馬は好きだ   作:ははもり

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何度も書き直した結果滅茶苦茶時間がかかりました
誤字修正は本当に感謝です


輝く未来を君と見たいから

 『全ウマ娘、ゲートに入りました。一番人気はこの子、一枠一番シンボリルドルフ。学内の模擬戦も圧倒的勝利を飾ったとのことで一番人気に推されています』

 

 『私の一推しのウマ娘でもあります。今回もいい所を見せれるでしょうか』

 

 「ふう」

 

 緊張はない。

 油断大敵とは言うものの、私には勝利する自分しか見えない。

 周囲を見る。

 皆初めてのレースに緊張をしている。

 隣のゲートのウマ娘が私を見て、負けるものかと気合を入れている姿が見える。

 それに私は笑みが溢れるが、しかし負ける気が起きない。

 勝つであろうという確信がある。

 

 「さて、どこまで行けるか」

 

 必ず勝つのであれば、あとはどのように勝利するかだ。

 トレーナー君は控室で今後の練習を考えるのに必要だから本気で走って欲しいと言っていたが、もしかしたらそれは酷く残酷な結果を齎す可能性がある。

 

 「いかんな」

 

 これでは他のウマ娘を見下すような考えだ。

 やはり、本気で走るべきだろう。

 それこそがリスペクトある走りだろう。

 旗が揚がった。

 ゲートがもう開く。

 集中する。

 目の前の扉、その動き出す瞬間、体が勝手に動き出すよう、集中する。

 ――――開いた。

 それと同時に私は走り出す。

 相当上手く出れたと思う。

 結果、私は他より一歩抜きん出て飛び出した。

 周りにウマ娘はいない。

 だが私としては先行策を取りたい。

 一度力を抜き、そこそこのペースで走るように力を抜く。

 逃げ馬が先頭を取るであろう瞬間を待つ。

 だが、

 

 (こない? 出遅れて後方に回ったか?)

 

 であるならば計画は変更せざるを得ない。

 結果的に一番前についてしまったが、それならそれである程度スローペースで走らせて貰う。

 最後の直線一気のために脚をためさてもらう。

 走る。走る。走る。

 いつものペース。

 練習通りの日常のペース。

 なにも不足はなく、なにも油断はない。

 ただただ、先頭を走る。

 ある程度楽に走っているのに後ろに気配はない。

 更にペースを落とすか? そう思ったがこれ以上落とすと今度は自分のペースが乱れそうなのでやめる。

 最終コーナーの終わり。

 シービーならここで私との差は無いに等しい。

 悔しいが私の実力はまだ彼女に届いていない。

 だが、ここまできてまだ後ろに気配を感じない。

 どうして? そう思い私は横目で後ろ見た。

 

 (ああ、なるほど)

 

 気配なんかなくて当然だった。

 2番手以降全ての集団がだいぶ後方を走っていた。

 その顔には必死と絶望といった表情が張り付いており、心が折れているものが何人も見える。

 どうやら私は、自分が思うより遥かに成長しているらしい。

 だが手を抜く訳にはいかない。

 私は最後の直線、末脚を爆発させ、そのままゴールまで駆け抜けた。

 

            ★

 

 この世に才能というものはある。

 私の弟のように1を聞けば10にも100にもする才能がある者。

 100聞いても1しかできないもの。

 色々なタイプの人間がいる。

 私は所謂秀才タイプだったので勉学は大分努力したものだ。

 しかし天才である弟を羨ましいと思ったことはない。

 天才も過ぎれば毒なのだ。

 しかも自分自身を侵食する毒。

 競い合える敵がいない。

 自分理解してくれる相手がいない。

 ある意味で孤独な存在なんだろう。

 だから私はそんな弟を孤独にしないために努力した。

 私にもそこそこの才能はあったのだろう、努力すれば弟の才能に指の先でもかけれたし、話も合わせられた。

 それは天才の見る景色をある程度知っているからだ。

 知っていたから孤独にはさせずに済んだ。

 だから今のルドルフの才能を、実力を正しく知らぬ他のウマ娘にとって、どこまで努力すればいいのかわからない現状、彼女に先頭という圧倒的孤立を与えたのは当然の結果だったのだろう。

