東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
成長はいつしか老化へと変化し、進化はいつの頃からか衰退へと変貌する。そんな当たり前のレールから外れた一人の人外が目の前で不敵に笑った。
「ふふ…やはりこうなりましたか」
そいつはまるでそれが予想通りの出来事であり、予定調和のように語る。
そして私はそれがたまらなく気に入らないーーー未だ完全ではないにしろ、運命を操る事を己の能力としている身としては聞くに愉快な話ではない。
ましてや吸血鬼の貴族たるスカーレット家の主の私に対して、お前の考えなどお見通しだと言わんばかりのその余裕は許容しがたい…今すぐにでも頭から嚙み砕いて喰らい尽くしてやりたい程だ。
「ふん、まるで予想してたとでも言わんばかりじゃの。ならばこれからうぬがどうなるかもわかっておるのじゃろうな?」
そんな私の内心とは裏腹に、忍お姉様は昔から変わらない凄惨な笑みで問い掛ける。本当に昔から変わらず、美しくーーー恐ろしい。
再会した時こそ幼子のような容姿に驚愕したけれど、こうして幾分か成長した姿を見るとあの頃へ帰ったかのような錯覚さえ覚える。
「ええ、勿論。これから貴女を含むレミリア・スカーレット、及びその妹であるフランドール・スカーレット、三匹の吸血鬼を討伐し、嘗ての栄光を再び我が手に収める運命なのはわかっていますよ」
「かかっ、ほざくなよ小僧。こう言うておるがレミリアよ、この小僧にはそんな運命が待っておるのかの?」
その戯言のような発言に激昂するでもなく、あくまで絶対的強者としての威厳を保ったまま忍お姉様は私へと問い掛ける。
そんな忍お姉様の姿を見て、頭へと登った血が落ち着くのを感じる。吸血鬼の貴族たる者、こうして冷静で余裕で優雅に努めなくては、と。
「ふっ…そもそもたかが亡霊ごときが運命などと簡単に口にする事が愚かね。それはお前如き下賤の者が口にして良いほど軽くも安くもない…残念だけれどお前はここで消える運命よ」
「そうね、暦お兄様以外で人間の男を見たのはあなたが二人目だけど…やっぱりあなたは嫌い。残念だけどここで三人とも壊れちゃうよ?」
純粋無垢な、純粋純悪な笑みを浮かべるフラン。そう、あの頃は地下の部屋から出せなかった愛しい妹も今となってはこうして肩を並べて戦うまでに成長したーーーあの頃とは、二百年前のあの日とは違うのだ。今の私達に負ける要素など皆無とさえ言える。
複雑に絡み合う運命の糸の中から、私達が地に伏せるような因果を掴もうとする事はこの膨大な宇宙空間の中から石ころひとつを探し出すに等しいだろう。
しかし…それでもこの男は変わらない。それこそ二百年前のあの日からーーー
「随分な自信ですね、素晴らしい。確かに弱気な吸血鬼などこの世界の何処を探しても見つかりはしないでしょうが…紛いなりにも一度は勝利した相手なら尚更ですね。それにしても貴女達が変わらずに自信過剰で哀れな吸血鬼でいてくれた事が私はとても嬉しく思います」
初めて会ったあの日から全く変わらない不敵な態度でこいつは言い放った。
ブラム・クルース、吸血鬼ハンターのトップにして随一の実力者。紳士的な物腰からはまるで及びもつかない程、徹底的に残忍で残虐で残酷な狩人。
業腹ではあるけれど私は少なからずこいつを認めている…数々の有象無象なつまらない吸血鬼ハンターとは違うアプローチからの戦闘スタイル、常に冷静さを欠かない洞察眼、それに見合う実力ーーー人間にしておくには惜しいとも思うし、出会いや経歴さえ違えば紅魔館の執事として迎えても良いとさえ思う程だ。
