のメイドですもの」

 

 

 

 

その昔、この人と紅魔館との間に何があったかなんて僕は知らない。

 

 

そして僕にはそんな咲夜さんに対して返す言葉が…ない。だってこの人は怪異じゃない、普通の人間なのだ。不死身どころか寿命が長い訳でもない、怪我も一瞬で治癒したりはしないし桁外れな身体能力がある訳でもない、掛け値なしの一般的な人間。

 

 

 

そんな彼女だからこそ、その発言に対して僕は返せないでいる。だって人はそんな簡単に自分を諦めたりできないだろ?

 

 

大切な誰かの為に自分が犠牲を払う事はあっても、それは命ではないだろう?

 

 

 

なのにこの人はそれが当たり前のように自分を見捨てろと言い切った。不満気でもなく怯えるでもなく、凛とした姿勢のまま言ってのけた。

 

 

 

こんな明確な覚悟を示す人間に対して、僕のような中途半端な奴がかけて良い言葉なんて見つかるはずもない。

 

 

 

 

「わかったわ咲夜。貴女の覚悟、そして立てるべき布陣が」

 

 

 

 

「え?布陣て…チーム分けでもするんですか?」

 

 

 

 

「そう、相手に合わせてこちらもそれに応じたチームを組むわ。理由は後から説明するとして、まずは暦と美鈴。あなた達にはヴィンセント・バフィーを相手してもらう」

 

 

 

 

「え!?僕と」「私ですか!?」

 

 

 

 

 

いや、別段どの組み合わせならしっくりくるという事も無いし、なんならどの組み合わせになったとしても驚きはするだろうけど…しかし何故この組み合わせなのか?

 

 

僕はてっきり人間同士という事で咲夜さんとチームになるのかと思っていた。もしくは僕は一人で他三人がチームとか…

 

 

 

うん、そっちの可能性じゃなくて本当良かったぜ。

 

 

 

 

「理由としてはヴィンセント・バフィーの戦闘手段が徒手空拳である事が一番ね。暦の戦力がどれ程なのかは知らないけど伝説の吸血鬼の眷属なら多少殴られたくらいで死にはしないでしょ?それに美鈴は弾幕ごっこは兎も角、対格闘なら幻想郷でも屈指の腕よ。なら消去法的にもこれ以上の選択はないわ」

 

 

 

 

「僕に対する見解が雑じゃないか!?僕だってさすがに銀製の甲冑で殴られたら死んじゃうかもしれないぞ!?」

 

 

 

「あら?それなら銀の銃弾を相手にする方が良いの?魔法も使えない貴方が?」

 

 

 

「うっ…そりゃ確かに適材適所に見えなくもないけど…美鈴さんはそれで問題ないですか?」

 

 

 

「私は問題ありませんよ!相手が格闘家である以上、私は絶対に負けませんから!暦さんも大船に乗ったつもりでいてください!」

 

 

 

 

凄い自信だな…こう言っては何だけど、不安ではある。

 

 

だってこの人、最初は仕事真面目かと思いきや、仕事の間は寝てるか謎の必殺技の特訓してる印象しかないもんな。そういえば初日に僕がフランに襲われた時も一人だけあの場に来てなかったし…寝すぎじゃねえか?

 

 

 

「そして残る一人、バン・ブラハムは私と咲夜で応戦する」

 

 

 

魔法と銀の銃弾を操るハンター、バン・ブラハム。その相手をすると、パチュリーさんは平然と言った。

 

 

 

「ち、ちょっと待ってくれパチュリーさん!パチュリーさんはそれこそ凄い魔法使いで自信もあるかもしれないけど咲夜さんが拳銃の相手ってのは無理じゃないですか!?」

 

 

 

それこそ時間停止の能力が使えたならば、銃弾だって止めてしまう事ができるかもしれないけれど、能力が使えなかった場合は生身で拳銃と戦う事になるのだ。誰が見たって危険だろう。

 

 

 

 

「だからこそよ。自慢じゃないけど私は身体能力に関しては人間と変わらない、それどころか人間以下とも言える…肉弾戦なんてとてもできやしない。逆に中遠距離での戦闘で、それが魔法同士の戦いなら咲夜を守りながら戦えるのは私しかいないわ」

 

 

 

「守りながらって…って事は!」

 

 

 

「そう、咲夜の覚悟は理解したけど生憎あんな下衆共のために紅魔館の大切なメイドを犠牲にするなんて許されない、そんな事になれば私がレミィ達に顔向けできないもの。それに能力が無くても中距離からの援護ができるのはこの中で咲夜だけ、つまりはこの布陣が最適という事よ」