 

 「虐殺だな」

 

 他を寄せ付けない圧倒的大差勝ち。

 最終コーナに入る頃には他のウマ娘の顔には絶望の表情が浮かんでいた。

 それほどの圧倒的格の違い。

 

 『強靭! 無敵! 最強! 一番シンボリルドルフ! まるで他をよせつけない圧倒的な豪脚! 2着との差は! もう私の目からは測れません! 1:33:8! もはや重賞ウマ娘級の速さ! これは確実に将来の三冠候補でしょう!』 

 

 阪神、1600マイル戦。

 比較的短いこの距離で、しかも適性とは言えないこの距離で、彼女は先行策を取るつもりで逃げ勝った。

 

 (まるでマルゼンスキーだな)

 

 目測12馬身差、まだ余力を残しているようにも見える。

 私の目で見る限り先行策のつもりで飛び出し、周囲との速度の違いで結果的に逃げになった感じだろう。

 地力が圧倒的に違う。

 まるでアリと巨人だ。

 

 「さて、行くか」

 

 勝利者インタビューがこのあとあるだろうし、ルドルフの元にいかないといかんな。

 ここまでの暴虐を繰り広げてしまったんだ。

 インタビューちゃんと考えてしないと炎上しそうだ。

 そうして私が歩き出そうとするとミスターシービーが「アタシも行くよ!」と手を挙げていた。

 

 「面白そうだし!」

 

 「別にルドルフと控室でちょっと話してインタビュー受けるだけだぞ?」

 

 「えーその前にウイニングライブがあるじゃない?」

 

 ウイニングライブ…………?

 

 「………………………………あ」

 

 忘れてた。

 

 「………………その反応、もしかして」

 

 「そうだ……そんな謎の儀式があったんだった……」

 

 「謎って……まあルドルフなら大丈夫だと思うけど……もしかして一度も練習してない?」

 

 「してないな……存在を忘却していた……」

 

 そうだった……馬券がない代わりにライブやグッズの販売で儲けを出しているURAにとってウイニングライブは間違いなく必要な経済活動。

 そこから賞金も出しているんだから絶対に忘れてはいけない行事。

 完全に前の世界の感覚で行動していたからアイドル活動みたいなことをしていることを忘れていた。

 そもそもそう言う行事に欠片も興味がなかったので認識してはいても記憶に定着していなかった。

 頼むルドルフ……自主練とかしててくれ……炎上する……。

 

 「ま、まあルドルフなら自主練くらいしてるだろうし大丈夫でしょ!」

 

 「そうだな……そう思いたい……」

 

 そうだといいな……。

 あと控室は普通に関係者以外立ち入り禁止なのでミスターシービーは入れなかった。

 

 

       ★

 

 控室。

 特に疲労が見えないルドルフに私はとりあえず「お疲れ様」と告げた。

 ルドルフは腕を組み、微笑む

 

 「ああ、どうだったかなトレーナー君」

 

 「中々だったな」

 

 まあこんなものだろうと言う態度を隠さず、私は薄く笑う。

 距離適性も合っていない中この結果は悪くない。

 

 「む、ということは君にとってはまだ足りていないと?」

 

 「ああ、正直まだいけるとも思ったな。だが距離適性があっていない上にまだまだ未完成なことを考えると出来過ぎている。今はこれでいい」

 

 前の世界の持ち馬は、新馬戦最大着差17馬身を達成している。

 だからまあそれに比べれば中々であろう。

 もちろん距離適性も合わせてある程度本格化した超早熟馬だったので条件は違うし他の馬が弱すぎたのもある。

 だから十分出来過ぎている。

 まあ新馬戦なんて大差つけて当たり前な環境にいたから私の常識もおかしいかもしれんが。

 

