東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
鞘も柄もない抜き身の日本刀ーーー妖刀・心渡を構えて僕は美鈴さんの横へと並んだ。僕達が見据える先には両手両足に銀色の甲冑をはめ、あらゆる全てを見下すかのような下卑た視線をこちらに向けるヴィンセント・バフィーがいる。
過去に吸血鬼退治の専門家と戦ったーーーというか、忍野に言わせればゲームであり、取り引きをした僕だけど、その時とは一味も二味も違う緊張感ーーーいやさ恐怖感が泉のように込み上げてくる。
実際問題、あの時は命をかけていたとはいえ原則的に殺し合い禁止だった。僕の身体も完全な吸血鬼だったし、戦いとはいえルールもあった。
今と比べてしまえば根本的に、根源的に状況が違いすぎる。異なっているーーー
「はっ!どうしたよハートアンダーブレードの眷属!腰が引けてんじゃねぇか。まさかテメェ…ビビってんのか?」
まるで悪態でもつくように、実際、態度は極めて悪いんだけど、その他大勢である自分以外の全てを纏めて威圧するような声と悪意を持ってヴィンセント・バフィーは笑ってみせる。
「今は眷属とかそんなんじゃないしビビってなんかいねえよ」
いや…ビビっていないというのは嘘だ。
僕はこいつの、ヴィンセント・バフィーの言う通りビビっている。心底怯えているし震えている。
こんな時に強がりを言ってもしょうがないとは思うけど、僕は大学受験を控えた普通の男子なのだから。ビビらない方がおかしいしどうかしている。
怖いものは怖い。恐怖心に素直になって何が悪いという話だ。
ま、だからと言って尻尾を丸めて逃げ出す訳にもいかないのが人間であり、恐怖心に素直になるのも人間であり、そしてーーー
「僕はただ、膝は笑っているし、呼吸も整わない。心臓は早鐘をうってて冷や汗も止まらない、つまりーーーベストコンディションだ」
恐怖心に立ち向かうのもまた、人間だろう。
「はっ!そうかよ。そりゃあ大層なこった…つまり準備万端って事だよなぁ?ならとりあえず逝っとけや」
軽くステップでも踏むようにヴィンセント・バフィーが前傾に踏み込むと、弾丸のような勢いで僕へと肉薄してくる。
とはいえ、今の僕は春休みと変わらないレベルに吸血鬼化しているのだからその動きを目で追えない訳でもないんだけれど、どこまで躊躇なく攻撃に移れるんだよこいつ。
仮にも日本刀を持った相手にここまで開き直った特攻ができるというのが既に常軌を逸しているだろ。
「させませんよ」
見えているからといって必ずしも適切な対応ができる訳でもなく、迫り来るヴィンセント・バフィーに刀を構える事しかできないでいる僕の前に美鈴さんが割って入る。
その剛拳を受け流すようにいなし、組み合うように動きを止めてみせた。
実際のところ割って入ったなんて言ったけれど、その動きは何ていうか自然で流れるようで、まるで最初からそこにいたかのようなーーー達人てすげえ!って動きだ。
実際、迫り来るヴィンセント・バフィーの動きは見えていたのに美鈴さんの動きは全くわからなかったのだから。
「そういやぁもう一匹いたっけなぁ。さっきのお礼もし忘れてたぜ、先にくたばっとけ!」
出した拳を引っ込め、今度は美鈴さんへと繰り出すヴィンセント・バフィー。
考えてみれば容姿で美鈴さんよりもずっと幼いチルノをあそこまで痛め付けたこいつが女性への暴力に抵抗を持つとも思えないけれど、その残虐性と遠慮の無さにはどうしても嫌悪感を拭いきれない。
しかし
「お礼は結構、熨斗をつけてお返しします。ただーー貴様はここで粛清する!」
またも攻撃をヒラリと受け流し、その懐にスルリと滑り込んだ美鈴さん。
ヒラリとかスルリとか、そんな曖昧でボンヤリとした表現しかできないのは僕の表現力の問題なのだけど、本当にそう言うしかないような動きだったんだからしょうがない。
そして、一言発したかと思うと地鳴りのするような踏み込みと共に肩の辺りを使ってヴィンセント・バフィーを吹き飛ばした。
つーか今の技って確かあれだよな?
