星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

11 / 102
《11》

***

 

 

 

 汪海町は日本海に接する町である。夏は南方の季節風が内陸の山脈を越えてくるため晴れの日が多く高温で、冬は北方の冷たく湿った空気がもろに流れてくるので、湿潤で比較的よく雪が降る。

 

 汪海湾は汪海町に対し、弧状の海岸線を描いている。この海岸線上に、漁港や海水浴場などがあり、宙の勤務する船舶型科学館、スターシップMINATOもある。

 

 さて、宙の母、天国陽子は病院勤務の看護助手であるが、彼女の病院も、汪海町において、内陸より海側に近い方の区域にあり、病室からは海原が望める。医療法人の運営する総合病院で、多種の診療科目を取り扱っており、高層の建物である。

 

 陽子はフルタイムのパートタイマーであり、週五日、月曜日から金曜日まで出勤している。土日祝が公休日であるが、陽子の病院の開院日は基本的にカレンダー通りであり、祝日が連続するゴールデンウィークは休めても、祝日でないお盆休みは公休日扱いされていないので、休むとなると、有給を消化しないといけない。陽子において休みたい時は多々あるが、職場が人手不足なので、中々気軽に休めないのが困ったところである。

 

 

 

 陽子は、宙が会ったかも知れない岬欧華という、青い髪の女の子のことが何となく気になっていた。それぞれの特徴が一致していることから、陽子が病院で偶然見かけた女の子と、プラネタリウムに観覧に来たと宙が言った欧華は、同一人物と思われた。

 

 この辺境の海辺の町は、年々活気が失われていっている。都市部への流出による人口減少、過疎化。とりわけ若者の流出が著しく、残るのは非若者の、中年、老年の者ばかりで、清新さが不足していた。伝統や歴史は確かに尊ばれるべき重みがあり、大切だが、旧習を繰り返して塗り重ねることは、変化を生み出すことがなく、時代の流れに対応する力を持ち得ない。

 

 そういうゆっくりと廃れていく趨勢にある環境に突如現れた岬欧華は、瀟洒で、陽子の目には輝かしく見えた。彼女は、キラキラ光るオーラを纏っているようで、ああいう子がアイドルになって人気を博すのだろうと思わせる非凡な雰囲気があった。

 

 陽子はただ通路を行く欧華の姿を目にしただけに過ぎず、まだ名前すら知らないのである。どうにかして彼女のことが知りたい、院内の者に尋ねて回ってみようなどと陽子が考えてみても、守秘義務というものがあって、厳しく遵守されており、詮索などすれば、違反者として陽子が白い目で蔑まれるだけである。浅薄さは、長年築き上げてきた彼女の信用を失墜させかねない。

 

 

 

 院内の休憩室。陽子はお昼休憩のために、他のスタッフと共にいた。狭い室内に、テーブルや椅子やソファなど、休憩に要るものが置かれている。水道やシンク、電気ケトルもある。それぞれ密に置かれているが、整理されているため、狭さの割に、さほど窮屈という印象を与えない。

 

 

 

 ラップにくるんだ手作りのおにぎりを食べている陽子は、考え事しているように、一人で唸ったり、首を傾げたりしている。

 

「どうされたんですか、陽子さん」

 

 隣に座る看護師の女性が、気になって尋ねる。彼女は新米の看護師で、ベテランの陽子が教育を担当している。彼女の正面には、コンビニで買ってきたパック入りのサンドイッチがある。

 

「この間見かけた患者さんが気になってさ」

 

「えっ、男性ですか?」、と看護師は、陽子がいい男でも見かけたのかと早合点して聞く。

 

「違う、違う。女の子」

 

 陽子は苦笑と共にかぶりを振る。

 

「何だ」、と看護師ががっかりしたように返し、サンドイッチを口にする。

 

「見てないよね?」

 

「わたしは見なかったですよ」

 

「ハァ」、という陽子のため息。「守秘義務さえなけりゃ、あちこち聞いて回るんだけどなぁ」

 

 温かいお茶淹れましたよ、と一緒に休憩している若手の男性の看護師が、湯飲みをお盆で持って来、休憩室にいるメンバーに配っていく。皆、ありがとうと言って受け取る。

 

「何で」、とお茶をすすって看護師が聞く。「その女の子のことが気になるんですか? ひょっとして有名人だったり?」

 

 パックのサンドイッチが半分くらい減っている。陽子は陽子で、二つ持ってきたおにぎりの内、二つ目にパクついている。

 

「かも知れない」、と陽子が返す。「だけど表立って聞けないじゃん。個人情報を探るなんてダメだしさ」

 

「まぁ、そうですね」

 

「だよね」

 

「けど、聞き方によっては、許されるんじゃないですか?」

 

「聞き方?」

 

「その子の情報を持っている誰かがいるとして、その人に、例えば住所そのものを聞くとマズいから、どの辺に住んでるのかなぁ、って感じでアバウトに聞いてみるとか」

 

「成るほど。その方法はありかも」

 

 

 

 その内、おにぎりとサンドイッチが平らげられ、陽子と看護師は個人の時間に移り、それぞれスマホでSNSを見たり仮眠したりして過ごし、やがてお昼休憩が終わった。

 

 午後からの勤務中、陽子はぼんやり、あの女の子の情報収集の方法と看護師のアドバイスを結び付けて考えていた。だが陽子は、ひょっとすると、宙のプラネタリウムにあの女の子がまた現れ、わざわざ苦労して知ろうとしなくても、彼女について宙に教えて貰えることになるのではないか、などと、楽観的に考えるのでもあった。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。