東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
【才能】
この才能というものに対して人はどれだけ自覚的でいるものだろうか?
世の中には自分の秀でた才能を生かして活躍している人が数多く存在する、その反面、自分の才能を自覚しないまま怠慢な日々に浸かっている人も少なくないのではないだろう。
いや、それすらも与えられた環境に適応する才能なのかもしれない。
そして一番困るのは、天に授かった才能が全く役に立たないものだったケースである。
何故自分にはこんな役立たずな才能しかないのだろうか…そんな風に思った経験はないだろうか?
そう、僕こと阿良々木暦はそんな役立たずな才能に今日ほど自覚的になった事はない。
才能をある種の能力として話すなら…ここが幻想郷である事を前提に話すなら、僕は差し詰め
『災難に遭遇する程度の能力』
とでも言うのだろう。
長い前置きになってしまったけど話を遡らせてもらう。
それは十五分ほど前…忍とレミリアの積もる話を邪魔せんと、十六夜さんと一緒に部屋を出たところからだ。
「…びっくりしましたね」
「そうね…あのお二人が知り合いだった事もそうだけど、あなたが吸血鬼の眷属というのも驚いたわ」
「はは…それでも人間として生きているんですけどね。中途半端なんですよ、僕は。」
忍も僕もあの日、生ききれず死にきれず…全員が不幸になる形で存在を許された。
当然、そこに救いなんてあるはずもなく、力も存在も中途半端な僕達だった。
「ただここまで経験した困難は半端じゃなかったんですけどね」
「吸血鬼と近くなればそうかもね…私も似たようなものよ。お互い大変ね」
微笑む十六夜さんは深くは聞いてこなかったけど共感するところがある様子だった。
「で、阿良々木さん。あなたの寝室は洋間になってしまうけど平気かしら?あいにく紅魔館には博麗神社のような和室の用意がなくて」
「阿良々木さんだなんてやめてください、暦で大丈夫ですよ。それに突然来て泊めてもらえるだけでありがたいです、部屋の注文なんてありません」
「そう。では暦さんと呼ばせてもらうわ。それではお部屋に案内しましょうか」
こうして紅く長い廊下を歩いていく。
吸血鬼体質のおかげで睡眠にはある程度の我慢がきく僕だけど、今日は些か色々とありすぎた。
できれば今日はもう休みたいというのが本音だったので十六夜さんの案内は素直にありがたい。
でもその前に済ませておきたい事があるんだよなあ…
「あのー…十六夜さん」
「咲夜でいいわ、どうしたの暦さん?」
「えっと、じゃあ咲夜さん…寝る前にお手洗いに行きたいんですが…」
僕は何故こんなに恥じらっているのだろうか?
自分が思春期ど真ん中の女子かと思った…
恐るべし、メイド服!
「ああ、トイレはそこの階段を降りて右手よ。私はここにいるから行ってきなさい」
さすがにトイレ前まで案内はしてくれないよな…まあ相手は女性だし当たり前か。
こうして咲夜さんに一言あやまって階段を降りていく。
思えばこの時、どんなに恥ずかしくても咲夜さんに着いてきてもらうべきだった…
「しっかし広い屋敷だなあ…トイレに行くだけで迷いそうだぜ」
ただでさえ広すぎるくらい広い屋敷なのに紅に統一された色調、それに必要以上の灯りが無いこの空間は正直不気味だった。
思わず独り言が出てしまう。
そもそも、吸血鬼が住まう館なのだ。
灯りが必要無いのは当たり前、思い返せば外観から窓が少ないと感じたのも天敵の日光を遮る為だったのかもしれない。
そして僕も吸血鬼体質のおかげでこの暗い廊下を難なく見渡せているのだ。
そう、見渡せていたーーー
そして、その目は見逃さなかった。
前方に揺れる光を、ステンドグラスのような鮮やかな光を見逃さなかったのだ。
「なんだあれは…?ガラス細工?」
目を凝らすと幅にして二メートル以上はあるガラス細工のような七色の光が揺れていた。
そして、その光はゆっくりとこちらに近づいて来る。
「この館の人か…?まさか屋内で怪異に遭遇するなんて事はないよな…」
現在、忍はレミリアと一緒にいる。
咲夜さんも階段の上だし、今は僕一人の状況だ。
怪異と遭遇なんてしてしまえばどうしたものか…
それでなくても館の住人だったとして何と説明して良いやら…
そうこう考えている間にその光は目の前まで来ていた。
「あなた誰?」
目の前に立っていたのはレミリアとたいして変わらないくらいの幼い女の子ーーー
縫いぐるみを抱いているこの子は、やはりドアノブのような帽子を被り全体的に赤を基調とした服を着て、綺麗な金髪をサイドテールにした可愛らしい子だった。
そして…
背中には先に言ったガラスのような羽根らしきものが生え、その眼は鮮血のように紅かった。
「えっと…僕は阿良々木暦、ここに泊めてもらうって事で来たんだけど…君はこの館の人?」
「私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹よ。ねえ暦、あなたは人間?」
やっぱり…
さっきの忍とレミリアの話に妹の存在がちらっと出ていたのでまさかとは思ったけどビンゴだった。
するとこの子も吸血鬼なのだろう。
「ああ、僕は人間だよ。少しだけ吸血鬼体質だけど普通の人畜無害な人間さ。君は吸血鬼なのか?」
レミリアとは違ってどこか幼い感じのこの子は僕としては話しやすかった。
人懐っこさみたいなものを感じたし、終始ニコニコしていたから悪い印象も無かっのだ。
だからこそ僕はあんな失敗を犯したんだけど…
「私の事はフランって呼んで。そう、私も吸血鬼!私ね、人間の男を見るのって初めて!」
「そうなのか?ああ、確かにここに来てから男には会ってないな…いや、忍野には会ったけど…あれはノーカンだろ」
言われるまで気付かなかったけど確かに女性比率が多過ぎる…
なんだ?ここは幻想郷じゃなくて桃源郷だったのか?
「ねえ暦、あなたは丈夫?」
不意にまったく会話の流れを意識しない質問がとんできた。
いや、流れというならこれ以上わかりやすい流れもないのだけど…
これ以上にわかりやすいフラグは恐らく他にない…
「ん?まあ身体は丈夫な方かな、あんまり風邪とかひかないし…って、何でそんな事を聞くんだフラン?」
実を言えばこのあたりから既に嫌な予感はしていたのだ。
話の流れが不自然すぎるし、これまでの怪異にまつわる経験がこれはヤバイと告げていた。
まあ、結果的にはこの時既に手遅れだったんだけど…
「良かった、じゃあすぐに壊れたりしないよね?」
「ちょ、ちょっと待てフラン、いやフランドールさん…壊れるって何⁉︎」
「じゃあ暦、私と遊ぼう?」
ものっすごい良い笑顔のフランさん…
さすがに住人に襲われるパターンまでは想定外だぞ…
「遊ぶって何して⁉︎嫌だ!怖い!めっちゃ怖い!!何して遊ぶつもりだよ⁉︎」
そして話は冒頭に戻る。
僕の才能、もとい能力…それは
『災難に遭遇する程度の能力』
で間違いなさそうだ。
真っ赤に輝く瞳で僕を見据えたフランドール・スカーレットはこう告げたーーー
「弾幕ごっこ」