東方怪異譚ーLegend of vampireー   作:根無草

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第50話ー開戦ー

幻想郷の西の空に日が沈む。

夏も終わりを告げるような季節なのだ、日没の時刻だってそれなりに早くなってはきている。

 

この幻想郷に来てから三度目の夜。元の世界では週末の休日も終わり、僕の存在しない月曜日の平日が終わろうとしているのだろう。

そして僕にとってはたった三日とはいえ、されど三日ーーー濃密にして濃厚にして濃縮された三日間だった。

 

魔法使いに始まり、巫女、天狗、鬼、河童、蓬莱人、月の民、亡霊、閻魔、覚ーーー そして吸血鬼とその宿敵。

かの歴史に残る武将、三国志にも登場する呂蒙が残した故事に『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉があるけれど、三日間でここまでの出会いがあったならば刮目もしようという話だ。

 

そして今夜はそんな三日間の総仕上げ、物語の最終章になる日ーーー最悪、僕の人生が最終回になる事もあり得る…そんな日。

 

 

 

「すげえ満月…幻想郷って実はかなりの標高なのか?」

 

 

 

見上げればまん丸な御月様。まあ満月なのだからまん丸なのは当然であり、羽川や戦場ヶ原あたりならもっと詩的な感想のひとつも並べ立てそうなものだが、生憎なことに語彙の乏しい僕の口から出る感想なんて有体でありきたりなものでーーーつまりは綺麗の一言に尽きる。とは言っても僕の住んでいる直江津市だってかなりの田舎だし、綺麗な夜空を臨めるものだ。戦場ヶ原と並んで見た星空だってかなりの見ものだった事は記憶に新しい。

しかし、それと比べてみてもこの満月を始めとする幻想郷の星空は格別だと思う。

正直なところ、僕が持ち得る星に関しての知識は無いに等しいけれど、そんな僕の目から見てもこの星空が絶景である事は断言できる。

 

 

 

「そうね、心なしか今夜の月はいつも以上に輝いて見えるわ。まるで私達の勝利を祝福しているようね」

 

 

「そういうのは勝利してから言うもんだぞレミリア。まあ確かに祝福されてると思いたくもなるけどさ」

 

 

「ここまできて弱気な発言をするでないわお前様よ。そんな事では一生童貞のままで過ごす事になるぞ?男ならば腹をくくるがよい」

 

 

「誰が一生童貞だ!僕にはちゃんとした彼女がいるんだ!望みはまだある!」

 

 

 

その彼女が初めての相手になってくれるビジョンは全く浮かばないのが悲しいところなんだけどーーー

それにしても忍の奴、男前な事を言いやがって…他の皆もクスクス笑ってるじゃねえか。

吸血鬼から妖精への出世…男性は魔法使いだったか?箒に跨り空を飛ぶ、男版霧雨魔理沙みたいな僕の姿なんてどこにも重要はねえだろ。

吸血鬼の男子高校生ですら重要の有無は怪しいのだから。

 

 

 

まあ多少の馬鹿話はあったにせよ、僕達は揃って紅魔館の庭に出て夜空を見上げていた。

忍、レミリア、フラン、パチュリーさん、咲夜さん、美鈴さんーーー各々が強い想いを胸に満月を見つめている。

 

腹どころか首をくくられたような気分が無い訳ではないけれど、泣こうが喚こうが後戻りはできない。

後戻りというか後に引けないーーーまあ、引く気もないけど。

 

 

 

「ねえお姉様、今日くらいは『アレ』をやっても良いんじゃないかしら?紅魔館の上だけならあの紅白も見逃してくれるでしょ!」

 

 

 

「おねだりなんて珍しいじゃないフラン。まぁ確かにあの異変以来『アレ』はやってなかったわね…良いわ!今宵の戦には紅き月こそ相応しい!」

 

 

 

レミリアは満面の笑みでその小さな手を天に翳した。

するとーーー

 

 

 

「かかっ!これはなんとも雅な」

 

 

 

「わぁお!久しぶりですねぇ!ね、咲夜さん!」

 

 

「そうね、初めて幻想郷で起こした異変を思い出すわ。パチュリー様も懐かしいのでは?」

 

 

 

「私は別に…まぁ感慨深くなる気持ちはわかるけれどもね」

 

 

どこからともなく、そしてどこもかしかも、赤く、緋く、紅い霧が立ち込めてきてーーーやがて紅魔館の空を覆い尽くした。

その様は薄くて紅いフィルターを通して見たような景色。つまりは一面紅く染まった夜空がそこには広がっていた。

なんつーか、すげえ怖い!全く目に優しくねえ!