ゲームとか漫画でしか見た事がないけど発勁っていうんだっけ?八極拳だったはずだけどーーージョンス・リーやアキラ以外であんなのできる人っているのかよ。
「ふぅ…怪我はありませんか暦さん?」
「おかげさまで…というか凄いですね美鈴さん。今のも必殺技ですか?」
「必殺というにはちょっと違いますかね、本来は防御破壊の技ですし。日々の功夫の賜物です!さてーーー」
残心を事欠かないのが達人の振る舞いなのだろう。
僕を気にかけてくれたと思えばその視線は鋭くヴィンセント・バフィーへと向けられた。
「おぉ、凄え威力だな。テメェ、極東の格闘技を使うのか?」
相当な威力で飛んでいった筈のヴィンセント・バフィーは、まるで何事もなかったかのように服に付いた土埃を叩きながら歩いて向かってくる。
美鈴さんも美鈴さんで、そのノーダメージっぷりは予めわかっていたかのように冷静さを欠いていない。
僕だけが驚きの連続でアタフタしている。
「私はあらゆる拳法を学んでいますから。弾幕ごっこならいざ知らず、徒手空拳において貴方のような族に遅れをとるわけにいきませんよ」
「はっ!言うじゃねえかよ。ま、確かに言うだけの事はあるんだろうぜ。鬼にはちょっと届かねえけどな」
鬼ーーー恐らくは萃香の言っていた喧嘩の事だろう。
ただ存在するだけで強く、靭く、最強である種族。
そんな鬼を目の前に喧嘩をしたというのだからこいつらだって大概だけど、だからと言ってそれで美鈴さんが弱いという事にはならない。
鬼がどれだけ強かろうと、吸血鬼がどれだけ不死身だろうと、美鈴さんが強いという事実には変わりないのだから。
「褒めてくれ光栄です。できればそのまま退散してくれればありがたいんですけどね」
「おいおい!冗談だろ?やっと楽しくなってきたんだ、もっと遊ぼうぜ」
「ですよね…だと思いました。ま、安心して下さい、こちらも元よりーーー貴様達を帰すつもりは無い!」
あの夜、美鈴さんと模擬勝負を行った夜を思い出す。
僕が土下座する直前、美鈴さんは確かに目の色が違った。それはどこまでも獰猛で猛々しく、どうしようもなく怪異的な眼。それこそが彼女の本質なのかもしれないけれど、今の美鈴さんはまさにそんな眼をしている。
そしてそんな美鈴さんは今は味方なのだ。僕だって守られてばかりという訳にはいかない。
初弾こそ何もできなかったが、気を取り直して再び刀を構える。
「あー、でもその前にハートアンダーブレードの眷属」
再び交戦するかと思えばヴィンセント・バフィーは気だるそうに僕へと告げる。
「テメェはもういいや、どっか行っちまえよ。それが嫌なら隅っこで座って見てろ」
「…は?」
どっか行け?隅っこで座って見てろ?どういう事だ?
僕がいれば状況は二対一だし数の有利はこちらにあるけれど、こいつの口振りってそう意味じゃないだろ。
その言い方はまるでーーー
「わかんねぇか?邪魔なんだよテメェは」
「ふ…ふざけんなよ!お前達が何のつもりで僕達を襲ってくるかは知らねえけどな、僕だけがここから逃げるわけないだろ!これは僕の問題でもあって僕の責任でもあるんだ!」
幻想郷にこの三人組を侵入させてしまった責任。それによって負わなくても良い筈の被害を負ったチルノや天狗達ーーーそして紅魔館の危機。
それに対して僕が何の責任もとらず逃げ出すなんてあって良い筈がないだろ!