だからこそやはり私はこいつが気に入らない。多少とはいえ他の人間よりも突出した力を得た程度で吸血鬼の上に立ったかのような頭のこの男がーーー気に入らない。
「嬉しくじゃと?この際、儂やレミリア、フランに対する無礼はとやかく言うまいよ、どちらにせよ殺してしまうからな。それよりも嬉しくとは解せんな。儂やレミリアが昔と変わらぬ事がうぬにとってどうして喜ばしくなりうる?」
「当然じゃないですか?貴女達のような化物は存在そのものが悪…そこにいるだけで人間に不幸を撒き散らす災害のような存在なのです。それが今更になって人間と馴れ合って共存するなど…気持ちが悪いでしょう?そんな事があっては今までに喰い殺されていった人間に対して説明がつかない上に申し訳も立ちません。ハートアンダーブレードの眷属も、紅魔館のメイドも、吸血鬼の
私はパチェの横に並びながら賊の一人であるバン・ブラハムを睨みつける咲夜を見る。
確かにこの男の言う通り、私は人間を食べる吸血鬼でありながら同時に眷属でもない人間と家族のように暮らしている。勿論、この先どんな事が起ころうと私は咲夜の血を吸う気もなければ喰らうつもりもない。
それは人間という種族、ましてや吸血鬼ハンターの目から見れば不思議で不可解な光景だろう。それは吸血鬼とはいえども理解できる。
だからと言って、それをこいつにはどうこう言われる筋合いはないのだけど。
「ふん、人間も同じじゃろ?牛や豚を食うにもかかわらず牛や豚を飼育するではないか。その中で愛着が湧いて食う事ができなくなる例も珍しくはないはずじゃ。儂に言わせれば人間のみが正義で人間のみがルールのように語るうぬの方がよっぽど気持ちが悪いわい」
「そうよ!私は咲夜も暦お兄様も大好きだから食べる気にもならない。吸血鬼だからと言って考えも無く人を襲うと思わないでよ!」
「まるで人間のような物言いですね、益々気持ちが悪い…特にハートアンダーブレード、貴女が言うのはペットに対する愛着でしょう?眷属ともなると意味が異なります。確かに人間も家畜として飼育した動物に愛着が湧いて殺せなくなる例はあるでしょう。ですが家畜と契りを交わす事はありません、それは即ち吸血鬼という種族が畜生にも劣る存在の証明ではありませんか?事実、それ故にレミリア・スカーレットの妹であるフランドール・スカーレットは獣のように己を見失い、地下に幽閉されていたのですから」
「小僧…殺すぞ?」
「うん…もう一秒でも長くこいつの顔は見たくない。お姉様、壊しちゃっていいよね?」
二人の眼の色が明らかに変わった。いえ、こんな事を言っている私の顔も殺気だっている事でしょうねーーー
吸血鬼は誇り高い種族。それを畜生にも劣るなんて汚され、実の妹を馬鹿にされたら、どれだけ余裕があろうと、温厚であろうと、威厳があろうと、怒らなければ嘘だ。
「フラン…今日は我慢しなくても良いわ。忍お姉様も手心は加えなくても良い。勿論私も…殺すつもりで戦う。吸血鬼の誇りの為に」
「かかっ、言うまでもない」
「コンテニューはさせないよ!」
「やれやれ…やはり吸血鬼は野蛮で愚かな化物ですね。しかし今日はそれも良いでしょう、何せ私達は話し合いをしに来た訳ではありません。人類に害する害虫を駆除しに来たのですから」
そう言うと、ブラム・クルースは腰に挿した二本の剣を抜いた。
真っ赤な月明かりに照らされて怪しく光る白銀の刀身、
そもそも思念体のような存在であるこいつ等の姿や武器が変わっている筈はないけれど。
「そうね、私達も話し合いで許すつもりは毛頭ない。二度に渡って殺されるのも地獄への土産話としてはまた一興でしょう?安心して死になさい」
相手の抜刀により、私達も力と集中を高めるーーー
