東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第49話ー忠告ー

早朝、起床、早起きーーーそんな言葉達から連想されるのは僕にとっての恒例行事、ルーティンワークとでも言おうか。兎に角、僕の目覚めの話だ。

僕といえば朝は毎日のように二人の妹に起こされている事でお馴染みだろう。暴力的で、壊滅的で、狂気にまみれたモーニングライフを日々満喫しているのが僕こと阿良々木暦である。

 

 

 

本質的なところを言えば、僕は決して早起きをしたくて妹達に起床の手伝いを依頼している訳ではなく、本音を語らせてもらえば気のすむまで、心ゆくまで眠っていたいというのが本心であって、それ以上でもそれ以下でもないーーーというかそれ以上はあってもそれ以下はない。

 

加えて注釈を足すと、そんな訴えを僕の妹達が聞き入れてくれる筈もなく、どちらかと言えば妹達の逆鱗に触れかねない。目覚まし妹を名乗るあの二人に目覚める事のない眠りを提供される様子が鮮明すぎるほどに想像できる。何せ相手は睡眠中で全くの無防備な人間の頭部へとバールを振り下ろすような奴なのだから。

 

 

 

 

いや、実際のところそのおかげで大学受験を控えた僕が寝坊する事もなく毎日学校に行けてるのは揺るぎない事実なので文句ばかり言う訳でもないんだけどーーー余りにもサバイバルすぎないだろうか。文句ばかりを言う訳にもいかないが、文句を言う為の言い訳すら許されない攻撃性も考えものだろと思う。

 

 

 

 

さて、話を本線へと移行しよう。僕の身の無い愚痴を連ねていたら進む物語も進まないーーーというか語り尽くせない。

ましてや僕の愚痴なんかに何の需要もない事は僕だって骨身に沁みて自覚している。本作において文字数にしたら途方もない程に語り部を務めている僕なのだからその辺は学習しているし弁えている。

 

 

 

そう、僕がしたいのは簡単な国語のお話だ。いや、こんな話を国語と言うのも気がひけるーーー言葉の話。いっそ雑学とでも思って聞いて貰えれば僥倖と言える拙い話。

 

 

 

早寝早起きに纏わる話としてこんな言葉があるのを皆さんご存知だろう。

 

 

 

早起きは三文の得

 

 

 

つまりはいつまでもダラダラと寝ていないで早起きすれば少なからず良い出来事に恵まれる確率も上がりますよという内容の言葉なんだけれど、現代を生きる多くの人々がこの言葉に対してこう答えるのではないだろうか?

 

 

 

三文なんていらないからゆっくりと寝かせてくれ、と。

 

 

 

そもそも三文って現代価格に換算したら幾らになるのだという話だーーー敢えて真面目に答えるならば一文あたり十円。早起きすると三十円の得になるという意味で捉えてもらえれば構わない。

そして僕の話を聞く人の中に、もしいるならば手を挙げて、声を大にして申告してもらいたい。

 

 

三十円の為に早起きする、まるでどこかの詐欺師のような奴が果たしているのか?

 

 

もしいたとしたならば、僕はきっと仲良くはできないだろう。そんな貝木みたいな奴に語れる雑学なんて僕は持ち合わせていないし持ち合わせたくない。

 

 

つまらない時間を過ごしたと諦めて、このまま元の居場所へ引き返してくれ。ゲットバックヒア。

 

 

 

さて、またもや逸れてしまったけれど、そろそろこの言葉に関する故事を紹介するとしよう。

 

 

時は遡り日本が大和国だった頃、首都が東京ではなく京都だった頃のお話。

 

兼ねてより日本は八百万神の国(やおろずのかみのくに)として知られ、あらゆる物には神が宿り感謝を捧げて共に生きるという風習を持っていた。

 

 

空には空の、土には土の、果ては塵や厠にまで神は宿ると当時の人々は信じて疑わなかった。

現在の日本にもそのような風習は残ってはいるものの、残念ながらそこまで強い影響を及ぼす程に色濃くはないだろう。

 

 

 

さて、こんな話の何が『早起きは三文の得』に結びつくのかと思う人もいるのではないだろうか?

まあ落ち着いてくれ、結果をあせりすぎると僕みたいになってしまうぞ?

 

 

話を纏めよう、八百万神の国である日本には数多くの伝承がある。その中で今回注目すべきはーーー神の遣い。

 

 

中にはいるのではないだろうか?関西圏の有名な公園で大量の鹿と戯れ、名産の煎餅を与えた経験を持つ人が。

 

 

 

そう、当時の日本では鹿を神の遣いとして崇める習慣があった。

鹿は有難い存在であり、とても尊く、決して粗末に扱ってはならないといった決まりまであった程に。

 

 

 

そして気になる三文の話だけどーーー詰まるところ、鹿に対する罰金である。

 

 

罰を与える為の金銭

 

 

 

当時の日本では驚く事に、朝起きて玄関の前で鹿が死んでいた場合、罰金として三文を徴収していたのだ。

そりゃ朝起きて玄関開けたら神様が死んでいるのだ、罰当たりも良いところである。

 

 

 

そして現代人よ、三文と侮ることなかれ。当時の人々にとって三文とは生活に多少なりとも打撃を与える金額だったのだから。

 

 

 

もうお判りいただけただろう。

早起きにおいて得をするという事は、つまり三文を払わない為に早起きをするという事に相成る。

 

 

どこの住人よりも早起きをして、玄関先で鹿が死んでいたら隣の家の玄関へと移す。そうする事で罰金を免れるというのが本質の言葉だ。

 

 

 

うん、鹿が神の遣いで有難くて尊いだなんて思っていたならば実にとんでもない話じゃねえか。

印象的には厄病神に違いんじゃないのかとさえ思ってしまう。

 

 

 

 

と、まあこんなつまらなくも長い雑学の為の雑談にお付き合い頂いたのは有難い限りで、残すは僕が何の為にこんな話をしていたかという一点に尽きるんだけれどーーー

 

 

 

 

結論から言おう。

 

 

早起きなんてするもんじゃない。

 

 

 

 

「せいやぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

 

「ちょ!美鈴さん!落ち着いて!」

 

 

 

 

「これが落ち着いていられますか!居眠りの罰としてご飯を抜かれ、その挙句に紅魔館の誰にも気付かれず一晩締め出され…私は門番だけど門に住んでる訳じゃないのに!」

 

 

 

 

習慣というか何というかーーー特に妹達の襲撃を受けた訳でもないけれど、決戦の朝といういつもと違ったシチュエーションも手伝ってか、今朝に限っていつになく早い時間に目覚めた僕は、まだ眠っているであろう紅魔館のメンバーを起こさないように散歩へと出掛けた。いや、出掛けてしまった。

 

 

 

あれから見かけていないチルノの事も気になっていたし、もしも元気になったなら湖の周りを歩いていれば会えるかな?くらいの軽い気持ちで。

 

 

 

そして結果的にチルノに会うどころか、僕は紅魔館の門番に捕まった。

正面玄関を出てふと横を見ると、まるで成仏できない地縛霊のような黒々としたオーラを身に纏った美鈴さんと目が合ってしまったのだ。

本当にそこで目が合ったのが鹿の死体だったならば僕もここまで戦慄はしなかっただろう。

 

 

 

この人の悲壮感といえば三文どころかあらゆる全てを失いそうだし。

三文払うから見逃してもらいたかった。

 

 

後はもう流れのまま、強制的に、済し崩し的に、朝の運動という名の、組手という面目の元に行われるエゲツない八つ当たりが始まったのである。

しかし火憐ちゃんを始めとして、どうして格闘技を始めとする体育会系な人間は感情的に即決即断な行動に出るんだーーー神原にしてもそうだけどもう少し倫理的に行動していただけないものだろうか?