「立派なこった、そんなんだからテメェは吸血鬼の眷属なんかに成り下がっちまうんだよ。良いか?俺が言ってんのはテメェみたいな雑魚虫がいたら邪魔だっつってんだ。立派な言葉は見合う実力を持ってから吐きやがれ」
「邪魔だとか実力だとか関係ないだろ!お前達に忍や紅魔館の人達は殺させない、それだけだ!」
「面倒くせぇな…なら聞くけどよ、テメェの武器はその
そう言われて僕は手元の刀にーーー妖刀・心渡に眼を落とす。
それが異形のものであるならば問答無用で切り捨てる、初代怪異殺しが文字通り骨身を削って、その血肉でもって作った吸血鬼にしか扱えない刀。
相手が怪異ならばかすり傷ひとつが致命傷になり得る忍野忍の虎の子ブレード。
「この刀が何だっていうんだよ」
「わかんねぇか?その辺の三下怪異なら兎も角、俺達は一流のハンターだ。いわば戦闘のプロフェッショナルだ。ハートアンダーブレードならまだしもテメェみたいなクソ素人がどれだけ振り回したところでそんなクソ長ぇ刀は百年経っても俺には当たらねぇんだよ。それにーーー」
より一層、残忍な笑みを浮かべてヴィンセント・バフィーは続ける。
「万が一、その刀がテメェの大切なお仲間さんに当たったら…どぉすんだ?」
失念していたと、そう認めざるを得ない。
そうだ、そうだよーーー心渡はあらゆる怪異を切り殺す必殺の刀。
つまり、僕が刀を振るった先に美鈴さんがいたならばーーー心渡が僅かでも美鈴さんに当たってしまったならばーーー
「大丈夫ですよ」
不意に美鈴さんが僕の肩を優しく叩いた。先程までの鋭い眼が嘘のように優しい眼をしている。
「私達は暦さんがここで戦ってくれる事を邪魔だなんて思いません。むしろ見ず知らずの紅魔館の為に戦ってくれる事を感謝しています。ですから恐れないで下さい、私は味方の攻撃で命を落としたりはしない」
恐るな、そう言う美鈴さんの言葉はどこまでも力強く、どこまでも僕の心を安心させた。
不思議と心渡を握りしめていた手の震えも止まる。
「これも…『気を操る程度の能力』ですか?」
「え?…ふふっ、そうですね。暦さんには勇『気』を注入しました!」
勇気ーーーそれも気のひとつだと言うのなら、僕に足りない『気』なんてどれだけあるかわからねえよ。
勇気、やる気、根気ーーーこの戦いが終わったら美鈴さんに注入して貰うのも良いかもしれないな。
そう、この戦いに勝利したならば。
「ったく…結局は消さなきゃなんねぇってか。面倒クセェことこの上ねぇ。なら先ずはハートアンダーブレードの眷属から退場してもらうぜ」
「そう都合良くできますかね?生憎ですが二対一ですよ」
「はっ!できるできないじゃねぇ、俺がするっつったらーーーするんだよ!」
再びの特攻。
余程の自信があるのか、それとも馬鹿なのかーーー恐らくは前者。宣言通り僕に向かって一直線に向かってくるヴィンセント・バフィー。
でも今度は僕も固まってはいられない、心渡を上段に構えて迎え撃つ。
「だから当たらねぇつってんだろ!」
「だから関係ねえっつってんだろ!」
射程に入った瞬間、吸血鬼の全力をもって心渡を振り下ろす。
勿論、そんな単調な攻撃が当たるとは思ってはいない。
ヴィンセント・バフィーは身体を半身に捻って心渡をかわすと、僕へとその拳を繰り出す。
