星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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七月
《60》


***

 

 

 

 六月が終わりを迎え、七月となった。梅雨前線はどっしりと日本列島に腰を据え、日々の天気予報には傘マークばかりが並んだ。とはいえ、時々は晴れ間がのぞくことがあり、そういう時は、こぞって人々が活動的になり、雨天で出来なかった洗濯や外出を思う様するのだった。

 

 

 

 海辺の科学館スターシップMINATOの、宙が勤務するプラネタリウムでは、六月になった時点ですでに夏用のプログラムが用意され、春のプログラムより切り替わっていたが、七夕に向けての準備が進められていた。

 

 七夕用の特別プログラムには、夏の夜空を象徴する大三角を成す主たる星々の解説が入っている。織姫と彦星はそれぞれベガとアルタイルであり、もともと彼等はいっしょだったのに離れ離れになり、七夕の夜にだけ再会を許されたという物語が含まれている。

 

 日本において七夕にあたる七月七日は梅雨の真っ只中であり、雨天になることが多い。旧暦の七月は新暦でいえば八月になるのに、日本は新暦導入後も七夕を七月に設定したため、七夕の夜に星空を拝みにくくなっているという事情がある。だが、雨の七夕は、それはそれで、織姫と彦星の喜びや悲しみが雨に象徴されているなどと、人々によって七夕伝説が脚色されて楽しまれている節がある。

 

 先年は就職してまだ半年も経たない新人だったため、雑用しかしなかったが、今年の宙は、七夕用のプログラムの解説の役目を与えられ、日々原稿の暗記と音読に精を出していた。

 

 七夕の日が雨で星空を眺められない、また、よしんば雨が降らないにしても、大してクリアーに見えない、などの理由で、当日の科学館の来館者数は、冴えた星空のビジョンを求めて多くなる傾向にある。従って、宙を始めとしてプラネタリウムに勤務するスタッフは、準備に余念がなかった。

 

 宙は諸事に忙殺されながらも、相変わらず旅行の企てに執着し、どこに行こうか悩んでいた。

 

 だが、宙の旅行経験が限られている上、遠い過去にしかなく、しかも二日という限られた日数での旅行を充実させるには、相応の合理性を付与しなければ、ほとんど行って帰ってくるだけの詰まらないものになりかねなかった。

 

 時間はたっぷりとあった。まだ梅雨の最中だし、わざわざ雨がちの状況で行くというのは望ましいことではなく、梅雨明け後の想定で、宙は計画を練っていた。

 

 

 勿論、旅行好きの柳川瞳への相談を宙は欠かさなかった。

 

 

 七月初旬のある日のお昼休憩、宙は柳川と共に、財布だけ持って外出し、科学館の近傍にある海沿いのファミレスに向かっていた。

 

「あっつ……」

 

 瞳が手でひさしを設けて空を仰ぎ見、ポツリとこぼす。梅雨の晴れ間の青空。しかし爽やかさはほとんどなくなってただただ蒸し暑かった。蝉の鳴き声がないだけで、真夏同然の空気だった。

 

「外食しないのがよかったかなぁ。この暑さは参るわ」

 

 宙は「そうですね」、と返すと、猛々しいすでに盛夏並みの暑気に「フゥ」、とため息が出るのだった。

 

 科学館を出、埠頭より車道の方に向かってずっと道沿いに歩き、交差点の信号を陸の方へと渡り、更に行くと、レンガ造りの建物が見えてくる。でかでかと店名が箱文字看板に表示されていて、海沿いという絶好の立地ではあるけれど、そのファミレスは、ごくありふれたチェーン店だった。ただ、南国の風情を醸し出す意図からか、ソテツが敷地に植えられている。

 

 科学館からファミレスまで、十分とかからなかった。

 

 瞳と宙は開き戸のドアを通って入店し、店員が案内しに来るのだが、やはりランチタイムとあって、店内は混雑しており、空席が出来るまでしばらく待たないといけないようだった。

 

 お腹が空いていたし休憩時間が限られていたが、仕方ないと二人は入口付近の待合席に座った。

 

「皆、考えることは同じね」、と瞳がハンカチで首元を扇いで言う。「たまの晴れ間だし、お昼は奮発して外食でもするかって、そういう気持ちなんでしょうね」

 

「後は、夏のメニューに変わったからっていう事情もありそうです。冷やし中華とか、冷たいおうどんとか食べられるようになって」

 

 宙が付け加える。

 

 その内、二人は呼び出され、店の一隅の二人用のテーブル席に案内される。小さいテーブルに椅子が一つずつ用意されているところだった。

 

 宙と瞳はサッとオーダーし、待ち時間、瞳はスマホをいじくり、一方で宙は、テーブルに両肘を突いて手を組むと、その上に顎をのせて、盛況の店内をザッと見渡してみた。

 

 白いシャツに、黒い前掛けとズボンという出で立ちの店員たちが、せっせと忙しいランチタイムの仕事をあるいは器用に、あるいはぶきっちょに捌いている。

 

 パートと思しき女性の姿が多いのだが、中には学生風の若者がおり、宙は、ひょっとして欧華が働いているかも、などと想像して、ジロジロ見てしまうのだった。

 

 欧華はだが今のところ、スーパーのスタッフと家庭教師以外にはアルバイトはしていないはずだった。

 

 その内宙はテーブルに突いている肘を戻すと、ズボンのポケットに入れているメモを取り出し、折り畳まれているそれを拡げ、テーブルを支えにしてじっと見た。

 

 メモには、プラネタリウムの七夕用プログラムの解説が書かれており、元々は先輩のものだった解説を宙が独自に書き換え、先輩に見て貰って了承を得た上で、公認の解説としたのだった。

 

 やはり自分の話しやすい言葉と間合いで構成されたスピーチの方がより話しやすいもので、宙はただ闇雲に暗記するのではなく、解説と同時に投影されるプラネタリウムのイメージを必ずセットにして、より覚えやすい形で暗記したのだった。

 

 

 

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