東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
負ける気も死ぬ気もやはり無いのだけれど、あれだけの大口を叩いた割に僕と美鈴さんはーーいや主に僕だけは、良いようにボコボコにされていた。
過去に火憐ちゃんやレイニーデビルにそうされたように見るも無残な程の傷を負わされる。
それすらも怪我をしたそばから再生していくのだから我ながら元も子もない事をしているなあと怪我の原因でもあるヴィンセント・バフィーに関心してしまうのだけれどーー
「はっ!大層な勝利宣言したわりにはそんなもんかよハートアンダーブレードの眷属!伝説の名が泣くぜ?」
この男は僕の関心なんて他所にノリノリで暴力に訴えてくる。
「そんなもん泣かせとけばいいんだよ!」
そもそも僕が伝説の吸血鬼と呼ばれた訳じゃねえんだっつーの。
「……ったく、それでもやっぱ伝説の吸血鬼の眷属なだけあるぜ?いや実際さすがだわ」
猛攻の手を止め、呆れたかのような声でヴィンセント・バフィーは吐き捨てた。
ここぞとばかりに僕は身体の至るところから銀による作用で吹き出した炎を心渡で肉ごと削ぎ落としながら回復に努めるーー
しかしここまで良いようにボコボコにされている僕を褒めるかのような言葉には驚かないでもない。
一体僕の何がそんな言葉に繋がるのか?
「そんなもん決まってんだろ?その化物じみた、人間とは思えねぇ回復力だよ」
それは僕は人間だと宣言したことに対する皮肉だろうけど、それでも皮肉なりに僕の事を人間として注視はしているのだろう。
でも回復力?僕の感覚では吸血鬼性を上げたって考えると当たり前な回復力なんだけれど……
「そもそもそれが異常だっつってんだよ。ここは、この戦場は…俺達の結界の中なんだぜ?本来そんな当たり前みたいな回復はありえねぇ」
結界ーー
確かパチュリーさん曰く空間魔法だったっけ?
それも吸血鬼特化の結界だから霧になったりのスキルも使えないし弱点はより一層の弱点に……あれ?それってつまりは再生力にしても低下するって事を意味してないか?
「しかし暦さんはさっきから普通に回復してますよね?それって吸血鬼もどきだから結界の効果に含まれないって事なんでしょうか……」
指摘を受けて美鈴さんも困惑する。
とは言ってもそれは別段僕達に不利に働く事ではないから思い詰める程の問題ではないのだけれど。
「そんな屁理屈みたいな理由で良いのかな……まあ回復が追いつくってのはありがたいんだけど」
いや、今はありがたくないのかな?
少なくとも銀で殴られる度に防御に使った手足が燃え上がるし、その都度その手足を自分の手で切り落とすのも良い加減益壁としてくる。
「そんな良い加減な理由じゃねえよ」
僕達の短絡的な解釈とは対称的にヴィンセント・バフィーは続ける。
「そもそも吸血鬼に関するスキルである以上はもどきもクソもねぇ、例外なくその力は半減する筈だ。それでもそうしててめぇが回復してられるのは一概にハートアンダーブレードの眷属だからだろうな」
「僕が……忍の?」
「俺の知る限りあの伝説の吸血鬼様は規格外すぎなんだよ。全盛期は弱点が弱点として機能しねぇ有様だからな……いくら今は弱体化しているとはいえ、それでも普通の吸血鬼とは一線を画すってところだろうよ」
納得しないでもなかった。
確かにあいつの全盛期って何かにつけてとんでもなかったもんな……
鏡にも映れて流水も問題にせず、太陽を倒すのが目標だと豪語する吸血鬼なんて世界広しといえどもあいつくらいだろう。
その規格外な吸血鬼の能力を付与されているからこそ、こうして僕は死んでも死なずに生き続けている訳か。
「ま、それもそろそろリミットだろうけどなぁ」
「あ?リミット?」
「てめぇは気付いてねぇだろうけど徐々に落ちてるぜ、その呆れた回復力」
その指摘は的を得ていた。
まだ生命に直結するような怪我こそ瞬間回復できるけれど、その怪我に回復力を集中している反動なのか小さな擦過傷は消えずに残っている。
それすらも一呼吸置けば綺麗に消えるんだけど、それは即ち回復力の低下を意味していた。
「さぁ、てめぇはあと何回死んだら死ぬのか……なっ!!」
「来ますよ暦さんっ!」
たった一度の踏み込みで距離をつめるヴィンセント・バフィー。
その重たげな甲冑を嵌めたままどうしてそんな動きができるんだよ!?