 「そうか……君の中では私はまだまだなんだな……なら、更に鍛錬を積むことにしよう」

 

 気炎万丈とはこのことか。

 ルドルフに瞳に燃え上がる闘志を見た気がした。

 どれだけ私をウマ娘好きにしたいんだこの子は。

 

 「十分凄まじい結果だとは思うがな?」

 

 「だが君はまだ、私達ウマ娘の走りを君の好きな競馬とやらと同等には置いてくれはしないだろう?」

 

 「そうだな」

 

 ここは即答する。

 そもそもウマ娘というコンテンツに触れている歴は浅い上、ウイニングライブのことも忘れていたくらいだ。

 …………そうだった………そのことを聞かないといけないんだった。

 …………聞きたくない。

 ルドルフはルドルフで私の回答に苦笑いをしており、この空気で聞くのも気不味い。

 

 「即答な辺り先はまだまだ遠そうだ」

  

 「あ、ああ。そうだな。流石に歴が違うよ。それより……そうだな……あの、だな……」

 

 「君にしては歯切れが悪いな。どうしたんだい? 君ほどの者がこの後のインタビューに緊張しているわけでもあるまい」

 

 腹は決まった。

 この世界に産まれて今が一番ピンチな気がしてきたが腹は決まった。 

 全部私のせいだ。

 私が悪いからどうにかなって欲しい。

 

 「そのだな…………この後の……ウイニングライブの……大丈夫か……?」

 

 「? 問題ないがそれがどうかしたのかい? 練習もしたし振り付けも完璧だ。それに特に緊張もしていないよ」

 

 「ルドルフ! 君はやはり素晴らしい! 私は感動した! 流石はシンボリルドルフだ!」

 

 勢い抱きしめそうになったが流石に正気に返ってルドルフの両肩をバンバンと手のひらで叩く。

 …………ああ、ルドルフがしっかり者でよかった。

 流石にトレーナーが担当をライブで棒立ちさせるとかあってはならない。

 印象が悪すぎる。

 そんなトレーナーはいてはならない。

 それをしようとしたのが私だが。

 

 「……な、なんだいトレーナー君……私のレースより喜んでいて若干腑に落ちないんだが。そしてそんなにも声を張り上げている姿も初めて見たよトレーナー君!?」

 

 「ウマ娘というのは素晴らしい、 自分で考えて動けるというのはやはりメリットだな」

 

 まあそこはマラソンランナーと変わらないだろうが、本当に助かった。

 最近うっかりが多い気がするが、やはり常識が変わると適応に時間がかかるものだな。

 もう少し気合を入れて物事を考えねば。

 

 「よく分からないところで評価が上がっているのに戸惑うばかりなんだが……」

 

 評価が上がっているのはひとえに私のせいだが、今後の戒めの為にもルドルフには伝えておく。

 自分の中だけで消化していると相手の信頼も失うこともあるのでね。

 

 「私はウイニングライブの事を完全に忘れていた。なのに君がちゃんと練習していたのがありがたいと思ってな」

 

 そう言うと、ルドルフは「なるほど」と納得すると一つため息をついた。

 

 「君は本当にレース以外は興味ないんだな」

 

 「そうだな(競馬ならもっといいが)正直アイドル活動のようなものには興味ないんだ。音楽もそこまで聞かないしな」

 

 ウイニングライブじゃなくてウイニングランなら好きだがライブのような歌手活動には毛ほども興味がない。

 音楽は喫茶店などで流れているクラシックのようなものだけで十分とすら思っている。

 

 「君の言葉の裏に競馬ならもっといいという言葉が見え隠れしている気がするな」

 

 「君は私の事をよく分かっているね」

 

 そこまで露骨ではなかったと思うが勘が良すぎるな。

 本来動物である馬も感情を読むことに長けている子がいたからそういうことなんだろうか。

 まあ別にバレたところでそこまで問題は無いが。

 結局競馬が好きと言うのは未来永劫変わらない事実なのだ。

 

 「もう少し、ウマ娘という存在を認めてくれていいんじゃないか?」

 

 そういって少し拗ねた反応をするルドルフ。

 私は別にウマ娘を嫌っている訳ではないんだがな。

 

 「認めているさ。競馬のが好きなだけだ」

 

 「やはり私のもう一つの目標も遥か遠くにありそうだ…………」

 

 もう一つの目標は私がウマ娘を競馬と同じくらい好きになるだったな。

 別にそこまで気にしなくてもいい気はするんだがな? 

