星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《10》

***

 

 

 

 天国家は、それぞれ経済的に独立した宙と陽子の二人によって構成される家庭であるが、彼女等は一軒の家という生活空間をシェアしているため、完全に個人として分断された暮らしを送ることは出来ない。生活する上でこなさないといけない種々の家事の負担が、各自に均等に割り当てられるのが望ましいのだが、天国家においては、瑛地が亡くなり、宙が自立した後でも、それまでの在り方が惰性で続く傾向がある。詰まる所、天国家は割とアバウトに運営されているということだ。

 

 

 

 天国家の一台だけある五百リットルの冷蔵庫には、宙と陽子それぞれの買ってきたものが雑多に入っている。中身は基本的に二人の好きにしていいのだが、手を出してはいけないものに関しては、相手への事前の注意が必要であり、それを怠ると、どうなっても文句は言えないという慣わしになっている。

 

 

 

 ある晴れた日の夜。十六帖のリビングの窓際のソファで、仕事をすでに終えて帰っている宙は、Tシャツとジャージの軽装で肘掛に頭をのせ、仰向けにゆったりと横たわった体勢で、携帯ゲームを両手で持ち上げるようにして持ち、興じていた。部屋は照明で明るく、窓はカーテンで遮られている。

 

 陽子は宙より早くパートより帰宅しており、眠いからと夕方から自室のベッドで寝ていたのだが、日がすっかり暮れた今、起き出してきたようだ。だらしなく寝癖で襟足をはねさせた彼女が、階段よりリビングに降りてくる。

 

 陽子も、宙と同じくTシャツとジャージという出で立ちである。きっと楽なのだろう。

 

 彼女は手を口元に持って来、大きくあくびすると、目尻にうっすらと涙を溜めた顔で、「宙、もうご飯食べた?」と問う。

 

 宙は「まだ」、と端的に返す。

 

 陽子は「そう」、と納得すると、キッチンに行き、冷蔵庫を開き、中を覗き込んだ。ラップに包まれた透明のパック入りの魚の切り身が彼女の目に入った。赤身の魚だった。

 

「アンタ、またマグロの切り身買ってきたのね」

 

 そう言う陽子の口調は、どこか呆れているように聞こえる。

 

「……」 

 

 宙は無言である。どこか図星という感じがしなくはない。

 

「胃袋にまで、お父さんの影響が及んでるって感じ」

 

「お父さん、マグロ漁船の航海士だったでしょ」、と宙。「わたし、昔からマグロばっかり食べてきたし、一種の習慣なんじゃないかな」

 

「成るほど、そういうわけね」

 

 納得してパタンと冷蔵庫の扉を閉じた陽子の手には、お茶のポットがあり、シンクの水切りにある洗い立てのグラスを取ると、お茶を注いで飲んだ。

 

 

 

 生前、瑛地は遠い海より家にマグロを持って帰ってくるのみならず、よく調理までした。宙は彼の作るマグロの漬け丼が好きで、冷蔵庫にある切り身も、漬け丼にするつもりだった。

 

 

 

 夜の八時頃。テーブルで宙と陽子は対面する格好で食事をとっていた。宙の方には漬け丼と余った切り身を添えたカルパッチョ風野菜サラダ。陽子の方には豚肉を入れた野菜炒めと味噌汁と白いご飯。

 

 宙の漬け丼はあまりうまくいかなかった。タレに切り身をしばらく浸けたのだが、味が全体まで浸み込んでいない。まぁいいかと、しかし宙は意に介さなかった。

 

 テレビでクイズ番組がやっていたが、例の如く、ただ付いているだけに過ぎなかった。

 

 宙は口をモグモグさせながら、食器の間に置いたスマホでゲームをしていて、一方で陽子は、頬杖を突いてテレビのクイズ番組を見るともなしに見ていた。

 

 クイズ番組に、ちょうど宙と同じくらいの年齢の女の子が出演しており、確かアイドルだっただろうか、と陽子はぼんやり思い返してみたが、はっきりした覚えがなかった。

 

 ふと、陽子はハッとし、「そうだ」、と出し抜けに言う。

 

 宙が何事かという感じで顔を上げ、陽子を見る。

 

「今日ね、病院に女の子が来たの」、と陽子。

 

「女の子?」

 

 宙がきょとんとする。

 

「アンタと同い年くらいじゃないかな」

 

「何歳か聞かなかったの?」

 

「だって、見かけただけだもん」

 

 いささか呆れる宙のスマホの画面が、一定時間操作されないことで消える。宙は、ただ同い年くらいに見えただけの女の子のことを、どうしてわざわざ陽子は口にするのだろうと、訝しく思った。

 

 その話をどうでもいいものとしてまともに取り合わず、宙がスマホのゲームを再開しようとすると、陽子は「綺麗だったのよねぇ」、としみじみ述懐する。

 

 宙は気にせず自分のことに没頭しようとするが、その女の子が青い髪だと聞くと、思い当たる人がおり、関心が陽子の話の方にグイと引き戻された。

 

「青い髪の女の子?」、と宙が聞き返す。

 

「うん」、と陽子が頷く。「後、耳にオレンジ色の可愛いピアスしてた」

 

「……」

 

 ほぼ、間違いはなかろう。青い髪とオレンジ色のピアス。先日宙の働くプラネタリウムにやってきた女の子が、同じ外貌だった。宙にとって彼女、岬欧華は、印象的であった。

 

「ひょっとして宙、その子のこと知ってるの?」

 

「同じかどうか断言は出来ないけど」、と宙は考え事でもするように、いささか渋面を呈して言う。「この前プラネタリウムを観に来た女の子と特徴が一致してる。岬欧華っていう名前」

 

「岬欧華……ご近所さんではなさそうね」

 

 

 

 欧華が、陽子の勤務する病院に来ていたようだ。しかしどうしてだろう? 彼女は風邪を引くか、怪我をするかしたのだろうか。宙は疑問に思い、また彼女のことが心配になった。

 

 

 

***

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