「どうしたよハートアンダーブレードの眷属?そんなんで俺に勝てるつもりでいんのか!?あぁ!」
繰り出されるのは単純な右のストレート。けれどそれは必殺の拳。
反応ができないわけではないけれど、だからと言って正確な対応ができる訳じゃない僕は不細工に逃げるか手足を犠牲にしてガードするしかないーー
「注意が散漫ですよ!」
横合いから美鈴さんの助けが入る。
というのも僕の事がが邪魔だと言ってから先、こいつは僕を執拗に狙ってくるのだ。
勿論、そんな事をさせまいと美鈴さんも戦闘に参加してはくるのだけれど、ヴィンセント・バフィーはそれも織り込み済みで暴れ回る。
わかりやすく言えば、美鈴さんからの攻撃はくらう前提で暴れるのだ。
僅かなガードもしようとせず、ただ一心に僕を始末する事だけを考えているーー
「ちょろちょろとウゼェんだよ!てめぇの相手はこのクソガキぶっ殺してからしてやるから大人しく待ってろや!」
二、三回拳を僕へと叩き込むと、美鈴さんに対してそう叫ぶなり僕の足首を鷲掴みにし、力任せにバットのように振り回した。
重ね重ねどんな力だよ!?
そのままジャイアントスイングのように僕を投げたかと思うと、そのまま美鈴さんを巻き込んで一緒に飛ばされる。
「大丈夫ですか暦さん!?」
まあ大丈夫ではないに決まってるんだけど、美鈴さんはそれでも僕を抱え起す。
今度は左手と両足が燃えていた。
炭化していく四肢を見るといっそのこと殺してくれと思わなくないけれど、それでも死にたくも殺されたくもない僕は歯をくいしばり無事な右手で心渡を握りしめた。
そしてーー
「ぐっ……がああああああ!!」
燃え上がる手足を切り落とした。
とんだ自傷行為だけれど、僕に備わっている不死性が健在なうちはこれで死ぬことは免れるーー
痛みを痛みとして認識する頃には僕の手足はまるで何事もなかったかのように再生した。
いや、痛みを痛みとして認識する事が既に治癒力の低下なんだけど……
少なくとも痛みを認識する前には既に回復してた筈の僕の身体は徐々にではあるけれど確実に死にむかっているのだ。
「これではジリ貧ですよ暦さん……さっき言ってた作戦とはどうしたんですか!?」
作戦ーー話があると伝えは良いものの、その実行には時間がかかるし何よりも生命がかかる。
おまけに僕のような平々凡々な高校生が思いつくような策なのだ、使えても一回こっきり。
どうあっても成功率は高くないし、それでいて失敗できない。
しかし、それすらももう時間の問題で、今実行に移さなければ恐らくダメージのおいすぎで実行不可になりかねない……やるなら今だ。
僕は徐々に回復していく擦過傷を眺めながら美鈴さんに作戦の概要を説明する。
「ーーーーと、いう作戦なんですけど」
「それはまた……酷く気が進まない作戦ですね」
時間もない上にいつ追撃がくるかもわからないこの状況で、僕は要点だけを掻い摘んで説明した。
思い付いた僕が言うのも何だけど、そりゃ気乗りもしねえよな。
「しかしこの状況ではそれくらいしか打開策……打倒案はないでしょう。わかりました暦さん。その作戦、この紅美鈴におまかせください!」
「すいません美鈴さん……嫌な役回りばかりを押し付けちゃって」
作戦の内容もさることながら、この作戦の前提は美鈴さんが無理をする事で成り立っている。
つまりは美鈴さん次第ではどう転ぶかわからないのだ。
「構いませんよ、それに……」
そう悠長に構えてもいられないようです。と、美鈴さんは立ち上がり奴を見据えた。
「はっ!さすがのハートアンダーブレードの眷属もそろそろ限界かぁ?」
美鈴さんの視線の先にはゆっくりと歩いてくるヴィンセント・バフィーの姿が。
と、その時ーー
凄まじい爆音と共に小規模な火山のような爆発が起きた。
砂塵と業火が舞い上がる方を注視すると、それは忍やレミリアが戦闘している場所からで、よもやあいつ等に何か起きたのかと肝を冷やす。
が、その爆炎の中から現れたのはやけにテンションの高いフランとボロボロになったブラム・クルースだった。
「出鱈目な戦い方してるな……」
フランはフランで相当にご立腹な様子だけれど、何か癪に触るような事でもあったのだろうか……?