 野球選手でもゲームのが好きな人だとかバスケットのプロでも競馬のが好きな人とか、そんな人がいてもいいだろう。

 仕事を好きである必要もない。

 結果を出していれば特に問題はない気はするんだがな。

 まあ大人の考えなのかもしれんが。

 そんなことを考えていると扉からノックの音がし、扉の向こうから声がした。

 

 「すいません。URAスタッフです。ウイニングライブの事前合わせでそろそろ会場に入場していただきたいのですが」

 

 「ああ、すいません。すぐに向かわせます」

 

 私はルドルフに向き直ると、ルドルフ肩に手を置き、告げる。

 

 「さあ、行ってきなさい。なに、ちゃんと私もライブを見させて貰うよ。」

 

 そう言うと、ルドルフはジト目とも言えぬなんとも言えぬ拗ねた表情で私へ辛口をプレゼントしてくる。

 

 「…………私のトレーナー君はライブに興味がないんじゃなかったのかい?」

 

 その言葉に、大人っぽくてもやはり子供なんだなと私は苦笑いする。

 

 「流石の私でも担当のライブは見るさ。良いところ、見せて貰いたいな」

 

 「…………はあ、ならライブに興味のない君を、惹きつけて目が離せなくなるウイニングライブをプレゼントするとしよう」

 

 都合の良い私の言葉に呆れているのかルドルフは呆れつつも凛とした表情で私に指を指しそう言い、控室から出ていく。

 ……自分のトレーナーにはウマ娘が好きな人でいて欲しいのだろうか。

 まあ私も前の世界では競馬を始めたての初心者や初心者馬主によく優しくレクチャーして競馬という世界へずぶずぶに沈ませたりしていたから気持ちはよく分かるが。

 

 「あんな美女に熱心に言われて、若い頃の私なら音楽もライブも好きになっていたんだろうか。歳はとりたくないものだ。頑固になってしまっているかもしれん」

 

 そうして私はミスターシービーがいるであろうライブ会場周辺へと歩きだし、トラブルが起きた。

 いや、トラブルと言うには少し毛色が違うが。

 

 「自分新米トレーナーの博多泰造いいます! シンボリルドルフさんのあまりの完成度を見て、あんたしかおらん思いました! どうか自分をサブトレーナーにしてください!」

 

 謎のトレーナーに深く頭を下げられた。

 とりあえず

 

 「私の対外的な印象が悪くなりそうなので頭を下げるのはやめてくれないか…………いや、なんか微笑ましいものでも見るかのように見られているな。この世界の常識はどうなっているんだ」

 

 青春だなー見たいな雰囲気が辺りの観客からするんだがやめてくれないか、私はまだこいつの名前しかわからんぞ。

 サブトレーナーが欲しいとは思っていたがそれもチームを組む前提での話であり、今は別に欲しくもなんともないんだが?

 

 「お願いします! お願いします! 自分あんたが頷いてくれるまで蛇のように追いかけ回します!」

 

 蛇流行っているのか!?

 ルドルフもそんなこと言ってたぞ!?

 ええい、私の腰にしがみつくんじゃない! 絵面が気持ち悪い!

 そもそもまだ一戦しか走っていないのにトレーナーの腕前もクソもないだろう! あと私も新米だ!

