星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《12》

***

 

 

 

 天体のことに関して宙にとって昔から謎だったのは、宇宙の外側がどうなっているのかということだった。宇宙は我々人間と同じように、永遠不変のものではなく、日々変化して、あるいは進歩しており、あるいは衰退している。アメリカの天文学者ハッブルが提唱した理論により、地球上より観測出来る銀河が、地球より徐々に遠ざかっていることが分かり、この理論は、天文学の世界において画期的だった宇宙の膨張の発見に繋がるのである。

 

 宇宙は自身に含む物質の性質やその重力の大小の作用を受け、拡大しているのだ。何かが拡大する時、反対に縮小する何かが存在する。宇宙が拡大することで縮小するのは一体何なのか? 宙にとってそれは、思い描くことの出来ない、本当に『?』でしか示され得ない純然たる謎であった。ネットで調べ、個人の回答をいくつか見てみるなどしたことがあるが、どれもてんでバラバラで、また、哲学の領域に及んでもいた。いつか、宇宙の外部が解き明かされる時が来るのだろうか?

 

 天気のよい夜、宙はしばしばベランダに出、欄干に腕組みし、星空を仰ぎ見る。目に見える星影は、何光年も前のものが、ようやく地球まで届いて見えるようになったものである。夜空に瞬く星より更に向こう、太陽系を越えて他の銀河系を越え、更に宇宙さえ越えた先に、更に別の空間があるという可能性を考えると、宙において、どこか頭が痛くなる気がしてくるのだった。

 

 

 

「――宇宙の外?」

 

 と、スターシップMINATOの事務室で古川が、戸惑ったように眉をひそめて聞き返す。

 

「が、どうなってるかって?」

 

「はい」、と宙。

 

 事務室において、宙と古川のデスクは隣同士だった。午後三時の短い休憩に入る直前に、タバコを吸いに行こうとパソコン作業を一段落させた古川の様子を見、宙が声をかけたのである。

 

 午後三時を回り、他の職員が席を立って退室したり、デスクでスマホを取り出したりして、各自休憩に入っていく。

 

「んなことおれが知ってたら、ノーベル賞貰ってるよ。アインシュタインだってびっくりさ」

 

「……」

 

 宙がどこか白けた感じになる。古川はその憮然とした表情を見て微かにムカッと来る。そのために印象を害されるほどではないが。

 

「別に真実を教えて欲しいって言ってるんじゃないんです。古川さんがどういう風に考えてるか、聞いてみたいっていうだけで」

 

 古川は面倒くさそうに後ろ頭を掻くと、「無だよ」、とあっさり答える。「宇宙の外部は何もない。虚無」

 

「ありふれた回答ですね」

 

「お前、おれに大喜利やらせてるのか」

 

「……」

 

 元々、宙はさほど期待してはいなかった。どういう回答が来ても別に意に介さないつもりだったし、古川は自他共に認める凡庸な男だった。だが、明晰であるよりは凡庸である方が、人を安心させるものである。

 

 

 

「――普段、おれたちは脳を使ってるだろう」

 

 古川が確かめるように言う。

 

 彼と宙は、過日のようにまた、スターシップMINATOのデッキの喫煙所にやってきていた。宙は半ば古川に連れてこられる形だった。古川は立ってタバコを吸っており、宙は椅子に座って、自販機で買ったパックの飲料を飲みながら、海を眺めている。

 

「使ってます。考えたり、想像したり」

 

 宙が返す。

 

「宇宙の外っていうのは――これはあくまで漠然とした一イメージに過ぎないが――自分のそういう考えや想像の及ばないところっていう感じが、おれにはする。つまり、やっぱり無としか言いようがないんだが」

 

「未知の領域ですね」、と宙がかいつまんで言う。

 

「まぁ、そういうこった」、と古川が肯定する。

 

「大学時代、ゼミの論文でこのテーマに挑んでみようと思ったんですが、流石に難題過ぎて断念しましたね」

 

「宇宙論に関しては、そもそも既知のことが少ないし、今あるデータとか研究だって、狂いのない事実だっていう確証はない。なまじ宇宙が人間にとって身近じゃないから、どうしようもないんだが」

 

 そう言って、古川は短くなったタバコを揉み消し、灰皿に捨てる。宙は飲み干して空になった飲料のパックを捨てやすいようにぺちゃんこにする。

 

 

 

 その日の天気は快晴だった。気温はちょうど二十度くらいで、空気はカラッとしていて、過ごしよい日和だった。

 

 

 

 午後六時頃。宙が些少の残業を終えて退勤し、自転車のある駐輪場に向かうと、ちょうど古川も帰るというタイミングだった。出口に向けて大型のオートバイに跨り、タンクの上にヘルメットを置いて、まさに出発しようという感じだった。職場ではパッとしない男だが、大きいバイクに跨ると、どこか貫禄が出て見えるのが、宙には不思議だった。

 

「お疲れさまです」、と宙。

 

「お疲れ」、と古川。

 

 彼はヘルメットを被り、バイクの電源をオンにして、エンジンを起動する。ブンブンとやかましい音が鳴り、サッと片手を上げ、古川があばよという風にオートバイで走り去っていく。

 

 排気ガスのにおいが、プンと跡に漂って残る。

 

 古川の趣味がオートバイだと聞いたのは、宙がスターシップMINATOに来て間無しの頃で、自己紹介で聞いたのだった。

 

 乗り物にとんと興味のない宙には、オートバイの何がいいのかさっぱりだったが、別に馬鹿にしたり、軽蔑したりはしなかった。とにかく、古川にとってはオートバイが趣味であり、そのために古川の人生が豊かになるのであれば、それで結構ではないかと思うだけであった。

 

 

 

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