東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第48話ー前夜祭ー

「いくらなんでも遠すぎるだろ…」

 

 

 

あれからトボトボと歩く事およそ二時間。右手の腕時計を確認すれば出発した段階でまだお昼前だった筈なのに時計の針は既にお昼過ぎを指している。

 

 

神原の左手のあれこれで、僕の愛車であるところのマウンテンバイクをーーー八九寺の『くらやみ』のあれこれではママチャリをお釈迦にした僕の生活は、否応なく徒歩を中心とした生活になっている。とはいえこんな長時間にわたって歩き続けるのはさすがに疲労を感じるというものだ。

 

 

 

対して咲夜さんと言えば涼しい顔をしてサクサク歩いていく。これではまるで僕が運動不足の出不精のように聞こえるかもしれないが…まあ出不精についてはあまり否定はできないかもしれないけど、兎に角、僕がそういった意味で咲夜さんに遅れをとっている訳ではないとだけは弁明しておく。

 

 

 

それでなくても今の僕は吸血鬼性を通常では考えられない程にたかめているのだから。

 

 

そう、単純に咲夜さんが凄いのだ。

 

 

 

「メイドは足が命よ。時間を止めているとはいえ家事の全ては私が行っている訳だし、皆さんには一瞬の出来事でも私は何時間もかけて紅魔館を掃除している事に変わり無いんだから」

 

 

 

だそうだ。

 

 

 

確かにあの出鱈目な広さを誇る紅魔館の掃除をたった一人で、しかも毎日やっているのだとすれば、これくらいの距離が辛く感じる事もないだろう。

 

 

 

「それでも思ったよりかかったわね…さっさと買い物を済ませて帰りましょう」

 

 

「確かに概ねその通りだけど、着いたばかりで帰りの事を考えると気が重くなるぜ…」

 

 

 

 

とはいえ僕達はやっとの思いで人里へと到着した。もっとも、やっとの思いをしたのは僕だけなんだけど…

 

 

そして興味が尽きない幻想郷の文化はと言えば、端的に言うと時代劇のようだった。とは言ってもそれは別に帯刀した髷を結った侍が歩いているとかではなく、時代感が現代よりもだいぶ前に感じるという意味だ。

 

 

古めかしい日本家屋が立ち並び、活気のある商人の声が飛び交うーーー服装もジーンズやパーカーとは違い、着物のような物を着た人が殆どである。咲夜さんや霧雨さんは近代的な服装だっただけに予想していたものとは違ったけれど、やはりここは日本なのだと強く思わされる。そういえば旧都と呼ばれた地底世界もこんな感じだったなーーー

 

 

 

「おや?咲夜じゃないか。今日は買い物か?」

 

 

 

物珍しい異文化に目移りしている僕の後ろから声がかかった。

 

 

 

「あら慧音じゃない。私達は買い物に来たんだけど貴女はこんな所で何してるの?今日は寺子屋はお休みだったかしら?」

 

 

 

「この時間は昼休みだよ。ついさっきまで妹紅もいたんだが昼前に帰って行ってな、時間もあるし午後の授業の前に昼食を食べに行くところだ。ところでそちらは?」

 

 

 

 

目の前に現れた女性ーーー青を基調とした服装、腰下まで伸びた長髪、聡明という言葉がしっくりくる閑静な佇まいな長身の美人。

 

 

羽川とはまた違う意味での委員長オーラとでも言えば良いのだろうかーーー

 

 

 

「こちらは紅魔館のお客様にして外来人の阿良々木暦さん。訳あって吸血鬼と縁がある不思議な方よ」

 

 

 

「外来人が紅魔館に!?いくらなんでも無茶な話だな…まあこうして咲夜と買い物に来るくらいだから大丈夫なんだろうが。初めまして、私は上白沢慧音。この人里で寺子屋の教師を務める者だ」

 

 

 

「僕は阿良々木暦。最近この幻想郷にやってきて紅魔館にお世話になってます」

 

 

 

うん、改めて正面に立ってみると…何というか凄い人だ。ここで何が凄いかと言ってしまえばただでさえ少ない僕の好感度が更に下落の一途をたどりそうなので詳しく描写はできないけれど、そのけしからなさは美鈴さん、羽川、果ては全盛期の忍にも匹敵するであろう破壊力を秘めている。

