エルフとトロール 〜三流魔法使いのトロール、メスガキエルフの下僕になる〜 作:ルブク
生きとし生けるものは働く権利と義務がある。
という訳で第二章。
この章では主役二人の人となりを掘り下げる内容を予定してます。
途中ちょいエロな展開を入れつつ、今後の伏線も張って、という感じで。
とりあえず展開としては地味めになるかと。
ちなみに、作中の労働歌はGrokにソレっぽい感じで生成したものをベースにしています。AIすげぇ。
空は澄み渡り、白い雲は悠久に
交易都市の市街を離れ、更に城塞の向こう側へ。広大な丘陵地には農家の家屋が点々と建ち、青々とした苗が茂る畑の
そして更にその外れ、岩混じりの草原が広がる一画にヴィンセントが居た。右手に
「よーし、今日拓くのはこの辺りな! 周りに綱張ってっからそん中で、気ぃつけて作業してくれよ!」
その中のリーダー格と思しき、鼻曲がりの農夫が作業開始の合図を出す。比較的狭い区画で、牛や馬は使わず手作業での
「トロールさんよ、しっかり仕事してくれよ?」
横一列に並んで配置につく。開始の号令を出す前に、鼻曲がりの農夫がヴィンセントへ値踏みするような視線を向けた。
「旦那様がカネ出してんだからよ。働いてもらわにゃ困るぜ」
予定していた人員が足りず、急遽出された開墾要員の募集。どういうツテかは知らないが、リュミエが持ってきた仕事だった。
『力仕事ならお手のもんでしょ? じゃ〜よろしく〜!』
有無を言わせない勢いで仕事を押し付けられてしまった。契約により拒否権がほぼない身、自由奔放なリュミエに無理難題な仕事を引っ被せられると思いきや。持ってくる仕事は案外やりやすい内容が多い。
あの人を食った態度のくせして、地に足つけた生活なのはこれまでの経験によるものだろうか。
「開墾鍬は故郷で何度も振るったことがある。任せてくれ」
ヴィンセントは鍬の柄を力強く握り締め、自信に満ちた表情を見せる。
「ホ! そりゃ頼もしいねぇ――おーし、始めっぞぉ!」
鼻曲がりの農夫の号令一声、草が生い茂る大地へ一斉に鍬を振り下ろす。
――
それと同時に、鼻曲がりの農夫がゆったりしたテンポで唄う。いわゆる労働歌である。
ヴィンセントも両隣の農夫を見よう見まねながら、歌のリズムに合わせ鍬を振り下ろす。
――ヘイホー、ヘイホー、種を蒔け! 草原を拓き、良き実りを育て! ヘイホー、ヘイホー、汗と力で! 土を返せ、光の下で!
鼻曲がりの農夫に続き、他の農夫も合わせて唄う。
人口の流入が続く都市部において、農作地の確保というのは
確かに金を出せば食料は買えるが、外から集めるばかりでは地方が干上がってしまう。
――冬は去り、春が目覚め。畑を刈り取り、失敗などない。一日の終わりに、エールとパン、歌を歌え、悩みを追い払え!
草原は風に揺れ、さらさらとのどかな音楽を奏でる。しかし地中は草の根の密集地帯である上、大小様々な石混じり。開墾用の厚手の鍬でも刃を入れるのに難儀するほどなのだ。
だが、その中で――。
――ずガッ!
ヴィンセントの振り下ろす鍬は草の根を断ち切り、生半可な石を砕き、深々と掘り起こして耕してゆく。
――どガッ!
「ぉホ、言うだけあンねぇ! おぅ、オレ達も負けてらんねェぞ!」
トロールにばかり良い顔させてはいられないと、他の農夫へ活を入れた。一歩一歩前進しながら、唄と共に鍬を振るう。誰かの鍬が大きな岩に当たれば、一致団結してロープを結び排除する。
――茨と雑草、地面に倒せ。畝を耕せ、一列ずつ。空ゆく鳥が俺らを労い。大地を祝福、土を豊かに!