 

 

 

「紅霧異変…私達がこの幻想郷において起こした異変であり、この紅い霧はその異変で私が幻想郷の空に広げたものよ。もっとも、今日は紅魔館の上空のみだけど」

 

 

 

「一面紅の世界ってのは見慣れないからな…言葉もねえよ」

 

 

 

言葉もないっつーか挨拶に困る。

どんな内容の異変かは知らないけど…どれだけとんでもねえ異変を起こしやがったんだよこいつら。

これじゃ安眠もできねえーーーって、吸血鬼は日中に眠るから関係ないのか。

 

 

 

「でも、なんだってこんな霧を出したんだ?これじゃ吸血鬼としての力を発揮しきれないんじゃないのか?」

 

 

 

月光が力の源ならば、それに対してどれだけ薄かろうとも影をさすような事をして大丈夫なのか?

 

 

「ふふ、スカーレット家の吸血鬼は紅い月の下が一番力を発揮するのよ。勿論、忍お姉様に都合の悪い影響は出ないわ」

 

 

「スカーレット…確かに赤だもんな」

 

 

安直な気もするけれど、怪異は名前が重要だって話は忍野に散々聞かされたしな。

名前に紅を関する吸血鬼ならば紅い月が何よりの力になるのも頷ける。

 

だとするならばこの状況こそが最高のコンディション。

先程までとは打って変わり、そこに広がる紅い夜空は、どこまでも異質で、異常で、異彩を放つーーー怪異の世界。

これを持って戦闘態勢は万端。万難を排して臨めるという事だ。

まあ、どんなに万難を排して臨もうが艱難辛苦の権化である僕には関係ないけれどーーーそれでも舞台は整った。役者も揃い踏み、後はそこで舞うのみである。

 

 

 

そして突如、真紅の世界は真っ白な閃光でもって塗りつぶされた。

目を覆いたくなるようなフラッシュにも似た眩しい光ーーーそれはあの夜、奴等が襲来した時と全く同じ光であり、色に似合わずどこまでも黒い意思で発せられた光だ。

 

 

 

 

「こんばんわ…愚かな吸血鬼とそのご友人の皆さん」

 

 

 

眩むような光が収まり、閉ざした目を開けてみればそこには件の三人組ーーーバンパイヤハンターの三人組が立っていた。

三日ぶりに見るその姿は、やっぱりどう見ても人間で、そしてどうしようもなく怪異染みている。

 

 

 

「はっ!あれだけ言ったっつーのに馬鹿みてえなツラして全員残ってやがるとは…いよいよ救えねえ奴等だな!テメェ等全殺し確定したぞ」

 

 

 

「しょうがないよヴィンセント、いつの世も悪に加担する愚か者はいるものさ。それについて救えないって意見には僕も賛成だけどね」

 

 

 

「こちらも呆れて言葉も出んわ、素直に逃げておれば可愛げもあるものの懲りもせずにまた殺されにやって来るとは、うぬ等は真性のマゾヒストか?」

 

 

やはり攻撃的で暴力的な物腰のヴィンセント・バフィーと客観的で楽観的なバン・ブラハムに忍はあくまで強者としての威厳をもって対応する。

本来ならばヴィンセント・バフィーの口上の相手は僕が務めなきゃならないんだけど…そこは目立ちたがりな忍が黙ってないよな。それにしてもマゾヒストって…そうそう、言い忘れていたけれど現在の忍は造形にして僕と同じくらいの年齢まで成長している。

本来なら初日の吸血で姿は変えられたらしいけれど、レミリアやフランとの距離感が丁度良かったらしくてついさっきまでは五百九十八歳児なルックスだったのだ。それが見事に成長して気品なんかを纏ったものだからマゾヒストなんて単語を用いて挑発なんてしたら女王さまにしか見えねえ。何より残念なのが忍本人が女王さまの称号を気に入るだろうという事実なんだけど。

 

 

 

「残念です、あれだけ忠告したのにも関わらずこうして多くの無関係な者が残ってしまっている…吸血鬼専門のハンターとして吸血鬼以外を手にかけるのはしのびありません」

 

 

 

紳士的でありながら底が見えない程に黒く染まった男。三人組のリーダー、ブラム・クルースは呟いた。

 

 

 

「ですが、こうなってしまっては仕方ありませんね。世界の平和の為に吸血鬼に加担する者は危険因子として処分させて頂きます」

 

 

 

「ふっ、相変わらず良く喋るじゃない。飛んで火に入る夏の虫とは言うけれど、二度も死にに来るような虫ケラも珍しいものだわ。ほら、消える前に沢山喋っておきなさいな」

 

 

余裕のブラム・クルースに対して更に余裕の返しをするレミリア。

腹の探り合いというか、挑発の応酬。既に戦いは始まっているかのような空気が辺りに立ち籠める。

 

 

 

「その虫ケラに殺されかけたのは貴方でしょう?今日は虫の息では済みませんよ、確実に息の根を止めますのでそのおつもりで」

 