まあ、出鱈目な戦い方というのなら恐らくこれから僕が実行しようとしている戦い方のほうがよっぽど出鱈目なんだけれどーー
「限界なんかじゃねえよ」
フランの勇姿(?)に感化され、僕も立ち上がり美鈴さんの隣へと並ぶ。
「ったく、しぶてぇな。潔くくたばってくれりゃ楽なのによ」
「ご生憎様だけど何度も言うようにくたばるのはお前の方だ」
僕の言葉を受け、わかりやすいくらいに顔を顰めるヴィンセント・バフィー。
「不死性以外に何の取り柄のねぇ奴がまだ言うかよ。てめぇが俺に勝つ見込みなんざ毛ほどもねぇっていい加減さとれや」
「その不死性だけしか取り柄のない奴を仕留め損なってるのはお前だろ?だからお前じゃ僕には勝てないって言ってるんだ、いい加減にさとったらどうだ」
煽れるだけ煽る。
僕の観察するにこのヴィンセント・バフィーという男は短気で直情的。
ましてや僕のような格下の相手にここまで言われればまず間違いなく逆上する筈だ。
というかそうでなくては困るーー僕を殺すつもりできてもらわなくては困る。
「調子こいてんじゃねぇぞ三下がぁ!!てめぇごとき虫ケラなんざ俺がその気になりゃあいつでも瞬殺できんだよ!」
「へぇ、そりゃ意外だな。なら何で僕はこうして生きているんだ?お前がその気になってないからか?」
「当たり前だそんなもん!少し遊んでやってりゃ良い気になってんじゃねぇぞ!」
「良い気になってるのはお前だヴィンセント!遊びだと?ふざけるな!僕が……僕達がどれだけの想いでこの戦いに臨んでると思ってるんだ!?できもしない事の言い訳に遊びなんて言葉を使うんじゃねえよこの三下!」
挑発するつもりが後半は僕の方が感情的になってしまった。
そういう所が僕の凡夫たる所以なのだけれど、やはり遊びだなんて言葉を看過できる程に僕は人間ができている訳ではないのだ。
忍やレミリア、フランに美鈴さん、咲夜さんとパチュリーさんも……そんな簡単な気持ちで戦っている訳じゃないんだ。これに怒らずにいられる訳があるか。
「良いぜ……上等だよ。お前はお望み通り瞬殺してやる」
ヴィンセント・バフィーは怒声を張り上げる事をやめたかわりに鬼の形相で僕を睨み付けた。
恐らくこの後、これまで以上の殺人ラッシュを僕は体験することになるだろう……
想像するだけで既に逃げ出したい気持ちでいっぱいだけれど、後は美鈴さんに託すしかないーー
「死ねやクソガキ!!」
地形が変わるんじゃないかってくらいの勢いをつけて飛び出したヴィンセント・バフィーは、さながら弾丸のような速度で僕に均衡する。
吸血鬼の視力でようやく捉えられたその姿は成る程たしかにハンターそのものだ。
「うごえっ!」
吐き出される肺の中の空気、こみ上げる嘔吐感、遅いくる激痛ーーそして文字通り身を焦がす業火。
それが認識できないような一瞬のうちに何発叩き込まれたことか。
「はっ!どうしたよクソガキ?でけぇ口叩いた割に手も足も出てねぇぞコラァ!!」
手も足も出ないどころか、言い返す言葉さえ出てこない。
もはや殴られていない場所を探す方が難しいだろこれーー
全身血だらけどころか火だらけだ。
「うぶっ……!」
炎に身を包まれながら血なのか吐瀉物なのかもわからないそれを吐きだす。
眼球からも発火しているのか視界もはっきりしない。
「口ほどにもねぇな……これでとどめだっ!」
零距離でのリンチにも近い攻撃の手を止め、ヴィンセント・バフィーは一歩距離をとった。
十分に勢いと威力をのせるための助走なのか、本気でとどめを刺しにくるつもりだ。
遠退く意識の中、今の状態の僕にできる事は必死で握りしめていた心渡による消火活動ーー可能な限りの肌表層を剥ぎ取る事だけだった。
しかしそんな僕の思惑なんて当然看破されている訳で、ヴィンセント・バフィーはそんな僕に対して当たり前の行動に出るーー
「さっきからウザってぇなその刀ぁ!」
言うが早いか、するが早いかーー距離をとった筈のヴィンセント・バフィーはまたも零距離に接近、その流れのまま僕の心渡を持つ右腕を切断した。
いや、切断というほどに鋭利な刃物なんてこいつは所持していない。
それはただ力任せに僕の炭化した右腕を蹴り飛ばしたというだけのこと。
それだけの事なのに、こいつの馬鹿みたいな攻撃力と炭化してボロボロになった腕も合間ってか枯れ枝を蹴り砕くかのように簡単に飛んでいった。
「ーーーーーーーーっ!?」