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
「禁忌『レーヴァテイン』」
私の手には紅紫に輝く槍が、フランの手には獄炎が顕現したかのような剣が、そしてーーー
「さすが最強とまで謳われた吸血鬼…揃って武器を構える姿を見ると流石に壮観です。それに初めて見ましたよ、貴女のその武器ーーー」
ブラム・クルースの視線の先、そこには長身の抜き身の
「妖刀・心渡ーーー二百年前のうぬ達は人間じゃったからの、怪異専用のこの刀は見せんかったが…今のうぬ等は単なる三匹の怪異じゃ。ならば儂も心置きなく切り捨てられるというものよ、言うておくがあそこで不細工に剣を振り回すだけの我があるじ様と一緒にするなよ?儂が扱う心渡は一味違うぞ」
神槍に魔剣に妖刀ーーー並みのハンターならば見ただけで自殺しかねない業火剣乱なカードが揃った。
「剣技での戦いですか…それも一興、三匹まとめて切り捨ててさしあげますよ」
「御託は飽きた、さっさとかかってくるがよい。が、先に言うておくぞ小僧。吸血鬼の誇りを汚したうぬが楽に死ねると思うなよ、のう、フラン?」
「うん、それに私の家族や暦お兄様まで殺そうとするお前達は塵も残さないわ。ねえ、お姉様?」
「ええ、それに…月もこんなに紅いからーーー」
「「「本気でぶっ殺す」」」
三人で並んでいた場所に小規模なクレーターができる。吸血鬼だからという訳でもなく、文字通り影も残らない勢いで私達はブラム・クルースへと突撃した。
切り込み隊長はフラン、戦闘経験や頭脳戦は私や忍お姉様には及ばないかもしれないが戦闘センスにおいては非の打ち所がないと言える我が妹。
次いで私と忍お姉様が並行して斬りかかる。
「ーーーリポスト」
フランのレーバテインが振り下ろされる刹那、ブラム・クルースは膝から崩れ落ちるように大勢を崩したーーー否、あれは脱力したと言うべきなのかしら。
緊張や、硬直、無駄な力みは光芒一線の戦闘において最も命取りになる。故に達人と呼ばれる者ほど戦闘の最中、常にリラックスした状態を保つ事を旨とするらしい。
しかし大勢を崩す程のリラックスーーーもとい、脱力はそれはそれで命取りになるのではーーー
「惚けるなレミリア!」
忍お姉様の怒声が響いた瞬間、後を追うように甲高い金属音が響き渡る。
ハッと目を見開くと、私の鼻先でブラム・クルースのサーベルと忍お姉様の心渡が交差していた。
「油断しすぎじゃレミリアよ。二百年も経ったからと言うて忘れた訳ではあるまい?此奴の剣技を」
ふんっと心渡を振り抜くと、その勢いに逆らうことなくブラム・クルースは後退した。
「流石です、本気ではないにしろ私の初撃を止めるとは。全盛期ではないにしても伝説の吸血鬼と 謳われただけの事はある」
余裕なのか、愉快なのか、とても上機嫌に賛美するブラム・クルース。それは皮肉なんかではなく心の底から素直に褒めているようにも聞こえ、裏を返せば自身の実力が私達よりも上であると主張しているかのようにも聞こえる。
「本気を出しておらんのは儂等とて同じじゃ。そもそもうぬ如きには本気になる必要もないがの」
鋭い牙を見せつけるように笑う忍お姉様には申し訳ないけれど、これは本気にならなければ…たった一合の打ち合いでも解る。こいつはたかが亡霊とはいえ、油断や慢心の元に勝てる程ぬるい相手ではない、と。
「お姉様!怪我はなかった!?」
賛美するブラム・クルースを他所にフランが駆け寄ってきた。
「ええ、忍お姉様のおかげで私は平気よ。フランこそ怪我はなかった?」
「私も平気!あ、でも…」
「でも?」
少し戸惑いながらもフランは己が体験し、感じた事を素直に口にした。