まあ、これに関しても目の前の事ですぐに一杯一杯になって安直な失態を繰り返す僕が言えた事ではないのだろうけど。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 

あれから小一時間、とっくに目覚めて朝食の準備を終えた咲夜さんが呼びに来てくれるまで組手は続いた。あやうく起きて玄関を開けた先に待っているのが鹿の死体ではなく僕の死体じゃなかっただけマシとしておこう。

 

 

 

「まったく…どうしてもトラブルを起こさねば気が済まんのかお前様は?ハンター達が攻めてくるのは今日の夜じゃぞ?ウォーミングアップにしては早すぎじゃろ」

 

 

 

「あたかも僕の所為でトラブったみたいな言い方をやめろ忍!というか誰も美鈴さんに気付かなかった時点で皆にも責任はあるだろ!」

 

 

 

「そうですよ!もっと言ってやって下さい暦さん!皆さんが楽しんでいる時に私がどれだけ寂しい夜を過ごしたことか!!」

 

 

 

「それを言うなら仕事そっちのけで居眠りしてた美鈴が悪いんじゃないかしら?」

 

 

 

 

「お、お嬢様ぁ…そんな殺生なぁ」

 

 

 

 

何はともあれ、早寝早起きの吸血鬼を始めとする紅魔館メンバー勢揃いでの朝食にありついていた。

昨晩のパーティーで盛り上がりすぎたのか、僕と咲夜さんと美鈴さん以外の面々はまだ眠そうな目をしていた。フランに関してはナイフとフォークを握りしめたまま寝てる始末だし。

パチュリーさんに至っては朝食に参加すらしていない。

 

 

 

「まあ、おふざけもこの辺にして今日はいよいよ決戦の日だからな…皆は夜までどうするんだ?」

 

 

 

決戦当日ーーー考えたくもない事だけど、最悪を想定するならば今日が人生最後の日になってもおかしくはない。

余命宣告とはまではいかないが、今日をどう過ごすかはやっぱり重大な事だと思う。

 

 

 

「どうするもこうするも無いわよ。私もフランもいつものように優雅な時間を過ごすだけ。負けの無い勝負を前にして日常から外れた行動をするだなんて滑稽でしかないわ」

 

 

 

「ふぁー…うん、それはお姉様の言う通りだよ暦お兄様。だって明日からも変わらず紅魔館は続いてくし今日が特別な日になる事はないんだから…眠い…」

 

 

 

「大層な自信だな…というかフラン、ご飯の時はなるべく居眠りしないように」

 

 

 

吸血鬼姉妹はあっけらかんと答えた。

自信の表れと言えばそうなんだけど、ここまで自信家だと見ていて気持ち良くもある。

そしてこの二人がこう答えたならば、この二人に仕える美鈴さんと咲夜さんの答えなんて聞くまでもないだろう。

 

 

 

「ま、そういう事じゃよお前様。というかお前様こそ今日はどうするつもりじゃ?」

 

 

 

「ん?いや、僕も言った割には特に何をするつもりも無いんだけどさ…強いてあげるなら忍野の所へ行ってこようと思ってるくらいだ」

 

 

 

「あら?暦はてっきり忍お姉様と過ごすのかと思っていたけど…良いのかしら?」

 

 

 

 

「変な心配はいらないよレミリア。それこそ僕と忍は明日からも僕と忍のままさ、負けの無い勝負なんだろ?」

 

 

 

 

先程のレミリアの言葉を借りて返答する。

というのも、これが人生最後の日になったとしても忍とは昨日の晩ーーー皆が寝静まってから話をしたのだ。

照れくさくて内容こそ語れないが、あの春休みから考えてみてもパラレルワールドを抜きにすれば久しぶりに二人だけで星空を見上げながら語り合ったと思う。そんな時間があったからこそ、今日という日に忍も僕も互いに自由な時間を与えられるのといった感じだろうか。

 

 

 

 

 

「まあ僕も大した用じゃないからな、夜までにはちゃんと戻ってくるさ。忍が一緒に行きたいなら構わないけど…聞くまでもないだろ?」

 

 

 

大した用どころか用なんて全く無いと言っても良いのだけれど、少なくともこの戦いを終えたら僕達は元の世界へと帰らなければならないのだ。

それに関してあの大妖怪こと八雲紫が協力してくれるとも限らないし、やはり専門家であるところの忍野メメを通じて帰るのが本筋だろう。

だとするならば戦いの前にいよいよ帰還する方策について話合う必要がある。とは言ってもあいつは

 

 

 

「君の出る幕じゃないよ阿良々木君」

 

 

なんて言いながら適当に話を流してしまいそうだけどーーーそれでも僕がどうなってしまうかわからない以上、このタイミングで一度は話をしておきたい。

 

 

 

「言うまでもなく、儂は行かんぞお前様。そもそもあのアロハ小僧は気に入らん、行くならお前様一人で行くがよい」

 

 

 

だよな。だと思ったよ。

今となっては僕の影響からか、途方もなくかつてのキャラを崩壊させているけれど、それでも元は伝説の吸血鬼だったのだ。

僕との距離は縮まったとはいえ、忍が僕以外の人間に対して友好的な態度を示した事は無い。あくまでも吸血鬼にとって人間は下位の生き物であり、僕だけが特別で僕だけを認めているというだけの話。いわばこの紅魔館での振る舞いの方が奇跡的とも言えるくらいだ。

それに只でさえ人間に対して友好的じゃない忍にとって、その中でも忍野メメという男は関わりたくもない理由が山の如くある相手だろう事は想像に難くない。

自身の心臓を奪い、名前を奪い、軟禁までされ、聞きたくもない怪異譚を延べつ幕無しに叩き込まれたその張本人である男なのだから。

 

 

とは言え、先日の女郎蜘蛛の襲撃を思えばここで忍が同行してくれていれば心強かったんだけど…まあ、それは僕の都合であって忍に押し付けるのも気がひける。

それに昨日の夜だって吸血してもらって僕のバロメーターも底上げされているのだからよっぽどの事さえ無ければ平気だろーーーやっぱり心細いけど。

 

 

 

同情ではないがどこか忍の心中を察した僕は、忍の頭を軽く撫でて構わないと告げた。

でもどうしたものかな…用心の為に心渡でも借りて行った方が良いだろうか?でもあの刀ってどこか反則的な感じがして気乗りしないんだよな…というか男子高校生が抜き身の日本刀を持って徘徊するって絵面もどうかと思うしーーー

 

 

 

 

 

 

「なら美鈴、貴方が暦と同行しなさい」

 

 

 

そんな僕の様子を見ていたレミリアが不意に美鈴さんに言い放つ。

本当に不意打ちのようなその発言に美鈴さんも面食らった面持ちだ。

 

 

 

「え!?私ですか?私は構わないですが門番の仕事は…」

 

 

 

「主人である私が行けと言ってるんだから問題ないでしょ?というかうちの門番は毎日が定休日みたいなものでしょ。昨日の今日で再び暦が野良妖怪に襲われる事もないでしょうけど用心の為よ。それにパチェに聞いたけど今日の戦いで暦と組むのは美鈴らしいじゃない?連携を取るにはコミュニケーションも必要よ」