叫びたい気持ちは勿論あるけれど、炎が回りすぎたせいか声帯も既に焼きただれていて声すら出せない。
喉を心渡で切り裂けばそれすらも回復するのだろうけど、肝心の心渡すら右腕といっしょに飛んでいってしまった。
「ざまぁねぇなぁハートアンダーブレードの眷属!このまま黙ってても焼け死ぬだろうが……てめぇは俺が殺してやっからよ!」
意識だけはかろうじて残っていたけれど、身体は動かない、声も出せない、目も見えないーー
僕は確実に死にかけていた。
そう
作戦通りに。
「がっ!?て、てめぇ……!?」
苦痛に呻く声が発せられた。
勿論、僕は声すら出せる状態ではない(なんなら依然として燃え盛っている)。だからそれはーー
「このっ……クソアマが……!」
心渡によって背後から切られたヴィンセント・バフィーの声だった。
そう、僕の作戦。それは理由は不明だけれど何故かダメージの通らないヴィンセント・バフィーを心渡でもって切り殺すというだけの作戦だったのだ。
しかし、忍のような剣技や美鈴さんのような格闘センスがある者ならいざ知らず……僕みたいな何の経験もない高校生男子にはとてもじゃないけど実行できない作戦だった。
かと言って、初代怪異殺しが持っていたオリジナルの心渡ならば話は別だけれどこの場に存在する心渡は忍の物質創造能力で創り出したいわば偽物。
それは怪異殺しであり、同時に吸血鬼にしか扱えない武器。
僕にできないからといって美鈴さんに心渡を持たす事はできなかったのである。
だからこその作戦。
僕に備わった不死性を限界まで引き下げて、本来なら美鈴さんには使えないはずの心渡を瞬間的に使えるようにする為の布石。
そもそも吸血鬼という種族は身体の一部を失えば自動的に再生するんだけど、ならば失った方の身体の一部はどうなるのかといえば、本体の再生の瞬間、それは灰になって消えてしまうのだ。
つまり、再生が遅れれば失った身体の一部もそのまま残る。
今まさにそうなっているように、再生が追い付かない程の傷を負って不死性を下げればーー心渡を握っていた僕の右腕はすぐには消えない。
ようするに美鈴さんはたしかに心渡でヴィンセント・バフィーを切ったけれど、その美鈴さんの手は心渡を握ってはいないのだ。
その手に握られていたのは僕の右腕ーー吸血鬼を宿した腕である。
それならば吸血鬼専用の武器である心渡を、吸血鬼でもない美鈴さんが振るう事ができる。
言ってて思うのは本当に申し訳ない限りの作戦であり、美鈴さんには少なからずトラウマを植え付けてしまったかもしれないという事なんだけれど……
それでも読みが的中したのは僥倖だった。
何よりもこの作戦、激昂したヴィンセントが遊びではなく本気で僕を殺すつもりになってもらわなければ成立しない。
さっきまでの戦闘の中で、僕から心渡を引き離そうとしなかったのがその証拠だ。
心渡が僕の手元にある限り、どれだけ攻撃しようともすぐに再生されるのだから嗜虐心も大概にしろと言いたいところだけれど、今回に限りそれは逆効果。
激情のヴィンセントが僕に再生を許す筈がないのだから。
結果、僕の再生を妨げる為に腕ごと切り離されはしたけれど、僕にしては思惑通りの展開になったと思う。
むしろ散々ボコボコにされても心渡を手放さなかった自分を褒めてやりたい。
「暦さん……お見事です!」
そんな言葉を貰うほどに活躍はしていないし、僕がした事といえば死ぬ程殴られただけなんだけれど……それでも満足感はあった。
ただ、そんな感情に酔い痴れるほどに余裕があるはずもなくーー今も僕は業火の中なんだけれど。
「今助けます!じっとしていてください!」
じっとしているも何も、もはや動けやしないんだけれど、美鈴さんはそんな僕のそばに駆け寄るなり掌を僕に翳した。
そしてーー
「すー……頸砲!」
ズンという衝撃と共に僕を包んでいた炎が霧散する。
正確には焼けて炭になった皮膚が綺麗さっぱり弾き飛ばされた感じだ。
いや、実際は筋繊維剥き出しの人体模型みたいな有様なんだけれど……
「ごぁあああああ!!」
そんな僕達の側で咆哮が轟く。
声の主は勿論ヴィンセント・バフィー。
怪異にとってはかすり傷が致命傷になる心渡の一撃をくらったのだ。さすがに助かりはしないだろうけどそれでもまだもがいてる辺り、それはそれで凄まじいまでの執念を感じた。
「てめ……らっ……勝ったつも……り……んなよ……」