 

 

清楚な容姿とのギャップ効果というやつだろうか?パンドラの箱を目の前にした人類はこんな気持ちだったのかもしれないーーーそこにお宝が眠っている事はわかっているのに手を出す事を憚られるような、神秘的で背徳的な、それでいて魅力的なーーー禁断の果実に手を出したアダムとイヴもこんな葛藤をしていたのかと思うと大先輩に対する親近感を禁じえない。

 

 

 

「ちょっと暦さん、急に固まってどうしたのかしら?」

 

 

 

「え?あ、いや…」

 

 

 

うーん…紳士を自称する身としてはこういう所を比較するのは褒められた行為ではないけれど、やっぱり咲夜さんと上白沢さんを並べてしまうと胸囲の…もとい脅威の格差を垣間見てしまう。

 

 

メイド服にはメイド服の良さがあり、ましてや萌えに走らず伝統に則った正統派メイド服を着こなす咲夜さんはこれが一つの魅力ではあるのだけれどやはりそこは男の性というかーーー惜しい!の一言に尽きーーーーーー

 

 

 

パチン

 

 

 

咲夜さんが指をスナップすると僕の周りに無数のナイフが現れた。

 

 

 

「うおっ!危ねえ!!」

 

 

咄嗟に身体を捻ってなんとかかわすも、数本のナイフは僕を掠めて地面に突き刺さる。ってこれ完全に殺しにかかってるじゃねえか!

 

 

 

「ちっ…」

 

 

 

「舌打ちしたか!?今、僕を仕留め損なって舌打ちをしたのか!?」

 

 

 

「暦さんが良からぬ事を考えているからです」

 

 

 

「どいつもこいつも僕が声に出してない事を決定事項のように決めつけて攻撃行動に移すのをやめてくれ!」

 

 

 

ナイフのかすり傷なんて次の瞬間には治癒してるから問題ではないけど、それでも命を突然に狙われるのは心臓に悪い。

 

 

 

「はっはっは!仲が良いのも程々にな。しかし妹紅が言ってた外来人とはまた違う感じだな…そもそも女性ではないようだし」

 

 

 

「あれ、妹紅って藤原妹紅さんですか?それなら僕も昨日会いましたよ。ちょうど萃香と一緒に永遠亭に行く手前、竹林の入り口あたりで。でも女性の外来人て…?」

 

 

 

 

藤原さんの言う外来人が誰なのかわからないけれど、おそらくは僕とは違う外来人だろう。今の発言から察するにその外来人は女性であり、どう考えても僕を女性だと勘違いしたって事はないはずだ。という事は僕と萃香と別れた後で、僕とは違う外来人に出会っているという事になる。

 

 

だとすれば幻想郷の結界って大丈夫なのか?いや、これが僕と忍が結界を無理に開いてしまったが故にもたらした影響なのだとしたら申し訳が無く、申し開きの余地もないのだけれど、忍野メメ、僕と忍、それにバンパイヤハンター…さらに新規の外来人てーーーそんなペースであちこちから幻想入りしまくっていたら幻想郷の年間来場者数って実は結構な数字になるのではないか?

 

 

 

秘匿にしなければならない世界においてそれは許される範囲のイレギュラーなのだろうか?素人目に見ても結構ダメな気がするけどーーー

 

 

 

「なんだ、妹紅とも面識があったのか。私と妹紅は親友同士でな、暇を見つけては互いに行き来しあって話をする間柄だ。それがさっき来た時に外来人の話をしていたんだよ」

 

 

 

「外来人なら暦さんの事じゃないの?」

 

 

 

「いや、妹紅は確かに女だと言っていたよ。それに少し小競り合いになったらしいんだが名のある妖怪級に強かったようだ。あ、後はおかしな喋り方をしていたとか…この彼は女性には見えないし話し方も普通だ。何より妹紅と勝負なんてしていないだろう?」

 

 

 

「勝負なんてとんでもない、それどころか迷路みたいな竹林を親切にも永遠亭まで案内してくれましたよ。とても優しい人でした」

 

 

 

上白沢さんの話が本当なら、僕達と別れた後でその外来人に出会い、理由は定かではないがバトルへと発展ーーーその上で打ち解けたって感じなのか?ひと昔前の青春系ヤンキー漫画かよ。夕日の沈む河川敷で殴り合いでもしたのか?