 

 

「過去に起きたたった一度の奇跡に縋り続ける…本当におめでたいものね、同情すら覚える。ま、それはどうだって良いわ。それよりも」

 

 

 

「それよりも、何ですか?」

 

 

 

レミリアは凄惨な笑みでブラム・クルースを指差した。

 

 

 

「貴方達ーーー()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

瞬間、先頭のブラム・クルースの後ろにいた筈のヴィンセント・バフィーが轟音と共に吹き飛んだ。吸血鬼性が最高潮に達している僕には何が起きたかしっかりと見えていたけれど、結構本気で死んだんじゃないかと思う程の勢いで。

そしてそんな轟音の余韻が残る中、一匹の妖怪が吠えるーーー

 

 

 

「二度に渡る紅魔館への侵入、門番として見逃せませんーーーここで排除する!」

 

 

見惚れる程、見蕩れる程に凛々しい姿。紅魔館の庭師兼門番ことーーー紅美鈴。

その一撃は標的であるヴィンセント・バフィーを遥か後方へと弾き飛ばし、見事に第一ミッションである戦力の分断をはかってみせた。

 

 

「あぁーあ、派手に飛んだねぇバフィー。油断してるからだよ」

 

 

「油断してるのは貴方でしょ?余所見は厳禁ですわ、貴方の相手はこちらです」

 

 

そして吹き飛んだヴィンセント・バフィーを呑気に眺めていたバン・ブラハムの元には無数のナイフが襲い掛かる。

出処は勿論メイド長である十六夜咲夜さんであり、亡霊とはいえ人の造形である相手に躊躇なく刃物を投擲する様は戦慄しないでもないけれど、バン・ブラハムもその場から後退する事を余儀なくされた。

これで相手戦力は三分断された訳であり、各々が各々の戦場を確保した。

そして僕の期待とは裏腹に、どうやら勝負はこれからのようでーーー

 

 

 

「面白れぇ…おいクルース!バン!この女は俺がブチ殺す!手ぇ出すんじゃねえぞ!」

 

 

 

死なないまでも重傷は免れないであろう勢いで飛んでいったヴィンセント・バフィーは、傷ひとつ無い姿で立っていた。

 

 

 

「また熱くなっちゃってるよ、仕方ないなぁヴィンセントは。まぁこっちの相手は僕とヴィンセントが請け負うからクルースは先に吸血鬼の相手をよろしくね」

 

 

 

そしてあれだけの数のナイフをいとも容易く回避し、やはり涼しげな笑みを浮かべたまま当たり前に立っている。

 

 

 

 

「あれで無傷とか…どうなってんだよ」

 

 

 

どうなっていようとも無傷なものは無傷だし明確な勝算なんて無いけれど、火蓋は切って落とされたのだ。僕もいよいよ行くとしよう。

退路なんて最初から無かったけれど、進む道はいつだって一つしかないけれど、いつだって臆病な僕はここまで追い詰められてやっと足を踏み出すーーー

 

 

 

「待てよお前様、使え!」

 

 

 

「なんだよ忍…って、うおっ!危ねえ!!」

 

 

 

忍の声に振り返ってみれば、抜き身の日本刀が僕めがけて飛んできた。身体を捻ってギリギリかわしたけれど後ちょっと遅かったら僕が愉快なオブジェになってるところだ!

つーかこれで二度目だぞ!そんな渡し方でキャッチできる奴なんて漫画やアニメじゃねえんだから実際いる訳ねえだろ!僕はどこぞの無刀の剣士じゃねえんだからな!

危うく死ぬかもしれない戦いを目前にしてまさかの味方に殺されるかもしれなかった僕は地面に突き刺さった刀を引き抜くーーー【妖刀・心渡】を。

 

 

 

「いつかの採点では六十二点じゃったかの。今宵は百点満点な戦振りを期待しておる」

 

 

 

振り返って見た忍は凄惨で、どこか優し気に微笑んでいた。

ったく…危うく僕を刺殺しかけておいてそんな顔するんじゃねえよーーー百点満点を取りたくなるじゃねえか。

 

 

 

「ばーか、お前は未だに僕がどんな奴かわかってねえのかよ?僕は阿良々気暦だぜ?百点なんて取れねえさ。僕に取れるとしたらーーー」

 

 

 

さあ行くか。百点は無理でも掴み取らなきゃいけない明日の為にーーー

 

 

 

 

「九十九点が関の山だ!」

 

 

 

 

 

 

どこまでも紅い満月の元ーーー開戦。




多少短くはありますが、やっとこさバトルまで辿り着きました…強引な感はありますが、このままグダグダと続けてもダレそうだったのでご容赦ください。
さあーて、阿保のようにばら撒いた伏線を回収するぞー!(遠い目)

ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!
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