何巡かする頃にはヴィンセントも唄の輪に入り込んでいた。ゆったりとした、しかしどこか力強さがある旋律を口ずさみながら続けること暫く。
「――おーしやったぞ! 今日はもう終ぇだ!」
ヴィンセントの奮闘の甲斐もあり、決めていた区画の開拓が予定よりも前倒しで終わったのだった。
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「いやぁ、兄ちゃんが来てなかったらどうなってたかねぇ」
「まったくだ。まだ半分くらいかもしれねぇな」
「道具が優れていただけさ。しかし――壮観だな」
振り返り、綺麗に掘り返された一帯を眺める。緑の草原は姿を消し、深い色の土が顔を覗かせていた。大きな岩は一通り外に避けたが、掌大の石はまだ残ったままだった。それらは別の日に女連中が拾うので問題ないらしい。
「あぁ。こっから豆やら麦やら植えてょ、街の連中を食わさなけりゃなんねぇからな」
「なるほど……頭が下がる」
種族は違えど共通点が一つ。食わなければ生きていけない、ということ。日々の営みを送るための
「なぁに、そンな大したこっちゃねぇよ――ほい、コイツが旦那様から預かった報酬な」
「ありがとう。少し失礼して――中を確認させてもらおう」
労働の対価として、鼻曲がりの農夫から薄汚れた麻袋を受け取る。しっかりとした重みを感じるが、ヴィンセントは麻袋を地面に置き、中の報酬の額を検め始めた。
依頼の報酬額は事前に取り決められている。多くても少なくてもよろしくないため、その場で手早く数える必要があった。
貨幣を金額毎に取りまとめ、集計しやすいよう更に小分けに。数え間違いがないように袋から一組ずつ取り出してゆく。
「――よし、問題ない」
金額は取り決め通り。袋に再び収め、革紐で口を固く結ぶ。
「――手際いいなぁ。さては兄ちゃんこういうの慣れてんな?」
「ああ、まぁ――そんなところで」
「できりゃぁ兄ちゃんには毎日来てほしいくらいだけンどよ。何でも屋みたいな商売するより、畑耕す方がよっぽど合ってンじゃねぇの?」
「自由に動ける方が性に合っているものだから。気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
「ほー? ンなもんかねぇ」
他者からの依頼次第ではあるため、仕事の形態としては酷く不安定なのは確かである。安定度で言えば定職に就くのが最上ではあるが……。
多額の負債を抱えているとも言えず、それらしく理由をつけてごまかすヴィンセント。あれやこれやと何でも話してしまうのはよろしくない。特に、ヒトの噂話などとっておきの娯楽なのだから。
「では、これで――」
予定よりも前倒しに終わったところで、そそくさと荷物を纏めて畑を後にしようとする。
「おぃおぃ、もう帰っちまうのかい? これから皆で一杯やるつもりなんだけどよぉ、兄ちゃんもどうだい?」
鼻曲がりの農夫がジョッキをぐいと傾ける仕草をしながら呼び止めた。よほど楽しみなのか、飲んでもないのに鼻の頭を真っ赤にしている。
一日の労働の終わりに一杯のエール。汗水流して働いた真っ当な対価である。それ自体はとても魅力的ではあるにしても。
「すまない。これから寄る所があるので――先に失礼させてもらうよ」
「ホ! 意外に忙しいんだなぁ兄ちゃん」
名残惜しくもあるが農夫達に別れを告げ、市街へ足を向ける。今日の成果は上々といったところだろう。
「おーいっ! 兄ちゃんよーぅ!」
畑から土くれの道に出たところで、遠巻きに鼻曲がりの農夫が声を飛ばしてきた。
「魔法使いなンてフカさねぇ方がいいぞぉ〜! 人間もトロールも謙虚が一番だからよ〜ぉ!」
――フカすも何も、正真正銘の魔法使いなのだが。
ヴィンセントは苦笑しながら手を振り返した。一般的な認知度はそんなものだと、純粋な忠告に内心痛くなりながらもヴィンセントは帰還の一路を辿った。
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天頂に座した太陽はゆっくりと西へ傾き、夕刻迫る午後のひととき。リュミエの部屋に差し込む光も橙色が濃くなりつつある。
そのような中、部屋の主であるリュミエは机に向かい針仕事に