二メートル近い長身の日本刀に比べて相手は身体そのものが武器なのだ、小回りや手数では勝負にならない。
つまり刀を振り下ろした僕は隙だらけでされるがまま、場合によっては一撃必死の場面な事だろうーーーそう、僕が一人だったならば。
「だからーーーさせないと言ってるでしょう!」
横合いからの一撃、それは僕へと殺意を一心に向けていたヴィンセント・バフィーにとって意識の外からの攻撃。
美鈴さんによる後ろ回し蹴りがヴィンセント・バフィーの横胴へと突き刺さーーーらなかった。
「甘ぇんだよ!ぶっ飛べオラ!」
受けた蹴り足をそのまま脇腹へと捕まえ、美鈴さんの足を抱えて巻き込むように投げとばす。まるで理合なんて感じさせない野生的な反撃ーーー攻撃を食らう事を前提にしているかのような躊躇いのなさ。
その投げというのも美鈴さんの使うような武術に則った動きとは違う、乱雑で力任せに行われる純粋な暴力ーーー
「め、美鈴さん!」
「余所見してんじゃねぇぞ雑魚虫が!」
凄まじい勢いで地面へと叩きつけられる美鈴さんも勿論心配ではあるけれど、まずは目の前の問題をどうにかしなければ。
一瞬、美鈴さんの方へと視線を切っていた僕が再びヴィンセント・バフィーを見ると眼前に銀色の塊が迫っている。
「ーーーうおおおおおおおおお!」
一瞬の出来事を吸血鬼の視力で無理矢理飲み込んで、何とか心渡を振るう。
今の僕なら相手の攻撃が届く前に反撃も間に合うだけの力があるのだ。今度は上から振り下ろすよりも避けにくいであろう横薙ぎの一閃、しかも相手は攻撃のモーションに入っていて必中のタイミングだろ!
「はっ!トロくせぇんだよ!」
刹那、ヴィンセント・バフィーを僕は視界から見失ったーーーそして
「痛ってぇえええ!!!」
気が付いた時には僕の左脇腹に焼けるような痛みが走りその場に膝をつく。攻撃を受けた部分は焼けるような痛みと言ったけど、実際に火が吹き上がった。内臓はミキサーにでもかけられたかのように悲鳴をあげてる、瞬く間にバッドコンディションに仕上がってしまった。
つーか今の僕は恐らく頭を吹き飛ばされても死なないくらいに不死性が高い筈で、こんな打撃の一発や二発、ダメージにもならないはずなのにーーー回復はおろか、一向に収まる気配がしない!そして苦痛は形となって排出される。
「うっ…おえええーーー」
燃え上がる脇腹の火を消すために必死に被弾箇所を手で押さえていると猛烈な吐き気が込み上げてくるーーーそして、吐き出した吐瀉物は真っ赤に染まっていた。
今時の少年漫画でも見かけないような絵に描いたような吐血。そういえば僕が幻想郷に来たきっかけも漫画の主人公だったっけーーー我ながらこれのどこが主人公だよ。モブキャラでももう少しマシな扱いなんじゃねえか?こんなんだから八九寺にブキャラ木さんだなんて呼ばれるんだーーー
「おら、死んどけや小僧!」
って、そうだった!現実逃避のようにどうでもいい回想をしていて忘れてたけど今は戦闘中だ!それも相手は吸血鬼専門のハンターなのにーーー相手が膝をついたくらいで手を休める訳がないじゃないか。
案の定、苦痛と吐き気に耐えながら視線を上げれば僕の顔を目掛けてヴィンセント・バフィーの蹴り足が迫ってくる。
今の僕はそれどころじゃない状態だけど、こんな蹴りを顔面に食らったらそれこそ死ぬ。不死身でも確実に死んじまう!
