星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《46》

***

 

 

 

 宙と瞳の会話に、欧華のことがポロッと出た。彼女が旅行中であることを宙が言うと、瞳は興味ありげに食い付き、宙は思わず目をパソコンの画面より逸らさざるを得なかった。

 

 菓子パンをモグモグ食べながら、瞳が尋ねる。

 

「どこに行ってるの? アメリカ? ヨーロッパ? 中国?」

 

「えぇと……」

 

 宙は答えにくそうにする。

 

 果たしてモンゴルだと答えてどういう風に反応されるかパッと想像してみたところ、宙の頭には、きょとんとした瞳の顔しか思い浮かばなかった。

 

「日本のお相撲さんの出身地で多いところです」

 

「えっと、つまり」

 

 瞳は特に悩まずにモンゴルと言い当てた。予想されたように、彼女の面持ちはきょとんとし、日本人の旅行先として、当地はまだメジャーでないようだった。アメリカやヨーロッパや韓国がやはり人気なのだろう。だが、人気でないところにも日本人は行っている。そこに行く手段と意思があれば、どこにだって旅行は出来るのである。

 

 不人気の旅行先では話が広がらないだろうと踏んだ宙は、目をパソコンの画面に戻し、弁当箱の卵焼きを箸で口に運んだが、宙の予想に反して、瞳の興味は削げなかったどころか、むしろ増大したようだった。

 

「わたし、学生時代に行ったことがあるのよね」

 

 そう瞳が独り言めかして呟くと、宙は思わず「えっ」、と眉を顰めて言った。弁当箱と口を行き来する箸の動きが意外の念でピタッと止まる。

 

「嘘でしょ、っていう顔してる」

 

 瞳がからかうようにムフッと笑う。

 

「留学ですか」、と宙が訊くと、瞳は「ううん」、とかぶりを振り、「ただの旅行」、と答えた。

 

「モンゴルって、何があるんですかね……っていうと、現地の人に失礼ですけど。わたし、全然イメージがわかなくて」

 

「何もないよ」、とあっさりした口調で瞳が答える。「街はそこそこ栄えてるけど、ちょっと遠出したら、原っぱしかないもの。ずっと草原」

 

「はぁ」、と宙は釈然としない感じで相槌を打ち、とめていた箸を動かして食事を再開する。

 

「学生の時、わたし乗馬してたの。今はやめちゃったけどね」

 

「へぇ、乗馬」

 

 宙が感心する。

 

「大学のクラブに入って、グランドで馬術を磨いてたんだけど、もっと広いところで乗りたいってずっと思っててさ」

 

「それで、モンゴルに?」

 

「うん。友達といっしょにね」、と瞳は答え、菓子パンを一口かじる。「さっき言ったみたいに、モンゴルの草原って無限大に広くて、そこで馬を飽きるほど乗り回したんだけど、めちゃくちゃ気持ちよかったわぁ」

 

「確かに、すごく気持ちよさそうです」

 

 宙は瞳の言葉でイメージを膨らまし、青空の下、自分が馬で風を切る情景を思い描いてみた。その情景は、欧華の手紙に添付されていた写真が下地になっていた。

 

「天国さんも、一度行って乗馬してくるといいよ」

 

「ハハ」、と宙は苦笑する。「行ける機会があるといいんですが」

 

「この職場、長期連休取れないものねぇ」

 

 宙と瞳は、互いに職場の不満を暗々裏に言い合って苦笑し合う。

 

 笑い終え、宙は思い付くことがあり、棚のファイルより茶封筒を取り出す。欧華の手紙と写真が入っており、彼女は家より持ち出してきて、職場に置いておくつもりだった。

 

「これ、欧華が送ってくれたんです」

 

 そう言って、宙は写真を瞳に見せる。青空の草原に、欧華が立っている。

 

「へぇ、欧華さんって、そういえばわたし初めて見るわ」

 

 瞳が首を伸ばして写真を眺める。

 

「モンゴルの草原の感じがまず懐かしいけど、それより、欧華さんって綺麗な子なのねぇ。アイドルか何かやってるみたい」

 

「至って普通の女性ですよ。ごく普通の」

 

 本人と付き合いのある宙は淡々と言う。実際、欧華はそういったスターダムに立つ性質の人間ではなかった。むしろ繊細で、あまり目立ちたがらないタイプだった。

 

「いや」、と瞳はだが、否定するように首をちょっとだけひねる。「何か感じさせるものがある。オーラというか」

 

 そう述べて、瞳は写真を覗き込んだ状態で、ひとり納得するようにウンウンと頷く。

 

 ふと、宙は思い出されることがあった。陽子も、欧華を初めて見た時の感想で瞳と同じことを言っていた。垢抜けていてまるでアイドルのようだと。また、宙がショッピングモールなど、いっしょに連れ立って歩いている時、なぜか欧華を振り向く通りすがりの人がチラホラいた。皆が皆そうだったわけではないけど。

 

 何だか宙において、欧華に対して嫉妬心が芽生えてくるようだった。自分が幽霊のようだとからかわれたりする反対で、欧華はこういう風に容貌というか、その無視できない存在感が感心される。

 

 だけど宙も、彼女と初めて行き交わした時、何か心奪われる感覚に陥ったという覚えがないではなかった。

 

「わたしは」、と瞳が不意に口にする。「天国さんも好きだけどね」

 

「?」

 

 宙は怪訝そうに眉をひそめる。

 

「どういうことですか?」

 

「妹みたいで可愛いってこと」

 

 そう言われ、鼻で笑う形になってしまったが、宙はふき出さずにはいられなかった。瞳は三十。宙は二十三だった。やや年の差が大きいけど、姉妹といっても、おかしいほどではない。

 

 昼休憩の時間が刻々と過ぎていった。宙と瞳のふたりはまだ食事中であり、会話をやめて自分の時間に返り、その後は、思い思いに午後の始業まで、過ごしたのだった。

 

 

 

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