(手間な割に稼ぎは少ないんだよなぁ……)
あっという間の仕上がり。前と後ろで直し漏れがないことを確認し、脇に退けてまた次の一着を手に取った。
これらは全て、都市の衛士団から請けた
「まあ文句言っちゃいけないけどさ」
しかし、これは言わば営業活動。顔を広げるための手段なのだ。
『いつも街を守ってくださる衛士様達のために、心を尽くしてお直ししました!』
女っ気のない男など恐るるに足らず。美女が自分達のために針仕事をしてくれたというだけで、連中の鼻の下は緩みっぱなしである。そして手を抜かない堅実な仕事で顔を広げ、ようやく捕り物の手伝いの依頼まで回ってくるようになったのだ。
とはいえ、剣の打ち直しが終わるまでは大人しくするしかないのであるが。
「……そういや、遅いな。しもべ」
窓の外へ目をやりつつ、妙に帰りが遅い下僕――もといヴィンセントのことを考える。朝から開墾の依頼に出したのだが、この時間になっても戻ってくる気配がない。
「……」
リュミエは口を尖らせながら、頭髪に針を擦り付ける。
既に幾つか仕事に遣らせているものの、彼女のヴィンセントに対する評価は”卒なくこなすが正体不明”だった。
その違和感は初めからである。請求書に対して金額でなく、内訳が不足していることに噛みついてきた時点で。その上、夜逃げもせずに粛々と従っているのである。
契約の重要さについても心得ているらしい。恐らくは何かしらの商売に携わっていたとリュミエは見ていた。
「仕事してくれんなら文句はないけど」
馴染みの商会から荷下ろしの人足を要請された時もそうだ。ついでに棚卸しの手伝いをさせてみるとさあ不思議。大きな数の計算も暗算してみせ、商会側の検算の結果とぴったり一致したという。
一体彼は何者なのかと逆に問い合わせられ、リュミエが大いに狼狽することもあった。
少なくとも商売の経験があり、算学の心得もある。それが今は向いてもいない魔法使いをしていると。
(どうせロクでもない理由で流れてきたんでしょ……)
ヴィンセントは自身の過去を話したがらない。他国で罪を犯したのか、それとも商いに失敗して破産したのか。後ろめたい物があるのかもしれないが、リュミエもそこまで興味がある訳でもなかった。
とりあえず真面目に仕事をしているのだから、とやかく言う方が面倒というもの。
「――遅くなってしまった。今戻った」
噂をすれば、当人のご帰還である。相変わらず無駄に立派な緑色の体が姿を現した。
「ごくろーさん。おカネはそこ置いといて」
リュミエは針を動かし続けながら、顎で扉脇の小机を指す。
多少帰りが遅かろうが、きちんとやることをやってくれればそれで良い。報酬をちょろまかしたりしない限りは。
「これは……どれも破れたりしているな。依頼か?」
麻袋を小机に置いたヴィンセント。彼はすぐに出ていかず、リュミエの仕事が気になったようだった。半分ほど減った衣服の山から一枚広げ、まじまじと眺める。
「そ。エーシの皆さんのたいせ〜つな預かりもの」
「そうか――針と糸は余ってないか? 私も手伝おう」
「え? まあ、あるけど……」
針と糸を受け取るなり、ヴィンセントは床に座ってチクチク軽やかに縫い始める。しもべにできんの、と軽くからかおうとしたが、その様子を見てリュミエは口を
「……慣れてんじゃん」
「身の回りのことは一通りこなせるようにしているからな」
「ふ〜ん」
なかなか滑稽な光景だった。
巨体のトロールが背中を丸くし、ヒトの衣服を縫っているその様が。さながらごっこ遊びのようでもあるが、本人は至って真剣な表情なのだから。
「エルフの小娘に出した仕事が、実は筋肉モリモリのトロールがやってたって知ったらさ。エーシの連中どんな顔するかな」
「言わねば分からんさ」
「だろうね。アイツら単純だから」
ククッと笑い、互いに針を動かし始める。
――色々分かんないけど。まぁ悪いヤツじゃないね。
少なくとも、今はそれだけで十分だった。
次話はやっぱりヴィンセントの行動が気になるリュミエの話。
※作中の挿絵はAI生成したものです。設定画と整合性が怪しい部分は目を瞑ってもらえればと。
第二章の人物紹介はこちら↓
https://syosetu.org/novel/385833/7.html