「確かにレーバテインはあいつの剣に当たったのに…当たった感触がしなかったの」
感触がなかった。それはフランの勘違いだとか、あいつが亡霊だからとかではなく、恐らくはーーー
「流したのじゃろうな」
「え?」
忍お姉様にはわかっていたようね。私も恐らくとは思っていたけれど…
「ご名答ですハートアンダーブレード。元とはいえ人間の私が怪力無双である吸血鬼と正面から剣を交えれば力負けしてしまいますからね。貴女方の攻撃は力のかかる方向へと流させて頂きますよ」
「…えっとお姉様、あいつは何を言っているのかしら?流すってあいつの能力なの?『なんでも流す程度の能力』とか?」
純粋無垢なのは良いことだけれどフランの真っ直ぐさは少しだけ悲しくなるわね…流すとは受け流すという意味。それはすなわち能力ではなくーーー
「随分な剣技じゃな」
「お褒めにあずかり光栄です。私の能力は吸血鬼特化の結界術、攻防は基本的に身体能力に任せた技術のみですからね。貴女方のような化物と同列に見られてはたまりません」
…サラッと言ってのけているけど、それがどれだけの事かは他でもない吸血鬼の私達が一番良く理解できる。
人間同士の戦いならいざ知らず、吸血鬼の身体能力を相手に人間の身体能力で立ち向かう事が何を意味するか。立ち向かえる事が何を意味するか…
やはりこのブラム・クルースの真髄は巧みな結界術やリーダーシップ、心理戦ではなくその純粋な戦闘力にこそあるのだと実感せざるを得ない。
「うーん…やっぱり良くわかんないや。要するに当たれば殺せるって事でしょ?」
「…そうね、概ねそれで正解よ」
「なら『これ』で終ーわりっ!」
言うなりフランの小さな右手がブラム・クルースへと向けられる。
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』
それは幻想郷の中でも屈指の凶悪性を誇るフランの能力。対象者を例外なく破壊し尽くす必殺必中の反則技…な、筈だった。
「あれ?」
「どうされましたか?フランドール・スカーレット」
とても愉快そうに不愉快な笑みを浮かべるブラム・クルースの様子に変化は無い。破壊されるどころか擦り傷程度のダメージすら見て取れない。
「フラン?どうしたの?」
「おかしいのお姉様、『目』はあるのに捕まえられない…破壊ができない」
フランいわく、どのような物にも必ず『目』と呼ばれる緊張した一点が存在して、フランはその『目』を自在に察知、捕獲して握り潰せる。そうする事によって対象者の破壊を可能にしているらしい。「キュっとしてドカーン」というフレーズは高貴なスカーレット家の一員として思う所が無いわけではないけど、その能力に穴があるようには思えないのにーーー
「私の結界は吸血鬼特化の結界と言ったでしょう?吸血鬼が有するいかなる
手の平を見つめて不思議な顔をしているフランに向かってブラム・クルースは特攻をかける。
「能力の事は後にして目の前に集中しなさいフラン!くるわよ!」
「う、うん!」
残光を残して振り下ろされる双剣を私はグングニル、フランはレーバテインで受け止める。
こいつの結界とやらが吸血鬼の能力だけでなく魔力にまで干渉しうるものだったらと思うと恐ろしい。スペルの成形すらできずに銀のサーベルを生身で受けるだなんて…考えるだけで頭痛がするわ。
「背後がガラ空きじゃ!」
押し合うブラム・クルースの背後から忍お姉様が斬りかかる。
如何に達人とはいえども背後からの斬撃を捌ける筈がない、今度こそーーーと、思った矢先。
忍お姉様の剣が止まった。止まったというか、忍お姉様が無理矢理にその剣を止めた。
「し、忍お姉様!?」
またとない好機に見えたタイミングで何故?