 

 

 

「確かにそうですね…わかりました!では暦さんは私が責任を持って護衛します!」

 

 

 

護衛って…まるで僕がどこかのお偉いさんみたいな扱いだな。レミリアの提案は素直に有難いけど外見での年齢が僕と対して変わらない女性に護衛してもらうってのも挨拶に困るようなーーーって、それは僕の住む世界でも大差ないか。

なんなら僕の身の回りって僕より強い女子しかいないからな。強いてあげれば千石なんかは守ってあげなきゃ危ない感じのか弱い女の子だけどそれ以外の奴等はそれぞれが最強みたいな人間ばかりだし。そのうち千石までもが最強女子になってしまったらと思うと考えただけで泣きたくなるぜ。

 

 

 

「なら美鈴さん、博麗神社までご一緒お願いします」

 

 

 

「はい!任せて下さい!例え私の命にかえても暦さんは私が守りますから!」

 

 

 

「重いわっ!つーかさっき僕の事を殺す気で襲ってきた人の台詞かよ!」

 

 

 

 

こうして即席ツーマンセルの僕と美鈴さんは紅魔館を出発した。

やはり美鈴さんも空を飛んだりできるらしいけれど今は僕に合わせて徒歩での移動になっているーーーが、しかしこれはこれで丁度良かったのかもしれない。

 

 

先程のレミリアではないが、確かに組み合わせ的には決定していても肝心の中身は何も決まっていない。

僕と美鈴さんが組んで戦うのは良いけれど、生憎な事に僕と美鈴さんは阿吽の呼吸ができるほどに深い関係ではないのだ。ならば多少の時間はかかるけれど徒歩で移動している間にその辺のコミュニケーションを図れれば有難い。

 

 

無論、戦いに関する作戦なんて僕には思いつかないしそんな作戦会議をするつもりもない。

ただ一緒に命掛けで戦うペアを組んだ相手について、もう少し良く知っておきたいと思うのも不思議な話じゃないだろう。

 

 

 

「しかし天気が良いですねぇ、これなら今晩は月も雲に隠れたりしないでしょう!ま、隠れてしまってもパチュリー様が魔法でどうにかするんでしょうけど。というか暦さん、こんなに晴れ渡った空の下に日傘も無しで出歩いて平気なんですか?」

 

 

 

まるでピクニックにでも出かけてきたかのようなテンションだな。

まあ日頃から門の前を動かない生活を送っていれば、たまの外出に心が躍るのも理解できなくはないけれど。

 

 

 

「前にも言いましたけど僕は吸血鬼を宿してるってだけで本質的には人間です、今も吸血鬼性を高めてはいるけれど日の光で焼け死ぬような事はないですよ」

 

 

 

正直な所を言えば若干、肌がヒリヒリと痛むんだけどーーー日焼けした日のシャワーが染みるような感じ。

昨晩の吸血で今の僕はほとんど吸血鬼になっているから日の光も凶器に成り得るのかもしれないな。

虫眼鏡なんかで日光を集められたらさすがに燃えるかも。

 

 

 

「吸血鬼であって吸血鬼ではないみたいな感じですか?私には良くわからないですが人間の枠に収めるには規格外な感はありますよね」

 

 

 

「確かに僕の周りでも怪我が一瞬にして完治したりコンクリートを拳で粉砕するような奴はいないけどギリギリ人間なのは間違いないです。中途半端なんですよ、僕は」

 

 

とは言ってみたけどコンクリートを破壊するくらいなら何人かいるな…神原とか火憐ちゃんとかーーーあるいは、あの暴力陰陽師の影縫さんとか。

コンクリート破壊系女子ーーーどこにも需要の無さそうなジャンルである…

 

 

 

「人間でもあり吸血鬼でもある、その実は正体不明…あはは!まるで私みたいですね」

 

 

 

「いや正体不明って訳じゃ…って、私みたいってどういう意味ですか?」

 

 

 

ちなみに僕は人間だ。混じりっ気のある普通の人間。

 

 

 

「ん?お嬢様か咲夜さんあたりから聞いてませんか?ほら私って妖怪ではあるんですけど種族が不明なんですよ。自分が何の妖怪なのかさえさっぱりわかりませんし」

 

 

 

「え!?そんな事ってあるの!?」

 

 

 

なんだそれ!?

僕らの感覚で言うと、自分は人間なのはわかるんだけど何人なのかはわからないとかそういう事か?

 

 

国籍不明どころかーーー正体不明。

 

 

僕が吸血鬼になった時ーーーあの春休みに覚えた感覚に似た感覚といえば確かに記憶に新しいけれど…最初から自覚がないなんてこと本当にありえるのか?

 

 

 

「ちょっとした昔話になるんですけどね、元々の私は野良妖怪で一匹狼だったんですよ。長い間そんな生活をしていたんですがその頃は生きる事に必死でして…殺すか殺されるかの日々だったんです。気が付いたらそこに私は存在していて、気が付いたら狙い狙われの毎日ーーー自分がどこで生まれて何の種族だったかなんて考える暇もありませんでした」

 

 

 

 

「それは…壮絶ですね」

 

 

 

壮絶っつーか類を見ない話すぎる。

そしてその話は僕なんかが生まれるよりも遥か昔ーーーそれこそ妖怪変化が群雄割拠する御伽噺に出てくるような時代の物語だろう。

 

 

 

「そんな毎日を送る中で私は戦い方を学び、やがては近隣で私に敵う妖怪なんていなくなりました。正直なところ、当時の私は自分が世界で最強だと割と本気で思ってましたからね」

 

 

 

しみじみと、懐かしむようにウンウンと頷きながら語る美鈴さん。

今でこそ明るくて親しみやすい彼女だが、その歴史は戦いの連続で血にまみれた凄惨な歴史だった事は僕にもわかった。

 

 

「で、そんな日々を送りながら各地を放浪する私の耳に入って来たのがとある吸血鬼の館の話です」

 

 

 

「吸血鬼の館って…まさか紅魔館ですか?」

 

 

 

「ご名答!もっとも私が紅魔館を知ったのはお嬢様と忍様が知り合った後の話ですが。当時、最強を自負していた私は紅魔館へと勝負を仕掛けました。あの頃はまだ未熟で戦いに意味や理由を見出せない愚か者だったんです。ただ悪戯に殺し合いをしてはそれだけが生きてる事を実感させてくれた、そんなくだらない理由です」

 

 

 

「いや!愚か者かどうかとかくだらないかどうかは置いといたとしても、単身で吸血鬼の館に特攻する勇気は凄いですよ!」

 

 

 

美鈴さんの現在からは想像もつかないような武闘派っぷりは兎も角、少なくとも僕ならば関わらない。

全力で逃げ出すだろうし捕まったら即決で土下座する。

吸血鬼に襲われただけでも悲劇的だったのに自分から襲いかかるだなんて 悲劇的を通り越して喜劇的だ。

狂気の沙汰ほど面白いなんて名言が横行する現代だけど正気の沙汰を失ってしまえば僕みたいな弱い人間はひとたまりもないだろう。

 

 

「いやぁ、あれは勇気ではなく無知で無謀なだけですよ。今の私なら絶対に同じ事はできませんね」

 

 

 

「えっ、でもこうして今も生きてるって事は互角とまではいかなくても相当良いところまで渡り合ったとかじゃ…」

 

 

 

「何を言ってるんですか暦さん?相手は吸血鬼ですよ?私なんかがどう足掻いたって敵う訳ないじゃないですか。悲しい程に完敗ですよ」

 

 

 

完敗ーーー完全なる敗北

ならばこの人はどうして今ここに存在しているのだ?

