星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《56》

***

 

 

 

 欧華が海外より帰ってきたということで、スーパーで偶然再会した後の日、宙は彼女を家に招いた。

 

 その日の夕から夜にかけてのことだったが、その時間帯、陽子は職場の友人とディナーに行く約束があり、遅くまで外出していた。

 

 別に陽子がいると人を招けないということはないが、どの道欧華が来ても、宙は彼女と二人で過ごすのだし、陽子がいると、気を遣わせてしまいそうで、宙には何となく遠慮されるのだった。

 

 陽子は欧華を気に入っており、彼女が家に来ることは、陽子にとってきっとウェルカムだろうし、母子とその友人の三人で食卓を囲むなどしても悪くはないだろうが、その時に関していえば、出来れば宙は、欧華と二人きりがいいのだった。

 

 梅雨の真っ只中で、毎日細かい地雨が降り続き、その日も天気はよくなかった。雨が降って湿気が多く、ムシムシしていた。

 

 宙は家にいて、Tシャツと黒のジャージのロングパンツという姿で取り込んだ洗濯物を処理しており、家事をしながら来客を待っていた。服はハンガーにかけてクローゼットに吊るされ、タオルは折り畳んでケースに収納された。パーティーをするわけではないので、これといった準備は要らなかった。部屋はエアコンが付いていて、暑気と湿気をシャットアウトしていて快適だった。

 

 時間が流れて四時半頃、ピンポンとインターホンが鳴った。宙はハッとして家事を中断し、玄関との境になっている扉の脇のモニターを見に行くと、画面には、傘を差す欧華が立っている姿が映っていた。彼女はTシャツとブルーのジーンズという出で立ちだった。

 

「はい」、と宙は一応、知らない体で応答する。

 

「欧華ですけど」、と彼女は、陽子が出たとでも思っているようで、どこか恭しい調子で返事する。

 

「オッケー。今行くね」、と宙は言い、インターホンでの通話を終えると、玄関まで行ってサンダルを履き、ドアを開けてやった。

 

「宙!」、と欧華は若干驚いたように目を見開く。

 

 玄関の正面に欧華はおり、頭上にはバルコニーがあるのだが、玄関前の足場を完全に覆っていないので、端っこの方だけ中途半端に雨が当たっている。

 

「どうぞ、入って」、と宙は促して欧華を招じ入れると、先にサンダルを脱いで上がり、土間で傘を畳む彼女の所作を見ていた。

 

「てっきり陽子さんが出てくると思ったけど」、と欧華。

 

「お母さんは今晩、いないよ。友達とディナーに行って」

 

「そうだったんだ」

 

 やがて畳まれた傘が、傘立てに置かれる。宙はかまちの上で裸足で、欧華は土間で濡れたスニーカーを履いて、対面している。

 

「今日は欧華、車で来た?」

 

「うん。だって雨だしさ」

 

「駐車場は空いてた?」

 

「空いてたよ」

 

「わたしが迎えに行けばよかったね」

 

「宙が?」、と欧華はきょとんとして言う。「何で。車で?」

 

「うん。最近、免許取ったんだ」

 

「そうなんだ!」、と欧華はまた驚いて目を見開くというリアクションをする。「知らなかった。おめでとう!」

 

 免許取得というごく平凡な出来事が、友人の拍手でささやかに祝われ、場の空気がどことなく滑稽になる。宙は思わず苦笑いしてしまった。

 

「まぁ、上がって。ここだと窮屈でしょ」

 

 宙はそう言って背を向け、後に付いてくるように促す。

 

 欧華は「うん」、と頷くと、スニーカーを脱ぎ、「お邪魔します」、と言って上がり、居間まで案内された。

 

 天国家の居間。LDKの間取りになっていて、キッチンと食卓のスペースがある。キッチンの前にテーブルと椅子があり、テーブルの長手方向に木の台にのったテレビがある。テレビのそばには窓。残りのスペースには、ソファ、収納ケース、書棚、模造品の観葉植物、等々が置かれている。クチャクチャのタオルなどが入った洗濯カゴが床にあるが、宙のやり残したものだった。

 

「宙の家に来るの、久しぶり」

 

 欧華はどこか嬉しそうにそう言ってソファに座り、肩にかけた手提げバッグを脇に置く。

 

「五月に来て以来だね」

 

 宙はキッチンの冷蔵庫で欧華に出すお菓子と飲み物を用意していた。ペットボトル飲料の紅茶と、箱入りのバタークッキー。

 

 トレーの上に、紅茶を注いだグラスと個包装のクッキーを盛った盛り器をいい塩梅に整えながら、夜ご飯はどうするか、宙はぼんやり考えていた。冷蔵庫にあるもので済ませるつもりだったが、あるいは買い出しに行かないといけないかも知れないし、あるいは案外欧華が早く帰るかも知れなかった。

 

 用意が出来た宙は、トレーをテーブルまで運ぶと、その上にグラスを並べ、クッキーの盛り器を置いた。

 

 テレビも何も付いておらず、おしゃべりがないと、部屋はしんと静かだった。

 

「最近、プラネタリウムはどう? お客さんとか」

 

 欧華がソファから問いかける。

 

 宙は「ううん」、と唸って考える様子だが、その実あまり考えておらず、準備に専念して、ほとんどボーッとしており、「ボチボチかなぁ」、と答えるのがせいぜいだった。

 

 宙は、その後同じことを欧華に聞き返そうと思ったが、何だか気が引けた。旅行を終えて数週間ぶりにアルバイトに復帰し、また以前と同じ生活サイクルで過ごしているのだろうが。

 

 旅行が欧華にとって新しい展望を得るきっかけになり、彼女の鬱屈した生活を開拓してくれるインスピレーションでも起こればいいのだが、旅行以後の欧華の心身の状態は、面会する機会があまりなかったので、宙にはまだよく分からないのだった。

 

 

 

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