 

 

 

しかもそれで女性って…とんでもない人なのは間違いない。評価的にも名のある妖怪級という事は軽く人間離れしていると見て相違ない筈だ。

 

 

 

その『おかしな喋り方』ってのが良くわからないけれどーーーまさかそれは無いだろう…無いよな?うん、ある筈ない!そんな事があったならば僕は今すぐにでも幻想郷から逃げ出す!

 

 

 

 

「どうしたの暦さん?顔が真っ青よ」

 

 

 

「はは…ちょっとしたトラウマを思い出してたんだ…軽く十回は死ぬような悲惨なトラウマを…」

 

 

 

本当に嫌な事を思い出してしまったぜ。あんなもん何回経験しようと絶対に慣れない!というか同じ経験をまた繰り返したならば今度こそ僕は死ぬだろう。

 

 

 

「まあ妹紅いわく危険な相手ではないらしいからな、そう身構える事もないだろう!じゃあ私は昼休みが終わってしまうのでこれで失礼するよ。咲夜と暦君も気を付けて帰るように」

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

「じゃあまたね慧音」

 

 

 

 

何か先生みたいな人だったな…いや、実際に先生なのか。あんな先生が教える学校ならば僕も少しは真面目に通ってーーーーー

 

 

 

 

「こらっ!買い食いをするなといつも言っているだろう!罰を与える、そこに直れ!!!」

 

 

 

ドゴン

 

 

 

少し遠くで、みたらし団子を手にした少年の頭に頭突きとは思えない速さと音で頭突きをかます上白沢さんの姿が見えた。

 

 

 

あの人が担任だったら僕はいよいよ不登校になっていたかもしれないーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー所変わって無縁塚

 

 

 

ここで一つ、昔話のような雑談のような雑学のような…そんな話をしようと思う。

 

 

 

いつか語られた物語、阿良々木暦による北白蛇神社にまつわる数多くの怪異譚。

 

 

そもそも、神社を始めとする何かを祀る場所という所は必然的に神の住む場所であり、神が居てこその神聖性を持つ。逆説的に神が不在ならば如何に霊験あらたかで神聖な場所であっても、たちまち心霊スポットのような不吉で禍々しい場所へと姿を変える。

 

 

 

吹き溜まりーーーエアースポット

 

 

専門家の元締めであり、何でも知っていると断言する臥煙伊豆湖をして北白蛇神社は元々、小さく纏まった神聖にして徳の高い神社だったと述べていた。

 

 

だが、永きにわたる時の中で神が消えたーーー不在になり神聖性を失った。

 

 

そこからの荒廃ぶりは語られた物語の通り、荒み、穢れ、壊れ、腐り…やがては良くない物の吹き溜まりへ真っ逆さま。

 

 

 

良くない物ーーー怪異の元であり霊的エネルギー。

 

 

ここで思い出して欲しい。夏休みの最終日、阿良々木暦と忍野忍が何をしたか。それはタイムスリップでありパラレルワールドスリップーーー怪異である忍野忍の為せる技とでも言うべきか、その力を持って見事に異次元へのゲートを開いてみせた。

 

 

 

だが、ここで忘れてならないのはゲートを開いたのは忍野忍の力だったとしても、それに使ったエネルギーは忍野忍のものではないという確固たる事実。

そう、忍野忍は吹き溜まりと化した北白蛇神社の良くない物を霊的エネルギーに変換する事でゲートを開く事に成功したのだ。

 

 

 

そしてそれは、その事例ではたまたま北白蛇神社だったというだけであり(ある意味では偶然という名の必然なのだが)、エアースポットは世界の至る所に存在している。

 

 

 

それは自殺の名所であったり、曰く付きの廃墟であったりーーー神不在の墓地であったり。

 

 

 

 

話をここ無縁塚に戻そう。

 

 

 

無縁塚とは幻想郷の中にある魔法の森の更に奥、再思の道を更に奥へと進んだその先、そこにぽっかりと空いた広場にある無縁仏の墓場を指す。

 

 

 

墓場ーーー仏を祀る場所

 