「がっ!ぐああああああ!」
脇腹を抑えていた左手を無理矢理に顔の前へと突き出してなんとか蹴りを防御するーーーが、吸血鬼にとって銀製の武器で攻撃を受ければそれはどこに当たっても致命傷。
防御したかに見えた僕は凄まじい勢いで後方へと吹き飛ばされる。そして蹴りを受け止めた左腕はやはり燃え上がった。太陽に照らされた吸血鬼のように轟々と焼いては再生するを繰り返すーーー
「熱いっ!熱いいいい!ぎゃああああ!」
「暦さん!」
地面に衝突する寸前、先に弾き飛ばされていた美鈴さんに受け止められた。
いや、実際は燃え上がる左腕の方が大問題で地面に叩きつけられるダメージなんて問題じゃないんだけどーーー
「門番娘!我があるじ様の左半身を消し飛ばせ!」
この声はーーー忍!ってあの野郎、今とんでもねえ事を言わなかったか!?
ふざけんな!と、苦言を呈したいところだけど今は呼吸をするのに必死で声すら出せない。まさか美鈴さんも間に受けたりしねえだろうな!?
「忍様!?で、でもーーー」
「良いから早くせんかっ!グズグズしておれば死ぬぞ!」
「~~~っ!南無三!暦さん、すいません!『星気・星脈気転弾』!!!」
間に受けやがった。
ここにきて僕を殺すつもりかよ!介錯でも気取ってるのか!などと、文句は尽きないけど相変わらず僕の口からは呻き声しか吐き出されない。
そして霞む視界で美鈴さんに止めてくれとアイコンタクトを送ろうとした僕が見たものはーーー虹色に輝くこれまで見た中でも最大級の弾幕だった。そしてその弾幕は勿論ーーー
「がああああああ!痛ってえええ!ふざけんなよっ!死んだらどうすんだああああ!!!」
その巨大な弾幕は何の慈悲も情もなく、当たり前に僕の左半身を消し飛ばした。
直撃の瞬間、熱いような痛いようなーーー形容しがたいありとあらゆる苦痛が僕を襲う。
やっと出せた声は時既に遅く、僕はこれで確実に死んーーーーー
「うぬは阿保か!銀の攻撃をああも馬鹿正直に受け止める吸血鬼があるか!」
声を追って視線を向ければ心渡を手に今もブラム・クルースと戦闘中の忍の姿が。その周りにはそれぞれに異形の武器を手にしたレミリアとフランも交戦中だった。
つーかそんな状況で僕の殺害を目論んでやがったのかこの残虐非道幼女(今は幼女じゃない)は!
「ふざけんなよ忍!こんな怪我したら僕はもう死んだも同ぜ…ん?」
大怪我とは言ったけど…怪我が、ない。
いや、正しく服は消失しているけれど服と一緒に仲良く消し飛んだ筈の左半身は確実にここに存在している。それどころかヴィンセント・バフィーによって付けられた傷さえも綺麗に消えていた。
「うぬの言う春休みとやらを思い出せ!今回は荒治療じゃったがそう何度もできるものではないぞお前様!」
「あ…」
そうだった。銀製の武器でついた傷は如何に伝説の吸血鬼の不死性を持ってしても中々治癒しなかったのだ。
事実、当時の忍の攻撃で頭部を爆散させても次の瞬間には再生していたあの時だって、エピソードの十字架で受けた傷は異常に再生が遅かったーーーつまり美鈴さんの攻撃で傷の上書きをすることによって、銀でついた傷よりも広範囲の肉体を消失する事によって、不死性を無理矢理に発現させたのか。確かにこれは荒治療だ。
一瞬、本気で忍に殺されるもんだと思ったぜ…
「あ、あの…暦さん?生きてますか?」
「え?ああ、なんとか再生しました。嫌な役回りをさせちゃってすいません美鈴さん」
美鈴さんが鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっちゃってるよ。まあ無理もないけど…
しかしこんな応急処置ができるのも数は限られる。今の僕は春休みとは違って限りなく吸血鬼というだけで本質は人間だ。殺し続ければ、殺しきってしまえば、死ぬまで殺せば、いずれ死ぬ。