僕の身体も徐々にではあるけれど、回復してきて、少なくとも視力や声は戻ってきた。
立ち上がれはしないけれど、上半身を起こしてヴィンセントを見つめる。
「……まだ……終わ……じゃねぇぞ……クソが……」
どこにそんな気力が残っているのか、絶望するどころかより一層強い憎しみを込めて僕を睨んでくる。
「いや、終わりだよヴィンセント。お前が負けて終わったんだ」
僕は静かに言い放つ。
この世に未練を残して化けて出たこいつに何も残させまいと、ハッキリと言い切る。
「復讐だとかそんなもん僕には良くわからないけれど、それでも僕は死なないし誰も殺させない。僕達の勝ちだ」
忍野ならば視点が変わっただけとでも言うのだろうか。
こいつらだって元は人間である種の被害者だと思うと、少しだけやりきれない気持ちにもなるーー
それでも僕は正義の味方ではないのだ。
強くもないし、正しくもない。
薄くて弱い……ただの人間なのだ。
こいつらにどれだけの免罪符があろうとも、僕の大切な奴らを殺される事なんて看過できないだろう。
だから今度こそ、化けて出るような事がないようにと祈る事しかできない。
「…………」
もはやヴィンセント・バフィーは何も言わなかった。
後は怪異殺しの効力で消えるのを待つばかり。
どれだけ虚しさが残ろうとも、これで終わりである。
「暦さん……無事でよかったです」
「はは……あまり無事でもないですけど。それよりも迷惑と心配ばかりかけちゃってごめんなさい美鈴さん」
いや、大げさじゃなく今回の戦いは美鈴さんなしでは絶対に勝てなかっただろう。
それに僕がどれだけ死にかけていようと、絶対に助けないでくれという無茶なお願いをまっとうしてくれたのだ。
あの時の美鈴さんの心中を思うと謝っても謝りたりない。
「まさか絶対に助けるなだなんて作戦だとは思いませんでしたよ!貴方はいっつもあんな無茶苦茶な戦い方をするんですか!?」
「いっつもって……そこまでバトルまみれの生活じゃないよ。それでもあの程度で勝てたなら良かったとは思いますけどね。というか最後の炎を消したあれってどうやったの!?」
「あの程度ってレベルじゃないですけど……最後の頸砲はですね、本来は己の中で発生した気を相手の中で爆発させる技なんですけど、私の『気を操る程度の能力』で爆発を表層で起こしたんですよ。さすがに刀を使って身を削いでいたら間に合わなかったでしょうし」
「とんでもない技だってことはわかったけど!」
成る程、気を操るってそういう使い方もできるのか。
美鈴さんに気を注入してもらおうと思ってはいたけれど、怖いからやっぱりやめておこう。
「それよりも早く咲夜さんとパチュリー様の加勢へと向かいましょう!そこが終わったらお嬢様達に加わって異変解決ですっ!」
「ん?ああそうだった!早くいかないとあっちもーーーー」
言いようのない喪失感と衝撃が僕を襲った。
この時、僕も美鈴さんも失念していたのだ。
特に武術に身を置く美鈴さんにとってはありえない失態だった事だろう。
素人の僕でさえ知っている武術の基本。
僕達は『残心』を欠いていたのだった。
「う、嘘……だろ……?」
僕の下半身が無くなっていた。
近くで美鈴さんが僕の名前を叫ぶ声が聞こえたけれど、不死性の低下した僕はそのまま意識を手放したのだった。
どうも根無草です。
これにて暦、美鈴ペアの決着になります。
本編中で出てきた心渡の設定なんかは、原作中でもちょっとしか語られていないはずの部分なので正直作者にも曖昧です。なので疑問を持った方はこの物語の中だけの設定だと割り切っていただければ幸いに思います。
さて、余談といいますか完全にただの宣伝になるのですが……この度、新たに物語シリーズの小説をこのサイト内で書き始めました。
タイトルは『届物語』となります。
こちらはクロスオーバーでなく純粋な物語シリーズのお話で、昔投稿してから消してしまった過去作品のリメイク版になります。
原作知識を重視し、章管理から構成から私の文才の範疇で出来る限り原作に近い雰囲気で書いているつもりです。
勿論、西尾維新先生に比べれば劣化版どころか落下版と言えるほどにクオリティは残念でしょうが、原作物語シリーズのファンだという方は一読していただければ幸いです。
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!