「ふむ、良い判断ですねハートアンダーブレード…ボンナバン」
背後の忍お姉様を見る事も無くブラム・クルースは口元を歪める。そしてすり抜けるように私とフランの間を通り抜けた。
「ちっ…いちいち白々しい奴じゃ。うぬ自身が言うた事じゃろ、怪力無双の吸血鬼と真正面から剣を交える気はない、と。言うたそばからああもわざとらしく打ち合いを挑めば誰でも怪しむわい。大方いつでも受け流せる状況で儂が心渡を振るえばその場をすり抜け、残ったレミリアとフランを儂に切らせる…うぬの狙いはそんな所じゃろ?何せ心渡は怪異専用の必殺武器じゃからの」
「お前…そんな事を考えていたの?」
「ふふ、吸血鬼同士の殺し合い…数多の歴史の中でも良くある事でしょう?化物が化物を殺す、見ていてこれ程愉快な事はありません」
「ふざけてる…能力があったらすぐに壊してやるのに…」
もし忍お姉様が止まらなければ…私達は忍お姉様の手で切られてた…どこまでも下衆な奴だ。
「まあ、吸血鬼が吸血鬼を殺すなど珍しい事じゃないしの」
「忍お姉様!何を言ってーーー」
「じゃがの、吸血鬼が人間を殺す事はそれ以上にありふれておる。弱肉強食が世の常ならば、消えるのはやはりうぬの方じゃ。儂は何が起きてもこの者達を殺しはせん」
いつでも凄惨に笑い、余裕と自信に満ち溢れていた忍お姉様がーーー怒っていた。とても静かに、冷たく、深々と。
「吸血鬼の絆、ですか…気持ち悪い」
「なんとでも言え、死に行く小物の戯言など儂の心に残りはせん」
そういえば二百年前もそうだったわね…忍お姉様の怒りに触れてこいつらは屍に変わった。
あの時も忍お姉様は私の為にーーー
「ぐっ!?」
今にも噛み付かんと、斬りかからんとしていた忍お姉様の顔が苦悶の表情を見せる。
「ちっ…あの阿保…何をやっとるんじゃ」
苦虫を噛み潰したかのような顔の忍お姉様の視線を追うと、そこには信じられない光景ーーーいえ、吸血鬼であるならば良く知る光景があった。
「暦!?」
そう、忍お姉様の眷属であり主人でもあるはずの暦の身体が燃え上がっていた。
あれは日光か銀による傷を負った吸血鬼の姿だーーー
「こ、暦お兄様!?」
「門番娘!我があるじ様の左半身を消し飛ばせ!」
フランと忍お姉様が叫ぶ。その表情は依然として苦悶の色を隠せていないが、それは感覚がリンクしているからなのか…暦の身が心配だからなのかは定かではない。
暦の傍らで狼狽えている美鈴も絶句してるじゃない…フランなんてヴィンセント・バフィーに襲いかかろうとしているし…
「良いから早くせんかっ!グズグズしておれば死ぬぞ!」
戸惑う美鈴を煽るだけ煽ると、美鈴は観念したかのように特大の弾幕を展開し、忍お姉様の言う通りに暦の左半身を消し飛ばした。
ついさっきまで身内同士の殺し合いを嫌悪し憎悪していたばかりで見る光景じゃないでしょうに…
「がああああああ!痛ってえええ!ふざけんなよっ!死んだらどうすんだああああ!!!」
しかし吸血鬼であるが故になぜ忍お姉様があんな無茶を言ったかも理解できる。
「うぬは阿保か!銀の攻撃をああも馬鹿正直に受け止める吸血鬼があるか!」
やっと忍お姉様らしい顔に戻ったわね。
戻ったと言えば暦も復元したようで良かった。
銀で傷を負ったならば吸血鬼といえども復元は遅れる。さらにここはブラム・クルースの結界内、下手をすれば燃え尽きて灰になっていてもおかしくはない。
ならば傷を傷で上書きする他ないだろう。
「うぬの言う春休みとやらを思い出せ!今回は荒治療じゃったがそう何度もできるものではないぞお前様!」
「はるやすみ…?何の事かしら忍お姉様」
「えっと、何じゃったかな…?学校という学び舎で儲けられる定期的な長期休み、じゃったかの。しかし見苦しいところを見せたもんじゃ、情けない」
溜息まじりにも安直したらしい忍お姉様は再びブラム・クルースへと向き直った。
「随分と必死ですねハートアンダーブレード。そんなにあの人間が大切ですか?」
「うぬのような下衆が想像するような仲ではないがの。じゃが儂はあれを死なせる訳にはいかんのは事実じゃ」