正直なところ、全盛期の伝説の吸血鬼を知る僕としては単身で吸血鬼に挑んだ者が完敗した挙句、無事でいる事がそもそも不思議だ。それどころか使用人とはいえ家族のような距離感で生活しているだなんてーーー

 

 

 

「あぁ…でもこの話はお嬢様には内密でお願いしますね暦さん」

 

 

 

「それは構わないけど…どうしてですか?」

 

 

 

「いやぁ、お嬢様との昔話を人に聞かせると何故かお嬢様の機嫌が悪くなるんですよ。前に咲夜さんに話した時は一週間は口も聞いてもらえませんでしたから」

 

 

 

「成る程…了承しました」

 

 

 

どうやら吸血鬼の不機嫌については万国共通らしい。

僕の時は忍が黙りを決め込んでから会話してくれるようになるまで一週間どころじゃなかったけど。

 

 

 

「でも羨ましいですよ…」

 

 

 

相変わらず雲ひとつない晴れ渡った空を見上げながら美鈴さんは呟いた。

 

 

 

「羨ましいって…何がですか?」

 

 

 

「暦さんもそうですけどお嬢様達のように自分の種族に誇りを持って強く気高く生きる人がですよ」

 

 

 

空から僕へと目線を映しながら、にっこりと微笑む美鈴さんはそう言った。

自分に対する誇りーーー人間である事への、吸血鬼である事への誇り。

それは強弱に問わず誰しもが当たり前に持っていて、誰しもが手放す事はできない物。

だけれどこの紅美鈴という個人に関してはそれがーーー無い。

 

 

 

「自分が何であるかなんて考えたって答えは見つからないし、かと言ってそれが悩みだという訳でもありません。それでも…やっぱりそんな生き方をしている人は見ていて眩しく映るんですよね」

 

 

 

僕は納得した。

納得したと言うかしっくりきてしまった。きっとこの人は惚れているんだと思う。

吸血鬼であるが故に誇り高く、確固たる自分を持って生きるレミリア達のその姿に惚れ込んでいるんだと思う。

闇に生きる吸血鬼よりもさらに暗い闇を生きてきたからだろう、彼女には吸血鬼ですら眩しく見えた筈だ。

 

 

 

「願わくば私もそんな生き方をしてみたかったですが無いものねだりですからね。せめてそんな生き方をするお嬢様達のお力になれれば私は幸いです」

 

 

 

「ならそれはきっと美鈴さんの誇りですよ」

 

 

 

「私のですか?…そうかもしれませんね。でも、どうしてそう思うんですか?」

 

 

「そうだったら良いなっていう僕の…希望です」

 

 

 

僕はこの時、心の中に一人の人物を思い浮かべていた。

 

 

阿良々木月火ーーー僕の小さい方の妹。

あいつだって本当の部分では自分という存在の正解を知らない。

それは僕と忍、後はごく少数の専門家のみが知っている事であり、その正体はしでの鳥という不死身の怪異だ。

自身を正義そのものだと自負しておきながら、正義とは程遠い在り方のそれは、怪異であって人間ではないーーーだけど怪異でありながらも人間として生きている。

そして、僕は思うのだ。

 

 

それが何だ、と。

 

 

 

そんなものが正義ならば僕は正義を否定する、と。

 

 

結局の話、阿良々木月火が人間だろうが怪異だろうが僕の家族である事に変わりはなく、どうしようもなく僕の妹でーーー僕の誇りである事に違いはない。

あいつのためなら僕は死ぬまで死んでやるし、あいつが僕をお兄ちゃんと呼んでくれるなら僕は悪にだって鬼にだってなってやる。

 

 

 

つまりはそういう事。

美鈴さんの種族が何だかわからなかったとして、それに何の問題がある?

美鈴さんは美鈴さんしかいなくて、レミリアにとってもフランにとっても…誰にとっても代わりなんていない。

あの紅魔館の門を守るのは美鈴さんしかいないのだ。

 

 

そんな居場所がある事こそが、美鈴さんにとっての誇りであってほしい。それは心から誇れる物なはずだから。

そして阿良々木月火にとっての僕や火憐ちゃんが阿良々木月火の誇りであってほしい。

その為なら心から誇れる兄であろうと思えるから。

 

 

そんな僕のそうだったら良いなっていう小さな希望。

 

 

 

「希望ですか…なら私は紅魔館の門番としてお嬢様の大切なご友人の希望を無下にする訳にはいきませんね!あの場所にいる事を誇りと思えるような生き方に勤めますよ!」

 

 

 

「そうだと嬉しいです。まあ、それなら手始めに居眠りはやめにしましょう。そのうち解雇されますよ?」

 

 

 

「ぬっ!?そ、それはぁ…天気が良い日なんかはお日様が気持ち良くてですねぇ…」

 

 

 

「それと謎の必殺技の修行も仕事以外の時間にしましょう、うっかり目撃したせいで命を狙われてたら身が持たないし」

 

 

 

「こ、こ、こ、暦さん!!!それは言わない約束ですよ!!!!あの事は早急に忘れて下さい!」

 

 

 

「今晩の戦いで爆裂したら良いですね、メイリンフィンガー」

 

 

 

「…私がヒートエンドしそうです」

 

 

 

 

耳まで真っ赤な美鈴さんだった。

 

 

この後も他愛のない雑談に花を咲かせて僕達は歩き続けた。

戦いに関する話なんて勿論する筈もなく、できる筈もなく…家族の事や友達の事、思い出話や未来の話ーーーそんな何処にでもあって、誰しもが繰り広げているような雑談を交わす。

そして、やはり僕は思うのだ。

この戦いがどれほど凄惨を極め、どれだけの代償を支払おうとも、やっぱり僕は死ねないし、この人達を死なせたくないと。

それはきっと、紅魔館の話をする時の美鈴さんがとても楽しそうに笑っていたからだと思うーーー

 

 

 

 

 

「やあ阿良々木君、やっと来たのかい。そろそろ来る頃だと思って待ちくたびれたぜ。で、今日は例によってまた違う女の子を連れてるんだね。本当に、ご同慶の至りだよ」

 

 

 

「やめろよ忍野、お前はそれを言わなきゃ気が済まないのか。そういうのをいい加減、下衆の勘繰りって言うんだぜ」

 

 

 

「はっはー。今日もまた随分と元気が良いね、何か良い事でもあったのかい?どうもお嬢さん、僕は忍野メメ。察するにお嬢さんは阿良々木君がお世話になっている館の人ってところかな?」

 

 

 

「はい、初にお目にかかります!私は紅美鈴。紅魔館の庭師兼門番を務める者です」

 

 

 

「成る程、こりゃ毒気の抜けた百合っ娘ちゃんみたいな子だね。で、その門番ちゃんと阿良々木君は今日はどういった話で来たのかな?」

 

 

 

一人じゃない時間とは不思議なもので僕達は殆ど時間なんて忘れて気が付いたら博麗神社へと到着していた。

歩けばそれなりの時間が掛かるし、走った時も疲労を覚える程度の距離を感じたけれど、楽しく話しながら歩いてきただけで距離も時間も忘れるとは我ながら単純だと思う。

 