 

 「あのだね。博多君。私も新米トレ…………………ん? 君、顔をよく見せてくれないか?」

 

 なにかどこかで…………見たことあるような顔だな………。

 

 「え? は、はあ……自分ただのおとん似のイケメンですが! そしてオカン似の天才ですが!」

 

 「…………イケメンとかは別にどうでもいいんだが………なるほど………」

 

 前の世界、私の晩年によく依頼していた天才ジョッキーに顔がそっくり、というか名前も同姓同名であった。

 なるほど、こういうこともあるのか。

 なんだか懐かしい気分だ。

 私はなんだか郷愁に駆られ、気の迷いを起こした。

 

 「あー……わかった。君をサブトレーナーにしよう。ただ、担当を持ったらさっさとやめなさい。君絶対に才能あるから。間違いなくある。それまではちゃんと私の技術も教えよう」

 

 「え、いいんですか!? やったー! でもなんで自分に才能があるんなんてわかるんです?」

 

 「顔」

 

 「…………顔」

 

 「顔」

 

 顔としか言いようがない。

 前の世界の人間にそっくり、と言うよりたぶん同一の存在だからとか言ったら頭を疑われる。

 だから言語を凄まじく圧縮して顔と応えてやった。

 これも大概頭おかしい気がしてきた。

 

 「や、やっぱり僕のイケメンは才能……おとん…………おかん………せんきゅー………」

 

 (アホでよかった)

 

 そう言えば前の世界の泰造くんもこんなだったなと思い出す。

 ナルシストかつ器量良し、複数言語を使えてトークも面白い。

 それだけでもメディア受けは相当良かったのにジョッキーとしての腕前も若い頃の豊くんを想起させメディアでは競馬界を牽引する逸材と言われていた。

 そう言えば私以外の馬主にも大層好かれてもいたな、コミュニケーション能力が凄まじく高い子だった筈だ。

 競馬以外はポンコツでアホとは言われていたが憎めない奴とも言われていた。

 そんな競馬限定で我が弟と張り合える天才。

 それが博多泰造である。

 

 「あ! トレーナーさん! シンボリルドルフさんのウイニングライブが始まるみたいですわ! さっさ行ってさっさと前の方にいきましょ!」

 

 「私は関係者席があるから問題ないが」

 

 「なに言うとんですか! 担当の晴れ舞台は最前線でみんとアカンでしょ! 関係者席なんてちょっと遠いやないですか! ほらほら行きまっせ!」

 

 「お、おい。引っ張るんじゃない!」

 

 私は早速彼をサブトレーナーにしたことを後悔した。

 お、おいこら! シンボリルドルフのトレーナーが通るぞなんて言いながら強引に進むんじゃない!  迷惑だろう! いや君達も道を開けるのか!? 君達もトレーナーだ通せ通せじゃない! この世界の常識はどうなっているんだ!?

 ああ! 最前列に到達してしまった……。

 

 「……はあ……はあ……強引すぎるぞ博多君……並んでいた人の迷惑だろう……」

 

 「いや、担当トレーナーなら普通に前に通してくれますよ? 当たり前やないですか」

 

 「知らなかった……そんな常識……」

 

 もう少しウイニングライブの事を勉強しよう……知らない事が押し寄せて来ることでもう疲弊したくない……。

 

 「はいこれ」

 

 そう言われ博多君から渡されたのは謎の棒。

 なんだこれは。

 

 「なんだねこれは」

 

 「サイリウムですわ」

 

 「ああ、たまに工事現場や犬の散歩をしている人が使っているやつか、で、それを何に使うのかね」

 

 「知らんのですか!?」

 

 嘘でしょ……見たいな顔をしているが私はライブ会場とは無縁の人生だったんだ。知らんよ。

 

 「こうやって折ると……ほら光るでしょ?」

 

 「そうだな」

 

 「そして、こうやって曲に合わせて振るんですわ」

 

 「客がか!?」

 

 「えぇ……当たり前ですやん……」

 

 …………私を関係者席に返して貰えないだろうか、いい歳してそんなことしたくないのだが。

 いや、よく見れば関係者席もサイリウムを持ってるな……まさか関係者席の人間もそうなのか?

