星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《21》

***

 

 

 

 宙には、周りには公にしていない趣味があった。母の陽子だけがそれを知っており、二人はその趣味で繋がっていた。特に気後れするようなものではないのだが、宙は、その趣味を周知されるのが恥ずかしかった。本気で打ち込んでいる趣味というのは、しかしあまり進んで打ち明けにくいものである。

 

 日曜日が開けて月曜日。雨後の空はカラッと晴れ、行楽日和だった。宙は出勤のため、すばらしい空模様などまるで見えない窓なしの室内にこもりっきりだったが……。

 

 宙のデスクには、科学雑誌や事典、資料をまとめたバインダーなどがたくさん収納されていたが、デスク上のスタンドを始めとして、公然と見えるところにあるのは、まじめくさった資料に限られていた。デスクの引き出しの中も、基本的には同じなのだが、一冊のルーズリーフバインダーの(ポケット)に、一枚の写真が収まっていた。そのバインダーは、表紙が透明でないため中身が見えず、加えて、宙の仕事上のメモや天文学の謎に関する閃きの殴り書きなど、個人的コンテンツばかりが集められたものであり、他人が絶対見ないし、見る必要のないものだった。

 

 月曜日の午前中は、社会見学の小学生の対応があり、全職員そこそこ多忙だったが、科学館の客として小学生は馴染みのものであり、動き方は心得たものだった。

 

 やんちゃだったり大人しかったりする性質のバラバラの子供たちを、宙や古川を始めとした職員たち、及び子供たちに同行してきた教員と共にうまくあやしつけ、お昼までに無事に帰させると、ちょうど休憩の時間になった。

 

 職員がそれぞれ持ってきた弁当や買ってきたものをデスクに出して食べ始めたり、席を立って外食に出かけたりしていく中、宙は自席に留まっていた。隣席の古川は、いつもそうしているように、外に食べに行った。

 

 古川とは逆側の宙の隣席は、『柳川(やながわ)』という女性職員のものなのだが、彼女は日によってお昼休憩の時の行動が違い、自席で食べたり、外に行ったりと法則性がなかったが、その日のお昼は、彼女は外出して席を外した。

 

 そうなると、壁際の席にいる宙の近辺は無人となるのだった。

 

 宙は席を立ち、ロッカー室にしまってあるリュックより、弁当箱の入ったランチバッグと水筒を事務室に持って来、デスク上に置いて座り直すと、しばらくボーッとしていた。例外は間々あるが、お昼に居残る人と外出する人は決まっていて、宙は居残る方で、古川は外出する方だった。例の威厳のある職長は、いつも弁当を持参してきているので、お昼は基本的に居残っている。

 

 

 

 さて、職員それぞれが与えられた休憩という自由時間を思うように過ごそうと自分のことに没頭していく中、宙も同じように腹ごしらえしてゆっくりしてやろうという気持ちでいたが、例のバインダーを引き出しより取り出すとあるページを開き、まじまじ見た。彼女の目が注がれるのは、八人の男性が映った一枚の写真だった。

 

 写真の中で、若々しい二十歳前後の彼等は、ポーズを決めて、やや崩れた形で前四人、後ろ四人と横長の二列に並び、映っている。服装はバラバラだが、ヘアスタイルやメイクを含め、総じて垢抜けており、早い話、彼等は、イケてるメンズである。

 

 ウンウンと宙は黙然と頷くが、その表情や所作は至ってまじめであり、パッと見では、まさか彼女が、今人気上昇中の男性アイドルグループの写真を、バインダーをカモフラージュにして観賞しているなどとは到底思うまい。

 

 宙にとってその写真を眺めることは目の正月であり、ややもすれば辛苦しかないのかと失望させられる職場における癒しだった。スマホには勿論、彼等の画像が何枚も保管されているが、電子の画像より、手に取ることの出来る物体の写真の方が、見る角度や照明の明暗によって表情が微かに違って見えるせいか、彼女には、より生き生きとして尊いように思われた。

 

 やがて満足が行った宙は、バインダーを閉じると引き出しにしまい、ランチバッグより弁当箱を出して、食事し始めた。

 

 

 

 中高生の六年間、大学四年間、そして今に至るまで、宙に男っ気がからきしないのは、勿論、出会いと切っ掛けが乏しかったというのはあるが、彼女はある時期より、いわゆる『推し活』をするようになった。大学生になり、スキマ時間にちょっとアルバイトして小遣い程度の金額を稼ぐようになると、宙はその範囲で許される分、推し活に費やした。ライブに行ったり、写真を始めとするグッズを買ったり、そういう風にして。

 

 娯楽に対する情熱は、場合によっては人の生活を歪めてしまうおそれがあるが、宙においては、堅実に見据えられた社会生活の目標が意識され、その達成に向けてコツコツ努力する習慣が確立されていたので、自制と逸楽の均衡がじょうずに保たれていて、これといった問題はなかった。

 

 

 

 『推し活』はたしなむ程度だが、目下、宙にとって一番気になるのは、やはり岬欧華との今後であった。昨夜のメッセージの後、彼女は新たに送信する文言がなかなか思い付けず、迷っていた。

 

 直接会って話がしてみたい――その思いをどのように相手に気負わせない形でさりげなく伝えられるか。

 

 彼女は、国公立大卒とはいえ、理系であり、そういった修辞の訓練に疎く、こういう時、人より悩みがちなのだった。

 

 

 

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