 

そして、そんな僕達を出迎えてくれたのが博麗神社の巫女である霊夢さんではなく、このアロハ野郎だったのは正直驚いた。

 

正確には霊夢さんもいたんだけど

 

 

 

「何よ、来てたの…あの外来人なら部屋にいるから騒がしくしないで適当に用を済ませたら静かに帰ってちょうだい……それにしても眠いし身体が重いわ…寝ても寝ても眠気がとれない…」

 

 

 

と、それだけ告げて奥の部屋に消えていったのだった。

 

 

 

 

「おい忍野、霊夢さんの様子がおかしかったけど何かあったのか?」

 

 

 

「巫女ちゃんの?さあね、僕はおかしいだなんて思わなかったけど。あいにく阿良々木君みたいに女子の動向にばかり目を向けていないから気がつかなかったよ。夜更かしでもしたのかな」

 

 

 

 

「お前の中の阿良々木君はどんな人間なんだよ!まあ具合が悪いとかじゃなければ別に良いんだ。それよりーーー」

 

 

 

「帰りの方法についてかい?」

 

 

 

本当に相変わらずだなこの野郎…見透かし忍野君は今日も健在かよ。

 

 

 

「そうだね、それについては朗報があるよ阿良々木君。結論から言えば、君は無事に帰れる。それもそう遠い話じゃなく割と近いうちに、だ」

 

 

 

「って事は方法が見つかったのか!?」

 

 

 

「まあまあ、そう焦らせるなよ阿良々木君。確かに帰れるけれどそれはあくまでも僕の仕事が終わってからだ。バランサーとして、専門家ーーー怪異のオーソリティとして最後の仕上げが残っているからね。なるべく早く終わらせるつもりではいるけれど今すぐにって訳にもいかないのさ」

 

 

 

「いや、それは僕も同じだからちょうど良いよ。決戦を目前に今すぐ帰るだなんて言われたら流石に判断しかねるところだったぜ」

 

 

 

判断しかねるとは言ったものの、僕の事だからきっと帰る事を諦めて紅魔館と共に戦う事を選ぶだろうけど。

どちらにせよ、その選択を迫られる心配はないようだしこれで今晩の戦いに集中できる。

それだけ聞ければわざわざここに出向いた収穫はあったというものだ。

 

 

 

「決戦か…やる気満々だね阿良々木君は。(ぬか)に釘でも打ってる気分だよ…まあそれも今更なのかもしれないけどさ」

 

 

 

やれやれと言った態度のまま、いつものように火の付いていない煙草を加える忍野はどこか呆れたように溜息をついた。

というか実際に呆れているのだろう。僕という人間がいつまで経っても進歩しない様を散々見せつけられている上に、その都度お約束かの如く相談を持ちかけられているのだから。

そりゃ相手が忍野じゃなく、誰だったとしても呆れたくもなる。自覚している上で進歩しない僕も大概だけど。

 

 

「それよりもだ阿良々木君、今日このタイミングで僕を訪ねてきたのは調度良かった。僕からも君と忍ちゃんに僕から一つだけ忠告しておきたい事があるんだよ」

 

 

 

「僕と忍に?とは言っても実は忍はここにいないんだ。吸血鬼性を上げたからなのか幻想郷だからなのか、影の縛りが自由度を増しててな。ペアリングは切れてないけれどお互いに行動に制限がかかってないってないっていうか…」

 

 

 

 

「それは恐らく後者だろうね。前にも言ったけれどこの幻想郷という隔離世界において怪異の力を下げるような法則は存在しない。故にペアリングされていたとしても忍ちゃんをわざわざ阿良々木君の影に縛りつけておくようなルールが根底から無いに等しい。つまりは影から出ての行動も自由だ」

 

 

 

 

「そんなもんなのか?説明してもらっておいて何だけど僕にはいまいちわからねえよ。兎に角、ここに忍はいないんだ。それでも良いのか?」

 

 

 

「ああ、構わないよ。それに忍ちゃんは僕からわざわざ言わなくても解っているだろうしね」

 

 

 

忍は解っているーーーいや、僕は全くわからねえよ?

というか忍野の忠告なんて本当は聞きたくないってのが僕の本音だ。

こいつが僕に忠告するなんて事は殆どないし、何か伝えるにしても回りくどい言い回しで僕自身に悟らせる事を目的にしているような言い方しかしない。

そんな男がはっきりと忠告なんて言うのだから良い内容じゃない事ははっきりしている。

 

 

 

「とは言っても聞かない訳にもいかないしな…それで忍野、その忠告ってのは何の忠告なんだ?」

 

 

 

「なに、簡単な話さ。確かに僕は幻想郷から元の世界へと帰る方法も持っているし阿良々木君を連れて帰るつもりでいる、親愛なる友人としてね。だけどそれはあくまで友人としての話って事を忘れてもらっちゃあ困るって話だ」

 

 

 

「本人を目の前にして友人とか連呼するんじゃねえよ、気恥ずかしいったらないぜ。それで、その連れて帰るって話のどこから忠告なんて話題が出てくるんだ?」

 

 

 

「やれやれ、君が自分で言った事だろう阿良々木君。命がけの戦いをするんじゃなかったのかい?」

 

 

 

それはーーー確かに言った。勿論、それについては今でもそう思ってる。

二百年もの歳月を費やした恨みがそんな簡単に解決するとも思えないし、ましてや相手は専門家なのだ。

忍やレミリアは負けなどありえないと言い切った所で必勝を約束されている訳ではない。

それは兎も角として、その上で僕に忠告と言うのなら差し詰め僕の生死についてーーー死ぬかもしれない危険性についてだろうか。

 

 

 

「つまり、お前は僕が死んだら元も子もないと…そういう忠告をしてるのか?死んだら帰る事もできないって意味で?それなら戦いなんて回避しろって言いたいのかよ?」

 

 

 

まあ親愛なる友人だなんて言うのだから死んだら後味が悪いってのは僕にだってわかるさ。

それでも僕がここで逃げ出すような選択をしない事は良い加減わかりきっているだろうに。

 

 

 

「死んだら帰れないなんて当たり前の話をするつもりは毛頭ないよ阿良々木君。これでも僕は専門家だ、今更そんな普通の大人が言うような忠告はしないさ。それにそんな忠告なら君は聞かないだろ?阿良々木君がそんな物わかりの良い奴だったら僕だってここまで気を揉んだりしなかったぜ」

 

 

 

火の付いていない煙草を胸ポケットにしまいながら忍野は続けるーーー

 

 

 

「でも死んだらってのは当たらずとも遠からずって所かな。確かに僕の忠告が現実になってしまったならば阿良々木暦という人間は存在しない事になるからね」

 

 

 

「だから何が言いたいんだよ忍野。良い加減僕にも理解できるように説明してくれ。死んだら帰れないなんて忠告じゃないのに僕が存在しなくなるってどういう意味だ」

 

 

 

「限界を超えた吸血ーーーこれでわかるかな?」

 

 

 

気付けばいつもの軽薄な笑みは消えていた。

射抜くような鋭い目線で僕を真っ直ぐに捉える忍野は、どうしようもなく専門家のそれだった。

 

 

 