 

 「ほら、はよ折ってください」

 

 「…………やらないとダメか」

 

 「あきません」

 

 「…………あきませんか」

 

 …………頭が痛くなってきた。

 だが、人を押しのけてやってきたのだ。

 それを思えばやるしかあるまい。

 もうこの際ヤケクソである。

 サイリウムを折り光を点灯させた。

 …………子供の頃に光る棒で遊んでいたことを思い出す。

 なんだか懐かしくなり、サイリウムを軽く振りながら手遊びしていると、ライブ会場が暗くなった。

 たぶん、始まるのだろう。

 

 「やあトレーナーさん。ライブなんて興味なさそうだったのにサイリウムなんて持って最前列にいるなんてやる気満々じゃん」

 

 ミスターシービーがいつの間にか隣にいた。

 この子はたぶんちゃんと最前列にいたんだろう。

 要領はいい子だからな。

 

 「君か……いやこれはだな……」

 

 「ルドルフも喜ぶよ。絶対に」

 

 「む、そうか……仕方ない……それもトレーナーの仕事か……」

 

 「なに堅苦しいこと言ってんのさ。こういうのは楽しんだもの勝ちだよ」

 

 「なんか知らんけどミスターシービーおる!? いやそれよりお二人さん、もう始まりまっせ」

 

 博多君がそう言うと、学園の制服を着たルドルフが一番前に現れ歌い始めた。

 周囲は全員サイリウムを振っているので私もそれに合わせてサイリウムを振った。

 私だけなんだかリズムに乗れていない気がする…………のだがなんだろうか、ちょっと楽しい気がしてきたな。

 隣のミスターシービーが「ね?楽しいでしょ?」とでも言わんばかりの目で私を見てくる。

 少し悔しいがその通りだ。

 そして隣の博多君は私の肩に腕を回して来て一緒に横揺れしようとしてくる、なんだかそれも少し楽しい気がしてきた。

 そしてそれを見たミスターシービーが私の肩に腕を回し、三人でサイリウムを振りながら横揺れをする形になった。

 流石に三人は普通に恥ずかしいのでやめていただきたいのだがルドルフがそんな私達に気づいたのか、途端に今までのライブ中の笑顔ではない、花は咲くようなとても明るい笑顔で、歌い始める。

 

 「……………………なるほど、これがトレーナーの楽しみか」

 

 確かに、自分の担当が最前列で歌い、楽しそうにしている姿はなんというか、嬉しいものだな。

 いや、未だにレース後に踊って歌うとか意味がわからんと思っているし、普通に怪我したらどうするんだとも思うのだが……………それがこの世界の常識だというのなら…………そうだな、これはこれでいいものかもしれん。

 

 『輝く未来を君と見たいから』

 

 ルドルフの指を指す振り付けが明らかに私へと向いていた。

 そんな姿を見て、何というのだろうか………少し、湧き立つものがあった。

 なるほど、これを私達は何万人といるG1や世界でやるのか………それは、少し面白いかもしれない。

 

 「………………少しこの世界が好きになったかもしれないな」

 

 とりあえず私は色々考えずこのライブを楽しむことにする。

 今ある感情を大切にしたかったからだ。

 




             ★

 「どうだったかな、トレーナー君。私は君を釘付けにできただろうか?」

 「そうだな。ライブというのは初めて来たが、私は食わず嫌いだったようだ。途中からは君に夢中だったよ」

 「ふふ、なら良かった。君の好きなものにまだ及ばないかもしれんが、こういうのも悪くはないであろう」

 「ああ、君が世界の舞台に立つ姿を想像したら、少し、ワクワクしたよ」







博多泰造君はウイニングポストの私のプレイアブルキャラです
本来主人公の名前が博多泰造だったんですがいつの間にか登場しました。
そして何度も何度も書き直していた文章に泰造くんは姿形も無かったのですが登場した途端スラスラ書けてしまい陽のキャラの大事さを改めて痛感いたしました。
陽キャラってすげー
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