「ならば貴女はあの人間を連れて逃げるべきでしたねハートアンダーブレード。そこまで想う相手を躊躇なく私怨に巻き込む、だから貴女方は化物なのです」
「わかったような口を聞くなよ小僧。概ね否定はせんがな…それでも誰も死なせず、うぬと他の二人も消してしまえば問題ない。それよりも良いのか?」
「随分と都合良く考えてますね。で、良いのかとは?」
「上、きてるわよ?」
私は笑いを堪えながら人差し指を真上へと向ける。
やはり腹立たしい程に饒舌なのは紳士として美徳ではないわね。おしゃべりな男は好きじゃない…そんな事だから気付かないのよ。
「暦お兄様に何するのよおおお!!!」
遥か上空、ブラム・クルースの頭上からはまるで隕石のような勢いでレーバテインを振り下ろすフランが迫っていた。
「なっ!?」
さすがのブラム・クルースも顔色が変わる。
それもそうでしょうね、何せ真上からの攻撃は受け流す余白が、空間が存在しない。受け流した所でそこは己が立つ大地、二次被害は見るまでもないのだから。
「死んじゃえっ!!」
ブラム・クルースがいた場所は激突の衝撃とレーバテインの業火によって小規模な火山のようになっていた。
噴き上がる火炎と砂塵の中は地獄のような状況でしょうね。
そしてそんな中からフランが、その反対側からブラム・クルースが飛びしてくる。
「がはっ!…この、化物共が…」
「あら?随分と素敵な装いになったものね。フラン、もう一発お見舞いしておやりなさい。勿論…いつもの弾幕ごっことは違う殺すつもりのやつでね」
「うん!お姉様!」
漆黒のマントを焼き払われ、至る所がボロボロになったブラム・クルースへと追撃をかけるべくフランは勢いよく飛び出していく。
「あ、でもお姉様!」
飛び去り際にとんでもない発言を残して。
「いつもの弾幕ごっこでも殺すつもりでやってるわよ?手抜きなんてしてないから安心してね!」
「安心できるわけないでしょおおお!!!」
何やってるのよあの子!そのうち地下どころかあの賢者にスキマ送りにされるんじゃないかしら!?
「さて、儂らも行くとするかのレミリア」
「そ、そうね!あの子のお説教は後にしましょう」
手傷を負ったとはいえあいつはあのブラム・クルースだ。フラン一人では万が一もあり得る。
トドメを刺すならば今しかないだろう。
その時ーー
「ーーーレミィ!レミィっ!咲夜をっ!!!」
友の呼ぶ声が私を引き止めた。
見ればパチェに抱きかかえられた血まみれの咲夜の姿が。
パチェと咲夜が相手をしていたバン・ブラハムのスタイルを思えば咲夜が銀弾に撃たれたのは明白だった。
「構わんよレミリア、あれはうぬにとって特別な人間なのじゃろ?ここは任せて行くが良い」
同じく状況を把握したであろう忍お姉様も行くように促してくれる。
絶好の機会なのに戦線を離脱する事を歯痒く思うけど、咲夜の命が風前の灯火なのは明らかだーーー
「フラン!少しの間この場を任せたわよ!」
一足先に弾幕を展開しながらレーバテインを振り回すフランへと叫ぶ。
「任せておいてお姉様!帰ってくる時にはちゃんと壊しておくね!」
…本当に頼もしく愛おしい妹だ。
少し前のフランならば戦場を任せる事なんて出来なかっただろう。少し癪だけど博麗の巫女と白黒の魔法使い、そして暦には感謝しなければならないでしょうね。
こうして私は咲夜の元へと羽ばたいた。
決して誰も死なせない為に。
どうも、根無草です!
今回は吸血鬼三姉妹の戦闘回でしたがいかがでしたでしょうか?相変わらずくどいように感じてしまう自分の文章が恨めしい今日この頃です…
おかげさまで気付けばお気に入りの登録者数も300を超え、こんな稚拙な小説を読んでくださる方がここまで沢山いてくださる事に感謝感激しております!
次回からは決着編へと向けてスパートして行きますので今後もどうかご贔屓にお願いします!
さて、ばら撒いたフラグ回収に精を出すか…
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!