「幻想郷において一度上げた吸血鬼性は下がらないと僕は言ったね?それが幻想郷のルールであり在り方だ。でもね阿良々木君、たとえ君がどこにいようとも君は君でしかない。君が致死量を超える程の血を忍ちゃんに与えれば言い訳の余地もなく君は死ぬ…そこに残るのは伝説の吸血鬼の眷属である一匹の吸血鬼だ」

 

 

 

春休み、僕は忍野に救われたとはいえ、今でこそ人間としての生活を享受できているとはいえーーー一度はこの身を吸血鬼にしている。

その時でこそ羽川や忍野の助力があって、紆余曲折を経た上であるべき形に収まったけれど、万が一再び僕が吸血鬼へと戻るような事があればーーー

 

 

 

「成る程…さすがの僕でも忠告の意味はわかったよ。つまり僕が後先考えずに吸血鬼性を上げてしまえばーーー怪異になってしまえば僕は元の世界へと帰る事はできないって事だろ」

 

 

 

そしてそれは同時に忍が全盛期の力を取り戻す事を意味する。

鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、怪異の王のあの姿を。

そうなってしまえば元の世界、元の生活なんて夢にも見れないだろう。

 

 

 

「些かその辺の飲み込みは早くて助かるよ。でもね阿良々木君、事はそんな簡単じゃない。ーーー忍ちゃんは仮にも伝説とまで謳われた怪異なんだ、そんな飛び抜けた存在である怪異を果たして幻想郷は受け入れてくれるかな?」

 

 

 

「くれるかなって…もし幻想郷が受け入れてくれなかったらどうだっていうんだよ?」

 

 

 

「簡単さ、阿良々木君と忍ちゃんは幻想郷から追いやられるだろう。そしてそんな君達があの世界に戻ってきた時、そこに無害認定なんてものは存在しない。僕を含め、臥煙先輩が束ねる専門家達も相応な対応を取らざるを得ないだろうね」

 

 

 

「相応な対応ってのは忍を退治するって事か!?そりゃ危険な存在だってのはわかるけどそんな藪から棒にーーー」

 

 

 

「だから事はそんな簡単なものじゃないんだってば。何を勘違いしてるんだい阿良々木君?無関係を装って人の心配をするなんて君は本当に優しいな、優しくて優しくて頭にくるよ。わかってないようだけどその時は忍ちゃんは勿論、君だって討伐の対象なんだぜ?つまり…僕達人類の敵って事さ」

 

 

 

敵ーーー討つべき相手。

確かに僕はいつだって詰めも考えも甘いのかもしれない。

僕がいかに対岸の火事のように考えていようとも、僕が立っているのは渦中の…火中の真っ只中だ。

 

 

 

「あの…私は暦さんや貴方の事は詳しく知りません。ですが二人は仲間なんですよね?なら退治するだなんて物騒な事を言わずに助ける方法を考えようとは思わないんですか!?」

 

 

 

僕のすぐ横で話を聞いていた美鈴さんは微かな怒気を孕んだ声色で忍野に詰め寄った。

同じとは言わないまでも仲間という者に重きを置いて生きている美鈴さんには聞いていて気分の良い話ではなかった事だろう。

 

 

 

「はっはー。門番ちゃんは本当に元気が良いな、何か良い事でもあったのかい?残念だけど僕は助けないよ、人は一人で勝手に助かるだけだからね。それに外の世界にだって阿良々木君の帰りを信じて待ってる人は沢山いるんだ、仲間なんてものを語るなら阿良々木君はそこらへんの事からも目を背けるべきじゃない。目の前の事に必死になるのは構わないけれど目の前だけが全てじゃないんだぜ?」

 

 

 

目の前だけが全てじゃないーーーそんな事は、それこそ今更言われなくてもわかっている。わかり尽くしている。

それがわかっていながら正反対の行動をとってしまうから僕なのだ。

理解はしているくせにそれに伴う行動はできない。人はそんな奴をわかってないと言うんだろうけど、少なくとも僕は無自覚ではない。

自覚的にいつだって正反対を突き進むーーー逆走していく愚か者だ。

 

 

 

「それに僕は今すぐに阿良々木君をどうこうしようって訳じゃない。これはあくまでも忠告なんだからね。結果的に阿良々木君が人間のままで、忍ちゃんが吸血鬼の搾りかすのままで勝利を収めてくれれば万々歳だよ。バランサーとしても友人としてもね」

 

 

 

「貴方に言われなくても私が暦さんを守ります!少なくとも私は暦さんに何も失わせるつもりはありませんし、人は人のまま、吸血鬼は吸血鬼のままであるべきだと思う…ならばそれに全力を尽くすまでです!」

 

 

 

「そうかい、なら力を貸してあげれば良い。僕は僕できちんと阿良々木君を元の居場所へ帰れるように力を貸すからさ」

 

 

 

そう言うと、忍野は畳の上に寝転んだ。

こいつの中では忠告というか所謂大切な話ってやつはこれで終わりなんだろう。

こんなテンションの美鈴さんは勿論、僕だって忍野と雑談に興じるつもりも無いしここらが引き時かな。

というかこれ以上の論争をしたら美鈴さんが武力行使に出かねないしーーー体育会系のデリケートな部分だ。

 

 

「あ、そうそう阿良々木君。これは単なる興味からの質問、言ってみれば雑談なんだけどーーー」

 

 

 

「お前、わかっててやっていないか!?雑談に興じる気がないと思って決断した僕の引き際も考えやがれ!」

 

 

 

実際わかってるんだろうけどさ!

どこまでも見透かしたような、それでいて軽薄なこの男のやりそうな事だ!

 

 

 

「はっはー、まあそう興奮するなよ。簡単な質問をたった一つするだけだからさ」

 

 

 

「あん?簡単な質問って何だよ?」

 

 

 

「こないだ言ってたろ?あの不死身の怪異の専門家、影縫余弦に会ったって。正直な所、彼女に対してどんな印象を受けたんだい?」

 

 

信じられねえ!本当に雑談に興じてきやがった!

それにしてもいよいよ僕に対する嫌がらせだとしか思えねえぞーーー

思い出すだけで物理的に臓器が痛むような話をふりやがって!

 

 

「印象って言われてもな…殆どトラウマみたいなもんだよ。立てば暴力、座れば破壊、歩く姿はテロリズム、それが僕の抱く印象だ。質問てそれだけなのか?つーかこんな事本人には言うなよ!」

 

 

 

「成る程ね、いや貴重な意見をありがとう阿良々木君。心配しなくても僕の口から彼女に告げ口するような事はしないさ。僕からの質問はこれだけだから君は門番ちゃんと帰りなさい」

 

 

 

こいつは一体何がしたいんだよ…雑談どころか意図もわからないような質問だったなーーー

なんて言ったところで僕が忍野の真意を汲み取りきった事なんて一度たりとも無いし、お人好しだとは思うけど必ずしも素直な人間ではないと思う。

詰まるところ忍野の事なんてわからないし考える必要もない。

 

 

 

という訳でーーー

 

 

 

「本当に良かったんですか暦さん?あんな話の終わり方で…」

 

 

 

「良かったんですよ。というかマシな方だと思うくらいだし…」

 

 

 

 

という訳で、僕と美鈴さんは博麗神社を後にした。

勿論、霊夢さんは奥の部屋から出てこないままだったので声もかけずに出てきた。

美鈴さん曰く、博麗の巫女は怒らすと恐ろしい目にあうらしい。

どうして帰りの挨拶をして制裁を受けねばならないのかという疑問は尽きないけれど、いくら僕でも進んで厄災に飛び込みたくはない。

触らぬ神に祟りなしだ。障られたらたまらないし。

 