そんな場所であるにも関わらず、この無縁塚にはそれを守る神が居ない。無縁仏の魂は次から次へと集まるにも関わらず祀る者も送る者も不在なのだ。

それは即ち、北白蛇神社と同じ条件を満たしている。そして満ち足りているーーー良くない物が。

 

 

 

そんな場所で決戦の時を待つ者が三名。旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード及びレミリア・スカーレットを打倒すべく輪廻の輪から外れた元バンパイヤハンター達。

 

 

 

彼等は言った、二百年に渡る恨みを晴らすには万全な状態であれと。それは吸血鬼が真価を発揮する満月の夜だと。

 

 

 

故の猶予であり三日間。

 

 

 

だが、何の策略も軍略も戦略も無しに果たして己の仇が三日間の猶予など与えるものか?

 

 

 

答えは否。むしろ不自然なのだ。怪しくてーーー異なるのだ。

 

 

 

二百年もの時を経て討を取る好機を得たにも関わらず、わざわざ三日もの猶予を与える意味、メリットはしっかりと存在していた。

 

 

それはーーー食事。

 

 

 

考え欲しい、この世に生けとし生ける全ての生命の中で人間とはどのような特性を持つのか。

そう、人間とは生きる以外の目的で食事をする唯一の生物である。娯楽や贅沢の為に必要以上の工夫を凝らし、必要以上の命を奪うーーー

その際たる例として挙げるなら、人間は強くなる為に食事をする。

 

 

 

必要最低限に留まらず、行きすぎた栄養を摂取し、果ては通常では到達し得ない強硬な力を手に入れる。

 

 

それはある種のエナジードレイン。最も残酷にして最も不必要なエネルギーの回収。

 

 

 

そしてそれは三人組のハンターも例外ではない。今は思念体となり俗に言う悪霊と化した彼等も本質は人間だ。

ならば人間の怪異とでも呼ぶべき彼等にもそれに応じた特性がある。

 

 

 

 

食事によるエナジードレイン。

 

 

 

 

近い例を挙げよう。

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの最初の眷属、初代怪異殺しと呼ばれた死屍累生死郎(ししるいせいしろう)の話だ。

 

 

 

彼は伝説の吸血鬼の眷属という事もあったが、太陽に焼かれ、灰になり、それでも死にきれず四百年をかけて復活した実例を持つ。

 

 

そしてその方法は、やはりエナジードレインが基盤になってくる。勿論、吸血鬼が故の超回復能力も手伝ってはいるが彼は吹き溜まりである北白蛇神社で食事を続けて復活したのだ。

良くない物を、霊的エネルギーを食べて血にして、骨にして、肉にしてーーー遂に復活を遂げた。

 

 

 

ならば、ここ無縁塚においてそれはどう作用するか?

 

 

 

良くない物、怪異の元であり霊的エネルギーが異常な程にたちこめる無縁塚、そこにやってきた元人間の怪異達、その特性は純然たるエナジードレイン。

結果は見るまでもない、彼等は既に無縁塚の霊的エネルギーが枯渇する程にその場のあらゆる良くない物を食い尽くし、果ては人間ではあり得るはずのない力を手にしていた。

 

 

 

 

 

「あんたがあの時に勝てるかどうかはともかくとしてって言ってたのはこういう事だったのか」

 

 

 

「飲み込みが遅いですよヴィンセント。貴方があの時、鬼とあの隙間を操る妖怪に固執していれば事態は最悪でした…ま、結果としてここのエネルギーはものにできたので良いですが」

 

 

 

「だからそれに関しては悪かったっつってんだろ?売られた喧嘩は残さず買い取るのが俺の流儀なんだ、なぁバン?」

 

 

 

 

「その意見を僕と同列で語るのはやめてくれないかなヴィンセント?それにしてもここに目を付けたのは流石だよクルース。まさかここまでのエネルギーが日本なんかで確保できるだなんてラッキーだったよ」

 

 

 

「ふふ…利用できるものは何だって利用する。吸血鬼を相手に人間が戦うのならば当然の知恵ですよ。三日の猶予はたまたま満月と重なったというだけで私達がここのエネルギーを食べ尽くすのも三日は必要だった、それだけの事です」

 

 

 

 

静かに過ごす約束は破らず、それでいて周到に、用心深く戦いは始まっている。

水面下で動く三人組は静かにその時を待っていたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー話は再び紅魔館へ。