 

 

 

「言われてみればこれが最適な形に思えますね…流石はパチュリー様です!」

 

 

 

「それに暦、貴方がそんなに咲夜の事が心配ならさっさとヴィンセント・バフィーを倒してこちらに加勢したら良いわ。もっとも、その頃には私達でバン・ブラハムを始末しているでしょうけど」

 

 

 

不思議だけど良く知っている感覚。

 

 

 

妖怪と人間という種族差の中で、それでも己の身内を犠牲にするなんて発想がありえないと思える関係ーーー

 

 

 

クールに見えて実は優しいんだなパチュリーさん。まるで僕と忍の関係じゃねえか。

 

 

 

 

「咲夜もこれで異論はないわね?心配しなくても私の隣で戦う限り、確実に死なせないわ。それでも万が一、貴女が足手まといになるようなら貴方の望みは私が叶えるまでよ」

 

 

 

「ありがとうございます。パチュリー様の援護は私にお任せ下さい」

 

 

 

さて、これで布陣は固まった。残す問題は相変わらず山積みだけど僕達に立ち止まっている余裕はないのだ。後はひたすらその時を待つのみーーー

 

 

 

「では私は夕食の買い物をしに人里へと行ってきますので。夕飯の支度ができたらお声掛けします」

 

 

 

「へ?人里?」

 

 

 

そういえば幻想入りした初日に霊夢さんが他にも人間がいるような事を言っていたっけ。萃香とあちこち見て回った中に人里なんてものは無かったから失念していたぜ。

 

 

咲夜さんも普通に買い物に行くような所だし人里なんて呼ばれるくらいだから当然人間が暮らしている所なんだろう。

 

 

 

 

「あの咲夜さん、その買い物って僕も同行して構いませんか?」

 

 

 

「え?えぇ、私は構わないけど…どうして突然?」

 

 

 

「いえ、こっちに来てから鬼や天狗や吸血鬼とばっかり交流が濃くなってるし…特にそれが嫌だって事もないんだけどやっぱり人間のいる場所ってのは行っておきたいって感じですかね」

 

 

 

それでなくても僕は生まれてからこれまで直江津市を出るという事が殆ど無かったのだ。異文化というのはそれだけで興味深いものだし、ましてや幻想郷で暮らす人々の文化なんて普通に生きていたら見られるものではないだろう。

 

 

 

そして何より、これからレミリアの無茶振りの為に山のような買い物をする咲夜さんに対して荷物持ちくらいの助けを買って出なければ居候として余りにも申し訳ない。

 

 

忍にもこの辺の思いやりや気遣いというものを学んでもらいたいくらいだ。

 

 

 

「なら暦さんは私と買い物という事で。皆さんの分の昼食は用意しておいたのでお昼になったらお召し上がり下さい。お嬢様達にもお昼にお声掛けしてね美鈴」

 

 

 

「了解しました!晩御飯、楽しみにしてますねー!」

 

 

 

「あ、私達が帰って来た時にまた居眠りしてたら美鈴の夕飯は抜きよ」

 

 

 

「り、了解しました…」

 

 

 

 

青ざめた顔をする美鈴さんと微笑むように笑うパチュリーさん、ここからは再びいつもと同じ時間に戻っていくのだろう。僕と咲夜さんも忍達に一言つげて買い物の為に紅魔館を後にした。

 

 

 

再び付いて行くとゴネまくっていたフランについては割愛させて頂く。あれを語っていたら何万文字あっても足りねえよ。

 

 

 

 

「さて、同行するとは言ったものの人里まではどれくらいかかるんですか咲夜さん?」

 

 

 

「そうね、距離的には紅魔館から博麗神社までと同じくらいかしら?でも神社と違って上り坂でもないから楽な場所よ」

 

 

 

簡単に言ってるけど紅魔館から博麗神社までって結構な距離があるぞ。これはいよいよ本気で荷物持ちを買って出て正解だったな。

 

 

 

「いつもなら空を飛んでくんだけど今日は暦さんがいるから久々の歩きね。たまにはこういうのも悪くないわ」

 

 

 

「え!?咲夜さんも空を飛んだりできるの!?」

 

 

 

 

「そんな驚く事でもないでしょう?時間を操る事に比べれば空を飛ぶくらい造作もなわよ。暦さんもその気になれば飛べるんじゃないかしら」

 

 

 

 

その気ってどの気だよ…

 

 

確かに思い浮かぶ方法が無いわけではないけどーーーー例えば忍が復活する程に血を与えて、僕が再び伝説の吸血鬼の眷属に戻ったとして、物質創造能力で羽を作り、それから飛ぶ練習をするとか。

 

 

 

って、そんな方法をとってまで飛びたくないわ!