 

「それにさっきの忍野って男はあれで結構お人好しなんです。人を見透かしたような事ばかり言って、いつも軽薄な笑い方してる奴だけど…嫌味や脅しだけであんな事を言ったんじゃないと思います。だから僕はあいつの忠告をちゃんと守るだけですよ」

 

 

 

それにーーー美鈴さんにはあえて言わないけれど、あいつがあそこまでの忠告をした以上、僕がそれを反故にしたならば容赦しないだろう。

常に平等で中立、ひとたびラインを超えてしまったならばあいつは専門家として仕事をするのだろう。

断言はできないけれど不思議とイメージはできる。

 

 

 

「そうですか…私にはあの人の事はわかりませんが暦さんが言うならそうなんでしょう。…うん!考えるのはやめです!要は暦さんも忍様も、お嬢様や皆が無事なままで勝利すれば良いだけの話!ならば私はそれに力を尽くします」

 

 

 

忍野と話てからこっち、どうにも難しい顔をしていた美鈴さんだったけどどうやら思考を切り替えたらしい。

いや、切り替えたと言うより思考を止めたと言った方が正しいような気もするけどーーーこれも体育会系である火憐ちゃんや神原に良く見られる現象だから今更驚くこともないし、こんな時は逆にたくましく見えるものだ。

 

 

 

「勿論、僕だって誰も失うつもりはないですよ。いや、しかし…やっぱり怒った美鈴さんは怖いですね。さっきなんて勢い余って忍野の事を殺すんじゃないかと思いましたよ」

 

 

 

「いっ!?あははー…私も功夫が足りませんでしたね。常々にこやかに過ごそうとは心掛けてるんですが…面目ない…」

 

 

 

「精神面での修行ってやつですか?まあ、確かに美鈴さんって穏やかに見えて結構短気ですよね。激情に駆られやすいって言うか…」

 

 

ここまで重ね重ね言ってしまえば、心からスポーツに勤しむ人達に申し訳ないのだけれど、どうしても体育会系特有の共通点というか…

競い合うという点において負けん気というものは重要になってくるとは思うけれど行き過ぎた負けん気は時に凶器であり狂気だ。

 

 

 

「ぐっ…確かに我ながら熱くなりやすい部分はあると思いますけど…あんな四方八方から殺気を当てられたら誰だって気が立ちますって…」

 

 

 

 

「はい?えっと…四方八方から殺気って何の事ですか?」

 

 

 

「えっ?あれだけヒリついた殺気に気付かなかったんですか!?それも目の前の男じゃなくて部屋の外から獣みたいな殺気が凄かったじゃないですか!」

 

 

そんな当たり前みたいに言われてもな…世の中の高校生の中で殺気なんてものを感知できる奴が果たしているのか?

あんなもん漫画や小説の中だけで通用する不思議アンテナじゃないのかよ?

 

 

 

「それって霊夢さんだったんじゃないですか?僕達が騒がしくて怒ってたとか?」

 

 

 

「いえ、博麗の巫女とは違う感じだったんですよね…私の能力は『気を使う程度の能力』なのでその辺には敏感ですからまず間違いありません」

 

 

 

「漠然とした能力ですね…なら殺気の正体は誰だったんだろう?」

 

 

 

 

「うーん…まあ、それも誰だって良いじゃないですか!こうやって無事に帰ってこれたんですし!」

 

 

 

無事に帰ってこれない可能性があったのかとツッコミたい気持ちもあったけれどグッと堪える事にしよう。

殺気なんて向けてくる相手は正体が明らかになろうが不明だろうが気分の良いものでもないし、こんなタイミングで新たな敵の出現なんて週間少年漫画の中だけで充分だ。

 

 

 

「さぁ、余計な事は考えずに紅魔館へと帰りましょう!咲夜さんの美味しいご飯が待ってますよ!」

 

 

 

「…それもそうですね!夜に向けて力を蓄えとかないとですし。さっさと帰りましょう」

 

 

 

収穫と言えば微妙な感はあるけれど、少なくとも帰る保証は得る事ができたのだ。

後はただ一つ…勝つ事だけを考えるとしよう。

 

 

 

 

 

決戦まで後ーーー半日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー余談

 

 

暦と美鈴が紅魔館を出発してからしばらくの後、吸血鬼の三名はテラスで紅茶に舌鼓をうっていた。

 

 

 

「冗談抜きにヤバくないこれ!ミスタードーナツとはまた違う味わいのシンプルにして奥深く芳醇な味わい!しつこくなく飽きさせない絶妙な甘味!これがミスタードーナツのショーケースに並んでいたなら儂は迷わず我があるじ様に購入させるね!絶対にさせちゃうもんね!ジーマー!ごいすー!ばいやー!ぱないの!」

 

 

 

キャライズムなんて何処へやら、メイド長お手製のドーナツにご満悦なご様子の忍はすこぶる上機嫌だ。

勿論、忍のリクエストで提供されたドーナツであり遠慮なく召し上がるのは構わないが、余りにも遠慮がないーーーというか品が無い。

 

 

 

「そこまで喜んで頂ければ作り甲斐ごありますわ。おかわりのご用意もありますのでドンドンお召し上がり下さいませ忍様」

 

 

 

傍で姿勢良く紅茶を注ぐのはメイド長の十六夜咲夜。

どこまでも完全で瀟洒な彼女は提供する品から姿勢までが完璧で隙がない。

 

 

 

「のうレミリアよ、我があるじ様とうぬのメイド娘を交換せんか?こんなできた人間ならば三人目の眷属にしても良い!というか眷属にしたい!」

 

 

 

「えっと…いくら忍お姉様でもそれは了承しかねるわ。というかその発言は色々と問題があるでしょうに。昨日のアニメ放送で得た感動が台無しよ?」

 

 

 

「いや、そこでうぬがメタ発言に走るのも色々と問題があると思うがのう…」

 

 

 

「私は暦お兄様が紅魔館に住むなら咲夜とトレードでも良いのに!」

 

 

 

「そんな寂しい事を言わないで下さい妹様、泣いてしまいそうですわ。それに忍様、私はお嬢様にお仕えしてますが眷属にはなってませんよ。今でも普通の人間のままです、どうしてもトレードするなら美鈴を捧げますわ」

 

 

 

どこまでも好き勝手な会話を繰り広げる一同だった。

この光景だけを切り取って見れば、誰が見ても今晩には命掛けの戦いをするなどとは思わないだろう。

 

 

 

「メイリン…あの門番か。のうレミリア、今晩の戦では我があるじ様と組むのはあの門番であったな?」

 

 

 

「そうね、パチェからはそう聞いているわ。それがどうかしたの?」

 

 

 

目の前に出されたおかわりのドーナツを一口頬張ると、不機嫌ではないにしろ真面目な顔で忍は続けた。

 

 

 

「単刀直入に聞くがの、あの門番…そこまで強いのか?」

 

 

 

強いのかーーー

 

 

それは忍が暦を生涯のパートナーとして気にかけるが故にでた質問だった。

吸血鬼の誇りをかけ、過去の清算の為に今回は暦とのペアよりも吸血鬼だけで戦う事を選んだ忍だったが、その内心では暦の事が心がかりでしようがなかったのだ。

 

 

 

