東方怪異譚ーLegend of vampireー 作:根無草
この世で最も恐ろしい武器とは何かと聞かれたら答えに困る人が多いのではないだろうか。
拳銃と答える人もいるだろう。
毒物と答える人もいるだろう。
爆弾と答える人もいるだろう。
中には核兵器と答える人もいるかもしれない。
だがここには考えてほしい大前提が発生する。
如何なる強力な兵器も、必ず使用者がいなければ意味を成さない現実。
使用者がいなければ兵器は兵器として成立しない。
たとえ核兵器があったとしてもそれが未来永劫、誰にも触られなければそれは兵器ではないのだ。
扱う者がいてこそ、力は力として成り立つのである。
と、なると重要なのは力を扱う人間の人格へと焦点がうつる。
それが歴史に名を馳せた武人なのか、
冷血な独裁者なのか、
平和を愛した先導者なのか、
人によって、同じ力でも結果は千差万別。
そして僕が考える最も恐ろしい人格者とは…
無邪気な者である。
「きゃははは!どうして逃げてばかりいるの?もっと遊ぼうよ暦」
これが逃げずにいられるか!
弾幕ごっこという名の遊びを提示してきたフランーーー
直後、彼女の背後に展開された魔法陣のような物から発せられた無数の光る弾丸が僕を襲った。
これが何かの映像作品ならその綺麗さに目を奪われていたかもしれない。
けど、生憎僕は当事者だったーーー
「わかった!鬼ごっこね?私が鬼で暦が捕まったらゲームオーバーか、ははっ。そうだね、私は『鬼』だもんね」
「僕も半分鬼だよ!クソっ!!」
鬼しかいない鬼ごっこなんてあってたまるか。
にしても、我ながら良く避けていられると思うような猛攻だ。
これ、くらったらどうなるんだろ…
被弾した壁や柱を見る限り、ただではすまないというのは想像するに容易い。
「あはは!暦避けるの上手いね、じゃあこれならどう?」
『禁忌・カゴメカゴメ』
フランがトランプのようなカードを取り出したかと思うと僕の周囲にはあの光る弾が現れた。
さっきまでと何が違うかと言えば…これは…檻か?
格子状になった弾が僕を取り囲んでいた。
「いくよ!」
囲まれたものの襲ってはこない様子の光る弾に安心したのも束の間、フランが放った一際大きい弾丸と共に事態は急変ーー
弾かれた無数の光る弾が一斉に襲いかかる!
「くそっ!どうなってんだよこれは⁉︎」
さっきまでのような僕に向けて一直線の一方行からの攻撃ならまだなんとか避けられた…
けどこれは上下左右とランダムに弾が飛んでくるのだ!
これは避けきれない…時間の問題だろーーー
と、その時
「さっきから何の音…って、妹様⁉︎」
異変を察知してか咲夜さんが現れたのだった。
しかしこんな状況にメイドさんが来ても危険すぎる!
「ちょっと暦さん!これはどういう事なの⁉︎」
「僕が聞きたいですよ!とにかく逃げて下さい!!」
僕と同じく、この状況がまったく掴めない様子の咲夜さん…
逃げ回るだけで精一杯の僕ができることなんて逃げてくれと言うのが関の山だった。
「仕方ないわね…人を呼んでくるのでしばらく頑張って下さい!」
頑張れって何をどう頑張るんだ⁉︎
僕がそう言うより先に咲夜さんは一瞬でそこから消えたーーー
瞬間移動⁉︎
あの人も魔法使えるんだ…
てっきり普通のメイドさんかと思ってた…
「って、そんな事を考える場合か!」
フランは相変わらず楽しそうに笑っている。
咲夜さんまで被害にあう心配はなくなったけど僕の絶体絶命は変わらない…
僕はいつ被弾してもおかしくないような激しい攻撃の中を我武者羅に避けて走り回った。
逃げる僕をいつでも仕留められると言わんばかりに…
まるで捕食者が餌をいたぶるようにじわりじわりと追い詰めていくように攻撃の手を強めていくフラン。
それは例えるなら王手の決まっている詰み将棋のような状況だった。
しかしここで予想外の…盤外からの一手がささる
「そこまでよフラン」
現実として余りに受け入れ難く、その現象を説明するだけの語彙が僕には無いのでありのままに説明すると…
滝が発生した。
誤解のないよう明言するが、滝のような攻撃とか、そういう比喩表現では無くありのままに水が流れ落ちるあの滝が出現したのだ。
そしてその滝はフランを一瞬のうちに飲み込んだかと思うと、まるで風船のようにフランをボール状に捕獲していた。
水の牢獄の完成。
「お怪我はありませんでしたか?」
振り向けばそこには咲夜さんが立っていた。
そしてその隣には紫の髪をした、レミリアやフランより若干年上に見える少女が…
寝ている所を無理矢理つれてこられたのか、まるでパジャマの様な服装の分厚い本を抱えた少女が立っていた。
「ありがとうございます、助かりました」
「お礼は私ではなくパチュリー様に、あれはパチュリー様の魔法よ」
咲夜さんが言うパチュリー様とは恐らくこの紫の髪をした少女だろう。
僕は向き直り改めてお礼をする。
「助けてくれてありがとうございます、あの、あれは…?」
「あれは水の魔法、吸血鬼は流れる水を渡れないのよ。だから一時的に捕まえるのは水の魔法が有効なの」
見れば確かに水に囲まれたフランは身動きが取れないようだった。
あれ?