 

 

 

それに空は自由に見えて色々と法律的にも厳しいのだ。仮に飛べたとしてもうっかりと領空侵犯に引っかかったりしたら実弾で撃墜されるかもしれない。それに空における法定速度だって僕はわからない、ルール違反は元より法律違反になるかもしれないのだ。どんな場合でどんな理由があったとしてもルール違反は良くない。

 

 

 

「うん、やっぱり僕は飛べなくても良いや…なんだかんだで滅茶苦茶怖そうだし」

 

 

 

「そんな小心で良く伝説の吸血鬼の眷属なんてやってるわね貴方…強いのか弱いのかわからないわ」

 

 

 

「ふっ…何を言ってるのかさっぱりわからないな。なんなら僕より弱い生物なんてこの世に存在しないとさえ言い切れるぜ!」

 

 

 

「そうなの、なら今日という人生最後の日を存分に楽しんでね」

 

 

 

 

「つっこみ不在の恐怖!」

 

 

 

この人さっきは自分の命ですら主人の為にあっさりと投げ出すような発言をしてたけど、僕の命はあっさりなんてもんじゃないレベルで諦めやがったよ!全盛期の戦場ヶ原もビックリなスピードだ。

 

 

 

「大丈夫。貴方は死なないわ、誰かが守るもの」

 

 

 

「人まかせかよ!誰かって誰!?っつーかそのネタは幻想入りする程に古くないよ!」

 

 

 

僕としては真希波を推しているのだけれど、だからと言って綾波を蔑ろにはできない!物静かな綾波には綾波の魅力があるのだ!

 

 

 

「それは勿論…私じゃない誰かよ」

 

 

 

「言った本人には助ける気がなかった!」

 

 

 

あの綾波ですらシンジ君のために身体と命をはったのに咲夜さんは僕を殲滅するつもりなのか!?

 

 

「暦さんは時折お嬢様と妹様に危険な眼を向けてるからチャンスがあれば消してしまおうかと…」

 

 

 

「誤解すぎるわ!そんなあちこちの吸血鬼とごちゃ混ぜにして吸血鬼のハイブリッドになるつもりないよ!」

 

 

 

 

とてつもなく強くはなりそうだけど。

 

 

 

「ふふ…」

 

 

 

「え?何かおかしな事でもありました?」

 

 

 

まさかとは思うけど僕を殲滅する事で笑ったのであれば咲夜さんに対する警戒のレベルを引き上げなければ…

 

 

 

「いえ、貴方と忍様が来てからお嬢様達も楽しそうですし私も楽しいなと思って」

 

 

 

「レミリア達が?いつもあんな感じじゃないんですか?」

 

 

 

「とても楽しそうにしてるわ。妹様にしてもそう…普段よりも良く笑ってらっしゃる。まるで家族が増えて喜んでるみたい」

 

 

 

家族ーーー確かに忍にいたっては本当の家族のように過ごした時期だってあったんだろう。僕だってなんだかんだ言ってもフランみたいな子に兄と呼ばれて悪い気がする訳ない。そりゃ僕の二人の妹に比べれば多少の違いはあるけれどあんな妹がいたなら僕だってさぞかし可愛がった事だろう。

 

 

 

「私は諦めたりしない」

 

 

 

「…何をですか?」

 

 

 

 

「誰の命も諦めたりしないわ。誰を失ってもお嬢様はきっと悲しむ…それに私も誰一人として失いたくない。だから私は諦めない」

 

 

 

「そうですね…僕も、僕も忍も誰一人として失いたくない。諦めたりしない!」

 

 

 

そうなのだ。

 

 

この強く美しい幻想郷は勿論、僕達が住むあちらの世界ーーーこの世に生きる者の中に諦めて良い命なんてあるはずがない。

 

 

正義を掲げてそれを奪おうというのなら、正義とやらにそこを退いてもらうまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、紅魔館はレミリアの自室。

 

 

 

「それにしてもフラン、どうしてそんなに暦を気に入ったの?」

 

 

 