「美鈴ね…まあここには部外者はいないし話しても良いかしら。とりあえず言える事は美鈴は強いわよ。相手があのヴィンセント・バフィーだというのならば紅魔館で一番強いんじゃないかしら?」

 

 

 

忍の懸念を他所に、レミリアの口から出てきた言葉は意外のそれだった。

紅魔館で一番強いーーー

それは対戦相手を限定したとはいえ吸血鬼である自分自身や、妹のフランをも差し置いた評価。

誇りだけで生きているような種族である吸血鬼のレミリアがそこまでの評価をするという事は余程の事なのだ。

 

 

 

「ふむ…レミリアがそこまで言うのであれば信用に足る腕前を持ち合わせておるんじゃろ。して、話しても良いとは何の話じゃ?」

 

 

 

「それは私と美鈴の出会いの話よ。忍お姉様が紅魔館を去ってから数十年後、紅魔館の周りで気になる噂が流れはじめたの。それは一匹の妖怪の噂だったわ」

 

 

 

紅茶を一口飲み込むと、レミリアはつらつらと語り始めるーーー

 

 

 

 

「その妖怪は大層な無法者で、誰彼構わずに殺し合いを仕掛けてはその全てに勝利しているような常軌を逸した奴だった。そんな奴が流れ流れて紅魔館の近くに来ているって話だったわ。

勿論、私も紅魔館の主としてそんな妖怪の噂に注意は払っていたし襲撃を受ければ迎え撃つつもりでいたものよ…まあ、そんな思惑は全く意味を成さなかったのだけど。

なんで意味を成さなかったか?そんなの簡単よ。その妖怪は襲撃してくる事は無かったのだもの。そう…その妖怪は襲撃どころかたった一人で、よりにもよって満月の夜に堂々と正面玄関からやって来たわ。

そして、開口一番に『吸血鬼!出てきて私と勝負しろ!』よ?

吸血鬼の時間の中でも最大限に力を発揮する時にわざわざ奇襲でもなければ多勢でもない、単騎独行。

注意を払っていた自分が馬鹿だったのかと眩暈がしたわ。

え?勝負?それは勿論したに決まっているじゃない。仮にも紅魔館の主であり誇り高き吸血鬼の私が逃げる筈ないでしょ?

そしてその勝負こそが予想外だった…とは言っても結果から言えば勝ったのは私だったのだけど。

ただそうね…私が勝つまでに三回は死んだかしら。不死身の吸血鬼にとって死ぬ事は敗北に直結しない。それでも私が勝利を収めるまでにあそこまで殺されたのは後にも先にもあれだけね。

兎に角、私は勝者としてその妖怪を喰らおうとしたわ。

そしてその時ーーー笑ったのよ。

何が可笑しいのか訳がわからなかった私は何故笑うのかと聞いたわ、そしたらその妖怪は『お前のお陰で私は確かに生きていた!礼を言う!』なんて言ったのよ。

これから喰われて死ぬっていうのにね。

そんな馬鹿の極みのような妖怪に私は興味が湧いたわ。元から面白いものには目がないし。

何故、無闇矢鱈と殺し合いを挑むのかと聞けば『それが生きていると実感できる唯一の事だから』と答え、

何故、吸血鬼が住まう館に勝負を持ちかけたのかと聞けば『強い奴がいるならそれだけで戦う理由になる』と答え、

何故、満月の夜に来たのかと聞けば『ベストコンディションのお前と戦いたかった』と答え、

何故、たった一人で攻めて来たのかと聞けば『私には仲間なんていないしずっと一人で生きてきたからだ』と答える。

会話が落ち着いた頃には完全に気に入っていたわ。

だから私はその妖怪に言ったのよ。

勝者である私にはお前の命を好きにする権利がある、ならばその命、この紅魔館の為に使え、と。

その時のそいつの顔ったらなかったわよ?強気で殺意を滾らせた目をしていたその顔が驚愕の色に染まるんですもの。

聞けばそいつは自分の種族もわからないし名前も無かった、生きる意味さえもね。

だから私はそいつに名前と居場所を与えた、その代わり何があっても紅魔館に尽くす事を条件に。

それからのそいつは稀に野生の獣のような激情を見せはするけど、紅魔館には異色とも言える程に穏やかな性格になったものよ。

まあ、そんな運命が見えていたからこそ私はそいつを気に入ったんだけれど。

それがーーーー」

 

 

 

 

「紅美鈴という妖怪よ」

 

 

 

レミリアは再び紅茶を口に含むと話を締めくくる。

黙って話を聞いていた忍もどことなく納得したように頷いていた。

周りのメンバーを見回してみれば

 

 

 

「そうですわ。美鈴はスペルカードルールの弾幕ごっこのような妖力や霊力を使った戦いは不得手ですけど肉弾戦となると…正直なところ私も戦いたくはないですね」

 

 

 

と十六夜咲夜。

 

 

 

 

「私は本気の美鈴と戦った事はないけど…少なくとも昔の私と遊んでいて壊せなかったのは美鈴だけだよ。だから美鈴と組む暦お兄様は心配いらないと思うわ」

 

 

 

とフランドール。

 

 

 

 

「もっとも、こんな話を辺り構わず触れ回られたら私の紅魔館当主としての威厳に関わるから他言は禁じてるんだけどね。でも…あの時の美鈴にもしも戦略があったなら、対吸血鬼の知識や、銀を使う武器術があったならと考えると、少しだけ肝が冷えるわね」

 

 

 

「成る程のう、一見してそこまで強くは見えなかったがそんな裏があったのは驚いたわい。レミリアを三回も殺せるともなればそれだけで充分な実力の証明じゃ。もはや異論は唱えまい」

 

 

 

本気になったレミリアの実力を知る忍だからこそ、その意味するところが十全に理解できた。

忍が抱えていた不安が瞬く間に薄れていく位には。

 

 

 

美鈴の正体が何の妖怪なのか気にならない訳ではないが、そんな事が気にならない程度に頼もしい。

そして、自分が心配していたレミリアがこんなにも頼りになる仲間を手にしていた事が嬉しかった。

孤高に生きる怪異の王であった忍には本来無かったであろう、暖かい感情が胸を満たしていく。

 

 

 

「心配しなくても暦も忍お姉様も死なせないわ、私の誇りにかけてね」

 

 

 

「ふん、生意気を言いおってからに。心配なんぞしとらんわ。儂一人でも余裕なくらいじゃわい」

 

 

 

 

「まぁまぁ、そう言わずに私共もご一緒させて下さい。お邪魔はしませんので」

 

 

 

「私も吸血鬼として他人事じゃないしね!お姉様も忍お姉様も暦お兄様も死なせないよ!」

 

 

 

こうして一同は穏やかなティータイムへと戻っていく。

それは確かに命がけの戦い当日に見られるような雰囲気ではないかもしれない。

自信過剰とも言える行いかもしれない。

 

 

 

それでも、揺るぎない想いの中でこそ繋がった者達だからこそーーー共に命を賭けることができる者達だからこその共有できる時間なのだ。

 

 

 

 

「只今帰りましたー!!!」

「ただいまー」

 

 

 

 

役者は揃った。

 

 

 

決戦まで後ーーー半日。




今年もよろしくお願いします、根無草です!
1ヶ月ぶりの更新ですが安心して下さい!失踪はしてませんよ!笑
年末年始のアホのような激務からも解放されたのでこれからはまた頑張って更新していきますので、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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