 

 

 

「「「「「いっただきまーっす!!!」」」」」

 

 

 

目の前に並ぶのは満貫全席とまでは行かなくても、どこから手を付けたら良いのか迷うばかりな豪華絢爛な手料理の数々。

語彙に乏しい僕の表現力ではこの食卓をどうやって表現したものか頭を抱えたくなるところだけれど、なんつーかすげえ…本当にこれを一人で作ったのかよ。

僕達が気付かない一瞬の間、そのどこかでどれだけの時を停止して調理したのかと思うと感動すら覚えそうだ。

 

 

これが最後の晩餐になるとしたら喜んで死んでいく輩もいるんじゃないか?

 

 

 

「どうしたの暦?折角のご馳走なのに手が進んでないわよ?」

 

 

 

「いや、流石に予想以上すぎてどれから手を付けて良いものかもわからねえよ…少なくとも僕の人生ではこんな晩御飯はお目にかかった事もない。やっぱり規格外なメイドさんだよ咲夜さんは」

 

 

 

 

「ならその凄いメイドを従えている主人の私は更に凄いという事ね、わかってるじゃない暦」

 

 

 

 

「その謎な三段活用を駆使してまで自分の力を誇示する様は吸血鬼の習性なのか!?つーか忍!お前はもう少し味わって食べろ!」

 

 

 

僕がこの光景に圧倒されてるその真横、あれ程までに気品だの優雅だのにこだわっていた忍が獣化していた。

なんなら「いただきます」の「いただきま」くらいの段階で既にガッツいていやがった。

お前の心はドーナツに一途なのではなかったのか?

 

 

 

「いや!マジでまいうー!何なのこの料理!?見た目、香り、味、全てにおいて長所しかないんですけど!っちゅうかレベルの高さがマジで怪異的!なんなら料理の怪異!?いや、怪異じゃね!?食欲が止まらなくなる怪異じゃん!マジでぱないの!」

 

 

 

「誰だよてめえは!既に初期から比較してもブレブレだったお前のキャラが遂に行方不明になったぞ!」

 

 

 

ミスタードーナツの時を凌ぐリアクションじゃねえか。こいつはこのまま原作に返り咲くつもりはないのか!?

というかお前がそんなんだから最新作で僕と一緒に出番を干される羽目になったんじゃねえだろうな?

 

 

 

「ほら、暦お兄様も食べよう?折角のお料理が冷めちゃうよ」

 

 

 

「あ、ああ…それもそうだな、僕もいただくとするよ」

 

 

 

意外な事に一番はしゃぎ回ると予想していたフランが一番落ち着いていた。

というか、僕達のやりとりに参加するのではなく、僕達のやりとりを見て楽しんでいるって感じだ。

 

 

 

「でも意外だったな、フランはこういう時こそ一番元気にはしゃいでいそうなイメージだったんだけど」

 

 

 

「あはは!酷いなぁ暦お兄様は。でも私はこれでも楽しんでるんだよ?ただ…」

 

 

 

「…ただ?」

 

 

 

「私はこうやって皆と同じ食卓に座れる事がとても幸せなの。今は普通にできる事が昔の私にはできなかった…私のせいでね。だからね暦お兄様、私はこうして皆を見てるだけでとっても楽しいのよ?それにこうしていれば誰も傷付けずにすむ、壊さずにすむもの…」

 

 

 

「妹様…」

 

 

静かに食卓を共にしていた咲夜さんやパチュリーさんもどこか悲しげな笑顔でフランを見ていた。

昔はできなかった…それがどういう事なのか気にならない訳じゃない。

そういえば、忍とレミリアの昔話にもフランの名前は出てこなかったし、あの三人組の話にしてもやはりフランの名前は登場しなかった。

その辺りから察するに、このフランドール・スカーレットという吸血鬼にも一筋縄では語れない過去があるのだろうーーー物語があるのだろう。

 

 

 

それでも、それでもだ…!