今は半身を消失しても即座に再生しているけれど、何度も繰り返していれば結果は火を見るよりも明らかだ。というかもう火は見たくない。
「はっはっはっ!すげぇ化物っぷりだなクソガキ。さすがはハートアンダーブレードの眷属だ、そんな不気味な化物のクセして未だに自分を人間だと言い張るとは恐れ入るぜ!」
ヴィンセント・バフィーは腹を抱えて笑っていた。少なくとも一度は確実に死んだ僕の事を心底面白そうに。
「笑うな貴様!暦さんは断じて化物なんかじゃない!」
激昂した美鈴さんが叫んだ。化物じゃない、とーーー
「暦さんは心優しい人だ!人間だ!貴様のような醜い心を持った者こそよっぽど化物だろう!」
「はっ!心?心ねぇ…今の俺が化物っつーのは特に否定しねぇがな、じゃあ半身消し飛ばされて次の瞬間にはケロっとしてるそこのクソガキは、人間なら死んでるダメージでも死なねぇそこのクソガキは、人間離れしてても人間なのかよ?元人間として言わせてもらうけどよぉ、それは立派に化物だ。とても人間のカテゴリーにゃ収まらねぇよ、怪異の類いだ」
「黙れ!それ以上の無礼は私が許さない!まだくだらない戯言をぬかすならーーー」
「もう良いんですよ美鈴さん…それ以上はやめて下さい」
「暦さん!?」
今にも飛びかかりそうな勢いの美鈴さんを僕は制止した。そうせざるを得なかった。
僕のために怒ってくれている美鈴さんを、僕はこれ以上見ていられなかったのだから。
僕を化物だと言う元人間、そして僕を人間だと言ってくれる妖怪ーーーこの構図は賛否両論だろうけど、それでも僕はこの議題において誰かに庇われてはいけないと思う。
忍の存在を含めて、あの春休みに起きた全てのあれこれは僕の責任であり、僕が一生かけて背負っていかなければいけない事だから。だから、僕みたいな意志の弱い奴が誰かに庇われてしまえば甘えてしまいたくなる。縋りたくなる。逃げてしまいたくなるーーー
それは、それだけは駄目だ。絶対に許されない事なのだ。
だから美鈴さんにこれ以上、僕の事を庇わせてはいけない。美鈴さんに僕の責任を押し付けているようで…耐えられない。
「おいヴィンセント」
「あ?なんだよ化物。馴れ馴れしく名前呼んでんじゃねぇよ、殺すぞ」
ま、殺しても死なねえから化物なんだけどな、とヴィンセント。
それでも構わず僕は言う。自分の口で。
「僕は人間だよ。僕は人間で化物はお前だ。僕は殺されないし誰も殺させない、消えるのは…お前だヴィンセント」
僕は人間を諦めない。
僕を、こんな僕を人間として慕ってくれている数少ない僕の友人や恋人にかけて。
そして、僕を人間に戻そうと命を懸けてくれた一匹の吸血鬼にかけてーーー
「そうかいそうかい…んじゃ、場が白ける前にもういっちょ殺し合うかぁ!」
ガキィンと両拳の銀を叩き合わせ、戦慄するような笑みを浮かべるヴィンセント・バフィー。
確かにそうだーーーこれ以上の議論は意味を成さない。これは論争ではなく戦争なのだから。
「来ますよ暦さん。油断しないで下さい、さっきみたいな応急処置は私も正直ごめんですからね」
「いや、それは僕もごめんですよ…それよりも美鈴さん、少し話を聞いて下さいーーー」
心の中で僕は礼を言った。
他でもない宿敵、ヴィンセント・バフィーに。お前のおかげで頭も冷えたし色々と思い出した。
そして礼を言うと共にこう付け加えようーーー
やっぱり、消えるのはお前だよ。
お久しぶりです、根無草です!
長いこと空いてしまいましたが開戦しましたσ(^_^;)
展開としては暦・美鈴戦、咲夜・パチュリー戦、吸血鬼戦を分けて書いていくつもりですのでよろしければ今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!