確か前に忍に聞いた話だと、あいつ海を泳いで渡ったとか言ってなかったか?
ああ…全盛期のあいつはそういう法則とか弱点とか度外視した存在だったっけ…
「でもあのフランをあんなあっさりと捕まえるなんて…凄い人なんですね」
「何を言ってるの?不意打ちだからこそよ、まともにやりあえば私や咲夜じゃ命がいくつあっても足りないわ」
僕はどんなとんでも生物に狙われてたんだ…
この人もこの人でとんでもないけど、やっぱり純血の吸血鬼であるフランはさらにとんでもないらしい。
「それにしてもあのフランを相手に良く生きていられたわね。咲夜が吸血鬼の眷属と言ってたのも納得だわ…さて」
さらっと僕が死んでると思った発言をした後、彼女はフランの元へ歩いて行った
「ねえフラン、この人はレミィの大切なお客様なの。お遊びはこの辺にして今日はもうお部屋に戻りなさい」
そう言うと先程までフランを覆っていた水がまるで最初から無かったかのように消失した。
「ちぇ、私が捕まってゲームオーバーか。まあ私も『鬼』だからしょうがないか…」
本当に遊んでいただけと言わんばかりに残念がるフラン。
いや、僕は結構命がけだったんだけど…
「ねえ暦?また私と遊んでくれる?」
…本当に勘弁願いたかった。
多分だけど…次は死ぬ自信がある。
けどここで下手な事を言って機嫌を損ねたら次どころか今すぐ死ぬかもしれない…
「あ、ああ…また今度遊ぼうな…」
「やったー!約束だよ!」
そう言い残すと、フランは満足そうに闇に消えていった。
「ふぅー、死ぬかと思ったぜ」
一件落着した途端、急に疲労感に襲われた僕はその場に沈み込んだ。
人間、窮地に立たされた時よりもそれを乗り越えた時の方が精神的にくるものだ。
「相変わらず面白い事をしておるのうお前様」
「忍!?それにレミリア!?」
階段の上を見上げれば二人の幼い吸血鬼がこちらを見下ろしていた。
「ご苦労だったわねパチェ、おかげで屋敷がなくならずに済んだわ」
「いるならもっと早く出て来なさいよ…こんな時間に咲夜が図書館に駆け込んできてビックリしたじゃない」
一部始終を見ていたと思われる二人は僕達のもとへ降りてきた。
「おい忍!いたなら助けてくれよ!確実に僕の事を見殺しにしようとしていただろ!?」
「あまりに楽しそうじゃったからのう、邪魔をしては悪いかと思ったんじゃが?いらぬ気遣いじゃったかのうお前様?」
「ふふ、素直じゃないのね忍お姉様。私が止めなかったら今にも飛び出して行きそうだったじゃない」
「こ、こらレミリア!余計な事を言うでない!!」
「ちょっと待てレミリア、なぜ止める必要があった!?」
「ごめんなさいね暦、でも迂闊に止めに入ったりしたらフランが熱くなって余計に大惨事だったかもしれないのよ。本当に屋敷が消えてたかもしれないわ」
僕の命よりも屋敷をとられた事はちょっとショックだな…
まあ、それでも助かったので文句は言わないけど。
「それにパチェが助けに入るのはわかっていた事だしね」
「わかってた?まあ、おかげで死なずに済みましたよ…」
今日で何回死にかけたやら…
「そういえば紹介が遅れたわね、こちらがパチュリー・ノーレッジ。私の親友にしてこの紅魔館の住人、普段は地下の図書館で暮らしてるわ」
「どうも、粗方の話は咲夜から聞いてるわ。私は図書館にいるからわからない事があれば聞きにきてちょうだい」
「あ、僕は阿良々木暦です、こっちは忍野忍。さっきは本当にありがとうございました」
「貴方達の興味深い話は明日にでもゆっくり聞かせてもらうわ、今日はもう図書館に戻るから貴方達も休みなさい」
こうして簡単な挨拶を済ますとパチュリーさんは自室である図書館へと戻っていった。
「のうレミリア、あれは魔女じゃろ?」
「そうね、種族で言えば魔女になるのかしら?でも忍お姉様に関連のある魔女とは別物よ、邪険にしないであげてちょうだい」
「確かにあれは儂の知る魔女とは違うのう。なに、安心せよ。レミリアの友人と聞いて邪険にするほど儂の器は狭量ではないわ」
「いや、お前の器は茶碗の裏くらい狭量だよ」
「吸血鬼パンチ!」
殴られた。
器の大きな奴はこんな事で殴ったりしないだろ…
「ふふ、本当に仲が良いのね。咲夜、暦を寝室まで案内してあげて」
「かしこまりましたお嬢様」
「ん?忍はどうするんだ?」
「儂ら吸血鬼にとってはまだ寝るには早い時間じゃからのう、儂はレミリアの部屋に世話になる。お前様もたまには一人で休むがよい」
「ふーん、じゃあ僕は先に休ませてもらうよ。おやすみ忍、レミリア」
こうして僕の長い一日はやっと終わりを迎えた。
僕の名誉のために言わせてもらうけど、決して幼女と一緒に寝れない事を嘆いたりはしていない。
忍とレミリアの部屋に混ざりたいなんて思ってないという事だけは言っておく。
補足すると美鈴はこの時寝てます。
顔合わせに一人乗り遅れた形ですねw
ではでは、興味とお時間のある方は引き続きよろしくお願いします!