 

 

 

「ははっ!何を言ってるんだフラン?飯時の昔話なんてものはもっと歳をくってからするもんだ。お前はこれからもこうやって皆と共に飯を食って笑い合って過ごしてくんだぞ、それなら側で見てるだけなんて勿体無い事をしてないでど真ん中で楽しんだら良いだろ?」

 

 

 

「で、でも私は…」

 

 

 

「なーんだ、じゃあ参加しないならこの料理はいらないんだな?それは勿体無い!変わりに僕がフランの分も頂くとしようか!」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「だってフランは見ているだけで満足なんだろ?残念だけど僕はそんな小さな事で満足するような小さな男じゃないんだ!一緒に楽しめないならこの素晴らしい料理にも申し訳ないだろ?ねえ咲夜さん?」

 

 

 

「えっ!?…えぇそうですわね。私も僭越ながら心を込めて作らせて頂きました。どうせお召し上がりになるのであれば楽しんで食べていただきたいものです」

 

 

 

「咲夜…でも私は…私の中には…」

 

 

 

「あぁもうめんどくせえな!僕の妹を名乗るならそんな辛気臭い顔して食卓に座るな!少なくとも僕の二人の誇るべき妹達はもっとこう…色々と馬鹿で豪快で、すげえ楽しそうに生きてるぞ!それでもまだそうやって輪の外にいようとするならこの晩飯は全部僕が貰う!良いんだな!」

 

 

 

「だ、だって私の狂気は皆を…!」

 

 

 

 

「いつの話をしているのフラン?心配しなくてもまた貴女が暴走したら私の魔法で止めてあげるわ。貴女は安心して自分をさらけ出せば良い…何を我慢する必要があるのかしら?」

 

 

 

「パチュリー…だって私はどうしたら…」

 

 

 

「ああ!もう我慢できねえ!いっただきまー…」

 

 

 

「私は…私は!」

 

 

 

それでも僕は知らねえよ!

なんだっけ?フランの過去?そんなの僕の知った事か!

少なくとも僕を兄と慕ってくれる妹が一人だけ輪の外にいたらその腕掴んで引っ張り込むのが兄の役目だ!

 

 

 

「フラン!」

 

 

 

「お姉様…」

 

 

 

「フラン…あなたは、私達の家族よ」

 

 

 

「まーーーーーっすうううううううっ!?」

「それはフランの!食べちゃダメェえええええぇぇぇぇぇええええ!!!!!」

 

 

 

 

横っ腹に全力のフランが突き刺さった。

 

すげえ…走馬灯って初めて見たよ。いや、マジで飯を食う前で良かった。食後なら全部出てる所だ、臓器ごとーーー

 

 

 

 

「ふふっ、さあ暦。誇り高き吸血鬼の…ましてや私の可愛い妹の晩餐に手を出した罪……覚悟はできてるわよねぇ?」

 

 

 

「え?レミリア?」

 

 

 

「そうですねお嬢様…私が妹様の為にご用意した料理に横から手を出すとは万死に値しますわ」

 

 

 

「ちょ、ちょっと?咲夜さん?」

 

 

 

「私の親友の妹を泣かした罪…わかるわね?明日の朝日は期待しない事を進めるわ」

 

 

 

「パチュリーさんまでっ!?おい忍!ちょっと助けてくれ!っていうかフランさん!?いつまで僕の脇腹で泣いてるの!?」

 

 

 

「かかっ!諦めよお前様、儂も今回はフランの味方じゃ。多少の痛みは儂も我慢してやるから安心して殺られてこい」

 

 

 

「皆、フランに加勢よ!フランを泣かせた身の程知らずを殲滅せよ!!!」

 

 

 

「マジかよ!?って、ぐぁあああああ!!!」

 

 

 

ヤバい!こいつら本気だ!死ぬなら明日だと思いきや今日死んでもおかしくねえぞこれ!

 

 

 

「フラン!助けてくれ!!」

 

 

 

「私のご飯なのー!食べちゃダメー!!」

 

 

「食べてねえよ!冗談だってば!!っつーか本気で殺される!殺されちゃうって!フランさぁぁぁぁあああん!?」

 

 

 

 

この後一時間にわたって僕は生死の境を彷徨った。

必死すぎて覚えていないけれど小野塚小町さんに会ったような気さえするーーー

 

 

 

そういえば忍野が言ってたな…弾幕だって立派な凶器だと。確かに凶器だったし狂気染みてた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…死ぬかと思ったぜ…」

 

 

 

 