尋ねるのは姉であるレミリア。彼女をして不思議と言わざるを得ないフランの暦の上に対する執心っぷりは単純に疑問だった。

 

 

 

「うーん…暦お兄様は初めて会った男の人だからかな?それにフランに優しいの!お姉様や忍お姉様、咲夜、美鈴、パチュリーも優しいけど暦お兄様は何か違うんだよ。暦お兄様に頭を撫でられると暖かくなるの!」

 

 

 

「わが主様には血縁の妹がおるからのう、フランのように自分を兄と呼んで懐いてくる者は幼き頃の妹御と重なるのかもしれん。しかしフランよ、わが主様にはくれぐれも用心するのじゃぞ?」

 

 

 

「用心?何を用心するの忍お姉様?」

 

 

 

「うむ、あれは類い稀なる変態じゃからのう。属性はロリコン、眼鏡っ娘、猫耳、巨乳、etc…なんでも来いの鬼畜っぷりじゃ」

 

 

 

「ちょっと忍お姉様、いくらなんでもそれは言い過ぎじゃ…」

 

 

 

「何を言うておるレミリア、全て純然たる事実じゃぞ?少し前は儂の肋骨で興奮しとったし年端もいかぬ少女を部屋に拉致って来た事もある。何より危険なのは実の妹御達までも歯牙にかけておる所じゃな」

 

 

 

「じ、実の妹まで!?」

 

 

 

「儂も最初は驚いたものじゃ…最近では些か見慣れてきたがの。その妹御達には交際しとる異性がおるんじゃが、わが主様はそれを認めようともせず隙あらばその妹御の交際相手を殺そうとしておる」

 

 

 

「暦お兄様は妹想いなのね、フランにもそうだったら良いなぁ」

 

 

 

「フ、フラン!?それは駄目よ!危険すぎるわ!」

 

 

 

「かかっ、安心せよレミリア。今更かもしれんがわが主様は信頼に足る男じゃよ。少なくとも儂が400年は出会う事がなかったくらいにはの」

 

 

 

 

ーーーその昔、遥か400年前、忍野忍には…いや、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードには一人の眷属がいた。

 

 

 

初代にして元祖の怪異殺しと呼ばれるその男は紆余曲折を経て伝説の吸血鬼の眷属となる。

 

 

 

しかし、怪異殺しが怪異に成るーーーミイラ取りがミイラになるなるようなその話の結末はハッピーエンドでは終わらない。それはまた別の機会に語られた物語なのだけど、兎に角キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードはそれ以来眷属を作らなかった。

 

 

そして出会う事になる、現在のパートナーである阿良々木暦と。その出会いだって最初は地獄のような出会いだった。そんな地獄の中ですら、阿良々木暦は彼女を見捨てる事を選ばなかった。

 

 

阿良々木暦について詳しくは知らないレミリアも、初代怪異殺しについては知っている。

 

 

 

つまり、忍野忍が再び眷属を作った事の意味を理解できる。

 

 

 

「400年の時を経て巡りあった相手ね…なんともロマンチックな話じゃない」

 

 

 

「そんな良いものでもなかったがの。互いを認め合ってはいてるが許し合ってはいない…複雑な関係性じゃよ」

 

 

 

「それでも大切な人に変わりは無いわ。なら、こんなところで死なせる訳にはいかないわね」

 

 

 

 

「無論、200年の年月をかけてまで復活した奴等には悪いがわが主様を殺らせはせん。それにこの紅魔館の者もじゃ」

 

 

 

 

「大丈夫よ忍お姉様!どんな相手でもフランが壊すから!」

 

 

 

「そうじゃったの、フランは200年前の段階でも全盛期の儂が脅威を感じる程の力を持っていたのじゃったな…軽くトラウマじゃわい」

 

 

 

「ふふ、心配しなくても私達の勝利は揺るがないわ。これは決まっている運命ですもの」

 

 

 

各々で秘めた想いは違えども、硬い決意は同じーーー勝って大切なものを守る。

 

 

人を殺し喰らう事が吸血鬼の本質であり、それは人が鳥や豚を喰らう事と変わり無い。しかし人が吸血鬼のそれを罪だと糾弾するのならば、これはある意味で因果応報と言われる事なのかもしれない。それでもこの吸血鬼達は昔とは違う…今は人と共に歩む吸血鬼なのだ。

 

 

 

ならば過去の罪を償うのではなく、過去の失敗を清算しよう。

 

 

 

「それにしてもじゃ…」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「眠い…」」」

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