「ったく…相も変わらずお人好しじゃのうお前様。これが狙いで一芝居うった癖しよってからに。大根役者っぷりが行きすぎて笑えもせんかったわい」

 

 

 

「あん?何のことだよ忍?」

 

 

 

「惚けるでないわお前様よ。普段は天真爛漫なフランがこういった時に大人しくしとるのが気になったんじゃろうが」

 

 

 

散々ボコボコにされた僕の傍らで忍が呟くように、呆れたように話かけてくる。

そういやお前は僕とペアリングされてから感情とか読み取れるんだったな…だとしたらそんな的はずれな事を言ってんじゃねえよーーー僕は

 

 

 

「そんなんじゃねえよ」

 

 

 

「ほう、ならどんなんじゃと言うのじゃ?」

 

 

 

 

「僕は兄ちゃんだからな、妹が参加しない食事なんて僕が嫌なんだよ。本当なら僕が引きずられて食卓に座らされる側なんだから。だからこれは僕の勝手な我儘だ」

 

 

 

「かかっ!そうか、我儘か。ならばそういう事にしておくよ我が主様」

 

 

 

そういう事もどういう事もない、僕は本心からそう思っていたんだから。

過去はどうあっても取り返せない、それは僕がパラレルワールドにまで行って学んだ事だ。

それでも、未来は違う。この先の物語は自分が作っていくものなのだ。どうせわからない未来なら、せめて笑って過ごせる未来であって欲しいだろ?

フランが吸血鬼だとか僕が人間だとか関係ない、僕達は等しく今を生きてるんだから。

 

 

 

「おいフラン!」

 

 

「はあ…はあ…なーに、暦お兄様?」

 

 

 

「皆で囲む食卓は楽しいだろ?」

 

 

 

「…うん。すっごい楽しい!」

 

 

僕は知ってる。一人で食べるご飯の味気なさも、誰かと食べるご飯の温かさも、僕は知っている。

思えば高校生活の大半は一人で昼食を取っていた。春休みのあれこれから僕にはたとえ数少なくとも友達ができた、恋人ができたーーー大好きな人達に囲まれて食べるご飯の美味しさを教わった。

 

 

 

「ご飯ってのはなフラン、何を食べるかじゃない、誰と食べるかが大切なんだと僕は思うぞ。こんなに美味しくて豪勢な食卓も一人で座れば味気ないもんだ」

 

 

 

多分フランは寂しくて、怖かったのだ。

会ったばかりの僕に異常に懐いてくれて、何処に行くのも付いて行こうとするのだって…一人になるのが寂しくて怖かったのだ。

 

紅魔館の人達に同じようにできないのは自分から無意識に作った壁のせい…過去の出来事は知らないけれど、恐らくはフランの中で大切な人を傷付けてしまう事への恐れがある。

 

だからどこかで距離を保とうとする。

 

 

でも…

 

 

 

「僕はお前と一緒に食卓を囲めて、すごく嬉しいぞフラン!だからお前もいい加減に遠慮はやめろ!僕からのお願いだ」

 

 

 

それじゃつまらない。明日どうなるかわからない運命を進む僕達なのだ、こんなところで遠慮しても何の得にもならない。

 

 

 

「良いこと言うじゃない暦。さあ、せっかくの食事もまだまだ残ってる事だし仕切り直しよ。咲夜!」

 

 

 

「かしこまりました」

 

 

 

パチン

 

 

 

それがルーティンであるかのように咲夜しんの指が鳴る。

するとそこには僕達が暴れまわった食卓が嘘のように片付けられ、冷めてしまった料理も温められて並んでいた。

 

何かが変わったと思えば、会食のように並べれていた料理の数々はまるでビュッフェスタイルのように立食使用へと姿を変え、さながら貴族のパーティーのように飾られている。

 

 

 

「この一瞬でどれだけの事をやってのけたんですか咲夜さん…」

 

 

 

「あら、マジックの中身を知ろうとするのは野暮ですよ暦さん。これは私から妹様とお嬢様へのささやかな計らいですわ」

 

 

 

これのどこがささやかだ…充分すぎるくらいの気持ちが篭ってるじゃねえか。

 

 

 

「舞台も役者も整った!明日は決戦、今夜は全て忘れて飲めや歌えや、心ゆくまで楽しむわよ!」

 

 

 

レミリアの音頭を皮切りに、紅魔館のパーティーはスタートしたのだった。

 

 

 

いや、パーティーというか宴会ーーードンチャン騒ぎとでも言おうか。

レミリアも、フランも、咲夜さんも、パチュリーさんも、忍や僕だって、明日が命のやり取りをする日だなんてすっかり忘れ、笑い転げながらこの時を満喫する。

 

 

 

散々偉そうな事を言った僕だけど、さすがにこんなレベルの高い宴会は経験がない。

それでもこれが正解だと言い切れる。この瞬間を心から楽しいと思えるのは、きっと皆が心から楽しんでいると思うから。

 

 

 

そしてやはりこれは最後の晩餐などではない、前夜祭なのだろう。

だってこんな楽しい時間をこれっきりにするなんて勿体無くて出来るはずがないのだろう?

 

 

 

こうして様々なアクシデントが…ここでは言えないけれど都条例的な意味でのアクシデントなんかもあったが、今夜は記念すべきフランのスタートの日になったのだったーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、それともう一つーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝てた私も私ですが…本当にご飯抜きだなんて…酷いですよ咲夜さん…ぐすっ」

 

 

 

 

 

記念すべき美鈴さんの892回目のご飯抜きの日になった。

 

 

 

 

 

決戦まで後ーーー零日。




【盤外】

「キャハハ!なにーこれー?なんかフワフワするー」


「どうしたんだレミリア…ってこれ酒じゃねえか!誰だ酒なんて飲ませたのは!?」


ヤバいヤバいヤバい!これはヤバい!!
幼女が飲酒でヘベレケになってるなんて絵面的にも道徳的にも都条例的にもヤバすぎる!


「あら、こんな時くらい良いじゃない?それにレミィはこれでも500歳を超える吸血鬼よ?問題ないでしょ。というか萃香があれだけ飲酒してる時点で都条例的な問題はアウトじゃないかしら?」


「萃香はヘベレケになったりしてないからいざとなったらリンゴジュースでしたとかで押し通せたんだよ!これどう見たって仕上がってるじゃねえか!完成しちゃってるじゃねえか!」



「えへへ、しゃーくやー!だっこー!!!」


「お、お、お、お嬢様ぁぁぁああああ!!!」


咲夜さんが倒れた。凄く幸せそうな恍惚の表情を浮かべて。


「咲夜さああぁぁああん!?忠誠心が!忠誠心が鼻から出てますよ!!!おい忍!お前もなんとか助けーーー」


「ぐすっ…お前様はいつもそうやって他の女ばかり…儂だってたまには構ってくれても良いのに…ぐすっ」



「あ、あのー…忍さん?」



「イヤじゃああ!儂の事、嫌いにならないでよお前様ぁぁああ!儂にはお前様しかいないんじゃぁぁ!うわあああん!」



「お前もかよ!?しかも泣き上戸って!」


ヤバいのを通り越して性質が悪くなってきたよ!っつーか忍って酔っ払うとこんな感じなの!?可愛いなクソ!


「って、そんな事を言ってる場合じゃない!フラン!せめてお前だけでもいったんここから逃げーーー」
「るっせぇんだよこのクソガキが!私の酒の邪魔すんならブチ殺すぞゴルァ!」



「こっちは酒乱かよ!って、ぎゃぁぁぁぁぁああああ!!!!」



【盤外・終】




さて、楽しんで頂けましたでしょうか?こんばんわ、根無草です!
早いもので気付けばこの小説を投稿して一年が経ちました、割ととっくに!笑
最初は少なかったお気に入りの件数やコメントの数も、一年を経て見返してみれば当初から考えられない、想像もつかないような数になっていて、文才も根性もない僕が未だに続けて更新できているのは皆さんのおかげであり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

年の瀬という事もあり、この小説を読んで下さっている皆さんもご多忙かと思いますが、今後ともお付き合い頂ければ幸いに思います!

普段から贔屓にコメントして下さる方、また、そうでない方も、今年一年本当にありがとうございました!
年内の更新ができるか定かでは無いのでこれを持って今年の締めくくりの挨拶とさせて頂きます。
年内に更新できれば年内に、そうでなければまた来年お会いしましょう!

ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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